【1】はじめに
シリコンを中心とした半導体の進化は、これまで50年以上続いてきました。
しかし近年、微細化の限界(ナノスケールの物理的限界)が見え始め、
「次の半導体」をめぐる研究開発が世界中で進んでいます。
キーワードは、
「原子1枚」「電子ではなくスピン」「量子の制御」。
ここでは、代表的な新材料と先端技術を紹介します。
【2】グラフェン(Graphene)
概要
・炭素原子が六角形に並んだ、厚さ原子1層のシート状材料。
・2004年、マンチェスター大学が単離に成功(2010年ノーベル物理学賞)。
特徴
・電気伝導性:銅の約100倍。
・電子移動度:Siの100倍以上。
・機械的強度:鋼鉄の200倍。
・柔軟性・透明性:高く、光透過率97%。
応用分野
・超高速トランジスタ
・フレキシブルディスプレイ
・高感度センサー
・リチウムイオン電池の電極材
・量子デバイス・スピントロニクス
課題
・バンドギャップがゼロ(半導体としてON/OFF制御が難しい)。
・大量・均一製造が困難(CVD・転写技術が鍵)。
→ 「導電性」「柔軟性」「強度」を兼ね備えた夢の素材。
【3】2次元材料(2D Materials)
概要
グラフェンをきっかけに、厚さが原子1〜数層の材料群が注目されています。
代表例:
・MoS₂(モリブデンジスルフィド)
・WS₂(タングステンジスルフィド)
・h-BN(六方晶窒化ホウ素)
特徴
・層間が弱いファンデルワールス結合で構成。
・極めて薄く、柔軟で高移動度。
・バンドギャップを持つ(グラフェンとの大きな違い)。
応用分野
・トランジスタ(2D-FET)
・フレキシブル電子回路
・光センサー・フォトディテクタ
・量子デバイス・ニューロモーフィック素子
→ 「薄さ×柔軟性×量子効果」を活かしたポストシリコン候補。
【4】スピントロニクス(Spintronics)
概要
従来の半導体は「電子の移動(電荷)」で情報を扱っていました。
スピントロニクスでは、電子のスピン(磁気的な向き)も利用します。
特徴
・スピン=電子の「上向き・下向き」の2状態。
・電流を流さなくても情報を保持でき、省電力。
・磁気メモリ(MRAM)などで実用化が進行中。
代表技術
・磁気トンネル接合(MTJ)
・スピン注入・検出技術
・スピン軌道トルク(SOT)メモリ
応用分野
・MRAM(不揮発性メモリ)
・量子コンピューティング
・AIアクセラレータ(低消費電力演算)
→ 「電気を使わずに記憶する半導体」=未来の記憶素子。
【5】量子ドット(Quantum Dots)
概要
・サイズが数ナノメートルの極小半導体粒子。
・電子の量子閉じ込め効果により、光の波長がサイズで変わる。
特徴
・高輝度・高純度の発光。
・波長可変性に優れる。
・微細な制御でRGB全色を再現可能。
応用分野
・量子ドットディスプレイ(QD-OLED)
・高演色照明
・量子コンピュータ・センサー
→ 光を操る量子の粒として、光半導体の延長線上にある。
【6】カーボンナノチューブ(CNT)
概要
・グラフェンを筒状に丸めた構造。
・直径1〜2nm、長さ数μm〜mmのナノチューブ。
特徴
・極めて高い電気伝導性・熱伝導性。
・軽量で強度が高く、フレキシブル基板にも適合。
応用分野
・トランジスタ、透明電極、電池、複合材料。
・すでにIntel・IBMなどが「CNTトランジスタ」研究を進行中。
→ グラフェンの派生形として、「配線」「構造材」「電子素子」に幅広く応用可能。
【7】トポロジカル絶縁体(Topological Insulator)
概要
内部は絶縁体、表面は導電体という不思議な物質。
→ 電子が散乱せずに流れるため、超低損失伝導が可能。
特徴
・スピンと電荷が連動(スピン偏極電流)。
・量子コンピュータの基礎研究にも関与。
応用分野
・超高効率配線材料
・量子情報素子
・スピントロニクスとの融合技術
→ 「抵抗ゼロに近い配線」を実現する可能性。
【8】AI×材料開発(マテリアルズ・インフォマティクス)
概要
・AIを使い、膨大な材料データから最適な組み合わせ・プロセスを探索。
・実験とシミュレーションを組み合わせ、新材料発見のスピードを数十倍に加速。
応用例
・熱伝導・電気特性の最適化。
・界面・欠陥・構造の自動最適化。
・新しい半導体・電池材料の自動探索。
→ 材料開発のGoogle検索とも呼ばれる新領域。
【9】今後10年の研究テーマ(予測)
・グラフェンや2D材料の量産・バンドギャップ制御技術。
・スピントロニクス×量子計算の実装。
・AIによる自律的材料設計システム。
・ナノ構造を利用したエネルギーハーベスティング(自給型電子)。
・環境調和型(リサイクル・省資源)半導体材料の拡大。
→ 半導体は「電子制御」から「物性デザイン」へ進化する時代に入る。
【10】まとめ
・グラフェン、MoS₂、スピントロニクス、量子ドットなどは、シリコンの限界を超える技術。
・共通の目的は「高速・省電力・新機能・環境適合」。
・次世代材料の発展は、AI・量子・再エネと密接に関わる。
・未来の半導体は、もはやチップの形をしていないかもしれない。
【理解チェック(3問)】
1.グラフェンが「半導体」として扱いにくい理由は?
2.スピントロニクスが省電力なのはなぜ?
3.2D材料の代表例で、バンドギャップを持つのは?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。
