【1】はじめに
半導体と聞いて最初に思い浮かぶのが「シリコン(Silicon)」です。
現代のコンピュータ、スマートフォン、太陽電池に至るまで、
あらゆる電子機器の基盤がこの素材でできています。
【2】シリコンとは何か
・元素記号:Si
・原子番号:14
・地球上で酸素の次に多い元素(地殻の約28%を占める)
・珪砂(SiO₂)として豊富に存在し、加工コストが安い
シリコンは安価で安定し、酸化膜が形成しやすいという特徴を持ち、
他の半導体材料では代替しにくいバランス型素材です。
【3】結晶構造と電子特性
・シリコンはダイヤモンド構造(共有結合)を持つ。
・価電子は4個。隣の原子と結合して強固な結晶を形成。
・間接遷移型半導体のため、光の吸収・放出は弱い(発光素子には不向き)。
電子移動度(速度)はGaAsなどに比べると低いが、
安定性と信頼性では他の材料を圧倒します。
【4】シリコン酸化膜の重要性
シリコンの最大の強みは「酸化膜(SiO₂)」を自然に形成できること。
この酸化膜は:
・電気的に絶縁性が高く、リーク電流を防ぐ。
・MOSFETのゲート絶縁膜として理想的。
・フォトリソグラフィー時のマスク層としても利用可能。
→ この「酸化膜技術」が、IC・LSI発展の根幹となった。
【5】シリコンの加工性・量産性
・融点が高く(1414℃)、化学的に安定。
・単結晶化(CZ法)やウェーハ加工技術が確立。
・100mm → 200mm → 300mm ウェーハと大型化が進み、
コスト低減と生産効率を両立できる。
→ 量産に最も適した半導体素材。
【6】シリコンの用途と応用分野
1.ロジックIC・CPU・メモリ
→ 集積回路(MOSFET, CMOS)のベース材料。
2.パワーデバイス
→ 低耐圧・中電力領域(~600V)で依然主流。
3.太陽電池
→ 単結晶・多結晶Siセルが市場の約90%を占める。
4.センサー・MEMS
→ 加速度、圧力、温度などの検知素子に利用。
【7】シリコンの限界と課題
・電子移動度が低く、高速動作に不向き(GaAsやInPより遅い)。
・高温・高耐圧では性能が低下(リーク電流増大)。
・発光デバイス(LED・レーザー)には不適。
・微細化が進むと、量子トンネル効果が問題に。
→ 高周波・高耐圧領域では SiC・GaN への置き換えが進行中。
【8】技術進化の方向
・SOI(Silicon on Insulator)技術:
シリコン層を絶縁層上に形成し、消費電力を低減。
・FinFET・GAAFET構造:
シリコンを3次元的に立体構造化して性能を維持。
・Si-Ge合金:
電子移動度を向上させ、通信・高性能ロジックに応用。
→ 「シリコンを進化させ続ける技術」が業界の生命線。
【9】未来展望
・シリコンの限界は近いが、完全に終わることはない。
・将来的には、“ハイブリッド型”(Si × GaN、Si × 光素子)へ移行。
・AI・自動運転・IoTでも依然中核材料として使われ続ける。
→ 「新しい材料が出ても、最終的にシリコンと組み合わさる」構図が続く。
【10】まとめ
・シリコンは最も成熟した半導体材料であり、基盤技術の中心。
・低コスト・高安定・酸化膜形成が強み。
・高速・高耐圧・光応用には不向きだが、進化技術で補完中。
・今後も「改良・融合・最適化」により主役であり続ける。
【理解チェック(3問)】
1.シリコンが主流であり続ける最大の理由は?
2.シリコンが苦手な分野は?
3.次世代へのシリコン技術とは?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



