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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか 8-4. 医療機器の熱問題 ― 冷やすことより、「安全に触れ続けられる温度」を作ることが重要になる ―

材料・加工技術

公開日:
8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか 8-4. 医療機器の熱問題 ― 冷やすことより、「安全に触れ続けられる温度」を作ることが重要になる ―

医療機器の熱問題は、AIサーバーやEVとは少し性格が違う。
もちろん、
• 半導体
• モーター
• バッテリー
• 電源
• センサー などから熱は発生する。
しかし医療機器では、人体の近くで使うという大きな特徴がある。
そのため、
「部品が壊れない温度」だけでは足りない。
患者や医療従事者が、安全に触れ続けられる温度まで考える必要がある。
つまり医療機器の熱対策では、
冷却性能だけでなく、安全性・装着性・快適性が重要になる。

■医療機器では何が熱を出すのか

医療機器には、

●演算用IC

●通信IC

●バッテリー

●モーター

●LED

●レーザー

●電源回路

●センサー

など、多くの発熱源がある。

 

特に近年は、

●小型化

●無線化

●高性能化

●バッテリー駆動

が進んでいる。

その結果、

小さな筐体に発熱部品が集まりやすくなっている。

■人体に近いほど温度制約は厳しくなる

例えば大型の据え置き医療装置であれば、内部温度が多少上がっても、人が直接触れない部分であれば対応しやすい。

一方、

●ウェアラブルセンサー

●生体モニター

●装着型医療機器

●患者用ベルト

●パッチ型デバイス

では、機器が長時間人体へ接触する。

この場合、電子部品として安全な温度でも、人には熱い可能性がある。

 

つまり医療機器では、表面温度そのものが重要になる。

■局所的な熱さが問題になる

機器全体の平均温度が低くても、一部分だけ高温になることがある。

例えば、

●バッテリー直上

●通信IC直上

●充電回路付近

●演算IC付近 である。

人が触れる面でホットスポットができれば、

不快感。

低温やけど。

装着継続率低下。

につながる可能性がある。

 

そのため医療・ウェアラブル機器では、

熱を一点に集中させない

ことが重要になる。

■「冷やす」より「広げる」が有効な場合がある

小型ウェアラブル機器では、大型ファンやヒートシンクを使うことは難しい。

そこで、

局所熱を広い範囲へ分散する

考え方が重要になる。

例えば、

発熱IC
 ↓
TIM
 ↓
グラファイト
→→→ 筐体全体へ熱を拡散  という構造である。

一部分だけ熱くなることを避け、表面温度を均一化する。

 

つまり医療機器では、最低温度を目指すよりも、

熱さを感じる場所を作らないことが重要な場合がある。

■人体へ熱を逃がせばよいわけではない

人体は大きな熱容量を持つため、

「人体へ熱を逃がせばよい」

と考えたくなる。

しかし人体へ接触している部分へ熱を集中させれば、患者に不快感や熱刺激を与える。

つまり人体は、冷却装置ではない。

人体側へどこまで熱を流してよいかを考える必要がある。

そのため、

●熱を広げる場所

●断熱する場所

●人体から離す場所 を設計する。

■熱を通す場所と、止める場所を分ける

ウェアラブル機器では、

発熱部品側には熱を逃がしたい。

しかし人体側には熱を伝えすぎたくない。

この場合、

機器内部では放熱

しながら、

人体側では断熱

するという考え方がある。

 

例えば、

発熱部
 ↓
熱拡散材
→ 筐体側

 

人体側
 ↓
断熱材

というように、熱の方向を制御する。

 

つまり医療機器でも、熱を最大限逃がすではなく、

どこへ逃がすかが重要になる。

■バッテリーも重要な熱源になる

ウェアラブル医療機器では、バッテリー駆動が多い。

充電中。

高負荷通信。

連続測定。

これらによってバッテリー温度が上がることがある。

 

さらに小型機器では、バッテリーと皮膚の距離が近い。

そのため、

●バッテリー位置

●断熱

●熱拡散

●筐体構造

を考える必要がある。

■センサーは温度の影響も受ける

医療機器には、

●温度センサー

●光学センサー

●圧力センサー

●生体電極

などが使われる。

機器自身が発熱すると、測定対象ではなく、機器の熱を測ってしまう可能性がある。

例えば皮膚温度を測りたいのに、内部ICの熱がセンサーへ伝われば、測定値が変わる。

 

つまり熱問題は、

装置保護だけでなく、測定精度にも影響する。

■センサーを熱源から離すだけでは解決しない場合もある

センサー位置を熱源から離せば、影響を減らせる。

しかし小型機器ではスペースが限られている。

そこで、

●熱遮蔽

●断熱

●熱拡散

●配置設計

を組み合わせる。

 

つまり、センサー周辺の温度環境を作ることが重要になる。

■医療機器では絶縁も非常に重要になる

人体へ接触する機器では、電気的安全性が重要である。

そのため、

●絶縁フィルム

●絶縁シート

●絶縁粘着材

などが使われる。

しかし絶縁材を追加すれば、

熱が逃げにくくなる場合がある。

 

つまり、

電気は止めたい。

題が生まれる。

■薄型化すると熱と絶縁の両立が難しくなる

ウェアラブル機器では、

薄い。

軽い。

柔らかい。

ことが求められる。

そのため絶縁フィルムも薄くしたい。

しかし薄くなるほど、

●傷

●バリ

●異物

●ピンホール

の影響が大きくなる。

つまり、

薄膜化と、安全性の両立が重要になる。

■粘着材は医療機器で非常に重要になる

装着型医療機器では、

機器を皮膚やベルトへ固定する。

センサーを固定する。

内部部材を固定する。

そのため粘着材が多く使われる。

しかし粘着材には、

●固定力

●柔軟性

●皮膚追従性

●長時間安定性

が求められる。

 

さらに熱が加わると、

●柔らかくなる

●ずれる

●剥がれやすくなる

可能性がある。

つまり、熱と粘着も切り離せない。

■装着性と熱対策はつながっている

患者が長時間装着する機器では、

熱い。

硬い。

蒸れる。

重い。

こうした不快感があると、患者が外してしまう可能性がある。

 

つまり、

医療機器は性能が良くても、装着されなければ意味がない。

そのため熱対策は、装着継続率にも関係する。

これは一般的な産業機器とは異なる特徴である。

■柔らかい材料は熱設計を難しくする

人体へ沿わせるために、

●発泡体

●エラストマー

●柔軟フィルム

などが使われる。

しかし柔らかい材料は、一般に金属より熱を伝えにくいものが多い。

つまり、

柔らかくしたいと、

熱を逃がしたいが衝突することがある。

ここでは材料選定だけでなく、

●部分的な熱拡散材

●薄い金属箔

●グラファイト

などを組み合わせることが考えられる。

■防水・防汗も必要になる

人体へ装着する機器は、

●汗

●水分

●洗浄

●消毒

の影響を受ける。

 

そのため、

●防水

●シール

●耐薬品性

が必要になる。

しかし密閉すると、熱が逃げにくくなる。

ここでも、防水と放熱の両立が必要になる。

■シール材も熱の流れを変える

ガスケットやシール材を追加すれば、防水性は高まる。

しかし厚いシール材が熱経路へ入れば、熱抵抗になる場合がある。

つまり、防水設計も熱設計の一部になる。

■医療機器では清潔性も重要になる

機器表面や部材に、

●粉

●カス

●粘着材のはみ出し

があると、衛生性や品質へ影響する可能性がある。

そのため加工部材には、発塵しにくさや、安定した端面品質も求められる。

■小型部材では位置ズレの影響が大きい

ウェアラブルセンサーでは、部材が小さい。

そのため0.5mmの位置ズレでも、部材サイズに対する割合は大きくなる。

 

例えば、

絶縁材。

放熱材。

粘着材。

がずれると、

●センサー位置

●熱経路

●装着感 へ影響する可能性がある。

つまり、小型化するほど加工精度の意味が大きくなる。

■自動化供給との相性も重要になる

医療機器が大量生産される場合、

小型フィルム部材を一枚ずつ手貼りする工程には限界がある。

そこで、

●リール供給

●自動剥離

●自動貼付 が重要になる。

特に小型部材では、バラ品よりリール供給 の方が、自動化へつなげやすい場合がある。

■複数機能を一体化する

例えば、

絶縁フィルム。

熱拡散材。

粘着材。

を別々に貼るとする。

これをあらかじめ積層すれば、一回の貼付で複数機能を持たせることができる。

顧客工程を減らせる可能性がある。

医療機器の小型化が進むほど、一体化部材の価値は高くなる。

■ただし一体化しすぎると柔軟性が失われる

金属箔。

グラファイト。

絶縁フィルム。

粘着材。

を積層すると、部材が硬くなる場合がある。

人体へ沿わせたい機器では、

熱性能

だけでなく、

曲がりやすさ

も重要になる。

つまり一体化では、

●厚み

●硬さ

●曲げ性まで考える必要がある。

■研究者視点 : 医療機器では「最低温度」より「人体が感じる温度」を見る

電子機器では、部品温度を下げることに注目しやすい。

しかし人体へ装着する医療機器では、

●最高表面温度

●温度分布

●接触時間

●接触面積

も重要になる。

 

つまり、部品が何℃かだけでなく、

人体がどの温度を、どのくらいの時間感じるかを見る必要がある。

■現場視点 : 機器が動いていても、患者が外したら機能していない

医療機器が技術的に正常に動いている。

しかし、

熱い。

蒸れる。

違和感がある。

という理由で患者が外してしまえば、必要なデータを取得できない。

つまり医療機器では、熱対策は人間工学の一部でもある。

■設計時に確認すべきこと

医療機器の熱対策では、少なくとも次を確認する必要がある。

発熱

●何が熱を出すか

●最大負荷時に何℃になるか

●充電時はどうか

●長時間連続使用時はどうか

 

人体

●どこが人体へ接触するか

●表面温度は適切か

●局所ホットスポットはないか

●長時間装着しても問題ないか

 

熱経路

●熱をどこへ逃がすか

●人体側へ逃がしすぎていないか

●グラファイトや金属箔が必要か

●断熱すべき場所はどこか

 

絶縁

●人体と導電部の絶縁は十分か

●薄膜化しても安全か

●バリや異物の影響はないか

 

粘着・装着

●高温でずれないか

●長時間装着できるか

●柔軟性を維持できるか

●汗や水分の影響はないか

 

防水・清潔性

●シールは必要か

●密閉によって熱がこもらないか

●発塵やカスは問題ないか

 

量産

●微細加工できるか

●自動貼付できるか

●リール供給できるか

●複数部材を一体化できるか

つまり医療機器では、熱・絶縁・粘着・防水・装着性を同時に考える必要がある。

■OTIS視点

OTISは、医療機器そのものを設計する会社ではない。

センサーそのもの。

医療診断アルゴリズム。

医療機器制御ソフト。

を開発する会社でもない。

 

しかし医療・ウェアラブル機器には、

●薄膜絶縁材

●放熱シート

●グラファイト

●金属箔

●発泡体

●粘着材

●シール材

●センサー固定部材

など、多くの薄い機能部材が使われる。

 

特に、

熱+絶縁

熱+粘着

熱+柔軟性

防水+薄膜

という複合課題は、OTISとの接点がある。

■OTISでできること

OTISでは、

●TIM・放熱シート加工

●グラファイト加工

●銅箔・アルミ箔加工

●絶縁フィルム加工

●発泡体加工

●粘着材加工

●シール材加工

●高精度打ち抜き

●微細加工

●高精度ラミネート

●異種材料積層

●部分ラミネート

●リール・ツー・リール加工

●自動貼付向け供給形態

●複数機能部材の一体化

などを通じて、

医療機器に使われる薄膜機能材料を、量産で使える形へ加工する ことに貢献できる。

■OTISの専門外

OTISは、

●医療機器そのものの設計

●医療診断技術

●生体センサーそのものの開発

●医療用ソフトウェア

●医療機器全体の熱設計

を専門とする会社ではない。

必要に応じて、材料メーカー、医療機器メーカー、センサーメーカーとの連携が必要になる。

■この技術が重要になる市場

★★★★★ ウェアラブル医療機器

★★★★★ 生体センサー

★★★★☆ 患者モニタリング機器

★★★★☆ 携帯型医療機器

★★★★☆ リハビリ・介護機器

★★★★☆ 医療用ロボット

★★★☆☆ 据え置き型診断装置

■まとめ

医療機器の熱対策は、「冷やす」より「安心して触れ続けられる温度」を作る

医療機器では、

半導体。

バッテリー。

通信IC。

センサー。

などから熱が発生する。

しかし人体へ接触する機器では、部品が壊れない温度だけでは足りない。

熱いと感じない。

局所的に高温にならない。

測定精度を乱さない。

絶縁を維持する。

防水する。

長時間装着できる。

これらを同時に成立させる必要がある。

だから医療機器の熱対策は、最高の放熱性能を目指す技術ではない。

人体・センサー・電子部品の間で、熱を適切な場所へ導く技術なのである。

そしてOTISが狙うべきなのは、医療機器そのものではない。

その中にある、熱・絶縁・粘着・薄膜・柔軟性・供給形態という共通課題である。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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