第1章 環境がつくる誤差―見えない敵の正体
高精度加工における最大の敵は、誤差の原因が見えないことだ。
測定値が安定しない時、原因は機械ではなく空気にある場合が多い。
静電気がフィルムをわずかに引き寄せ、
湿度変化が粘着特性を変化させ、
空中の微粒子(ゴミ・異物)が貼合面に入り込む。つまり、±0.05mmの精度を守るには、
空気そのものを制御する技術 が必要になる。
第2章 静電気を感じて消す―帯電制御の考え方
オーティスの製造現場では、フィルムや粘着テープを扱う際に、
静電気の発生と放電をリアルタイムでモニタリングしている。
作業者の衣服・搬送ローラー・剥離フィルムなど、
帯電源は多岐にわたるため、帯電除去装置だけでなく、
帯電を発生させない動線設計を取り入れている。
具体的には、
● フィルム搬送速度を最適化(摩擦帯電を抑制)
● イオナイザー配置の距離と角度を実測調整
● アース配線を多点化し、設備全体の電位差を最小化
静電気は発生してから除去では遅い。発生させない設計が、品質を守る第一歩である。
第3章 湿度は粘着の特性を変える
粘着テープは、湿度によって特性が変わる素材だ。
湿度が低すぎると静電気を帯びやすくなり、
高すぎると粘着層が軟化し、剥離力が変わったり、糊のはみ出し量が変わる。
オーティスでは、相対湿度40〜60%の範囲を基準とし、
季節や天候に応じて空調と除湿機を組み合わせて制御している。
また、吸湿しやすい材料は工程間での保管時間を最小化し、粘着変動の影響を抑えている。
この管理によって、フィルム間の貼合ズレや剥離不良を防ぎ、常に安定した粘着挙動を再現している。
第4章 微粒子を防ぐ流れの設計
空気中の微粒子は、目視では見えないが製品品質に直結する。
特に光学用途や医療用途では、微細なゴミが1粒でも混入すればNGだ。
オーティスのクリーンルームでは、
ただ空気を清浄に保つだけでなく、流れ方を設計している。
● 天井からの層流設計で、埃を上から下へ一方向に流す
● 作業者の動線を分析し、乱流を起こしにくいレイアウトに変更
● 清掃や段取り替えのタイミングをデータ化し、微粒子発生を最小化
環境を管理するのではなく、デザインする。
それが、精度を守るオーティスの発想だ。
第5章 空気を読むという現場力
どれだけセンサーや制御装置が進化しても、
最終的に環境の変化を察知するのは人の感覚だ。
オーティスでは、作業者自身が「今日は空気が重い」「帯電しやすい」と感じ取れるよう、
経験を共有する作業指示書と現場の声を運用している。
この声や経験値が、季節・天候・製品ごとの傾向が蓄積され、
人の感覚値が環境データと結びつく。
つまり、図面を頂き、材料構成を確認後、工程設計を考える際に空気を読む力もまた、オーティスの精度の一部である。
第6章 AIと環境データの未来
今後オーティスでは、環境データの自動収集とAI解析を進める構想が必要になるだろう。
温湿度・静電気・微粒子の変化と製品寸法の関係を学習させ、
どの条件下で剥離力・粘着力に誤差が生じやすいかを可視化する仕組みを目指していく必要がある。
AIが空気を読む時代になっても、その判断の基準となるのは、現場で培われた人の知恵。
デジタルと感覚、その両方が重なってこそ、真の安定精度が生まれるだろう。
まとめ
±0.05mmの精度は、機械が作るものではなく、環境が支えるものだ。
オーティスは、静電気も湿度も微粒子も、すべてを「見えない工程」として扱い、
空気までも設計する企業でありたいと考えている。
それは、数値ではなく空気の質で勝負するものづくり。
オーティスのクリーン環境は、精度のための空間であると同時に、
人と技術が呼吸を合わせる場所でもある。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。



