■排熱とは何か
機械や電子機器がエネルギーを使うと、その一部は最終的に熱になる。
例えば、
電力
↓
計算
↓
熱
である。
AIサーバーでは大量の電力を使って演算する。
その電力の多くは、最終的に熱として放出される。
通常は、
その熱をファンや液冷で外へ運び、
最終的に大気へ捨てる。
しかし、その熱にもエネルギーが残っている。
そこで、その熱を別の用途へ移すという考え方が生まれる。
■排熱利用で重要なのは「温度」
熱があれば、何でも利用できるわけではない。
重要なのが、
何℃の熱なのか
である。
高温の排熱は利用しやすい。
例えば、
●蒸気を作る
●発電する
●工程加熱に使う などができる。
一方、電子機器やデータセンターから出る熱は、比較的低温であることが多い。
低温の熱は、高温熱源ほど利用方法が多くない。
そのため排熱利用では、熱量だけでなく、温度レベルが重要になる。
■大量の低温熱という新しい課題
AIデータセンターでは、非常に大きな電力を消費する。
その結果、大量の熱が発生する。
しかし、サーバーから出てくる熱は、
製鉄炉やボイラーのような高温ではない。
つまり、大量にあるが、温度はそれほど高くない熱が生まれる。
この熱をどう使うかが、今後の重要なテーマになる。
■液冷は排熱利用と相性がよい
空冷では、熱が大量の空気へ分散する。
そのため、熱をまとめて回収することが難しい場合がある。
一方、液冷では、熱を冷却液へ集める。
つまり、熱を一か所へ集めた状態で運びやすい。
そのため液冷は、冷却だけでなく、排熱回収とも相性がよい。
例えば、
サーバー
↓
冷却液
↓
熱交換器
↓
建物暖房 という流れが考えられる。
■データセンターの熱を暖房へ使う
寒冷地域では、データセンターの排熱を、
●オフィス
●住宅
●商業施設
●地域暖房
へ利用する考え方がある。
本来であれば捨てていた熱を、建物暖房へ使う。
これによって、冷却に使ったエネルギーを、別の用途で回収することができる。
AIデータセンターが増えるほど、排熱量も増える。
将来的には、データセンターが巨大な熱源として扱われる可能性もある。
■給湯にも使える
排熱温度が適していれば、
●工場
●ホテル
●病院
●スポーツ施設 などの給湯へ使うことも考えられる。
必要な温度に足りない場合には、
ヒートポンプを使って温度を上げる方法がある。
つまり低温排熱も、完全に使えないわけではない。
別の技術と組み合わせることで、利用範囲を広げられる。
■ヒートポンプとは何か
ヒートポンプは、低い温度の熱を、より高い温度へ移す装置である。
エアコンもヒートポンプの一種である。
少し温かい排熱を集め、
必要な温度まで上げる。
これによって、そのままでは使いにくい低温排熱を、
●暖房
●給湯
●工程加熱 へ利用できる可能性がある。
つまり排熱利用では、熱をそのまま使うだけでなく、
熱の温度を変えて使うことも重要になる。
■工場では工程間で熱を使い回す
製造業では、ある工程で熱を捨て、別の工程で新たに加熱することがある。
例えば、
工程Aで排熱が発生する。
工程Bでは加熱が必要になる。
この二つを接続できれば、
工程Aの排熱
↓
工程Bの熱源
として利用できる。
つまり、工場全体を一つの熱システムとして見るという考え方である。
各設備だけを最適化するのではなく、
工場全体で、どこで熱が出て、どこで熱が必要なのかを考える。
■排熱から発電する方法もある
排熱温度が比較的高い場合には、
熱を電気へ戻す
ことも考えられる。
例えば、
●熱電発電
●蒸気利用
●有機ランキンサイクル などがある。
ただし、熱を電気へ戻すときには変換効率の問題がある。
特に低温排熱では、得られる電力量が小さいこともある。
そのため、まず熱として利用できないかを考えた方が効率的な場合もある。
■熱電発電とは何か
熱電発電では、温度差を使って電気を発生させる。
高温側と低温側の間に熱電材料を配置すると、温度差によって電圧が生じる。
可動部がないという特徴がある。
一方で、大きな電力を高効率で取り出すには課題もある。
そのため、
●センサー
●小型機器
●補助電源
などで利用されることが考えられる。
■EVでも熱を捨てるだけではない
EVでは、
●バッテリー
●モーター
●インバーター から熱が発生する。
冬場には、車室暖房も必要になる。
エンジン車では、エンジンの排熱を暖房へ利用できた。
EVでは大きなエンジン排熱がないため、暖房に電力を使う。
そこで、
バッテリーやモーターの熱。
外気中の熱。
などをヒートポンプで回収し、車室暖房へ利用する。
つまりEVでは、熱を捨てるだけでなく、
車両内部で熱を移動させることが重要になっている。
■ESSでも熱の使い方を考えられる
ESSでは、多数のバッテリーセルを一定温度に維持する必要がある。
充放電によって発生する熱は、多くの場合、外へ排出される。
しかし大規模ESSが普及すれば、排熱量も増える。
施設全体で、
●暖房
●給湯
●近接設備
などへ熱を利用できる可能性がある。
ただし温度レベルや運転時間によって、経済性は大きく変わる。
■熱は「貯める」こともできる
電気はバッテリーへ蓄える。
同じように、
熱を蓄える
こともできる。
例えば、
●温水
●相変化材料
●蓄熱材
などへ熱を一時的に蓄える。
昼間に余った熱を貯める。
夜に暖房へ使う。
設備稼働時の排熱を貯める。
必要な時間に使う。
これによって、熱が出る時間と、熱を使いたい時間のずれを調整できる。
■相変化材料を蓄熱に使う
相変化材料は、
固体から液体。
液体から固体。
へ変化するときに、多くの熱を吸収・放出する。
この性質を利用すれば、
一定温度付近で大量の熱を蓄えることができる。
例えば設備の発熱ピーク時に熱を吸収し、
負荷が下がった後に熱を放出する。
これは、熱のピークを時間方向へずらす技術でもある。
■熱を再利用すれば、冷却負荷も減る可能性がある
排熱利用の目的は、
エネルギーを再利用することだけではない。
熱を積極的に別の場所へ移せば、
発熱設備側の温度を下げることにもつながる。
つまり、冷却と、熱利用を一つのシステムとして設計できる。
例えば、
液冷でAIサーバーから熱を回収する。
回収した熱を建物暖房へ使う。
サーバー側は冷却される。
建物側では暖房エネルギーを減らせる。
双方にメリットがある。
■ただし熱は遠くへ運びにくい
電気は、送電線を使って遠距離へ比較的容易に運べる。
しかし熱は、距離が長くなるほど損失が増えやすい。
配管を通す。
保温する。
ポンプを動かす。
設備投資も必要になる。
そのため排熱利用では、
熱を使う場所が近くにあるか
が非常に重要になる。
データセンターの隣に、
●住宅
●病院
●工場
●温室
などがあれば使いやすい。
遠くへ運ぶほど経済性は悪くなりやすい。
■「熱の需要」と「熱の供給」が一致する必要がある
排熱が大量にある。
それだけでは、利用できるとは限らない。
暖房需要は冬に増える。
しかしデータセンターは一年中稼働する。
工場の排熱は昼間だけかもしれない。
熱を必要とする設備は夜間に動くかもしれない。
つまり、熱が出る時間と、熱が必要な時間が一致しなければならない。
あるいは、蓄熱によって時間差を吸収する必要がある。
■熱の温度も一致させる必要がある
50℃の排熱があっても、300℃が必要な工程にはそのまま使えない。
逆に、40℃程度の温水でよい用途なら使いやすい。
つまり排熱利用では、
●排熱温度
●必要温度
●熱量
●距離
●時間 の組み合わせを見る必要がある。
単に、熱が余っている だけでは成立しない。
■AI時代は「計算」と「熱利用」をセットで考える可能性がある
AIデータセンターが巨大化すると、大量の電力を消費し、大量の熱を出す。
これまで、
データセンターは計算設備。
地域暖房はエネルギー設備。
と別々に考えられてきた。
しかし将来的には、
計算設備そのものを熱源として都市や工場へ組み込む
という発想が重要になる可能性がある。
例えば、
データセンター
+
地域暖房
データセンター
+
農業温室
データセンター
+
工場給湯
という組み合わせである。
つまりAIインフラの立地も、通信や電力だけでなく、
排熱をどこで利用できるか という観点で考えられるようになる可能性がある。
■熱利用を考えると、冷却方式も変わる
排熱を再利用したい場合、
どのように冷却するかも重要になる。
空冷では熱が大量の空気へ拡散しやすい。
液冷では熱を液体へ集中できる。
そのため、熱を利用したいなら、回収しやすい冷却方式が有利になる場合がある。
つまり今後の冷却システムは、
最もよく冷える方式 だけでなく、
熱を最も使いやすい形で回収できる方式 という視点でも評価される可能性がある。
■研究者視点 : 熱には「量」だけでなく「質」がある
同じ1kWh相当の熱でも、
高温の熱と、
低温の熱では、
利用価値が違う。
高温の熱は、多くの用途へ使える。
低温の熱は、用途が限定される。
つまり熱には、
どの温度で存在するか
という「質」がある。
排熱利用では、単に熱量を数えるだけでなく、
その温度で何に使えるのかを見る必要がある。
■現場視点 : 「捨てている熱がある」だけでは事業にならない
工場やデータセンターに大量の排熱がある。
では、それを利用しよう。
というだけでは成立しない。
確認すべきなのは、
●何℃か
●何kWあるか
●何時間出るか
●近くに誰が必要としているか
●配管距離はどの程度か
●季節変動はあるか
●設備投資はいくらか である。
つまり排熱利用は、技術問題であると同時に、経済性と立地の問題でもある。
■OTIS視点
排熱回収システムや発電システムそのものは、OTISの専門領域ではない。
OTISは、
●地域暖房を設計する会社
●ヒートポンプメーカー
●熱交換器メーカー
●排熱発電メーカー
ではない。
一方で、排熱回収設備や熱マネジメント機器の内部では、
●熱伝導材
●絶縁材
●粘着材
●シール材
●金属箔
●センサー周辺部材
などが使われる可能性がある。
そのためOTISの役割は、排熱利用のシステムそのものではなく、
その中で使われる機能部材を加工すること と考えるのが適切である。
■OTISでできること
OTISでは、
●熱伝導シート加工
●絶縁フィルム加工
●粘着材加工
●シール材加工
●金属箔加工
●高精度ラミネート
●高精度打ち抜き
●リール供給
などを通じて、排熱回収・熱マネジメント機器に使われる機能部材へ貢献できる可能性がある。
■OTISの専門外
OTISは、
●排熱回収システム設計
●地域暖房設計
●ヒートポンプ設計
●熱交換器設計
●排熱発電システム
●エネルギーマネジメント全体の設計
を専門とする会社ではない。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIデータセンター
★★★★★ 工場・製造設備
★★★★☆ エネルギー設備
★★★★☆ EV・モビリティ
★★★★☆ ESS
★★★★☆ 建築・地域エネルギー
★★★☆☆ 農業・温室設備
■まとめ
熱は「捨てるもの」から「使うもの」へ
これまで熱対策では、
熱をどうやって外へ捨てるかが中心だった。
しかしAIデータセンターや大規模エネルギー設備が増えるほど、排熱量も大きくなる。
その熱を、
暖房。
給湯。
工場工程。
蓄熱。
発電。
などへ利用できれば、エネルギー全体の効率を高められる可能性がある。
もちろん、すべての排熱が利用できるわけではない。
温度。
熱量。
距離。
時間。
利用先。
これらの条件が合う必要がある。
だから次世代の熱設計では、どう冷やすかだけでなく、
冷やした後、その熱をどうするかまで考えることが重要になる。
熱は、ただの損失ではない。
場所と温度が合えば、再び使えるエネルギー資源になる。
そして冷却技術も、「熱を捨てるための技術」から、「熱を必要な場所へ移し、最後まで使い切るための技術」へ進化していくのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

