■エネルギー機器では何が熱を出すのか
代表的な熱源には、
● IGBT
● SiC
● GaN
● MOSFET
● ダイオード
● トランス
● インダクター
● コンデンサー
● バスバー
● バッテリー
● 接続端子
などがある。
これらはすべて、電気を変換したり、流したり、蓄えたりする過程で発熱する。
特に、
大電力を小さな機器で扱う ほど、発熱密度は高くなる。
■パワー半導体が熱設計の中心になる
インバーターやコンバーターでは、
パワー半導体
が重要になる。
電気を高速でON・OFFし、
直流と交流を変換する。
電圧を変える。
電力を制御する。
しかしスイッチングするたびに損失が発生する。
その損失が熱になる。
つまり、
電力変換性能を上げるほど、パワー半導体の熱管理が重要になる。
■SiC・GaNで発熱問題はなくなるのか
SiCやGaNなどの次世代パワー半導体は、高効率化や高周波化に有利である。
損失を減らすことができれば、発熱も減らせる。
しかし、
熱問題そのものがなくなるわけではない。
高効率になれば、
装置をさらに小型化する。
さらに高出力化する。
という方向へ進む。
その結果、
単位体積あたりの発熱密度
が高くなる場合がある。
つまり半導体性能が上がるほど、
冷却要求も高度になる。
■小型化すると熱を逃がす面積が減る
例えば大型インバーターを小型化する。
部品同士の距離が近くなる。
冷却面積も小さくなる。
空気流路も狭くなる。
すると、
同じ発熱量でも、
熱が集中しやすくなる。
つまり、
小型化と、熱対策 は簡単には両立しない。
■パワー半導体は冷却プレートへ熱を逃がす
高出力パワー半導体では、
半導体
↓
絶縁層・TIM
↓
金属ベース
↓
冷却プレート
↓
空気または冷却液
という熱経路を使う。
ここで重要なのは、半導体と冷却プレートの間 である。
高性能な冷却プレートがあっても、
界面の熱抵抗が大きければ十分に冷えない。
■「絶縁しながら熱を通す」が最大の課題の一つ
パワー半導体では、
冷却プレートは金属。
半導体側には高電圧。
という構造になる。
そのため、
電気的には絶縁したい。
熱的には密着させたい。
という相反する要求が生まれる。
ここでは、
● 絶縁性TIM
● セラミック基板
● 絶縁フィルム
● 熱伝導性絶縁シート
などが使われる。
■絶縁材を厚くすると熱が逃げにくくなる
絶縁性能を高めるため、絶縁材を厚くしたくなる。
しかし一般に厚みが増えれば、熱が通る距離も長くなる。
つまり、
厚い
→ 絶縁には余裕が出る
→ 熱には不利になりやすい
薄い
→ 熱には有利
→ 絶縁信頼性への要求が厳しくなる
という関係がある。
そのためエネルギー機器では、
必要な絶縁性能を確保しながら、できるだけ熱抵抗を小さくする
設計が重要になる。
■バリや異物が絶縁性能を壊す
薄い絶縁フィルムを使う場合、
● 金属バリ
● 異物
● 突起
● 傷
が大きな問題になる。
材料そのものには十分な絶縁性能があっても、
加工後に傷が入れば性能は変わる。
つまり、
材料の絶縁性能だけではなく、
加工された部材としての絶縁性能 を見る必要がある。
■TIMでも気泡・浮きが問題になる
パワーモジュールと冷却プレートの間にTIMを使う場合、
● 気泡
● 反り
● 厚み差
● 接触圧力不足
があれば、熱抵抗が増える。
高出力化するほど、一部分の熱抵抗増加でもホットスポットが生まれやすい。
つまり、
小さな接触不良が、大きな電力設備の性能を制限する ことがある。
■熱サイクルが大きな問題になる
エネルギー機器では、
高負荷。
低負荷。
停止。
再起動。
が繰り返される。
そのたびに、
熱くなる。
冷える。
を繰り返す。
すると、
● 半導体
● 金属
● セラミック
● はんだ
● 接着材
● 絶縁材
がそれぞれ異なる割合で膨張・収縮する。
この繰り返しによって、熱応力が発生する。
温度を下げるだけでは不十分
平均温度が低くても、
短時間で、
50℃
↓
100℃
↓
50℃
と繰り返せば、材料へ大きな応力がかかる場合がある。
つまりエネルギー機器では、
最高温度だけでなく、温度差と温度変化回数も重要になる。
■接着層や積層界面が弱点になる場合がある
異種材料を積層すると、
熱膨張率が違う。
温度サイクルを繰り返すと、
界面に応力がかかる。
その結果、
● 剥離
● クラック
● 浮き
が起こる可能性がある。
浮けば熱抵抗が増える。
つまり、
機械的な劣化が、熱性能劣化へつながる。
■まとめ
ここまで見てきたように、エネルギー機器の熱問題は、パワー半導体を中心に生まれる。
電力を変換すれば必ず損失が生まれ、その損失の多くは熱になる。
SiCやGaNといった次世代パワー半導体で効率が上がっても、装置はさらに小型化・高出力化する方向へ進むため、発熱密度という観点での難しさは残り続ける。
そしてエネルギー機器には、高電圧を扱うがゆえの強い要求がある。
熱は冷却プレートへ逃がしたい。
しかし電気は絶対に通したくない。
この「熱は通し、電気は止める」という相反する条件を、絶縁材やTIMの厚み設計でどう両立させるかが核心になる。
さらに、高負荷・低負荷・停止を繰り返す熱サイクルは、異種材料の膨張・収縮差を通じて、静かに接着層や積層界面を弱らせていく。
初期には問題なく見えても、繰り返しの中でいずれ剥離やクラックへつながる可能性がある。
後編では、この熱と絶縁の課題に、EMIや防水、長期信頼性といった要素がどう重なり、実際のESSや充電設備、水素設備といった応用の中でどう扱われていくのか。
そして、それを量産としてどう成立させ、OTISがどのような役割を担うのかを見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

