■将来は「チップの中へ冷却を入れる」可能性もある
3D実装がさらに高密度になると、外側から冷却するだけでは内部の熱を十分に取り出せなくなる可能性がある。
そこで研究されている方向の一つが、冷却流路を熱源へさらに近づけることである。
例えば、
●パッケージ内部
●インターポーザー
●チップ近傍
へ微細流路を設け、冷却液を流す考え方である。
これは、
熱が外へ出てくるのを待つのではなく、
熱源の近くまで冷却側から迎えに行くという発想である。
■冷却を近づけるほど、加工は難しくなる
冷却流路をチップへ近づければ、熱抵抗は小さくできる可能性がある。
しかし同時に、
●漏液
●絶縁
●微細流路
●シール
●接合
●異物
●材料適合性 への要求が厳しくなる。
つまり、
熱源と冷却を近づけるほど、製造技術への要求が高くなる。
冷却性能と製造難易度は、同時に上がっていく。
■3D実装では「薄い部材」が増える
3D実装では、高さ方向のスペースが非常に重要になる。
一つの部材を0.1mm薄くできれば、その分、
●チップを追加できる
●冷却部材を追加できる
●製品を薄くできる 可能性がある。
そのため、
●TIM
●絶縁フィルム
●粘着材
●金属箔
●グラファイト なども薄膜化が求められる。
しかし薄くなるほど、
●シワ
●伸び
●破れ
●バリ
●位置ズレ
●搬送不良 の影響が大きくなる。
つまり、
3D実装の進化は、薄膜加工技術への要求も高める。
■部材が小さくなるほど位置精度が重要になる
チップが小さい。
TIMも小さい。
絶縁材も小さい。
開口部も小さい。
この状態で0.2mmずれれば、面積に対するズレの割合は大きくなる。
例えばTIMがチップからはみ出す。
逆に一部を覆えない。
絶縁材の開口位置がずれる。
こうした問題が起きる。
つまり微細化では、同じ0.1mmでも意味が変わる。
製品が小さくなるほど、加工精度の価値が高くなる。
■積層数が増えると誤差も積み重なる
例えば、
TIM
+
グラファイト
+
絶縁フィルム
+
粘着材
を積層するとする。
それぞれの位置が±0.1mmずれる可能性があれば、最終製品では誤差が積み重なる。
また厚みも、
各材料の厚み公差
+
粘着層
+
貼り合わせ圧力 によって変わる。
つまり、
材料一枚の精度だけではなく、積層後の完成品精度を見る必要がある。
■だから高精度ラミネートが重要になる
複数の機能材料を組み合わせる場合、
一枚ずつ顧客工程で貼ることもできる。
しかし、
TIMを貼る。
絶縁材を貼る。
グラファイトを貼る。
粘着材を貼る。
と工程が増えるほど、位置ズレの機会も増える。
そこで、
必要な材料をあらかじめ高精度に積層して供給する という考え方がある。
これによって、
●顧客工程削減
●貼付精度向上
●部品点数削減
●自動化しやすさ向上 につながる可能性がある。
■ただし「全部積層すればよい」わけではない
積層すれば工程は減る。
しかし界面は増える。
粘着層も増える。
厚みも増える。
反りも発生しやすくなる。
つまり、一体化すれば必ず熱性能が上がるわけではない。
必要なのは、何を一体化し、何を別部材にするかという工程設計である。
■自動化できなければ量産できない
AI半導体や先端パッケージが大量生産される場合、熱対策部材も大量に供給する必要がある。
一枚ずつ人がピンセットで貼る。
位置を目視で合わせる。
剥離紙を手で剥がす。
これでは量産性に限界がある。
そこで、
●リール供給
●自動剥離
●自動貼付
●画像位置補正
●ロボット搬送
に対応した部材形状が必要になる。
つまり、熱性能が良い部材だけでは不十分である。
自動で安定して組み込める熱対策部材である必要がある。
■部材設計と設備設計は分けられなくなる
例えばTIMを自動貼付する場合、
材料そのものだけでなく、
●キャリア幅
●ピッチ
●剥離力
●ライナー
●部品姿勢
●位置認識マーク なども重要になる。
つまり、TIMの設計が、
自動貼付設備の設計にも影響する。
3D実装が高度化するほど、
材料。
加工。
設備。
検査。 を別々に考えることが難しくなる。
■検査も難しくなる
3D実装では、内部が見えない。
積層した後に、
TIMが正しく接触しているか。
気泡がないか。
位置がずれていないか。
内部に異物がないか。
を確認することが難しくなる。
そのため、
後から検査する
だけではなく、
不良を作らない工程
が重要になる。
加工精度。
材料管理。
貼付精度。
工程管理。
これらによって、内部不良の発生確率を下げる必要がある。
■試作で冷えても、量産で冷えるとは限らない
試作では、熟練者が丁寧にTIMを貼る。
気泡を抜く。
位置を合わせる。
圧力を調整する。
すると良好な熱性能が出る。
しかし量産では、
1日に数千個。
数万個。
自動機で加工・貼付する。
ここで、
●TIM厚み
●貼付位置
●圧力
●材料ロット
●温度
●湿度 が変動する。
すると、試作時の熱性能を再現できないことがある。
つまり3D実装の熱対策では、最高性能より、
量産時に同じ性能を出し続けることが重要になる。
■熱設計の評価指標も変わる
材料単体では、
熱伝導率が高い。
熱抵抗が低い。
という評価をする。
しかし実際の3D実装では、
●加工後
●積層後
●貼付後
●熱サイクル後 の性能を見る必要がある。
つまり、材料性能から、
実装状態での性能へ評価軸を変える必要がある。
これは今後の熱対策で非常に重要な考え方である。
■研究者視点 : 3D実装の熱問題は「材料」ではなく「熱経路」の問題
高熱伝導率材料を使えば冷える。
そう単純ではない。
3D実装では、
チップ内部
↓
接合層
↓
TIM
↓
熱拡散層
↓
冷却部材
という複数の熱抵抗が存在する。
さらに熱は、
Z方向。
XY方向。
複数方向へ流れる。
したがって、一番高性能な材料を選ぶよりも、
熱源から排熱先まで、最も抵抗の小さい経路を作ることが重要になる。
■現場視点 : 3D実装では「0.1mm」が製品性能になる
材料メーカーのカタログ値は同じ。
TIMも同じ。
グラファイトも同じ。
しかし、
貼付位置。
厚み。
気泡。
反り。
バリ。
圧力。
が違えば、熱性能は変わる。
つまり3D実装では、
材料スペックと加工品質を切り離せない。
高性能材料を買えば熱問題が解決するのではない。
高性能材料を、設計通りの状態で量産し続けて初めて性能になる。
■設計時に確認すべきこと
3D実装の熱対策では、少なくとも次を確認する必要がある。
熱源
●どのチップが発熱するか
●発熱量はいくらか
●ホットスポットはどこか
●同時に発熱するか
熱経路
●Z方向へ逃がすのか
●XY方向へ広げるのか
●最終的にどこへ熱を捨てるのか
●熱経路にボトルネックはないか
界面
●TIM厚みは適切か
●接触圧力は適切か
●気泡はないか
●反りを吸収できるか
●接触面積を確保できるか
絶縁
●どこに絶縁が必要か
●絶縁厚みは適切か
●バリや異物の影響はないか
●熱抵抗を増やしすぎていないか
加工
●必要寸法精度は何mmか
●積層精度は十分か
●バリ管理はできるか
●薄膜材料を安定搬送できるか
量産
●自動貼付できるか
●リール供給できるか
●検査できるか
●試作性能を量産で再現できるか
つまり3D実装の熱対策は、熱設計だけでは完成しない。
材料。
加工。
実装。
設備。
検査。
量産。
すべてがつながって初めて成立する。
■OTIS視点 : ここは「熱の最後の1mm」が最も重要になる領域の一つ
3D半導体そのものを設計することは、OTISの仕事ではない。
GPUを設計することでもない。
HBMを製造することでもない。
冷却装置そのものを開発することでもない。
しかし3D実装では、
高性能な半導体と、
高性能な冷却装置の間に、
数十μmから数mmの機能部材が存在する。
TIM。
グラファイト。
銅箔。
アルミ箔。
絶縁フィルム。
粘着材。
シール材。
これらが、熱の最後の1mmを作っている。
■OTISが狙うべき場所
OTISが狙うべきなのは、半導体そのものではない。
冷却装置そのものでもない。
その間にある、「熱をつなぐ部材」である。
例えば、
チップ
↓
薄型TIM
↓
グラファイト
→→→ 筐体
あるいは、
チップ
↓
TIM
↓
ベイパーチャンバー
あるいは、
チップ
↓
TIM
↓
コールドプレート である。
この間には必ず、
●接触
●絶縁
●固定
●位置
●厚み
という問題が発生する。
ここは精密加工技術が価値を出せる領域である。
■OTISでできること
OTISでは、
●薄型TIM加工
●放熱シート加工
●グラファイト加工
●銅箔加工
●アルミ箔加工
●絶縁フィルム加工
●熱伝導性粘着材加工
●EMI材加工
●高精度打ち抜き
●微細加工
●高精度ラミネート
●異種材料積層
●部分ラミネート
●ハーフカット
●リール・ツー・リール加工
●自動貼付向け供給形態
●複合機能部材化
などによって、
熱対策材料を、3D実装の量産工程で使える部品へ変える ことに貢献できる。
■材料メーカーとOTISの役割は違う
材料メーカーは、
高熱伝導TIM。
高性能グラファイト。
絶縁フィルム。
熱伝導性粘着材。を開発する。
OTISは、その材料を、
必要な形にする。
必要な厚みに組み合わせる。
必要な位置へ積層する。
自動で供給できる形にする。
つまり、材料性能を、量産性能へ変える。
ここにOTISの役割がある。
■OTISの専門外
OTISは、
●GPU設計
●HBM設計
●半導体プロセス開発
●TSV設計
●3Dパッケージそのものの設計
●コールドプレート流路設計
●液冷システム設計
●ベイパーチャンバー本体設計
●CFD専業解析
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、
●半導体メーカー
●材料メーカー
●パッケージメーカー
●冷却装置メーカー
●設備メーカー との協業が必要になる。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AI半導体
★★★★★ GPU・アクセラレーター
★★★★★ HBM・先端メモリ
★★★★★ 2.5D・3Dパッケージ
★★★★★ AIサーバー
★★★★☆ 通信半導体
★★★★☆ 車載高性能コンピューティング
★★★★☆ ロボット・エッジAI
■まとめ
半導体を積み上げるほど、熱の出口は遠くなる
3D実装は、
チップ同士を近づける。
配線を短くする。
データを高速化する。
半導体性能を高める。
非常に重要な技術である。
しかし、
電気的には近づけたい。
熱的には離したい。
という大きな矛盾が生まれる。
チップを積み上げるほど、
熱源は密集する。
界面は増える。
内部の熱は外へ出にくくなる。
だから3D実装では、Z方向へ熱を逃がすだけでは足りない。
XY方向へ熱を広げる。
熱源の近くで熱を回収する。
液冷を近づける。
界面の熱抵抗を減らす。
といった複数の方法を組み合わせる必要がある。
そして、そのすべての間に存在するのが、
TIM。
グラファイト。
金属箔。
絶縁フィルム。
粘着材。
シール材。
といった薄い機能部材である。
半導体が高度になるほど、こうした部材は目立たなくなる。
しかし、
目立たない部材ほど、熱の通り道を左右する。
3D実装時代に求められるのは、
「最も熱伝導率の高い材料」だけではない。
高性能材料を、狙った形状・厚み・位置で組み込み、量産しても同じ熱経路を作り続ける技術である。
半導体の性能が上がれば上がるほど、
最後に残るのは、熱をどうやって外へ出すのか。
そして、その出口を成立させるのは、熱の最後の1mmなのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

