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9-2. 接触抵抗を見落として失敗する(後編) ― 高性能なTIMを使っても、「触れていなければ」熱は流れない ―

材料・加工技術

公開日:
9-2. 接触抵抗を見落として失敗する(後編) ― 高性能なTIMを使っても、「触れていなければ」熱は流れない ―

前編では、接触熱抵抗が生まれる仕組みを見てきた。
表面の凹凸。反り。気泡。異物。厚みのばらつき。圧力の偏り。

どれだけ熱伝導率の高いTIMを使っても、
触れていなければ熱は流れない。

後編では、それが実際の製品でどう表れるかを見ていく。

グラファイトも、入口の界面が浮いていれば熱は入ってこない。
液冷へ変えても、半導体とコールドプレートの間の界面は残る。
むしろ発熱密度が上がるほど、一か所の界面不良が効いてくる。

さらに接触状態は、熱サイクルや振動で時間とともに変化する。

そして最も現実的な問題がある。
試作で接触できることと、量産で接触を再現し続けることは、別である。

実際の失敗事例と、加工会社として貢献できる領域を整理する。

■グラファイトでも接触しなければ熱を広げられない

グラファイトは面方向へ熱を広げる性能に優れている。

しかし、熱源からグラファイトへ熱が入らなければ、その性能は使えない。

例えば、

IC
 ↓
TIM
 ↓
グラファイト

という構造でTIMが浮いている。

この場合、グラファイト自体がどれほど高性能でも熱は十分に入ってこない。

つまり、

高性能な熱拡散材も、入口の界面が悪ければ意味がない。

■出口側の接触も同じくらい重要

熱源からグラファイトへ熱を入れることができた。

しかしグラファイトの先端が筐体から浮いている。

すると、熱を横方向へ運んでも、最後に外へ逃がせない。

つまり熱対策では、

入口だけでなく、

出口側の接触

も見る必要がある。

熱源。

TIM。

熱拡散材。

筐体。

すべての接触が連続して初めて、熱経路が成立する。

■ベイパーチャンバーでも同じである

高性能なベイパーチャンバーを採用した。

しかしチップとの接触が悪い。

すると、ベイパーチャンバー内部の熱輸送能力を使い切れない。

逆に、ベイパーチャンバーからヒートシンク側への接触が悪くても性能は出ない。

つまり高性能な冷却技術になるほど、

界面が最後のボトルネックになりやすい

とも言える。

■液冷でも接触抵抗は消えない

液冷では、コールドプレートへ冷却液が流れる。

大量の熱を効率よく運ぶことができる。

しかし、

半導体
 ↓
TIM
 ↓
コールドプレート

という界面は残る。

液冷能力を高めても、TIMが浮いていればチップから熱が出てこない。

つまり、

空冷から液冷へ変えても、界面問題そのものはなくならない。

むしろ高発熱化するほど、一つの界面不良の影響が大きくなる。

■EV電池でも接触抵抗が温度差を作る

EVバッテリーでは、

セル
 ↓
熱伝導材
 ↓
冷却プレート

という構造がある。

多数のセルを一枚の冷却プレートで冷やす場合、一部セルだけ接触が悪ければ、そのセルだけ温度が高くなる可能性がある。

冷却液温度は同じ。

冷却プレートも同じ。

それでもセル温度が違う。

原因が、

セルごとの接触状態の違い

ということもある。

これは電池寿命やセル間ばらつきにも影響する。

■大面積になるほど接触均一性が難しくなる

小さなICであれば、比較的均一な圧力をかけやすい。

しかしEVバッテリーや大型パワーモジュールでは、接触面積が大きくなる。

面積が大きくなるほど、

● 反り

● 平面度

● 厚み差

● 圧力差

の影響が出やすい。

つまり、

大面積部材では材料性能以上に、面全体の接触均一性が重要になる

場合がある。

■接触状態は時間とともに変わる

組立直後にはきれいに接触していた。

しかし、

● 高温

● 低温

● 振動

● 長期圧縮

● 材料劣化

によって接触状態が変わることがある。

TIMがポンプアウトする。

粘着材がクリープする。

発泡体がへたる。

部材が反る。

すると熱抵抗も変わる。

つまり接触熱抵抗は、

固定された値ではなく、時間とともに変化する可能性がある。

■熱サイクルで界面が剥離することもある

異なる材料を積層すると、熱膨張率も異なる。

加熱。

冷却。

を繰り返すと、界面に応力がかかる。

その結果、

微小剥離。

浮き。

クラック。

が発生する可能性がある。

初期の熱性能は良かった。

しかし数千回の熱サイクル後に温度が上がる。

こうした現象もあり得る。

つまり、

接触状態は初期評価だけで判断できない。

■試作では接触が良くても量産で悪化する

試作では、技術者が一枚ずつTIMを貼る。

気泡を抜く。

位置を合わせる。

圧力を確認する。

すると良好な接触状態を作りやすい。

しかし量産では、

高速で貼る。

自動機で圧着する。

材料ロットも変わる。

設備状態も変わる。

すると、

● 気泡

● 圧力差

● 貼付ズレ

● 異物

が増える可能性がある。

つまり、

試作で接触できることと、量産で接触を再現できることは別である。

■失敗例:高性能TIMへ変更したが温度が下がらない

例えば既存TIMを3W/m・Kから8W/m・Kへ変更した。

しかし新材料は硬かった。

組立圧力は変えていない。

そのため一部へ十分に追従せず、空気層が残った。

結果として、

材料内部の熱抵抗は下がった。

しかし接触熱抵抗が増えた。

総合的な熱性能はほとんど変わらなかった。

これは典型的な接触抵抗の見落としである。

■失敗例:ヒートシンクを大型化したが効果が小さい

部品温度が高いため、大型ヒートシンクへ変更した。

ヒートシンク自体の放熱性能は大幅に向上した。

しかし発熱部品とヒートシンク間のTIMが浮いていた。

この場合、

ヒートシンク側の能力だけ上げても、そこまで熱が届かない。

つまり、

熱の出口を大きくしても、入口が詰まっていれば意味がない。

■失敗例:冷却プレート温度は低いのに部品が熱い

液冷システムで、

冷却液温度は正常。

冷却プレートも低温。

しかし半導体温度だけ高い。

この場合、

「液冷能力が不足している」

とは限らない。

むしろ、

半導体とコールドプレートの間の界面。

TIM。

平面度。

圧力。

を確認する必要がある。

冷却プレートが冷たいのに部品が熱い場合、

熱が冷却プレートまで届いていない

可能性がある。

■研究者視点:熱抵抗は直列に積み重なる

熱経路を電気回路の抵抗のように考えると分かりやすい。

発熱体。

界面。

TIM。

界面。

冷却部材。

それぞれに熱抵抗がある。

そのため一か所だけ非常に高性能にしても、別の抵抗が大きければ全体性能は改善しにくい。

重要なのは、

最大の熱抵抗がどこに存在するかを見つけること である。

■現場視点:TIMを剥がした跡を見る

熱問題が発生したとき、有効な確認方法の一つが、使用後のTIMの状態を見ることである。

例えば、

● 圧縮跡

● 接触跡

● 気泡

● 未接触部分

● はみ出し

● 異物跡

を見る。

全面が均一に接触しているか。

一部分だけ圧縮されていないか。

こうした情報から、熱界面の状態を推測できることがある。

材料カタログを見るだけでは分からない情報である。

■接触状態を数値化することも重要になる

量産では、

「なんとなくきれいに貼れている」

では管理できない。

例えば、

● TIM厚み

● 圧縮後厚み

● 貼付位置

● 気泡面積

● 圧着圧力

などを管理する。

必要に応じて画像検査や測定を使う。

つまり、

熱性能を安定させるためには、接触状態を工程条件へ変換する

必要がある。

■OTIS視点:接触熱抵抗は加工会社が価値を出せる領域

OTISは、TIM材料そのものを開発する会社ではない。

しかし、

TIMをどの形にするか。

どの厚みで使うか。

どこへ粘着材を置くか。

どの位置へ貼るか。

どのように供給するか。

によって、接触状態は変わる。

つまり接触熱抵抗は、

材料性能と加工品質の境界にある問題

である。

ここは加工会社が関わる意味が大きい。

■形状によって気泡を逃がすことも考えられる

大面積のシートを全面貼付すると、中心部へ気泡が残りやすい場合がある。

用途によっては、

● 開口を設ける

● スリットを入れる

● 空気抜き経路を設ける

ことで、貼り合わせ時の空気を逃がしやすくする考え方がある。

 

つまり、

熱対策材料の形状そのものが、接触品質を改善する手段

になる場合がある。

■部分粘着で接触状態を改善することもある

全面粘着すると、貼付途中に空気を閉じ込めやすい場合がある。

そこで用途によっては、

部分粘着。

微粘着。

仮固定。

を使い、圧着工程で最終接触を作る方法も考えられる。

ここでは、

材料選定。

加工形状。

貼付工程。

を一体で考える必要がある。

■位置決め形状も重要になる

TIMが発熱源から0.5mmずれる。

すると一部の発熱面を覆えない場合がある。

特に小型半導体では、0.5mmの意味は大きい。

そこで、

● 非対称形状

● 位置決め穴

● タブ

● キャリア

などを使い、貼付位置を安定させる。

つまり、

位置精度も接触熱抵抗を左右する。

■リール供給でも接触品質まで考える

部材をリール供給する場合、

自動機が、

剥離。

吸着。

搬送。

貼付。

圧着。

する。

この各工程で部材が変形すれば、最終的な接触状態にも影響する。

例えば、

吸着時に反る。

剥離時に伸びる。

貼付時に片側から空気を巻き込む。

こうした問題を防ぐには、部材の供給形態まで含めて設計する必要がある。

■OTISでできること

OTISでは、

● TIMの高精度打ち抜き

● 薄膜加工

● 微細加工

● 開口加工

● スリット加工

● 部分粘着

● 高精度ラミネート

● 異種材料積層

● ハーフカット

● キャリア設計

● リール・ツー・リール加工

● 自動貼付向け供給形態

● 画像検査

などを通じて、熱対策部材が狙った位置・厚み・接触状態で組み込まれるための加工に貢献できる。

OTISが接触熱抵抗そのものを解析する会社ではない。

しかし、

接触熱抵抗を悪化させにくい部材形状と量産工程を作る

ことは、加工会社が貢献できる領域である。

■OTISの専門外

OTISは、

● TIM材料そのものの開発

● 接触熱抵抗の基礎物性研究

● 半導体パッケージ全体設計

● 冷却装置全体設計

● CFD専業解析

を専門とする会社ではない。

必要に応じて、材料メーカー、顧客設計部門、解析会社、設備メーカーと連携する。

その中でOTISは、

材料を、実際に正しく接触できる部品へ変える

役割を担うことができる。

■まとめ:熱は「高性能材料」ではなく「接触している場所」を流れる

熱伝導率の高い材料を選ぶ。

大型ヒートシンクを使う。

液冷を導入する。

ベイパーチャンバーを採用する。

これらはすべて有効な熱対策である。

しかし、その間の界面が正しく接触していなければ、本来の性能は出ない。

気泡。

反り。

異物。

厚み差。

圧力不足。

位置ズレ。

こうした小さな違いが、熱の流れを止める。

だから熱対策では、

何を使うかだけでなく、どう触れさせるか が重要になる。

高性能な材料を選んだ時点では、熱対策はまだ完成していない。

実際に貼る。

圧縮する。

固定する。

量産する。

そのすべてで、同じ接触状態を作り続けて初めて、材料性能が製品性能になる。

熱対策で最後に効いてくるのは、しばしば大きな冷却装置ではない。

わずか数十μmから0.1mmの界面なのである。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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