■グラファイトでも接触しなければ熱を広げられない
グラファイトは面方向へ熱を広げる性能に優れている。
しかし、熱源からグラファイトへ熱が入らなければ、その性能は使えない。
例えば、
IC
↓
TIM
↓
グラファイト
という構造でTIMが浮いている。
この場合、グラファイト自体がどれほど高性能でも熱は十分に入ってこない。
つまり、
高性能な熱拡散材も、入口の界面が悪ければ意味がない。
■出口側の接触も同じくらい重要
熱源からグラファイトへ熱を入れることができた。
しかしグラファイトの先端が筐体から浮いている。
すると、熱を横方向へ運んでも、最後に外へ逃がせない。
つまり熱対策では、
入口だけでなく、
出口側の接触
も見る必要がある。
熱源。
TIM。
熱拡散材。
筐体。
すべての接触が連続して初めて、熱経路が成立する。
■ベイパーチャンバーでも同じである
高性能なベイパーチャンバーを採用した。
しかしチップとの接触が悪い。
すると、ベイパーチャンバー内部の熱輸送能力を使い切れない。
逆に、ベイパーチャンバーからヒートシンク側への接触が悪くても性能は出ない。
つまり高性能な冷却技術になるほど、
界面が最後のボトルネックになりやすい
とも言える。
■液冷でも接触抵抗は消えない
液冷では、コールドプレートへ冷却液が流れる。
大量の熱を効率よく運ぶことができる。
しかし、
半導体
↓
TIM
↓
コールドプレート
という界面は残る。
液冷能力を高めても、TIMが浮いていればチップから熱が出てこない。
つまり、
空冷から液冷へ変えても、界面問題そのものはなくならない。
むしろ高発熱化するほど、一つの界面不良の影響が大きくなる。
■EV電池でも接触抵抗が温度差を作る
EVバッテリーでは、
セル
↓
熱伝導材
↓
冷却プレート
という構造がある。
多数のセルを一枚の冷却プレートで冷やす場合、一部セルだけ接触が悪ければ、そのセルだけ温度が高くなる可能性がある。
冷却液温度は同じ。
冷却プレートも同じ。
それでもセル温度が違う。
原因が、
セルごとの接触状態の違い
ということもある。
これは電池寿命やセル間ばらつきにも影響する。
■大面積になるほど接触均一性が難しくなる
小さなICであれば、比較的均一な圧力をかけやすい。
しかしEVバッテリーや大型パワーモジュールでは、接触面積が大きくなる。
面積が大きくなるほど、
● 反り
● 平面度
● 厚み差
● 圧力差
の影響が出やすい。
つまり、
大面積部材では材料性能以上に、面全体の接触均一性が重要になる
場合がある。
■接触状態は時間とともに変わる
組立直後にはきれいに接触していた。
しかし、
● 高温
● 低温
● 振動
● 長期圧縮
● 材料劣化
によって接触状態が変わることがある。
TIMがポンプアウトする。
粘着材がクリープする。
発泡体がへたる。
部材が反る。
すると熱抵抗も変わる。
つまり接触熱抵抗は、
固定された値ではなく、時間とともに変化する可能性がある。
■熱サイクルで界面が剥離することもある
異なる材料を積層すると、熱膨張率も異なる。
加熱。
冷却。
を繰り返すと、界面に応力がかかる。
その結果、
微小剥離。
浮き。
クラック。
が発生する可能性がある。
初期の熱性能は良かった。
しかし数千回の熱サイクル後に温度が上がる。
こうした現象もあり得る。
つまり、
接触状態は初期評価だけで判断できない。
■試作では接触が良くても量産で悪化する
試作では、技術者が一枚ずつTIMを貼る。
気泡を抜く。
位置を合わせる。
圧力を確認する。
すると良好な接触状態を作りやすい。
しかし量産では、
高速で貼る。
自動機で圧着する。
材料ロットも変わる。
設備状態も変わる。
すると、
● 気泡
● 圧力差
● 貼付ズレ
● 異物
が増える可能性がある。
つまり、
試作で接触できることと、量産で接触を再現できることは別である。
■失敗例:高性能TIMへ変更したが温度が下がらない
例えば既存TIMを3W/m・Kから8W/m・Kへ変更した。
しかし新材料は硬かった。
組立圧力は変えていない。
そのため一部へ十分に追従せず、空気層が残った。
結果として、
材料内部の熱抵抗は下がった。
しかし接触熱抵抗が増えた。
総合的な熱性能はほとんど変わらなかった。
これは典型的な接触抵抗の見落としである。
■失敗例:ヒートシンクを大型化したが効果が小さい
部品温度が高いため、大型ヒートシンクへ変更した。
ヒートシンク自体の放熱性能は大幅に向上した。
しかし発熱部品とヒートシンク間のTIMが浮いていた。
この場合、
ヒートシンク側の能力だけ上げても、そこまで熱が届かない。
つまり、
熱の出口を大きくしても、入口が詰まっていれば意味がない。
■失敗例:冷却プレート温度は低いのに部品が熱い
液冷システムで、
冷却液温度は正常。
冷却プレートも低温。
しかし半導体温度だけ高い。
この場合、
「液冷能力が不足している」
とは限らない。
むしろ、
半導体とコールドプレートの間の界面。
TIM。
平面度。
圧力。
を確認する必要がある。
冷却プレートが冷たいのに部品が熱い場合、
熱が冷却プレートまで届いていない
可能性がある。
■研究者視点:熱抵抗は直列に積み重なる
熱経路を電気回路の抵抗のように考えると分かりやすい。
発熱体。
界面。
TIM。
界面。
冷却部材。
それぞれに熱抵抗がある。
そのため一か所だけ非常に高性能にしても、別の抵抗が大きければ全体性能は改善しにくい。
重要なのは、
最大の熱抵抗がどこに存在するかを見つけること である。
■現場視点:TIMを剥がした跡を見る
熱問題が発生したとき、有効な確認方法の一つが、使用後のTIMの状態を見ることである。
例えば、
● 圧縮跡
● 接触跡
● 気泡
● 未接触部分
● はみ出し
● 異物跡
を見る。
全面が均一に接触しているか。
一部分だけ圧縮されていないか。
こうした情報から、熱界面の状態を推測できることがある。
材料カタログを見るだけでは分からない情報である。
■接触状態を数値化することも重要になる
量産では、
「なんとなくきれいに貼れている」
では管理できない。
例えば、
● TIM厚み
● 圧縮後厚み
● 貼付位置
● 気泡面積
● 圧着圧力
などを管理する。
必要に応じて画像検査や測定を使う。
つまり、
熱性能を安定させるためには、接触状態を工程条件へ変換する
必要がある。
■OTIS視点:接触熱抵抗は加工会社が価値を出せる領域
OTISは、TIM材料そのものを開発する会社ではない。
しかし、
TIMをどの形にするか。
どの厚みで使うか。
どこへ粘着材を置くか。
どの位置へ貼るか。
どのように供給するか。
によって、接触状態は変わる。
つまり接触熱抵抗は、
材料性能と加工品質の境界にある問題
である。
ここは加工会社が関わる意味が大きい。
■形状によって気泡を逃がすことも考えられる
大面積のシートを全面貼付すると、中心部へ気泡が残りやすい場合がある。
用途によっては、
● 開口を設ける
● スリットを入れる
● 空気抜き経路を設ける
ことで、貼り合わせ時の空気を逃がしやすくする考え方がある。
つまり、
熱対策材料の形状そのものが、接触品質を改善する手段
になる場合がある。
■部分粘着で接触状態を改善することもある
全面粘着すると、貼付途中に空気を閉じ込めやすい場合がある。
そこで用途によっては、
部分粘着。
微粘着。
仮固定。
を使い、圧着工程で最終接触を作る方法も考えられる。
ここでは、
材料選定。
加工形状。
貼付工程。
を一体で考える必要がある。
■位置決め形状も重要になる
TIMが発熱源から0.5mmずれる。
すると一部の発熱面を覆えない場合がある。
特に小型半導体では、0.5mmの意味は大きい。
そこで、
● 非対称形状
● 位置決め穴
● タブ
● キャリア
などを使い、貼付位置を安定させる。
つまり、
位置精度も接触熱抵抗を左右する。
■リール供給でも接触品質まで考える
部材をリール供給する場合、
自動機が、
剥離。
吸着。
搬送。
貼付。
圧着。
する。
この各工程で部材が変形すれば、最終的な接触状態にも影響する。
例えば、
吸着時に反る。
剥離時に伸びる。
貼付時に片側から空気を巻き込む。
こうした問題を防ぐには、部材の供給形態まで含めて設計する必要がある。
■OTISでできること
OTISでは、
● TIMの高精度打ち抜き
● 薄膜加工
● 微細加工
● 開口加工
● スリット加工
● 部分粘着
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
● ハーフカット
● キャリア設計
● リール・ツー・リール加工
● 自動貼付向け供給形態
● 画像検査
などを通じて、熱対策部材が狙った位置・厚み・接触状態で組み込まれるための加工に貢献できる。
OTISが接触熱抵抗そのものを解析する会社ではない。
しかし、
接触熱抵抗を悪化させにくい部材形状と量産工程を作る
ことは、加工会社が貢献できる領域である。
■OTISの専門外
OTISは、
● TIM材料そのものの開発
● 接触熱抵抗の基礎物性研究
● 半導体パッケージ全体設計
● 冷却装置全体設計
● CFD専業解析
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、材料メーカー、顧客設計部門、解析会社、設備メーカーと連携する。
その中でOTISは、
材料を、実際に正しく接触できる部品へ変える
役割を担うことができる。
■まとめ:熱は「高性能材料」ではなく「接触している場所」を流れる
熱伝導率の高い材料を選ぶ。
大型ヒートシンクを使う。
液冷を導入する。
ベイパーチャンバーを採用する。
これらはすべて有効な熱対策である。
しかし、その間の界面が正しく接触していなければ、本来の性能は出ない。
気泡。
反り。
異物。
厚み差。
圧力不足。
位置ズレ。
こうした小さな違いが、熱の流れを止める。
だから熱対策では、
何を使うかだけでなく、どう触れさせるか が重要になる。
高性能な材料を選んだ時点では、熱対策はまだ完成していない。
実際に貼る。
圧縮する。
固定する。
量産する。
そのすべてで、同じ接触状態を作り続けて初めて、材料性能が製品性能になる。
熱対策で最後に効いてくるのは、しばしば大きな冷却装置ではない。
わずか数十μmから0.1mmの界面なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


