■熱膨張とは何か
材料は、温度が上がると一般に膨張し、温度が下がると収縮する。
このとき、どの程度伸び縮みするかは材料によって異なる。
例えば、金属と樹脂では熱膨張の大きさが違う。
同じ長さの材料でも、同じ温度上昇を与えたときの寸法変化は同じではない。
この違いが、異種材料を組み合わせたときの応力になる。
■単体では問題なくても、貼り合わせると問題が起こる
銅箔単体。
樹脂フィルム単体。
それぞれが自由に伸び縮みできるなら、大きな問題にはならない。
しかし両者を貼り合わせると、自由に伸びることができなくなる。
銅はこれだけ伸びたい。
樹脂はもっと伸びたい。
しかし接着されているため、互いに引っ張り合う。
この結果、
積層体全体が反る
ことがある。
■反りはなぜ起こるのか
二層構造を考える。
上側の材料は温度上昇で大きく伸びる。
下側の材料はあまり伸びない。
しかし二つは貼り合わされている。
上側だけが自由に長くなることはできない。
そこで全体が曲がることで、両方の変形差を吸収しようとする。
これが反りの基本的な考え方である。
つまり反りは、単なる加工不良ではなく、
異なる材料を組み合わせたことによる物理的な結果でもある。
■薄い材料ほど反りの影響を受けやすいことがある
薄膜フィルムや金属箔は、剛性が低い。
そのため、少しの応力でも形状が変わりやすい。
厚い金属板ならほとんど変形しない条件でも、
数十μmのフィルムでは大きく反ることがある。
つまり薄膜化すると、
軽くなる。
省スペースになる。
熱抵抗を下げやすい。
というメリットがある一方、形状安定性は難しくなる。
■積層数が増えるほど挙動は複雑になる
例えば、
グラファイト
+
絶縁フィルム
+
粘着材
+
銅箔
という構造を考える。
各材料で、
熱膨張。
弾性率。
厚み。
硬さ。
が違う。
さらに粘着材は、金属やフィルムとは異なる柔らかい挙動をする。
そのため、温度変化時の反り方は単純ではない。
つまり、多層化するほど、材料単体のデータだけでは完成品の挙動を予測しにくくなる。
■粘着材が応力を吸収することもある
粘着材は柔らかいため、材料間の膨張差を吸収する役割を持つ場合がある。
硬い材料同士を直接接合するより、柔軟な粘着層を挟むことで応力を緩和できることがある。
一方で、柔らかすぎると、
ずれる。
クリープする。
厚みが変わる。
といった別の問題が起こる。
つまり粘着材には、固定と応力吸収の両方の役割がある。
■強く接着すれば良いわけではない
剥がれないように、非常に強い接着材を使う。
一見すると正しい。
しかし材料同士の熱膨張差が大きい場合、接着界面が動けなくなる。
すると応力が、
接着層。
材料本体。
端部。
へ集中する。
その結果、接着層が剥がれなくても、材料側にクラックが入ることもある。
つまり、接着力が高いことと、長期信頼性が高いことは同じではない。
■剥離は端部から始まりやすい
積層材では、端部に応力が集中しやすい。
中央部は周囲の材料によって拘束されている。
一方、端部は自由端になっている。
温度サイクルを繰り返すと、端部から少しずつ浮きや剥離が進むことがある。
つまり、
端部形状。
角形状。
粘着面積。
も長期信頼性に影響する。
■鋭い角は応力集中を起こしやすい
四角いフィルムの角。
細い切り欠き。
鋭い内角。
こうした場所は応力が集中しやすい。
温度変化や振動を受けると、そこを起点に、
クラック。
剥離。
破断。
が起こることがある。
そのため、用途によっては角をR形状にするなど、応力を分散する設計が有効になる。
つまり、外形設計は見た目だけではなく、熱サイクル耐久性にも関係する。
■金属箔とフィルムの組み合わせでは特に注意が必要
銅箔やアルミ箔は熱をよく伝える。
一方、絶縁フィルムや粘着材は別の熱膨張特性を持つ。
これらを積層すると、温度変化時に反りや応力が発生する可能性がある。
特に、
薄い金属箔。
大面積。
非対称積層。
では、反りが出やすくなる場合がある。
つまり、熱拡散性能を上げるために金属箔を追加した結果、形状安定性を悪化させることもある。
■非対称積層は反りやすい
例えば、
片面だけ銅箔。
反対面は樹脂フィルム。
という構造では、上下の構成が違う。
温度が変化したときの膨張挙動も上下で異なる。
そのため、積層体が一方向へ反ることがある。
一方、上下をできるだけ対称に近づけることで、反りを抑えられる場合もある。
つまり積層では、機能配置だけでなく、構造のバランスも重要になる。
■ただし対称にすれば必ず良いわけではない
反りを抑えるために材料を追加する。
しかしその分、
厚くなる。
重くなる。
熱抵抗が増える。
コストが上がる。
という問題が出る。
つまり反り対策だけを最適化すると、別の性能を悪化させる可能性がある。
ここでも全体最適が必要になる。
■高温時だけではなく、低温時にも問題は起こる
熱膨張というと高温を想像しやすい。
しかし低温でも、材料は収縮する。
例えば、
常温で組み立てる。
低温環境へ持っていく。
すると材料ごとの収縮量が違う。
その結果、
剥離。
応力。
反り。
が発生することもある。
つまり重要なのは、使用温度範囲全体である。
■温度差が大きいほど応力も大きくなりやすい
例えば、
25℃から50℃。
と、
25℃から150℃。
では、材料の寸法変化量が違う。
温度変化幅が大きいほど、異種材料間の変形差も大きくなりやすい。
そのため、
自動車。
航空宇宙。
パワーエレクトロニクス。
半導体製造装置。
など、大きな温度変化を受ける分野では特に重要になる。
■熱サイクルは一回ではなく、何度も繰り返される
一回加熱して問題がなかった。
それだけでは十分ではない。
実際の製品では、
起動。
停止。
充電。
放電。
昼。
夜。
夏。
冬。
を繰り返す。
つまり材料は、何百回、何千回と伸び縮みを繰り返す。
初回は問題がなくても、少しずつ疲労が蓄積することがある。
その結果、長期間使用後に、
剥離。
クラック。
接触不良。
が発生する。
つまり、熱サイクルは材料の疲労試験でもある。
■微小剥離が熱性能を悪化させる
積層界面が完全に剥がれなくても、一部分だけ浮くことがある。
この微小剥離部分には空気層ができる。
すると接触熱抵抗が増える。
つまり熱膨張による変形は、
機械的な問題だけではなく、
熱性能低下そのものにつながる。
■最初は冷えていても、数年後に冷えなくなることがある
新品時はTIMが全面接触している。
温度サイクルを繰り返す。
材料の膨張差で少しずつ界面が動く。
一部に浮きができる。
すると熱抵抗が上がる。
部品温度が上がる。
つまり、
初期の熱評価だけでは、長期の熱性能を保証できない。
■熱性能が落ちると、さらに温度が上がる
ここには悪循環が起こる可能性がある。
剥離する。
熱抵抗が上がる。
温度が上がる。
さらに熱膨張差が大きくなる。
剥離が進む。
という循環である。
つまり小さな界面変化が、長期的には大きな性能低下につながることがある。
■パワー半導体では特に重要になる
パワーモジュールでは、
半導体。
セラミック。
銅。
はんだ。
TIM。
冷却プレート。
など、異なる材料が積層される。
さらに大きな電力を扱うため、温度変化も大きくなりやすい。
そのため熱膨張差は、
接合部寿命。
クラック。
剥離。
へ影響する重要な要素になる。
■EVバッテリーでも材料は動く
バッテリーパックでは、
セル。
冷却プレート。
絶縁フィルム。
ギャップフィラー。
粘着材。
などが組み合わされる。
さらにセル自体も、充放電や経年によって寸法が変化する場合がある。
つまりバッテリーでは、
熱膨張に加えて、
セルそのものの膨張
も考える必要がある。
■固定しすぎるとセルへ力がかかる
バッテリーセルを強く固定すれば、位置は安定する。
しかしセルが膨張しようとしたとき、自由に変形できない。
するとセルや周辺部材へ大きな力がかかる。
そのため、
緩衝材。
発泡体。
柔軟な接着層。
などで変形を吸収することがある。
つまり、固定と変形吸収の両立が必要になる。
■AIサーバーでも反りが接触を変える
高性能半導体パッケージでは、大型化や高密度化によって反りが問題になることがある。
パッケージが反る。
ヒートスプレッダーも完全な平面ではない。
その間にTIMを挟む。
すると、場所によってTIM厚みや圧力が変わる。
つまり熱膨張による反りが、
接触熱抵抗のばらつき
を生むことがある。
■半導体製造装置では位置精度にも影響する
装置部材が温度によって伸び縮みすれば、
ステージ位置。
センサー位置。
治具位置。
が変わる。
ここでは熱膨張は、
冷却性能ではなく、
装置精度の問題
になる。
つまり同じ熱膨張でも、産業によって影響の出方が違う。
■スマートデバイスでは薄さゆえに反りが目立つ
スマートフォンやウェアラブルでは、材料が薄い。
そのため積層材の反りが、
外装浮き。
ディスプレイ圧力。
バッテリー干渉。
へ影響する可能性がある。
数百μmの反りでも、数mmの製品厚みの中では無視できないことがある。
■大面積になるほど寸法変化量は大きくなる
熱膨張率が同じでも、元の長さが長ければ絶対寸法変化は大きくなる。
10mmの部材と500mmの部材では、同じ温度変化でも寸法変化量が違う。
そのためEV向け大面積絶縁材や大型ガスケットなどでは、
大面積特有の熱膨張管理が必要になる。
■穴位置も温度で変わる
大きなフィルムに複数の穴を加工する。
室温ではすべて図面どおり。
しかし高温になるとフィルム全体が伸びる。
穴間距離も変わる。
金属ケース側の膨張量とは異なる。
すると組立時や使用時に、穴位置が合わなくなる可能性がある。
つまり大面積部材では、外形だけでなく穴間ピッチの温度変化も見る必要がある。
■温度によって粘着材の硬さも変わる
粘着材は、高温になると柔らかくなる場合がある。
低温では硬くなる場合がある。
そのため温度によって、
応力吸収能力。
固定力。
クリープ。
が変わる。
つまり同じ積層構造でも、温度によって力の伝わり方が変わる。
■高温でクリープすると位置がずれることがある
長時間高温状態に置かれると、粘着材が少しずつ変形することがある。
部材の自重。
熱膨張による応力。
振動。
が加わると、位置が少しずつ動く可能性がある。
この位置ズレが、
接触面積。
絶縁距離。
シール位置。
へ影響することもある。
■低温では追従性が低下する場合がある
低温になると粘着材が硬くなり、柔軟性が低下する場合がある。
すると、
熱膨張差を吸収しにくくなる。
衝撃時に応力が集中する。
剥離しやすくなる。
可能性がある。
つまり材料評価は、常温だけでは不十分である。
■振動と熱膨張が組み合わさるとさらに厳しくなる
EV。
ロボット。
航空機。
では、温度変化に加えて振動もある。
熱膨張で界面へ応力がかかった状態で振動を受ける。
すると剥離やクラックが進みやすくなる可能性がある。
つまり実際の製品では、熱だけの試験ではなく、複合環境での信頼性を見る必要がある場合がある。
■材料の向きを変えるだけで挙動が変わることもある
フィルムには、製造方向によって機械特性や寸法変化が異なる場合がある。
縦方向。
横方向。
で伸び方が違う。
そのため材料取り方向によって、完成品の反りや寸法変化が変わる場合がある。
つまり、同じ材料・同じ形状でも、取り方向が性能条件になることがある。
■加工時の張力も残留応力を生む場合がある
リール・ツー・リール加工では、材料へ張力をかけながら加工する。
強く引っ張った状態でラミネートする。
その後張力を解放する。
すると材料が縮もうとする。
積層相手との間で応力が残る場合がある。
つまり反りの原因は、使用時の温度変化だけではない。
製造工程そのものが残留応力を作ることもある。
■ラミネート条件でも反りは変わる
ラミネート時の、
圧力。
温度。
速度。
張力。
が変われば、完成品の応力状態も変わる。
同じ材料構成でも、加工条件によって反りが違うことがある。
つまり積層部材では、
材料設計とラミネート条件を切り離せない。
■失敗例:銅箔を追加したら熱は下がったが部材が反った
熱拡散を改善するため、フィルム部材へ銅箔を追加した。
熱性能は良くなった。
しかし温度評価後、部材が大きく反った。
貼付面の一部が浮いた。
結果として、長期的な熱性能は逆に悪化した。
つまり、熱伝導性能だけを改善して、積層構造の熱膨張差を見ていなかったのである。
■失敗例:初期評価は合格、熱サイクル後に剥離
試作直後の評価では、
熱性能。
絶縁性能。
接着力。
すべて問題なかった。
しかし熱サイクル試験後、端部から剥離が発生した。
原因は異種材料の膨張差による繰り返し応力だった。
この例では、初期性能だけを見て採用判断したことが失敗につながった。
■失敗例:大面積フィルムの穴位置が合わなくなる
室温で加工した大型絶縁フィルム。
寸法検査も合格。
しかし高温状態で金属ケースへ組み付けようとすると、穴位置がずれる。
フィルムと金属の膨張量が違っていた。
つまり、加工寸法は正しかったが、使用温度での寸法は正しくなかったのである。
■研究者視点:材料物性ではなく「拘束された状態」を考える
熱膨張係数は材料単体の物性である。
しかし実際の製品では、材料は自由に伸び縮みできない。
貼られている。
ボルトで固定されている。
別材料に挟まれている。
つまり重要なのは、
その材料が実際の構造の中でどのように拘束されているか
である。
同じ材料でも、拘束条件が変われば発生する応力も変わる。
■現場視点:反りを見つけたら、材料だけを疑わない
積層部材が反った。
このとき、
「フィルムが悪い」
と決めつけるのは早い。
確認したいのは、
材料構成。
上下の厚みバランス。
取り方向。
ラミネート張力。
加工温度。
保管条件。
である。
反りは、複数の条件が組み合わさって発生することが多い。
■寸法検査も使用条件を意識する
加工直後に寸法を測定する。
図面どおり。
しかし顧客が使う環境は80℃。
あるいはマイナス20℃。
この場合、室温寸法だけで十分かを考える必要がある。
用途によっては、使用温度を想定した寸法変化まで確認する価値がある。
■OTIS視点:異種材料積層はOTISの専門性が出る領域
熱対策では、
TIM。
グラファイト。
銅箔。
絶縁フィルム。
粘着材。
を組み合わせることがある。
しかし材料を積層した瞬間に、
熱膨張差。
反り。
剥離。
厚み公差。
という新しい問題が生まれる。
つまり、
材料を重ねることは、機能を足すだけではなく、材料同士の関係を設計すること
でもある。
ここは高精度ラミネートを行う加工会社が価値を出せる領域である。
■材料の組み合わせを加工段階で確認する
例えば、
この銅箔厚みなら反りが大きくならないか。
この粘着材なら応力を吸収できるか。
この構成なら片面だけ強くならないか。
こうした視点を試作段階から持つ。
材料メーカーのデータだけでは分からないため、実際に積層して評価することも重要になる。
■加工条件を固定することも量産品質になる
同じ材料構成でも、
ラミネート圧力。
張力。
速度。
温度。
が変われば完成品状態が変わることがある。
そのため量産では、寸法だけでなく、
加工条件そのものを安定させる
必要がある。
これは材料性能を量産性能へ変える重要な部分である。
■OTISでできること
OTISでは、
● 異種材料積層
● 高精度ラミネート
● 薄膜加工
● 金属箔加工
● 絶縁フィルム加工
● TIM加工
● グラファイト加工
● 粘着材加工
● 部分ラミネート
● 高精度打ち抜き
● 材料取り方向を考慮した加工
● 長尺張力管理
● 寸法・位置精度管理
● 試作から量産条件への展開
などを通じて、異種材料を組み合わせた機能部材を量産へ近づけることができる。
OTISが材料の熱膨張係数そのものを変えることはできない。
しかし、材料構成・形状・積層・加工条件によって、熱膨張差が問題になりにくい部材へ近づけることは可能である。
■OTISの専門外
OTISは、
● 材料そのものの熱膨張係数開発
● 樹脂配合設計
● 半導体パッケージ全体の応力解析
● CAE専業の熱応力解析
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、材料メーカー、解析会社、顧客設計部門と連携する。
その中でOTISは、実際に積層・加工した部材として、量産状態へ近づける役割を担う。
■まとめ:熱対策材料は、温度が変われば動く
熱対策では、熱伝導率や熱抵抗に目が向きやすい。
しかし材料そのものも、温度によって伸び縮みする。
銅。
アルミ。
樹脂。
フィルム。
粘着材。
それぞれの動きは違う。
それらを貼り合わせれば、温度変化のたびに内部へ応力が生まれる。
その結果、
反る。
剥がれる。
クラックが入る。
接触状態が変わる。
熱性能が落ちる。
ということが起こる。
だから異種材料を組み合わせるときには、初期の熱性能だけでは足りない。
温度が変わった後も、その形状・接触・位置を維持できるか。
ここまで確認する必要がある。
熱対策材料は、静止しているように見える。
しかし温度が変わるたびに、内部では材料同士が引っ張り合っている。
だから長期的な熱性能を成立させるには、
熱をどう流すかだけでなく、材料がどう動くかまで設計すること が重要なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


