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5. 研究者・開発者視点と現場視点編 なぜ理論通りに冷えないのか
5-6. 試作では良くても量産で失敗する理由 〜一つ作れることと、同じものを作り続けられることは違う〜

材料・加工技術

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5. 研究者・開発者視点と現場視点編 なぜ理論通りに冷えないのか<br>5-6. 試作では良くても量産で失敗する理由 〜一つ作れることと、同じものを作り続けられることは違う〜

熱対策では、試作では冷えたのに、量産では冷えないということが起きる。
試作品の評価では温度が下がった。
性能にも問題がなかった。
しかし量産を始めると、
• 温度がばらつく
• 一部だけ高温になる
• 貼り付け不良が出る
• 部材が剥がれる
• 自動機が止まる
• 不良率が上がる
といった問題が発生する。
これは珍しいことではない。
なぜなら、試作で成立する条件と、
量産で成立する条件は違うからである。

■試作と量産は別の技術である

試作の目的は、設計や材料の可能性を確認することである。

一方、量産の目的は、決められた品質の製品を、安定して、繰り返し作ることである。

試作では、一つの良品を丁寧に作ればよい。

量産では、何千個、何万個、何十万個と同じ品質を再現しなければならない。

つまり、一つ作れることと、

同じものを作り続けられることは別である。

■試作では熟練者が調整できる

試作では、技術者や熟練作業者が一つずつ確認しながら作ることができる。

例えば、

 ● 貼る位置を微調整する

 ● 気泡を押し出す

 ● 圧力を手加減する

 ● 材料の反りを直す

 ● 異物を取り除く

 ● 問題があれば貼り直す ことができる。

つまり試作では、人が工程のばらつきを吸収している。

一方、量産では、人による微調整に頼り続けることは難しい。

設備や標準条件で、同じ状態を再現する必要がある。

■試作では良い材料だけを選べる

試作では、材料の中から状態の良い部分だけを選んで使うことができる。

反りの少ない部分。

厚みの安定した部分。

欠けや粉落ちのない部分。

しかし量産では、材料ロット全体を使う。

すると、

 ● 厚みばらつき

 ● 硬さばらつき

 ● 粘着力ばらつき

 ● 剥離力ばらつき

 ● 表面状態の違い が現れる。

つまり量産では、平均性能だけでなく、ばらつき幅が問題になる。

■試作では工程速度が遅い

試作では、時間をかけて作業できる。

ゆっくり剥離する。

ゆっくり位置合わせする。

ゆっくり圧着する。

しかし量産では、生産速度が必要になる。

速度を上げると、

 ● 気泡が入る

 ● 位置がズレる

 ● 材料が伸びる

 ● 吸着が不安定になる

 ● 圧着時間が不足する

 ● 剥離紙が安定しない

といった問題が起きることがある。

つまり、低速で成立する工程が、量産速度で成立するとは限らない。

■試作では手貼り、量産では自動貼付になる

試作では、人が目で見て貼ることができる。

しかし量産では、自動機や治具で貼ることが多い。

自動貼付では、

 ● 吸着できるか

 ● 剥離紙が安定して剥がれるか

 ● リール供給できるか

 ● 搬送中に変形しないか

 ● 位置決めしやすいか

 ● 圧着条件が一定か が重要になる。

つまり材料が高性能でも、>自動機で扱えなければ量産では使いにくい。

■試作では公差を見落としやすい

試作では、部品寸法が設計値に近いものを使うことが多い。

しかし量産では、すべての部品に公差がある。

発熱部品の高さ。

筐体の寸法。

冷却板の平面度。

TIMの厚み。

粘着材の厚み。

これらが組み合わさると、部品間の隙間は一定にならない。

つまり量産では、公差の積み重なりによって、接触状態が変わる。

■公差が接触熱抵抗を変える

部品間の隙間が大きい個体では、TIMが十分に圧縮されない。

隙間が小さい個体では、TIMが過度に圧縮される。

その結果、

 ● 接触面積

 ● 圧力

 ● 厚み

 ● 空気層

 ● はみ出し が変わる。

つまり量産では、同じ材料を使っていても、

個体ごとに接触熱抵抗が変わる可能性がある。

■試作では初期性能しか見ていないことがある

試作評価では、組み立て直後の温度を測定することが多い。

しかし実際の製品は、長期間使用される。

その間に、

 ● 粘着材が劣化する

 ● ゲルが変形する

 ● グリスが移動する

 ● TIMが潰れる

 ● 材料が反る

 ● 界面が剥離する

 ● 熱膨張を繰り返す ことがある。

つまり、初期状態で冷えていても、長期使用後に同じ性能を維持できるとは限らない。

■温度サイクルで状態が変わる

製品は、温まったり冷えたりを繰り返す。

この温度サイクルによって、異なる材料がそれぞれ膨張・収縮する。

金属。

樹脂。

セラミック。

粘着材。

グラファイト。

それぞれ熱膨張率が違う。

そのため、繰り返し使用すると、

 ● 浮き

 ● 剥離

 ● クラック

 ● 反り

 ● 圧力低下

 ● 接触不良 が発生することがある。

つまり量産評価では、初期性能だけでなく、

熱履歴後の性能を見る必要がある。

■試作材料と量産材料が違うことがある

試作段階では、入手しやすい材料やサンプル材料を使うことがある。

しかし量産では、

 ● コスト

 ● 供給能力

 ● MOQ

 ● 納期

 ● 認証

 ● 安定調達 の関係で、材料が変更されることがある。

似た材料に見えても、

 ● 硬さ

 ● 厚み

 ● 粘着力

 ● 熱伝導率

 ● 圧縮性

 ● 加工性 が違う。

つまり、試作材での成功が、

量産材での成功を保証するわけではない。

■加工方法が変わると性能も変わる

試作では、レーザー、手切り、簡易型などで加工することがある。

量産では、打ち抜き、連続ラミネート、リール加工、自動貼付へ変わる。

加工方法が変わると、

 ● 端面状態

 ● バリ

 ● 粉落ち

 ● 寸法精度

 ● 反り

 ● 残留応力

 ● 粘着層の状態 が変わることがある。

つまり同じ材料でも、加工方法が変われば、実装性能も変わる。

■試作では異物を避けられる

試作では、少量を丁寧に作るため、異物を取り除きやすい。

しかし量産では、加工カス、粉、粘着カス、フィルム片などが発生する可能性がある。

異物が接触面に入ると、

 ● 浮き

 ● 空気層

 ● 絶縁不良

 ● 防水不良

 ● 導通リスクにつながる。

つまり量産では、異物が入りにくい工程、異物を残さない工程が必要になる。

■設備の温度でも条件が変わる

試作では、少量を丁寧に作るため、異物を取り除きやすい。

しかし量産では、加工カス、粉、粘着カス、フィルム片などが発生する可能性がある。

異物が接触面に入ると、

 ● 浮き

 ● 空気層

 ● 絶縁不良

 ● 防水不良

 ● 導通リスクにつながる。

つまり量産では、異物が入りにくい工程、異物を残さない工程が必要になる。

■設備の温度でも条件が変わる

量産設備は、動き続けると温まる。

朝の立ち上げ直後。

数時間稼働した後。

夏と冬。

工場の温湿度。

これらによって、材料や設備の状態が変わる。

例えば、

 ● 粘着材が柔らかくなる

 ● フィルムが伸びる

 ● 治具が膨張する

 ● 剥離力が変わる

 ● 搬送テンションが変わる ことがある。

つまり量産では、設備が温まった後も同じ条件で作れるかを見る必要がある。

■AIサーバーでの試作と量産の差

AIサーバーでは、高性能TIMや液冷部材を使って試作評価することがある。

試作では、均一な圧力で組み立て、丁寧に界面を作れる。

しかし量産では、

 ● GPUごとの高さばらつき

 ● 冷却プレートの平面度

 ● TIMの厚みばらつき

 ● 締結力の差

 ● 組立位置ズレ が発生する可能性がある。

その結果、同じ設計でもGPUごとに温度差が出る。

つまりAIサーバーでは、冷却設計と同時に、

組立再現性が重要になる。

■EV・ESSでの試作と量産の差

EVやESSでは、多数の電池セルを扱う。

試作では少数セルで評価できても、量産では数百、数千の接触部が存在する。

一つひとつのばらつきが小さくても、数が増えると不良の可能性は高まる。

 ● セル高さばらつき

 ● ギャップフィラーの厚み差

 ● 冷却板の反り

 ● 圧着力の差

 ● 断熱材の位置ズレ によって、セル温度差が生まれる。

つまりEV・ESSでは、一箇所の性能より、

全箇所の均一性が重要になる。

■スマートフォン・ウェアラブルでの試作と量産の差

スマートフォンやウェアラブル機器では、部材が小さく薄い。

試作では顕微鏡を見ながら丁寧に貼ることができる。

しかし量産では、高速で連続的に貼る必要がある。

その結果、

 ● 数十μmの貼りズレ

 ● 微小気泡

 ● 端部浮き

 ● 粘着材のはみ出し

 ● グラファイトの欠け が発生することがある。

小型機器では、この小さな違いが表面温度や装着感に影響する。

■研究者視点 : 試作評価には量産ばらつきが含まれていない

研究段階では、理想条件に近い状態で評価することが多い。

しかし量産では、

 ● 材料ロット差

 ● 寸法公差

 ● 設備ばらつき

 ● 作業ばらつき

 ● 環境変化

 ● 経年変化 が加わる。

つまり試作性能は、理想条件での性能であり、量産性能は、

ばらつきを含んだ性能である。

そのため研究段階から、最大・最小条件を想定した評価が必要になる。

■現場視点 : 最高性能より、最低性能を見る

試作では、最も良い結果に注目しやすい。

しかし量産では、最も悪い個体でも要求を満たすかが重要になる。

平均温度が低くても、一部の個体が高温になるなら問題である。

つまり量産では、

 ● 平均値

 ● 最大値

 ● 最小値

 ● ばらつき

 ● 不良率 を見る必要がある。

熱対策では、ベスト性能より、

ワースト性能を管理することが重要になる。

■試作から量産へ移る前に確認すべきこと

試作評価が良好でも、量産前には以下を確認する必要がある。

 ● 量産材でも同じ性能が出るか

 ● 材料ロット差を吸収できるか

 ● 部品公差を考慮しているか

 ● 量産速度で貼れるか

 ● 自動機で安定供給できるか

 ● 気泡や貼りズレを抑えられるか

 ● 異物管理ができるか

 ● 温湿度変化に耐えられるか

 ● 熱サイクル後も接触が維持されるか

 ● 不良を工程内で検出できるか

つまり量産移行では、材料評価だけでなく、工程評価が必要になる。

■量産で失敗しないための考え方

量産で失敗しないためには、試作段階から量産を想定する必要がある。

例えば、

 ● 自動化しやすい形状にする

 ● 位置決め基準を設ける

 ● 公差を吸収できる厚みにする

 ● 剥離紙構成を検討する

 ● リール供給を前提にする

 ● 異物が残りにくい形状にする

 ● 貼りズレ許容範囲を持たせる

 ● 検査可能な設計にする ことが重要になる。

つまり、量産は試作後に考えるものではない。

試作段階から考えるものである。

■OTIS視点

OTISは、熱材料そのものを開発する会社ではない。

しかし、試作で確認された熱対策を、量産工程で再現できる部材へ変換する領域では貢献できる可能性がある。

OTIS視点で重要なのは、

 ● 高精度打ち抜き

 ● 微細加工

 ● 高精度ラミネート

 ● 異種材料積層

 ● 寸法公差管理

 ● 剥離紙設計

 ● リール供給

 ● 自動化工程向け供給形態

 ● 貼り合わせ精度

 ● 量産時のばらつき低減 である。

試作では技術者が補正できる。

しかし量産では、部材そのものが貼りやすく、ズレにくく、安定していなければならない。

■OTISでできること

OTISでは、試作から量産工程を想定したモノづくりを目指しており、

 ● TIM加工

 ● 放熱シート加工

 ● グラファイト加工

 ● 絶縁材加工

 ● 粘着材加工

 ● EMI材加工

 ● 金属箔加工

 ● 高精度打ち抜き

 ● 微細加工

 ● 高精度ラミネート

 ● 異形状積層

 ● リール供給

 ● 自動化工程向け供給形態設計

などを通じて、試作で成立した熱対策を、量産で再現しやすい形へ近づけることに貢献できる可能性がある。

■OTISの専門外

一方でOTISは、

 ● 材料そのものの開発

 ● 完成品全体の熱設計

 ● 顧客ライン全体の設備設計

 ● 熱シミュレーション専業解析

 ● 完成品全体の信頼性保証を専門とする会社ではない。

しかし、熱対策材料を、試作から量産へ移行できる形に加工・設計する

という領域では、重要な役割を担える可能性がある。

■この技術が重要になる産業

★★★★★ AIサーバー

★★★★★ GPU・半導体

★★★★★ EV・電池

★★★★★ ESS・蓄電システム

★★★★★ スマートフォン

★★★★☆ ウェアラブル機器

★★★★☆ ロボット

■まとめ

試作で冷えることは、量産で冷えることを意味しない

試作では、良い材料を選び、熟練者が丁寧に作り、問題があれば調整できる。

しかし量産では、

 ● 材料ロット差

 ● 部品公差

 ● 生産速度

 ● 設備ばらつき

 ● 温湿度変化

 ● 貼りズレ

 ● 気泡

 ● 異物

 ● 経年変化 が加わる。

そのため、試作で良い結果が出ても、量産では同じ性能が出ないことがある。

つまり熱対策では、一つの良品を作ることではなく、

同じ性能の良品を作り続けることが本当のゴールである。

熱対策は、試作評価で完成するものではない。

材料、形状、加工、供給、自動化、検査まで設計し、量産で再現できて初めて完成する。

 

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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