もちろん、顧客側の事情も理解できる。
社内稟議、原価妥当性、購買監査。
大企業になればなるほど、説明責任が増えるのは当然だ。
でも、正直に言うと、いつもこう思う。
力のかけどころ、そこなんだろうか?
■これは出すか出さないかではなく粒度の問題。
ここは誤解されたくないので、最初に整理しておきたい。
私は明細開示そのものを否定しているわけではない。
問題は粒度。
例えば、
・材料費・加工費・金型費の大枠内訳
・投資回収ロジック
・量産前提条件
このあたりは、顧客との信頼関係構築や稟議支援の意味でも合理性がある。
しかし、
・工程毎の歩留まり
・工程時間
・加工条件
・人件費
・治具構造
・工法ロジック
ここまで開示を求められると話は変わる。
それはもはや原価確認ではなく、技術の分解要求に近い。
つまり、明細問題の本質は「開示の是非」ではなく
「どこまで分解するのか」という粒度設計の問題だと考えている。
■海外顧客との違い
海外顧客との取引20年以上の経験からだが、
同じ製品でも、海外顧客は驚くほど違う。
彼らが見るのは、
・精度は出るのか
・再現性はあるのか
・量産は安定するのか
・リスク・トラブル時に対応できるのか
つまり成果。
工程の内訳ではない。原価構造でもない。
完成品としての価値を見ている。
■日本型購買の特徴
一方、日本の大企業はとにかく細かい。
・材料単価。
・加工時間。
・設備費。
・人件費。
いわゆる積上げ原価主義。
思想としては、原価を見たい、無駄を削りたい、安く買いたい。
一見、合理的に見える。
でも、この構造には大きな落とし穴がある。
■価格を下げるほど、技術は止まる
明細を出す。
値下げ圧力がかかる。
利益が削られる。
設備投資が遅れる。
技術進化が止まる。
この結果、競争力が落ちる。
これは一社の話ではない。
サプライヤー全体で起きる。
■そしてもう一つの副作用がある
ここはあまり語られないが、現場では深刻だ。
それは、自社技術者の飛躍の足かせになる という問題だ。
■技術者は何で成長するか
技術者の進化は、
・難加工への挑戦
・工程短縮
・歩留まり改善
・自動化設計
こうした試行錯誤の中で起きる。
しかし、原価明細が過度に分解されるとどうなるか。
■改善の利益が取られる構造
例えば、
歩留まり改善 → 原価低減 → 値下げ要求
工程短縮 → 工数減少 → 単価減額
設備自動化 → 償却低下 → 価格見直し
本来、企業の利益となり、次の投資原資になるはずの成果が、
すべて顧客側の値下げ材料になる。
■技術者心理に起きる変化
すると現場ではこうなる。
・改善しても利益にならない
・挑戦しても単価が下がる
・工夫しても評価されない
結果、
・改善しない方が得 という逆転現象が起きる。
これが極めて危険だと思う。
■技術進化を止める見えない壁
技術者は挑戦機会で成長する。
しかし、原価を細かく縛られ、工程を固定化され、投資余力を奪われると
新しい工法開発に踏み込めない。
つまり、原価分解要求は技術者の未来時間を奪う行為にもなり得る。
■力をかける場所の違い
日本の購買が使う時間:
・明細精査
・値下げ交渉
・相見積
・原価分析
海外の購買が使う時間:
・技術評価
・供給リスク分析
・共同開発検討
・長期契約設計
同じ購買でも、見ている未来が違う。
■過去を見るか、未来を見るか
整理するとシンプル。
日本型
過去のコストを見る。
海外型
未来の価値を見る。 こんなイメージ。
■サプライチェーンは運命共同体
サプライヤーはコストではない。
・技術投資をし
・設備投資をし
・人材育成をし
顧客の競争力を支えている。
利益がなければ投資は止まる。
投資が止まれば技術も止まる。
■ではどうあるべきか
私の考えはシンプル。
① 完成品価格で評価する
② ブラックボックスを尊重する
③ 長期契約で投資を促す
④ 共創型購買へ転換する
最後に、「原価を全部見せてください」は、安心を買う行為であって、未来を買う行為ではないのではないか、と。
そしてもう一つ。
粒度を誤れば、それは単なる原価確認ではなく、技術分解であり、挑戦機会の剥奪にもなる。
サプライヤーの利益だけでなく、技術者の成長余白までも削ってしまう。
サプライヤーはコストではない。競争力そのものだ。
日本の大企業には、購買の思想と、開示粒度の設計を、もう一歩進化させてほしい。
否定や比較を伝えたいわけでないので、日本の大企業様からのご注文もお待ちしております。
オーティス株式会社 OTIS Co.,Ltd.
角本康司
