■医療機器では何が熱を出すのか
医療機器には、
●演算用IC
●通信IC
●バッテリー
●モーター
●LED
●レーザー
●電源回路
●センサー
など、多くの発熱源がある。
特に近年は、
●小型化
●無線化
●高性能化
●バッテリー駆動
が進んでいる。
その結果、
小さな筐体に発熱部品が集まりやすくなっている。
■人体に近いほど温度制約は厳しくなる
例えば大型の据え置き医療装置であれば、内部温度が多少上がっても、人が直接触れない部分であれば対応しやすい。
一方、
●ウェアラブルセンサー
●生体モニター
●装着型医療機器
●患者用ベルト
●パッチ型デバイス
では、機器が長時間人体へ接触する。
この場合、電子部品として安全な温度でも、人には熱い可能性がある。
つまり医療機器では、表面温度そのものが重要になる。
■局所的な熱さが問題になる
機器全体の平均温度が低くても、一部分だけ高温になることがある。
例えば、
●バッテリー直上
●通信IC直上
●充電回路付近
●演算IC付近 である。
人が触れる面でホットスポットができれば、
不快感。
低温やけど。
装着継続率低下。
につながる可能性がある。
そのため医療・ウェアラブル機器では、
熱を一点に集中させない
ことが重要になる。
■「冷やす」より「広げる」が有効な場合がある
小型ウェアラブル機器では、大型ファンやヒートシンクを使うことは難しい。
そこで、
局所熱を広い範囲へ分散する
考え方が重要になる。
例えば、
発熱IC
↓
TIM
↓
グラファイト
→→→ 筐体全体へ熱を拡散 という構造である。
一部分だけ熱くなることを避け、表面温度を均一化する。
つまり医療機器では、最低温度を目指すよりも、
熱さを感じる場所を作らないことが重要な場合がある。
■人体へ熱を逃がせばよいわけではない
人体は大きな熱容量を持つため、
「人体へ熱を逃がせばよい」
と考えたくなる。
しかし人体へ接触している部分へ熱を集中させれば、患者に不快感や熱刺激を与える。
つまり人体は、冷却装置ではない。
人体側へどこまで熱を流してよいかを考える必要がある。
そのため、
●熱を広げる場所
●断熱する場所
●人体から離す場所 を設計する。
■熱を通す場所と、止める場所を分ける
ウェアラブル機器では、
発熱部品側には熱を逃がしたい。
しかし人体側には熱を伝えすぎたくない。
この場合、
機器内部では放熱
しながら、
人体側では断熱
するという考え方がある。
例えば、
発熱部
↓
熱拡散材
→ 筐体側
人体側
↓
断熱材
というように、熱の方向を制御する。
つまり医療機器でも、熱を最大限逃がすではなく、
どこへ逃がすかが重要になる。
■バッテリーも重要な熱源になる
ウェアラブル医療機器では、バッテリー駆動が多い。
充電中。
高負荷通信。
連続測定。
これらによってバッテリー温度が上がることがある。
さらに小型機器では、バッテリーと皮膚の距離が近い。
そのため、
●バッテリー位置
●断熱
●熱拡散
●筐体構造
を考える必要がある。
■センサーは温度の影響も受ける
医療機器には、
●温度センサー
●光学センサー
●圧力センサー
●生体電極
などが使われる。
機器自身が発熱すると、測定対象ではなく、機器の熱を測ってしまう可能性がある。
例えば皮膚温度を測りたいのに、内部ICの熱がセンサーへ伝われば、測定値が変わる。
つまり熱問題は、
装置保護だけでなく、測定精度にも影響する。
■センサーを熱源から離すだけでは解決しない場合もある
センサー位置を熱源から離せば、影響を減らせる。
しかし小型機器ではスペースが限られている。
そこで、
●熱遮蔽
●断熱
●熱拡散
●配置設計
を組み合わせる。
つまり、センサー周辺の温度環境を作ることが重要になる。
■医療機器では絶縁も非常に重要になる
人体へ接触する機器では、電気的安全性が重要である。
そのため、
●絶縁フィルム
●絶縁シート
●絶縁粘着材
などが使われる。
しかし絶縁材を追加すれば、
熱が逃げにくくなる場合がある。
つまり、
電気は止めたい。
題が生まれる。
■薄型化すると熱と絶縁の両立が難しくなる
ウェアラブル機器では、
薄い。
軽い。
柔らかい。
ことが求められる。
そのため絶縁フィルムも薄くしたい。
しかし薄くなるほど、
●傷
●バリ
●異物
●ピンホール
の影響が大きくなる。
つまり、
薄膜化と、安全性の両立が重要になる。
■粘着材は医療機器で非常に重要になる
装着型医療機器では、
機器を皮膚やベルトへ固定する。
センサーを固定する。
内部部材を固定する。
そのため粘着材が多く使われる。
しかし粘着材には、
●固定力
●柔軟性
●皮膚追従性
●長時間安定性
が求められる。
さらに熱が加わると、
●柔らかくなる
●ずれる
●剥がれやすくなる
可能性がある。
つまり、熱と粘着も切り離せない。
■装着性と熱対策はつながっている
患者が長時間装着する機器では、
熱い。
硬い。
蒸れる。
重い。
こうした不快感があると、患者が外してしまう可能性がある。
つまり、
医療機器は性能が良くても、装着されなければ意味がない。
そのため熱対策は、装着継続率にも関係する。
これは一般的な産業機器とは異なる特徴である。
■柔らかい材料は熱設計を難しくする
人体へ沿わせるために、
●発泡体
●エラストマー
●柔軟フィルム
などが使われる。
しかし柔らかい材料は、一般に金属より熱を伝えにくいものが多い。
つまり、
柔らかくしたいと、
熱を逃がしたいが衝突することがある。
ここでは材料選定だけでなく、
●部分的な熱拡散材
●薄い金属箔
●グラファイト
などを組み合わせることが考えられる。
■防水・防汗も必要になる
人体へ装着する機器は、
●汗
●水分
●洗浄
●消毒
の影響を受ける。
そのため、
●防水
●シール
●耐薬品性
が必要になる。
しかし密閉すると、熱が逃げにくくなる。
ここでも、防水と放熱の両立が必要になる。
■シール材も熱の流れを変える
ガスケットやシール材を追加すれば、防水性は高まる。
しかし厚いシール材が熱経路へ入れば、熱抵抗になる場合がある。
つまり、防水設計も熱設計の一部になる。
■医療機器では清潔性も重要になる
機器表面や部材に、
●粉
●カス
●粘着材のはみ出し
があると、衛生性や品質へ影響する可能性がある。
そのため加工部材には、発塵しにくさや、安定した端面品質も求められる。
■小型部材では位置ズレの影響が大きい
ウェアラブルセンサーでは、部材が小さい。
そのため0.5mmの位置ズレでも、部材サイズに対する割合は大きくなる。
例えば、
絶縁材。
放熱材。
粘着材。
がずれると、
●センサー位置
●熱経路
●装着感 へ影響する可能性がある。
つまり、小型化するほど加工精度の意味が大きくなる。
■自動化供給との相性も重要になる
医療機器が大量生産される場合、
小型フィルム部材を一枚ずつ手貼りする工程には限界がある。
そこで、
●リール供給
●自動剥離
●自動貼付 が重要になる。
特に小型部材では、バラ品よりリール供給 の方が、自動化へつなげやすい場合がある。
■複数機能を一体化する
例えば、
絶縁フィルム。
熱拡散材。
粘着材。
を別々に貼るとする。
これをあらかじめ積層すれば、一回の貼付で複数機能を持たせることができる。
顧客工程を減らせる可能性がある。
医療機器の小型化が進むほど、一体化部材の価値は高くなる。
■ただし一体化しすぎると柔軟性が失われる
金属箔。
グラファイト。
絶縁フィルム。
粘着材。
を積層すると、部材が硬くなる場合がある。
人体へ沿わせたい機器では、
熱性能
だけでなく、
曲がりやすさ
も重要になる。
つまり一体化では、
●厚み
●硬さ
●曲げ性まで考える必要がある。
■研究者視点 : 医療機器では「最低温度」より「人体が感じる温度」を見る
電子機器では、部品温度を下げることに注目しやすい。
しかし人体へ装着する医療機器では、
●最高表面温度
●温度分布
●接触時間
●接触面積
も重要になる。
つまり、部品が何℃かだけでなく、
人体がどの温度を、どのくらいの時間感じるかを見る必要がある。
■現場視点 : 機器が動いていても、患者が外したら機能していない
医療機器が技術的に正常に動いている。
しかし、
熱い。
蒸れる。
違和感がある。
という理由で患者が外してしまえば、必要なデータを取得できない。
つまり医療機器では、熱対策は人間工学の一部でもある。
■設計時に確認すべきこと
医療機器の熱対策では、少なくとも次を確認する必要がある。
発熱
●何が熱を出すか
●最大負荷時に何℃になるか
●充電時はどうか
●長時間連続使用時はどうか
人体
●どこが人体へ接触するか
●表面温度は適切か
●局所ホットスポットはないか
●長時間装着しても問題ないか
熱経路
●熱をどこへ逃がすか
●人体側へ逃がしすぎていないか
●グラファイトや金属箔が必要か
●断熱すべき場所はどこか
絶縁
●人体と導電部の絶縁は十分か
●薄膜化しても安全か
●バリや異物の影響はないか
粘着・装着
●高温でずれないか
●長時間装着できるか
●柔軟性を維持できるか
●汗や水分の影響はないか
防水・清潔性
●シールは必要か
●密閉によって熱がこもらないか
●発塵やカスは問題ないか
量産
●微細加工できるか
●自動貼付できるか
●リール供給できるか
●複数部材を一体化できるか
つまり医療機器では、熱・絶縁・粘着・防水・装着性を同時に考える必要がある。
■OTIS視点
OTISは、医療機器そのものを設計する会社ではない。
センサーそのもの。
医療診断アルゴリズム。
医療機器制御ソフト。
を開発する会社でもない。
しかし医療・ウェアラブル機器には、
●薄膜絶縁材
●放熱シート
●グラファイト
●金属箔
●発泡体
●粘着材
●シール材
●センサー固定部材
など、多くの薄い機能部材が使われる。
特に、
熱+絶縁
熱+粘着
熱+柔軟性
防水+薄膜
という複合課題は、OTISとの接点がある。
■OTISでできること
OTISでは、
●TIM・放熱シート加工
●グラファイト加工
●銅箔・アルミ箔加工
●絶縁フィルム加工
●発泡体加工
●粘着材加工
●シール材加工
●高精度打ち抜き
●微細加工
●高精度ラミネート
●異種材料積層
●部分ラミネート
●リール・ツー・リール加工
●自動貼付向け供給形態
●複数機能部材の一体化
などを通じて、
医療機器に使われる薄膜機能材料を、量産で使える形へ加工する ことに貢献できる。
■OTISの専門外
OTISは、
●医療機器そのものの設計
●医療診断技術
●生体センサーそのものの開発
●医療用ソフトウェア
●医療機器全体の熱設計
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、材料メーカー、医療機器メーカー、センサーメーカーとの連携が必要になる。
■この技術が重要になる市場
★★★★★ ウェアラブル医療機器
★★★★★ 生体センサー
★★★★☆ 患者モニタリング機器
★★★★☆ 携帯型医療機器
★★★★☆ リハビリ・介護機器
★★★★☆ 医療用ロボット
★★★☆☆ 据え置き型診断装置
■まとめ
医療機器の熱対策は、「冷やす」より「安心して触れ続けられる温度」を作る
医療機器では、
半導体。
バッテリー。
通信IC。
センサー。
などから熱が発生する。
しかし人体へ接触する機器では、部品が壊れない温度だけでは足りない。
熱いと感じない。
局所的に高温にならない。
測定精度を乱さない。
絶縁を維持する。
防水する。
長時間装着できる。
これらを同時に成立させる必要がある。
だから医療機器の熱対策は、最高の放熱性能を目指す技術ではない。
人体・センサー・電子部品の間で、熱を適切な場所へ導く技術なのである。
そしてOTISが狙うべきなのは、医療機器そのものではない。
その中にある、熱・絶縁・粘着・薄膜・柔軟性・供給形態という共通課題である。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


