1. なぜ受注側は不利なのか?
製造業における受注構造では、以下のような非対称性が存在します。
● 価格は買い手が決めるが、品質と納期は売り手の責任
● 製造ノウハウや金型設計、加工条件などの情報は受注側が保有
● しかし、その中身は監査や技術審査という名目で開示を迫られる
つまり、発注側は価格・量・納期を交渉できる立場にあり、さらに技術的な優位性まで受注側から学べてしまうという構造になっているのです。
2. BCP監査で起きている情報の逆流
BCP(事業継続計画)対策が企業に求められる中で、発注元から以下のような質問がなされます:
● 同様の加工が可能な他社拠点はあるか?
● 材料調達ルートは複数あるか?
● 設備仕様・レシピ情報はどう共有されているか?
これらは確かに重要なチェックポイントです。しかし、それらをすべて開示した結果、何が起きるか。
発注元は、「同等加工ができる他社」にそのまま横展開するだけで、リスク分散が完成してしまうのです。
つまり、BCP対策という名目で、自社の技術や供給構造を丸裸にし、結果的に切られるリスクを高める。
皮肉ですが、これは受注側が誠実であろうとするほど損をする構造です。
3. 品質監査で技術流出が起きる理由
品質監査も同様の構造を持ちます。
● 加工条件(圧力、温度、速度)
● 金型のクリアランス設計
● 材料選定理由と実績データ
● 工程設計における「なぜそうしたか」の根拠
これらは競合他社が最も知りたい情報です。ところが、品質監査や定期監査では、これらを文書・写真・実地で開示することが当然のように求められます。
近年では、監査チームに別案件でのサプライヤーを探索中の購買部門や技術開発チームが同席するというケースも見受けられます。
これは、監査という表向きのチェックを通じて、実質的な技術偵察が行われていることに他なりません。
4. 受注するほど弱くなる現実を直視する
皮肉な話ですが、受注量が増えれば増えるほど、自社のノウハウは開示され、依存は深まり、交渉力は低下するというのが現実です。
これは受注型ビジネスの宿命とも言える構造です。
だからこそ、私たちは次のような対策が不可欠と考えています。
• 「出せる情報」「出せない情報」の線引きを明文化
• 情報開示前にNDA(秘密保持契約)の強化
• 技術を構成要素に分解し、すべてを見せない工夫
• 価格だけで比較できない付加価値提案の構築
最後に:受注側にこそ攻めの知恵を
私たちは、製品を作る技術だけでなく、「守る知恵」「伝える技術」も磨いていく必要があります。
ただモノを作るだけでは、評価されない時代。
選ばれる会社であるために、私たちはこれからも「攻めの提案」と「守りの仕組み」を両立させてまいります。
我々のお客様、仕入先様においても、それぞれが自社のために同じ気持ちであって欲しいので記しました。
■余談
あえてすべて開示することで、次の技術開発や付加価値追及を目指すという方法もあります。
また、隠すのも期限を設けなければ、井の中の蛙大海を知らずになりやすいので、経営判断も重要です。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。



