■EVの電池はなぜ熱を出すのか
リチウムイオン電池では、充電・放電するときに内部で電気化学反応が起きる。
さらに電流が流れることで、内部抵抗による発熱も生じる。
一般に、
●大きな電流を流す
●急速充電する
●高出力で放電する
●内部抵抗が増える
ほど、発熱が大きくなりやすい。
つまり、高性能な電池ほど、熱管理の重要性が高くなる。
■急速充電と熱問題
EVでは、
「充電時間を短くしたい」
という要求が非常に強い。
短時間で大量の電気を電池へ入れるためには、大きな電流を流す必要がある。
しかし電流が大きくなるほど発熱も増える。
急速充電性能を上げることと、発熱を抑えることは簡単には両立しない。
冷却能力が不足すれば、充電速度を下げる必要がある。
つまり、冷却性能が充電性能を制限する可能性がある。
■電池は高温だけが問題ではない
一般的な電子機器では、
高温になりすぎないこと
が主な課題になる。
しかし電池では低温も問題になる。
温度が低すぎると、
●内部抵抗が増える
●出力性能が低下する
●充電性能が低下する
場合がある。
つまり、
冷やしすぎてもよくない。
電池には、性能と安全性を両立しやすい温度範囲 があり、その範囲へ維持することが重要になる。
■電池では「平均温度」だけでは足りない
例えばバッテリーパック全体の平均温度が30℃だったとする。
しかし、
あるセルは25℃。
別のセルは40℃。
であれば問題になる。
セルごとに温度が違えば、
●内部抵抗
●充放電効率
●劣化速度
●容量
も違ってくる可能性がある。
すると時間が経つほど、セルごとの差が拡大する。
つまりEV電池では、全体を冷やすだけではなく、
すべてのセルをできるだけ同じ温度へそろえる ことが重要になる。
■温度差が寿命差になる
高温のセルは、低温のセルより劣化が早く進む場合がある。
すると、
同じバッテリーパックの中で、
元気なセル。
劣化したセル。
が混在する。
バッテリーパックは多数のセルを組み合わせて使うため、一部のセルだけ性能が落ちても、パック全体の性能へ影響する。
つまり、
一番悪いセルが、バッテリーパック全体を制限する
可能性がある。
そのため温度均一性は、電池寿命そのものに関係する。
■セルが増えるほど熱管理は難しくなる
EVのバッテリーパックには、多数のセルが使われる。
セル単体なら冷却しやすくても、
数百。
数千。
と配置すると、
●中央のセル
●外周のセル
●冷却プレート近くのセル
●冷却液入口側のセル
●出口側のセル で冷却条件が変わる。
つまり、 同じセルを並べれば、同じ温度になる わけではない。
パック全体の、
●配置
●冷却流路
●接触状態
●熱拡散
まで考える必要がある。
■EV電池の代表的な冷却方法
EVのバッテリーでは、
●空冷
●液冷
●冷却プレート
●冷媒直接冷却
などの方法が使われる。
現在、高出力・高容量化が進むほど、液冷の重要性が高くなる。
例えば、
セル
↓
熱伝導材
↓
冷却プレート
↓
冷却液
という構造である。
セルから発生した熱を熱伝導材で冷却プレートへ送り、内部を流れる冷却液が熱を持ち去る。
■冷却プレートが高性能でも、セルと接触していなければ冷えない
ここはAIサーバーと同じである。
高性能な冷却プレート。
十分な冷却液流量。
低い冷却液温度。
これらがあっても、
セルと冷却プレートの間に隙間があれば、
熱は十分に移動しない。
そのため、
●ギャップフィラー
●熱伝導シート
●熱伝導性接着材
●TIM
などが使われる。
つまり、EVの液冷でも「界面」が重要になる。
■電池では大面積の接触が必要になる
AI半導体では、小さな熱源へ高い熱流束が集中する。
一方、バッテリーでは、広い面積に多数の熱源が存在する という特徴がある。
そのため電池向け熱伝導材では、一部分だけ良好に接触するのではなく、
大きな面積をできるだけ均一に接触させる 必要がある。
ここがEV電池特有の難しさである。
■大面積では小さな厚み差が大きな問題になる
例えば幅500mmの冷却プレートへ、多数のセルを接触させる。
冷却プレート。
セル。
熱伝導材。
これらが完全な平面であるとは限らない。
一部に、
0.3mmの隙間。
別の場所に、
0.8mmの隙間。
があるかもしれない。
そのため、
全面を同じ厚みの硬い材料だけで接触させることが難しい場合がある。
そこで柔軟なギャップフィラーなどによって、寸法差や反りを吸収する。
■ギャップフィラーは厚ければ安心、ではない
柔らかい熱伝導材を厚くすれば、大きな隙間を埋められる。
しかし厚くなるほど、
熱が通る距離
も長くなる。
つまり、
厚い
→ 段差へ追従しやすい
→ しかし熱抵抗は増えやすい
薄い
→ 熱には有利
→ しかし段差を吸収できない という関係がある。
EV電池では、隙間を埋めるために必要な厚みと、
熱抵抗を下げるために薄くしたいという要求を両立させる必要がある。
■圧縮率も重要になる
発泡体や柔軟な熱伝導材は、組立時に圧縮される。
適切に圧縮すれば、
●表面へ追従する
●空気層を減らす
●接触面積を増やす
ことができる。
しかし圧縮不足なら、隙間が残る。
圧縮しすぎれば、
●セルへ過剰な力がかかる
●材料が横へはみ出す
●厚みが変わる
●長期復元性が低下する 可能性がある。
つまり電池向け熱伝導材では、熱伝導率だけでなく、圧縮特性が非常に重要になる。
■セルは充放電によって寸法が変わることがある
電池セルは、完全に寸法が一定とは限らない。
充電状態。
温度。
経年劣化。
によって、わずかに膨張することがある。
つまりバッテリーパック内部では、使用中に隙間そのものが変化する可能性がある。
そのため熱伝導材には、初期だけ接触するのではなく、
長期間、セルの寸法変化へ追従することが求められる。
■膨張を吸収する部材も必要になる
セル間には、
●発泡材
●緩衝材
●圧縮材
などを配置し、セル膨張や振動を吸収する場合がある。
しかしこうした材料を追加すれば、
●熱の流れ
●セル間距離
●パック重量 にも影響する。
つまり、緩衝と、放熱は別々の問題ではない。
まとめ
ここまで見てきたように、EV・次世代電池の熱問題は、「発熱部品を冷やす」だけでは終わらない。
急速充電と発熱はトレードオフの関係にあり、冷却能力が充電性能そのものを制限する可能性がある。
さらに電池では、平均温度が良好でも安心できない。
セルごとの温度差が寿命差を生み、一番悪いセルがパック全体の性能を制限してしまう。
そのため、冷却プレートがどれほど高性能でも、セルとの間に熱伝導材の浮きや隙間があれば熱は届かない。
大面積に広がる多数のセルを、均一に、かつ長期間にわたって接触させ続けること。
ここに、AIサーバーとは異なる電池特有の難しさがある。
中編では、この「冷やす」という課題の裏側にある、絶縁・難燃・安全という、電池ならではのもう一つの重要なテーマを見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

