私はこの10年間、2年に一度のペースでCESを見続けてきました。
家電全盛の時代も、IoTブームも、AIという言葉だけが先行していた時代も、
そして生成AIが世界を一気に変え始めた瞬間も、すべて現場で見てきました。
だからこそ、今年のCESを見て最初に浮かんだ感情は、「すごい」でも「未来だ」でもありませんでした。
「これは、相当切羽詰まっているな」
それが、正直な第一印象でした。
■そもそもCESとは何か
CES(Consumer Electronics Show)は、かつては家電の見本市と呼ばれていました。
しかし、今のCESは、もはや家電の展示会ではありません。
世界中の産業が、次にどこで勝負し、どこで脱落するのかを、無意識のうちにさらけ出す場所です。
完成品だけでなく、その裏にある材料、部品、工程、思想、さらには国や企業の焦りや覚悟までが、否応なく可視化されます。
CES2026は、その本音が、これまで以上に露骨に表れていました。
■DAY1:Central Hall / North Hall:夢よりも、現実が並ぶエリアです
初日はCentral HallとNorth Hallを中心に回りました。
ここは毎年、未来よりも現実が先に出てくるエリアです。
そして今年、最も強く印象に残ったのは、中国の存在感の異様さでした。
■中国メーカーは、明らかに増え、明らかに必死でした
前回訪問した2年前(2024年)と比べて、中国メーカーの出展数は、体感でも明らかに増えていました。
ただし、異様だったのは数ではありません。
・情報量が多い
・プロダクト数が多い
・事業領域がやたらと広い
・ここまでやっていますという主張が前に出ています
これは、勝者の余裕ではありません。
生き残りに必死な側の振る舞いだと感じました。
象徴的だったのが、もともと自動掃除機メーカーだった2017年創業のDreameです。
現在では、
・掃除機
・生活家電
・キッチン家電 を揃える総合家電メーカーとなり、さらにEVメーカーの技術支援にも関与しています。
創業からわずか8年総合家電メーカーになること自体が、もはや特別な挑戦ではなくなりました。
これは中国の強さであると同時に、止まれない事情の裏返しでもあると感じました。
■米中問題があるのに、なぜ中国はここにいるのか
正直、強い違和感もありました。
地政学的な緊張や、半導体を巡る国際的な規制環境などの問題がある中で
なぜ中国は、これほど前に出てこられるのでしょうか。
答えはシンプルです。
中国は、規制されていないレイヤーで、全力疾走していると思いました。
CESに並んでいる多くは、
・家電
・ロボット(民生)
・エネルギー(電池)
・EV周辺
最先端半導体の話ではありません。完成品と量産の世界です。
しかも彼らは、必ずしもアメリカ市場だけを見ていません。
中東、東南アジア、アフリカ、中南米。非アメリカ圏を含めた世界市場に向けた存在証明を、CESという舞台で行っているように見えました。
■一材料・一部品を作った瞬間から、数年で最終製品まで揃います
今回、特に強く感じたことがあります。
一材料、あるいは一部品を作った瞬間から、それに関わる部品群、ユニット化、そして最終製品までが、数年で一気に揃ってしまう時代に入っています。
中国は、これを国家レベルで実行しています。
・材料が生まれる→部品が生まれる→ユニット化される→気づけば完成品が並びます
日本の丁寧な積み上げとは、時間軸がまったく異なります。
■インド人が、明らかに減っていました
もう一つ、数字では説明できない違和感がありました。
2024年と比べて、インド人の来場者・出展者が明らかに少なく感じられました。
体感ではなく、「あ、いないな」と分かるレベルです。(私は画像記憶をするので、その比較です)
インドは現在、
・ソフトウェア
・AI人材
・グローバル企業の内側 に、完全に軸足を移しています。
CESは今、Physical AI、ハード、現場の比重が高くなっています。
インドにとってCESは、コストパフォーマンスの悪い主戦場になりつつある。
そのように感じました。
表に出るより、中に入った方が強い。
そう判断した国が、静かに姿を消しているように見えました。
■日本人参加者の「世代差」も、強い違和感でした
もう一つ、強く印象に残った点があります。
それは、日本人参加者の年齢層です。
今回のCESでは、日本人参加者は40代、50代が中心でした。
昔に比べると来場者は増えた気がします。
一方で、中国や韓国のブース、来場者を見ていると、明らかにもう一世代若いと感じました。
これは、偶然ではないと思います。
中国や韓国は、若い世代に、早い段階で世界との差を見せています。
一方、日本はどうでしょうか。
経験を積んだ世代が、状況確認や情報収集のために来る。
それ自体は悪いことではありません。
ただ、それだけで良いのか、強い疑問が残りました。
■若い世代に、知識より圧倒的な差を見せるべきです
若い世代を海外展示会に連れて行く意味は、ノウハウを学ばせることではありません。
「このままでは、負ける」
「この差は、想像以上だ」 そう感じさせるためです。
差を感じるって、言語化では感じず、人は目で見た情報から、個人でしか感じれません。
会議室で語る危機感は、どこか他人事になります。
しかし、世界の現場で、同世代がこれだけのスピードと規模で挑戦している姿を見れば、
感情が先に動きます。
その感情こそが、行動を変えます。
皆さんが好きな日本の明治維新の前後って、言葉わからなくても、若い人が目で見た差でやばいって思い動いたと私は思ってます。
■大手企業は、「誰に見せるか」を選び始めています
もう一つ、今回のCESで強く感じた変化があります。
それは、大手企業がオープン展示から距離を取り始めていることです。
実際、一定規模以上の企業は、
・インビテーション制
・限定された関係者のみ入場
・会場外(近隣ホテル)での個別展示 へと明確にシフトしていました。
Samsungも、会場展示ではなく、近隣ホテルでの個別出展に切り替え、
インビテーション制での運営を行っていました。
これは単なる運営方法の変更ではありません。
何を見せるかではなく、誰に見せるかを重視する時代に入ったという明確なサインです。
展示会は、情報公開の場ではなくなりつつあります
技術や構想が高度化し、一度見せればコピーされる時代において、
不特定多数に見せること自体が、リスクになるケースが増えています。
大手企業にとってCESは、
・認知を取る場
・広報の場 ではなく、
本気で組む相手を選別する場へと役割を変えています。
今後、大規模展示会は出展社を集めること自体が苦労すると思います。
■レトロ商品が増えている理由
オーディオやゲーム機など、レトロ系プロダクトの展示面積が確実に広がっています。
これは懐古ではありません。
・デジタル疲労
・常時AIへの反動
・触感・所有感への回帰
人は便利になりすぎると、物理に戻ります。
この揺り戻しは、製造業にとって重要なヒントです。
が、このレトロの出展社の一部は、10年前から、ずっと同じセントラルホールで、小さいブースからずっと継続して出展していました。
ある意味、先を読んでの戦略であるし、何よりも継続をして出展していたことが、素晴らしい戦略と感じました。
このブレない経営は、いずれもアメリカ企業ですが、軸をしっかり持っており、リスペクトします。
■ロボットメーカーは、全社「手」に本気でした
ロボットメーカー各社に共通していたのは、手(ハンド)への異常なほどの開発注力です。
・つかむ
・力を調整する
・壊さない
ロボットの価値は、最後は手で決まります。
なお、これはあくまで個人的な見方ですが、次の競争軸は「目」、すなわち表情や視線になると感じています。
人と共存するためには、機能だけでなく、感情として受け入れられるかどうかが問われるからです。
ヒューマノイドロボットは、大型TVやEVと同じように、
すでに1つの事業体として成立していました。
これは未来の話ではありません。完全にこれからの産業の話です。
その前提に立つと、ロボットと人が協業するモデルを一から設計するよりも、
ロボット単体で完結する事業として立ち上げた方が、起業家にとっては成功が早いとも感じました。
この分野は、遅れると一気に時期を逸し、市場に残れなくなる可能性があります。
一方で、普及段階に入ったことは間違いないものの、
自国で作ったロボットを、自国で普及させる難易度は、国民が多い国ほど高くなるのではないかとも感じています。
むしろ、国民が少ない国ほど、スタートダッシュが決まれば、大きな成果を得やすいのではないでしょうか。
仮に、ロボットを1億台導入した国があれば、それは従来の労働力を3億人雇用したのに近いインパクトを持つはずです。
そのとき、従来の人間をどう扱うのか。
この課題は、避けて通れません。
AIとロボットを持った国が一気に抜け出す可能性もありますが、
それ以上に、AIとロボットを手にした企業が、国家を超えて「ぶっちぎる」可能性を、私は少し懸念しています。
■ポータブル電源とイヤホンが山の様にあります
正直に言います。
・ポータブル電源
・イヤホン
・スマートウォッチ
この3つは、差が分からないところまで来ています。
形があるものは、必ずコピーされます。
これは技術の問題ではなく、この事業の構造の問題です。
■日本の部品メーカー・材料メーカーへの提言です
ここからが、CES2026 DAY1で最もお伝えしたいことです。
日本の部品メーカー、材料メーカーは、「精度」や「品質」という言葉だけでは、もう勝てません。
それらは、すでに前提条件になっています。
これから日本が勝つために必要なのは、
再現性 × 量産責任です。
・初回試作から量産1万、10万、100万個目まで、同じものを作れるでしょうか
・ロット差が出たとき、その理由を説明できるでしょうか
・設計変更に、工程ごと対応できるでしょうか
・最終製品で問題が起きたとき、それは自社の責任ではないと言わずに済むでしょうか
これらは派手ではありません。
展示会映えもしません。
しかし、世界がいま最も求めている価値は、ここにあります。
■どうしてもモヤモヤと残る問いです
最後に、1つ問いを投げたいと思います。
日本に、これらのエンドユーザー候補となる企業の名前を知っている人は、1%もいないのではないでしょうか。
それで、本当に良いのでしょうか。
材料も、部品も、技術もあります。
しかし、
・誰の製品になるのか
・どの市場につながるのか を知らなければ、戦い方は設計できません。
■展示会は、もう「夢」や「未来」を見る場所ではありません
今回感じたことは、CESだけに限った話ではありません。
世界中の主要な展示会が、「未来を語る場所」から、「生き残る覚悟をさらけ出す場所」へと変わりつつあります。
・どこまで作れるのか
・どこまで量産できるのか
・どこまで責任を持てるのか
それが、無言のうちに問われています。
必死な国ほど、すべてを並べます。
その必死さが、今年の展示会には溢れていました。
(正直に言えば、海外の展示会に行くと「この部品だけでよく展示会に出てきたなぁ」、「この完成度で、よく出展したなぁ」
と感じる場面も何度かありました。ただ、そうした姿勢こそが、実は一番芯が通っている企業なのかもしれません。)
ここまで読むと、評論家の文章のように見えるかもしれません。
ただし、これらはすべて、OTIS社内では実務に落とし込み、行動に変えていくのが私の役割です。
明日はSouth HallとVenetianを見て回る予定です。また、書きます。
オーティス株式会社 OTIS Co.,Ltd.
角本康司
