第67話:原価を全部見せてくださいと言われたときに思うこと

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最近、日本で営業をすると顧客から部品単価の明細提示を求められる場面が多い。

材料費はいくらか。
加工費はいくらか。
歩留まりはいくらか
設備償却はいくらか。
1銭単位で全部、出してほしいと。

もちろん、顧客側の事情も理解できる。

社内稟議、原価妥当性、購買監査。

大企業になればなるほど、説明責任が増えるのは当然だ。

 

でも、正直に言うと、いつもこう思う。

力のかけどころ、そこなんだろうか?

 

■これは出すか出さないかではなく粒度の問題。

ここは誤解されたくないので、最初に整理しておきたい。

私は明細開示そのものを否定しているわけではない。

問題は粒度

 

例えば、

・材料費・加工費・金型費の大枠内訳

・投資回収ロジック

・量産前提条件

このあたりは、顧客との信頼関係構築や稟議支援の意味でも合理性がある。

 

しかし、

・工程毎の歩留まり

・工程時間

・加工条件

・人件費

・治具構造

・工法ロジック

ここまで開示を求められると話は変わる。

 

それはもはや原価確認ではなく、技術の分解要求に近い。

 

つまり、明細問題の本質は「開示の是非」ではなく

「どこまで分解するのか」という粒度設計の問題だと考えている。

 

■海外顧客との違い

海外顧客との取引20年以上の経験からだが、

同じ製品でも、海外顧客は驚くほど違う。

彼らが見るのは、

・精度は出るのか

・再現性はあるのか

・量産は安定するのか

・リスク・トラブル時に対応できるのか

つまり成果。

工程の内訳ではない。原価構造でもない。

完成品としての価値を見ている。

 

■日本型購買の特徴

一方、日本の大企業はとにかく細かい。

・材料単価。

・加工時間。

・設備費。

・人件費。

いわゆる積上げ原価主義。

 

思想としては、原価を見たい、無駄を削りたい、安く買いたい。

一見、合理的に見える。

でも、この構造には大きな落とし穴がある。

 

■価格を下げるほど、技術は止まる

明細を出す。

値下げ圧力がかかる。

利益が削られる。

設備投資が遅れる。

技術進化が止まる。

この結果、競争力が落ちる。

 

これは一社の話ではない。

サプライヤー全体で起きる。

 

■そしてもう一つの副作用がある

ここはあまり語られないが、現場では深刻だ。

それは、自社技術者の飛躍の足かせになる という問題だ。

 

■技術者は何で成長するか

技術者の進化は、

・難加工への挑戦

・工程短縮

・歩留まり改善

・自動化設計

こうした試行錯誤の中で起きる。

しかし、原価明細が過度に分解されるとどうなるか。

 

■改善の利益が取られる構造

例えば、

歩留まり改善 → 原価低減 → 値下げ要求

工程短縮 → 工数減少 → 単価減額

設備自動化 → 償却低下 → 価格見直し

本来、企業の利益となり、次の投資原資になるはずの成果が、

すべて顧客側の値下げ材料になる。

 

■技術者心理に起きる変化

すると現場ではこうなる。

・改善しても利益にならない

・挑戦しても単価が下がる

・工夫しても評価されない

 

結果、

・改善しない方が得 という逆転現象が起きる。

これが極めて危険だと思う。

 

■技術進化を止める見えない壁

技術者は挑戦機会で成長する。

 

しかし、原価を細かく縛られ、工程を固定化され、投資余力を奪われると

新しい工法開発に踏み込めない。

 

つまり、原価分解要求は技術者の未来時間を奪う行為にもなり得る。

 

■力をかける場所の違い

日本の購買が使う時間:

・明細精査

・値下げ交渉

・相見積

・原価分析

 

海外の購買が使う時間:

・技術評価

・供給リスク分析

・共同開発検討

・長期契約設計

同じ購買でも、見ている未来が違う。

 

■過去を見るか、未来を見るか

整理するとシンプル。

日本型

過去のコストを見る。

海外型

未来の価値を見る。 こんなイメージ。

 

■サプライチェーンは運命共同体

サプライヤーはコストではない。

・技術投資をし

・設備投資をし

・人材育成をし

顧客の競争力を支えている。

 

利益がなければ投資は止まる。

投資が止まれば技術も止まる。

 

■ではどうあるべきか

私の考えはシンプル。

① 完成品価格で評価する

② ブラックボックスを尊重する

③ 長期契約で投資を促す

④ 共創型購買へ転換する

 

最後に、「原価を全部見せてください」は、安心を買う行為であって、未来を買う行為ではないのではないか、と。

 

そしてもう一つ。

粒度を誤れば、それは単なる原価確認ではなく、技術分解であり、挑戦機会の剥奪にもなる。

 

サプライヤーの利益だけでなく、技術者の成長余白までも削ってしまう。

サプライヤーはコストではない。競争力そのものだ。

 

日本の大企業には、購買の思想と、開示粒度の設計を、もう一歩進化させてほしい。

否定や比較を伝えたいわけでないので、日本の大企業様からのご注文もお待ちしております。

 

オーティス株式会社 OTIS Co.,Ltd.

角本康司

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