■航空機では外気温が大きく変わる
航空機は地上から高高度まで移動する。
高度が変われば、外気温や気圧も変化する。
地上では暑い。
高高度では非常に低温になる。
しかし機体内部では、
● 電子機器
● モーター
● 電源
● バッテリー
● 通信装置
が発熱する。
つまり、
外は非常に冷たい。
内部では熱が出る。
という状況が同時に存在する。
■冷たい外気があれば簡単に冷やせるわけではない
外気温が低ければ、冷却しやすいように思える。
しかし高高度では空気密度が低くなる。
空気が少なければ、対流によって熱を運ぶ能力も変わる。
つまり、
気温が低いこと
と、
空冷しやすいこと
は同じではない。
航空機では、高度や速度によって冷却条件が変わることを考える必要がある。
■宇宙では空冷できない
宇宙空間には、地上のような空気がほとんど存在しない。
そのため、
ファンで外気へ熱を逃がす
ことができない。
機器内部で空気を循環させることはできても、最終的には別の方法で熱を宇宙へ出す必要がある。
そこで重要になるのが、
放射
である。
宇宙機では、熱を機体表面まで運び、赤外線として宇宙空間へ放出する。
■宇宙では「冷えすぎる」問題もある
宇宙では、熱を逃がすことだけが問題ではない。
日光を受ける側は高温になる。
日陰側は低温になる。
つまり、
一つの機体の中に大きな温度差
が生じる可能性がある。
電子機器。
バッテリー。
光学部品。
センサー。
これらは一定の温度範囲で使う必要がある。
そのため宇宙機では、
放熱
と、
断熱
の両方が重要になる。
■熱を逃がしたい場所と、守りたい場所がある
例えば衛星内部では、
演算装置は熱を出す。
その熱は外へ逃がしたい。
一方、
バッテリーは低温になりすぎても困る。
光学部品は温度変化による寸法変化を抑えたい。
つまり、
全部を同じように冷やす
ことはできない。
どこでは熱を流すか。
どこでは熱を止めるか。
を分ける必要がある。
■温度差は寸法精度にも影響する
材料は温度によって伸び縮みする。
航空宇宙では、
● アルミ
● CFRP
● チタン
● 樹脂
● セラミック
など、異なる材料が組み合わされる。
それぞれ熱膨張率が違う。
温度が変われば、わずかに寸法が変化する。
光学機器や高精度センサーでは、このわずかな変形が性能へ影響する可能性がある。
つまり、熱問題は位置精度の問題 でもある。
■光学機器では特に温度安定性が重要になる
人工衛星や航空機には、
● カメラ
● LiDAR
● 赤外線センサー
● 光通信装置
などが搭載される。
これらでは、
レンズ。
ミラー。
センサー位置。
がわずかに動くだけでも、光学性能が変わる可能性がある。
そのため、
温度を下げるだけではなく、
温度をできるだけ動かさない ことが重要になる。
■航空宇宙では軽量化が非常に重要
航空機や宇宙機では、重量が大きなコストになる。
熱対策のために、
厚い銅板。
大きなヒートシンク。
を追加すれば、冷却能力は上げられる。
しかし重量も増える。
そこで、
● アルミ
● グラファイト
● 薄膜材料
● 高性能断熱材
などを使い、
少ない重量で必要な熱性能を得る ことが重要になる。
■グラファイトは軽量な熱拡散材として使える可能性がある
グラファイトは、
● 軽い
● 薄い
● 面方向へ熱を広げやすい
という特徴を持つ。
そのため重量制約の厳しい分野では、熱拡散材として有力な選択肢になる場合がある。
一方で、
● 導電性
● 脆さ
● 粉落ち
● 端部保護
などへの注意が必要になる。
■金属箔も薄型化に使える
厚い金属板ではなく、
● 銅箔
● アルミ箔
を必要部分へ配置することで、熱を必要な方向へ導くことも考えられる。
必要部分だけに材料を置けば、重量増加を抑えられる。
つまり航空宇宙では、
全面を厚くする より、
必要な場所だけ高機能化する という考え方が重要になる。
■真空ではアウトガスが問題になる
宇宙機器や真空環境では、材料から発生する揮発成分が問題になる。
粘着材。
樹脂。
ゴム。
接着剤。
から放出された成分が、
● 光学部品
● センサー
● 表面
へ付着すれば、性能を低下させる可能性がある。
そのため、真空で使える材料か を確認する必要がある。
これは半導体製造装置とも共通する課題である。
■粘着材は簡単には使えない
薄膜部材を固定するために粘着材は便利である。
しかし航空宇宙では、
● 高温
● 低温
● 真空
● 放射線
● 長期間使用
など、厳しい環境を受ける可能性がある。
そのため、
常温で貼れる だけでは不十分である。
使用環境全体での信頼性が必要になる。
■熱サイクルが繰り返される
宇宙機では、
日なた。
日陰。
を繰り返す。
航空機でも、
地上。
高高度。
を行き来する。
その結果、部材は何度も、
膨張。
収縮。
を繰り返す。
異種材料を積層している場合、
● 反り
● 剥離
● クラック
が発生する可能性がある。
つまり、
初期性能だけではなく、熱サイクル後の性能 が重要になる。
■航空宇宙では故障後の修理が難しい
地上の設備なら、
故障した。
部品を交換する。
という対応ができる。
しかし宇宙機では簡単に交換できない。
航空機でも、高い信頼性が要求される。
そのため、
少し性能が高い部材より、
長期間、安定して性能を維持する部材が重要になる。
■電子機器の高性能化で発熱は増える
航空宇宙でも、
● AI演算
● 画像処理
● 高速通信
● センサー処理
が増えている。
つまり、搭載電子機器の性能は上がり、発熱も増える。
一方で、
重量は増やしたくない。
消費電力も抑えたい。
ここでも、
高性能化と熱対策のトレードオフ が生まれる。
■電動航空機ではバッテリー熱管理も重要になる
電動航空機やeVTOLでは、
● バッテリー
● モーター
● インバーター
が大きな熱源になる。
これはEVと似ている。
しかし航空機では、
重量制約がさらに厳しい。
そのため、
熱伝導材。
絶縁材。
冷却系。
を軽量化しながら成立させる必要がある。
■eVTOLでは高出力と軽量化を同時に求められる
垂直離着陸では、大きな出力が必要になる。
モーター。
インバーター。
バッテリー。
に大きな負荷がかかる。
その一方、機体重量はできるだけ軽くしたい。
つまりeVTOLは、
EV以上に「熱性能÷重量」が重要になる
可能性がある。
■断熱材も重要な熱対策材料になる
宇宙では、熱を逃がすだけでなく、
外部から入る熱を防ぐ。
内部の熱を守る。
ことも重要である。
そのため、
● 多層断熱材
● 薄膜断熱材
● エアロゲル系材料
などが使われる場合がある。
つまり航空宇宙では、放熱材と断熱材の両方が重要になる。
■研究者視点 : 航空宇宙では「温度」ではなく「温度差」と「温度変化」を見る
航空宇宙では、
最高温度。
最低温度。
だけではなく、
● 部材間の温度差
● 時間当たりの温度変化
● 熱サイクル回数
も重要になる。
材料が異なれば、同じ温度変化でも膨張量が違う。
そのため、
熱と構造を同時に考える 必要がある。
■現場視点 : 軽くするほど、熱を逃がす材料も減る
重量を減らす。
金属を薄くする。
部品を小さくする。
すると、
熱を運ぶための材料量も減る。
つまり軽量化を進めすぎると、熱問題が厳しくなる場合がある。
航空宇宙では、軽量化と熱性能を同時に最適化する 必要がある。
■OTIS視点
OTISは、
航空機メーカーではない。
衛星メーカーでもない。
宇宙機の熱設計会社でもない。
しかし航空宇宙機器でも、
● TIM
● グラファイト
● 金属箔
● 絶縁フィルム
● 断熱材
● 粘着材
● シール材
● EMI材
など、薄膜機能部材が使われる可能性がある。
OTISが関わるとすれば、
材料そのものの開発 ではなく、
必要な形状・厚み・積層状態へ加工する領域である。
■OTISでできること
OTISでは、
● TIM加工
● グラファイト加工
● 銅箔・アルミ箔加工
● 絶縁フィルム加工
● 薄膜断熱材加工
● 粘着材加工
● シール材加工
● EMI材加工
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
などを通じて、航空宇宙向け機能材料を必要形状へ加工することで貢献できる可能性がある。
■OTISの専門外
OTISは、
● 航空機全体の熱設計
● 衛星熱設計
● 宇宙機システム設計
● ロケット設計
● 推進系設計
● 真空・放射環境解析
を専門とする会社ではない。
また航空宇宙向けでは、個別案件ごとに必要な認証、材料評価、長期信頼性確認が重要になる。
■この技術が重要になる市場
★★★★★ 人工衛星・宇宙機
★★★★★ 電動航空機・eVTOL
★★★★☆ 航空電子機器
★★★★☆ ドローン
★★★★☆ 光学・観測機器
★★★★☆ 宇宙通信機器
■まとめ
航空宇宙の熱対策は、「冷やす技術」より「極端な温度変化の中で機能を守る技術」である
航空宇宙では、
高温。
低温。
低圧。
真空。
強い日射。
大きな温度差。
が存在する。
さらに、
軽くしなければならない。
電力も限られる。
故障しても簡単には修理できない。
だから、大きな冷却装置を追加すればよい とはならない。
熱を広げる。
熱を遮る。
必要な場所へ導く。
放射で外へ出す。
そして温度変化による寸法変化を抑える。
こうした複数の技術を組み合わせる必要がある。
航空宇宙で重要なのは、最もよく冷える材料だけではない。
軽く、薄く、長期間、極端な環境でも性能を維持できる部材である。
OTISが関わるとすれば、その中に使われる、
熱・絶縁・断熱・粘着・金属箔・薄膜
といった機能材料を、実際に使える形へ加工する領域なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


