【1】はじめに
現代社会では、電力を「いかに効率よく使うか」が大きなテーマです。
電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、産業機器など、
高電圧・大電流を扱う領域では、シリコン(Si)では性能が限界に近づいています。
そこで登場したのが、ワイドバンドギャップ(WBG)半導体。
SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、Ga₂O₃(酸化ガリウム)などが代表的で、
これらは次世代パワー半導体として注目されています。
【2】パワー半導体とは
パワー半導体とは、電気を「制御」「変換」「供給」するための素子を指します。
主にインバータやコンバータなどで電力をスイッチングし、
モーター駆動・電力変換・充電制御などを行います。
つまり、エネルギー効率を決める電気の弁の役割です。
この性能を高めることが、脱炭素社会のカギとなります。
【3】SiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)
特徴
・シリコンと炭素の化合物。
・バンドギャップ:約3.2 eV(Siの約3倍)。
・絶縁破壊電界:Siの約10倍。
・熱伝導率:Siの約3倍。
強み
・高耐圧(1200V以上)・高温動作(600℃級)に強い。
・スイッチング損失が小さく、省エネ効果が大きい。
・放熱性が高く、パッケージの小型化にも貢献。
主な用途
・EV・ハイブリッド車のインバータ
・産業機器、鉄道、太陽光発電用インバータ
・高温環境下での電力変換装置
課題
・結晶欠陥が発生しやすく、ウェーハ製造コストが高い。
・加工が難しく、歩留まりが低い。
→ それでも、「EVの心臓部を支える素材」として需要急増中。
【4】GaN(窒化ガリウム:Gallium Nitride)
特徴
・バンドギャップ:約3.4 eV(Siより広い)。
・電子移動度が高く、高周波動作に優れる。
・直接遷移型で光応答にも強い(LED・レーザーの素材でもある)。
強み
・高速スイッチングにより、スイッチング損失を大幅に削減。
・小型・軽量な電源設計が可能。
・5G通信、電力変換、無線給電に最適。
主な用途
・スマートフォン用急速充電器(GaN充電器)
・サーバー電源、データセンターの省エネ化
・5G・ミリ波アンプ、レーダー、衛星通信機器
課題
・高電圧動作(1200V超)ではSiCほどの信頼性がまだ不足。
・基板コスト(主にサファイア・SiC基板)と熱拡散性が課題。
→ それでも、「高周波×高効率×小型化」を実現する最有力候補。
【5】Ga₂O₃(酸化ガリウム:Gallium Oxide)
特徴
・バンドギャップ:約4.9 eV(WBG中で最大級)。
・絶縁破壊電界はSiの約8〜10倍。
・理論的にはSiCやGaNよりも高耐圧動作が可能。
強み
・超高耐圧(10kV以上)のデバイス化が可能。
・溶液成長で大面積基板を安価に製造できる。
・次世代の超高電圧電力変換デバイスとして期待。
課題
・熱伝導率が低く、放熱設計が難しい。
・電子移動度が低く、高速動作には不向き。
・結晶技術が発展途上で、量産化はこれから。
→ 「ポストSiC」として、研究段階ながら世界的に注目されている。
【6】材料比較(簡易まとめ)
・Si:成熟・安価・低耐圧(既存機器向け)
・SiC:高耐圧・高温・EV主力(省エネ重視)
・GaN:高速・高周波・小型(通信・充電向け)
・Ga₂O₃:超高耐圧・低コストポテンシャル(研究段階)
→ それぞれの特徴を活かし、「使い分ける時代」へ。
【7】共通の技術トレンド
・高耐圧・高温・高効率を両立させる材料設計。
・放熱・封止・パッケージング技術の重要性増大。
・シリコン技術とのハイブリッド化(SiベースGaN、SiC MOSFETなど)。
・信頼性試験や車載品質(AEC-Q101)への対応。
→ 材料そのものよりも「システム最適化」が競争力の源泉になる。
【8】産業・環境へのインパクト
・EV1台あたりの電力変換効率が5〜10%向上すれば、走行距離が約10%伸びる。
・発電所・データセンターの省エネにも貢献し、CO₂削減効果が極めて大きい。
・次世代半導体は「グリーンテクノロジーの要」。
→ 技術革新がそのまま「地球のエネルギー効率」に直結している。
【9】今後の課題と展望
・結晶欠陥・熱設計・コストの最適化。
・量産化と信頼性評価の標準化。
・各材料の使い分けによる“最適システム設計”の実現。
・AIによる材料設計・プロセス最適化の活用。
→ 今後10年で「Si → SiC/GaN → Ga₂O₃」のシフトが進む可能性が高い。
【10】まとめ
・SiC・GaN・Ga₂O₃は、シリコンの限界を超える次世代パワー半導体材料。
・それぞれに強みと課題があり、用途に応じた最適選択が求められる。
・EV、再エネ、通信など社会インフラの省エネを支える中核技術である。
・「より小さく、より速く、より熱く動く」時代の主役。
【理解チェック(3問)】
1.SiC・GaN・Ga₂O₃の共通点は?
2.SiCとGaNの主な違いは?
3.Ga₂O₃が注目される理由は?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。
