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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか
8-3. EV・次世代電池の熱問題(中編) ― 電池は「冷やせばよい」のではない。温度をそろえ、安全に使い続けることが重要になる ―

材料・加工技術

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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか<br>8-3. EV・次世代電池の熱問題(中編) ― 電池は「冷やせばよい」のではない。温度をそろえ、安全に使い続けることが重要になる ―

前編では、電池がなぜ熱を出すのか、そしてセル間の温度差や熱伝導材の界面問題が、いかに電池性能と寿命を左右するかを見てきた。

しかし電池の熱設計は、「冷やす」ことだけでは完成しない。
バッテリーパック内部には高い電圧が存在し、熱は通したいが電気は絶対に通したくないという、強い絶縁要求がある。

さらに電池には、通常時と異常時で正反対の要求が同時に存在する。
通常時は熱を効率よく逃がしたい。
しかし一つのセルで異常発熱が起きた場合には、その熱を隣のセルへ広げたくない。
この矛盾にどう向き合うかが、電池の安全設計の核心になる。

中編では、絶縁、難燃性、熱暴走対策、液冷のシール、粘着材、そしてBMSによる制御まで、電池を安全に使い続けるための仕組みを見ていく。

■EV電池では絶縁が極めて重要になる

バッテリーパックには高い電圧が存在する。

セル。

バスバー。

冷却プレート。

金属ケース。

これらの間で、不要な電気的接触を防ぐ必要がある。

そのため、

●絶縁フィルム

●絶縁シート

●絶縁コーティング

●絶縁性粘着材

などが使われる。

つまりEV電池では、

熱を通したい。

電気は絶対に通したくない。

という要求が非常に強い。

■冷却プレートは金属であることが多い

冷却プレートには、熱伝導性や軽量性から金属が使われる場合がある。

セルや電極部材の近くに金属があるため、

絶縁不良

が安全上の大きな問題になる。

絶縁フィルムが破れる。

金属バリが突き抜ける。

位置ズレで金属が露出する。

異物が入る。

こうした小さな不良が、大きなリスクへつながる可能性がある。

■絶縁材は薄くしたい。しかし薄すぎても危険

絶縁フィルムを薄くすれば、

●軽量化

●省スペース

●熱抵抗低減

に有利になる。

しかし薄くなるほど、

●ピンホール

●傷

●異物

●バリ

の影響を受けやすくなる。

つまり、

熱的には薄くしたい。

電気的には余裕が欲しい。

という矛盾がある。

EV電池では、このバランスが重要になる。

■バリが絶縁フィルムを壊す可能性がある

銅箔。

アルミ箔。

バスバー。

金属ケース。

電池周辺には多数の金属部材がある。

端面に鋭いバリがあれば、

薄い絶縁フィルムへ局所的な圧力を加える。

振動。

温度サイクル。

長期使用。

によって絶縁材を損傷する可能性がある。

つまり、金属加工の端面品質も電池安全性に関係する。

■難燃性も重要になる

電池では異常が発生した場合、

大きな熱が発生する可能性がある。

そのため周辺材料には、

●難燃性

●耐熱性

●延焼抑制

が求められる。

しかし難燃性を高めるために材料を厚くしたり、別の層を追加したりすると、

熱抵抗や重量が増えることがある。

ここでも、

通常時には熱を逃がしたい。

異常時には熱を広げたくない。

という矛盾が生じる。

■通常時の放熱と異常時の熱遮断は違う

通常運転では、

セルから冷却プレートへ熱を効率よく逃がしたい。

しかし一つのセルで異常発熱が起きた場合、

隣のセルへ熱を伝えたくない。

つまり同じバッテリーパックの中で、

通常時
= 熱を逃がす

異常時
= 熱を遮る

という異なる要求が存在する。

ここが電池熱設計の非常に難しいところである。

■熱暴走とは何か

電池内部で異常な温度上昇が起こり、

内部反応がさらに発熱を増やし、

温度上昇が加速する状態がある。

このような熱暴走が起こると、

一つのセルの異常が周辺セルへ広がる可能性がある。

そのため電池パックでは、一つの異常をパック全体へ拡大させないことが重要になる。

■セル間に熱遮蔽材を入れる

熱暴走の伝播を抑えるため、

セル間へ、

●断熱材

●耐熱材

●難燃材

●エアロゲル系材料

などを配置することが考えられる。

これによって、異常セルから隣接セルへの熱伝達を遅らせる。

しかし断熱材は通常時の熱移動も妨げる。

つまり、通常冷却性能と、異常時安全性の両立が必要になる。

■「熱を通す材料」と「熱を止める材料」が同じパックに入る

EVバッテリーパックには、

熱伝導材。

断熱材。

絶縁材。

粘着材。

シール材。

緩衝材。

が同時に存在する。

つまり、

放熱材料だけを考えても、電池熱対策は完成しない。

どこで熱を通すか。

どこで熱を止めるか。

どこを絶縁するか。

どこを固定するか。

を組み合わせる必要がある。

■液冷ではシールも重要になる

冷却プレート内部には冷却液が流れる。

配管。

継手。

接合部。

これらから液体が漏れれば、大きな問題になる。

そのため、

●Oリング

●ガスケット

●シール材

などが重要になる。

EVでは、振動しながら、長期間、温度変化を受けても漏れない必要がある。

データセンターの液冷とは、使用環境が大きく異なる。

■車は常に振動している

バッテリーパックは、道路からの振動や衝撃を受ける。

さらに、

冬。

夏。

充電。

走行。

駐車。

によって温度も変化する。

つまりシール材や粘着材は、

振動+温度サイクル

を長期間受ける。

初期に漏れないだけでは不十分である。

■冷却液と材料の相性も重要になる

冷却液が、

●シール材

●ゴム

●樹脂

●粘着材

へ長期間接触する場合、

膨潤。

硬化。

劣化。

が起こる可能性がある。

そのため液冷電池では、熱性能だけでなく、冷却液との材料適合性も重要になる。

■防水・防塵も必要になる

バッテリーパックは車両の下部に配置されることが多い。

そのため、

●水

●泥

●塩分

●ホコリ

などから内部を守る必要がある。

つまりパック外周には、シールが必要になる。

しかしシール材の厚みや圧縮状態が安定しなければ、防水性を維持できない。

■ガスケットは形状精度が重要になる

大きなバッテリーケースでは、外周シールも長くなる。

シールラインが長いほど、

一か所の、

●欠け

●厚み不足

●位置ズレ

●異物

でも漏れにつながる可能性がある。

つまり大面積ガスケットでは、全周を安定した形状・厚みで作ることが重要になる。

■粘着材は電池内部のあらゆる場所に使われる

EV電池では、

●絶縁フィルム固定

●セル固定

●緩衝材固定

●センサー固定

●熱伝導材固定

●ケーブル固定

などに粘着材が使われる可能性がある。

しかし粘着材は温度によって性質が変化する。

高温で柔らかくなる。

低温で硬くなる。

長期間でクリープする。

そのため、貼れればよいではなく、車両寿命の間、必要な位置へ残り続けることが重要になる。

■粘着層も熱抵抗になる

熱伝導材を冷却プレートへ固定するため、粘着材を使うとする。

粘着材は便利である。

しかし熱経路へ入れば、

粘着層も熱抵抗になる。

全面粘着するか。

部分粘着するか。

熱伝導性粘着材を使うか。

この選択によって熱性能も変わる。

つまり、固定方法そのものが熱設計になる。

■センサーも熱管理の重要部品になる

バッテリーでは、

●温度

●電圧

●電流

などを監視する。

温度センサーの位置が悪ければ、本当に高温になっている場所を検知できない可能性がある。

さらに、

センサーとセルの接触。

固定用粘着材。

絶縁フィルム。

によって測定応答も変わる。

つまり、温度センサーをどこへ、どう貼るかも熱設計である。

■BMSは熱を見ながら電池を使う

バッテリーマネジメントシステム、BMSは、

●セル電圧

●電流

●温度

などを監視する。

温度が高すぎれば、

充電出力を抑える。

放電出力を抑える。

冷却能力を上げる。

つまり、電池性能と熱管理は制御上もつながっている。

■AIによる温度予測も進む

将来的には、

●走行状態

●外気温

●充電予定

●セル劣化状態

などから、電池温度を予測し、

事前に冷却する。

事前に加温する。

といった制御も重要になる。

つまりEVの熱管理も、温度を見てから対応するから、

温度を予測して制御する方向へ進む。

■しかし制御でも物理的な接触不良は直せない

BMSが冷却を強くしても、

セルと冷却プレートの間の熱伝導材が浮いていれば、そのセルは冷えにくい。

つまりAI制御や高度なBMSがあっても、

物理的な熱経路

が正しくなければ意味がない。

ここでも加工精度が重要になる。

まとめ

絶縁フィルムの薄さと安全性のバランス。

金属バリが絶縁材を破損させるリスク。

通常時の放熱と、異常時の熱遮断という相反する要求。

液冷のシール性や、振動・温度サイクルを受け続ける粘着材の耐久性。

そしてセンサーとBMSによる温度監視、AIによる予測制御。

 

これらはすべて、電池を長期間、安全に使い続けるための仕組みである。

しかし、どれほど高度な制御技術があっても、熱伝導材が物理的に浮いていれば、そのセルは冷えない。

制御は、正しい熱経路があって初めて機能する。

 

後編では、こうした熱・絶縁・安全の要求を、実際にどう軽量に、そして大量に量産していくのか。

薄膜化や大面積加工、自動化という実務の視点、さらに次世代電池やESSといった応用領域、そしてOTISの役割を見ていく。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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