【1】はじめに
パワーデバイス(Power Device)は、
大電流・高電圧を扱い、電力を効率よく制御するための半導体デバイス です。
CPUやメモリが「情報処理」を行うのに対し、
パワーデバイスは「電気の流れを制御し、動力やエネルギーを扱う」役割を持つため、
産業機器・家電・電気自動車(EV)・再生可能エネルギーなどで非常に重要です。
【2】パワーデバイスの特徴
パワーデバイスは通常のMOSFETやBJTと異なり、
以下のような特性が必要です。
- 高耐圧(数百〜数千V)
- 大電流対応
- 低オン抵抗(Rds(on) の低減)
- 高速スイッチング
- 高温動作(150℃〜200℃級)
- 高信頼性・長寿命
そのため、材料・構造が一般的なロジックデバイスとは大きく異なります。
【3】主要なパワーデバイスの種類
3-1. パワーMOSFET
【特徴】
- 低〜中電圧向け(30〜900V)
- 高速スイッチング
- ロスが小さく、高効率
- DC-DCコンバータ、モータ制御に使用
【構造】
- トレンチMOS(垂直ゲート構造)が主流
- ドレイン〜ソース方向に電流が垂直に流れる「縦型構造」
3-2. IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
【特徴】
- 中〜高電圧の大電流に適した素子(600V〜数kV)
- MOSFETとBJTのハイブリッド
- ゲートはMOS構造 → 駆動が容易
- 電流はバイポーラ → 大電流向け
【用途】
インバータ、鉄道、エレベーター、EVの駆動システム
【弱点】
- MOSFETよりスイッチングが遅い
- ターンオフ時のテール電流が課題
3-3. ダイオード(パワー用途)
- ショットキーバリアダイオード(SBD)
- ファストリカバリーダイオード(FRD)
用途:整流、電源回路、インバータ
【4】Si(シリコン)デバイスの限界と問題
従来のSiパワーデバイスは成熟した技術ですが、
以下の課題が顕著になり始めました。
- 耐圧の限界
- スイッチング損失の増加
- 大電力化への対応が困難
- 高温動作が苦手
この限界を突破するために生まれたのが、ワイドバンドギャップ(WBG)材料 です。
【5】WBG材料(SiC・GaN)による革命
5-1. SiC(シリコンカーバイド)
【特徴】
- 高耐圧(1200V〜)に強い
- 高温(200℃級)で動作
- 高速スイッチング
- 低損失
【用途】
- EVインバータ
- 産業用電源
- 太陽光パワコン
- 充電器(急速充電)
SiCは「高電力・高耐圧」の王者です。
5-2. GaN(ガリウムナイトライド)
【特徴】
- 超高速スイッチング
- 低オン抵抗
- 高周波動作に最適
- 小型軽量化可能
【用途】
- USB急速充電器
- データセンター電源
- 通信(RF)
- 低〜中耐圧(〜650V)の高速スイッチング用途
GaNは「高速・高効率」のエースです。
【6】パワーデバイスの一般構造(縦型 vs 横型)
縦型(Vertical)構造
- 電流が上から下へ垂直方向に流れる
- 高耐圧・高電流に強い
- パワーMOSFET、IGBT、SiC MOSFETで採用
- 大型基板が必要だが、性能は非常に高い
横型(Lateral)構造
- 電流が平面方向に流れる
- 高速スイッチング・RF用途に強い
- GaN HEMTに多い
- 基板との統合が容易で小型化しやすい
【7】HEMT(高電子移動度トランジスタ)
GaNデバイスで広く使われる構造。
【特徴】
- ヘテロ構造により電子の“2次元ガス”が形成
- これにより超高速スイッチング
- 低抵抗・低損失
- RF通信(5G)、高効率電源で活躍
【8】今後の進化方向
■ SiC の展望
- 8インチウェハ量産(コスト低減)
- SiC MOSFETのオン抵抗低下
- 3D構造SiCの研究加速
■ GaN の展望
- パワーIC統合(GaN+ドライバ回路)
- 900V級 GaN の実用化
- 3D GaN(Vertical GaN)の台頭
■ 新材料
- Ga₂O₃(酸化ガリウム) → 超高耐圧
- ダイヤモンド半導体 → 未来の最強素材候補
【9】まとめ
・パワーデバイスは大電流・高電圧を扱う力の半導体。
・MOSFET、IGBT、パワーダイオードが主要素子。
・Siの限界を越えるため、SiCとGaNが急速に普及。
・用途により「SiC=高耐圧」、「GaN=高速・低電圧」で住み分けが進む。
・自動車・産業・エネルギー分野で今後も市場拡大が確実。
【理解チェック】
1.SiCとGaNはどんな分野で使い分けられる?
2.IGBTの特徴は?
3.パワーMOSFETの主流構造は?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。
