TECH COLUMN 技術コラム

自己修復(セルフヒーリング)フィルムの可能性と、我々ができること

材料・加工技術

公開日:

近年、割れ・傷・クラックといった表面劣化を自ら修復する「自己修復フィルム(セルフヒーリングフィルム)」の技術が注目を集めています。
その適用範囲は、保護フィルム、電子機器、ウェアラブルデバイスなど多岐にわたっており、素材設計や製造面にも大きな変化の芽が見えています。
今回は、自己修復フィルム技術の概要、現在直面している課題、そして材料加工メーカーとして我々が果たすべき役割について考えてみます。
(私も勉強不足領域であり、間違い等あればご指摘ください)

自己修復フィルム技術とは? ― 基本メカニズムと種類

自己修復フィルムは、外部からのダメージ(微細なひび割れ、傷など)を受けた際に、内部または表層で化学反応や分子再配列などを通じて「元の状態に戻ろうとする性質」を持つフィルムです。

 

主な手法には次のようなものがあります:
● マイクロカプセル方式(エクストリンシック型)
 傷が入ると内部に封入された修復剤が放出され、クラック部分を封止して硬化する方式

 

● 動的結合ネットワーク(イントリンシック型)
 フィルム自体に可逆結合(例えば可逆的な共有結合、ヒドロゲン結合、可逆結合ネットワークなど)を持たせて、壊れた部分が自然に再結合する方式

 

● 多層構造設計 + ナノ充填材併用
 層構造や配向性を持たせ、修復能と耐久性のバランスを取る方式

最近の研究では、強度(硬さ)や耐熱性を兼ね備えた自己修復フィルムの開発が進んでおり、従来の柔らかい自己修復材料との差別化が試みられています。

 

このようなフィルムは、微小な傷を「目立たなくする」「機能回復させる」能力を持つため、保護フィルム、スクリーン保護、電子機器筐体、外装材、屋外用途などに期待されています。

技術的課題と現実的な制約

自己修復フィルムは魅力的ですが、実用化にあたってはいくつかの難点があります。これらを正面から見ることが、差別化の鍵になります。

 

1. 修復能力 vs 耐久性のトレードオフ
 自己修復効果を高めるためには可動性が必要ですが、過度に流動性を持たせると機械的強度や耐熱性が犠牲になるケースがあります。

 

2. カプセル・キャリア材の設計問題
 マイクロカプセル方式では、修復剤の漏れ、寿命、均一分散、破壊引き金設計などが非常に難しい。

 

3. 速度と環境依存性
 修復反応が起きるまでの時間、あるいは温度・湿度など外部条件依存性が課題です。たとえば常温で自己修復する方式の研究も進んでいますが、条件が限定的です。

 

4. 繰り返し修復能力
 何度も傷が入る環境では、初回修復後も機能を維持するかどうか。材料疲労や繰り返し負荷で劣化することがあります。

 

5. コストと量産性
 高度な材料制御、層構造設計、ナノ分散技術などがコストを押し上げる要因です。実用レベルでの量産化・歩留まり確保は簡単ではありません。

 

6. 長期安定性と寿命保証
 長期間使用された後でも、自己修復機能・透明性・防黄変性などを維持できることが重要です。

 

これら技術課題を克服した上で、現場ニーズに応える実用性を備える製品が勝ち残ると考えられます。

市場ニーズ・困りごとから見えるチャンス領域

自己修復フィルムへの期待には、次のような困りごと・課題があります:
● 表面に小傷が入るたびに部品交換・修正をするコスト
● 長期使用での傷の蓄積、見た目劣化
● 製品保護、耐スクラッチ性、耐摩耗性を求められる用途
● 屋外や過酷環境での耐候性維持
● 保護フィルムの貼り替え手間、メンテナンス性

 

特に、電子機器、スマートデバイス、外装部材、交通インフラ材、ウェアラブル応用、透明保護材などで「見た目・機能維持性」が求められる分野では、大きなアドバンテージを持ちうる技術です。
また、素材が薄く軽く、かつ透明性を持つことが求められる用途で、従来の硬化型コーティングや厚手フィルムでは対応しづらい課題を抱えるケースも見られます。

加工メーカーとして我々オーティスができること

上記の変化とニーズを踏まえ、材料加工・部材供給側として私たちが担うべき役割や差別化戦略を以下のように考えています。

 

1. 層構造設計支援・材料選定支援
 自己修復フィルムは単一素材だけではなく、複数層・機能層を持つ設計が主流になるため、適切な層構成(修復層、バリア層、透明保護層など)や素材選定支援が重要。

 

2. ナノ充填材・助剤調整の協業技術
 ナノシートやナノ粒子、界面改質材などを適切に配合・分散する技術支援を提供できると、修復性能と耐久性の両立につながります。

 

3. 精密加工と品質維持技術
 ミクロな傷、厚みムラ、膜張力や界面の応力制御など、フィルムの精度・均一性が性能を左右します。加工精度と管理能力が強みになります。

 

4. 試作・評価支援・検証環境
 傷入れ・加速劣化試験・温度耐久試験・繰返し修復試験など、性能評価ノウハウを整備していくことが必要です。

 

5. トレーサビリティ・工程管理
 修復機能を持つ材料では、加工履歴・温度履歴・環境条件履歴が品質に影響するため、これらを可視化・管理できる体制が強みになります。

 

6. 提案型アプローチで新用途探索
 自己修復を活かせる用途(可動部品表面、曲げ部分、透明保護層、ウェアラブルなど)を顧客と共に探索し、試験・適用までリードできる姿勢が重要です。

まとめと呼びかけ

自己修復フィルム技術は、表面保護・見た目維持・耐傷性という課題に対して、新しいアプローチを提供します。その一方で、修復速度、耐久性、コストといった技術課題もあり、現場応用には慎重な検討が必要です。


しかし、この領域にはまだ多くの未開拓余地があります。そして、私たちオーティスは、設計支援、ナノ分散、精密加工、評価ノウハウ、履歴管理などで貢献できる余地が大きいと感じています。


もし「自己修復フィルムを使いたいが、どこに相談すればよいか分からない」「素材設計段階でアドバイスをしてほしい」などの課題をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。
一緒に未来の素材を形にしていきましょう。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

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