【1】はじめに
ゲルマニウム(Ge)は、シリコンと並ぶ典型的な元素半導体です。
かつては「最初のトランジスタ材料」として半導体時代を切り開き、
近年では「再び注目される素材」として復活の兆しを見せています。
【2】ゲルマニウムの基本特性
・元素記号:Ge
・原子番号:32
・結晶構造:ダイヤモンド型構造(Siと同じ)
・バンドギャップ:1.1 eV(Siより小さい)
・電子移動度:3900 cm²/V·s(Siの約2.7倍)
・正孔移動度:1900 cm²/V·s(Siの約4倍)
→ 電子も正孔も高速に動けるため、高速デバイスや高感度検出に向く。
【3】半導体の黎明期におけるゲルマニウム
・1947年、ベル研究所で世界初のトランジスタがGeで作られた。
・1950年代:ラジオ、増幅器、初期コンピュータで使用。
・しかし、高温で動作が不安定(リーク電流増大)のため、
→ 1960年代以降、シリコンに主役を譲る。
それでも、ゲルマニウムは「高速応答・低ノイズ」という強みを保持。
【4】ゲルマニウムの電気的特徴
・小さなバンドギャップにより、少ないエネルギーで電子が励起。
・高速スイッチング・高感度センサーに向く。
・一方で、温度上昇によりキャリアが過剰発生 → 動作不安定。
→ 低温・高精度用途に最適な特性を持つ。
【5】現代における応用分野
1.光通信分野
・Geは赤外線(IR)をよく透過する。
・InGaAsやSiと組み合わせて、光ファイバー通信用フォトディテクタに使用。
2.赤外線検出・熱画像装置
・8〜14μmの長波長赤外を吸収できるため、サーモカメラや夜間監視装置に利用。
3.高性能CMOS技術(Si-Ge系)
・Si基板上にGe層を形成することで電子移動度を向上。
・通信IC・RFデバイス・CPU高速化に利用。
4.太陽電池(高効率タイプ)
・多接合型セル(GaInP/GaAs/Geなど)の基板として採用。
・人工衛星や宇宙用ソーラーセルに利用。
【6】Si-Ge合金(シリコンゲルマニウム)
・SiとGeを混ぜることで、両者の長所を活かす。
【特徴】
・高速動作(Ge由来)+ 安定性(Si由来)
・応力(ストレス)を制御してキャリア移動度を向上
・既存Siプロセスと互換性あり
【応用例】
・高周波通信IC(RF CMOS)
・次世代ロジックデバイス(FinFET、GAAFET)
・センサー素子(赤外・圧力)
→ 「シリコンを強化するためのパートナー素材」として再評価されている。
【7】課題と限界
・高温時のリーク電流増加
・Ge基板が高価で大口径ウェーハが少ない
・酸化膜の質がSiO₂ほど良くない
・プロセスの互換性確保が難しい
→ しかし、これらは「Si上へのエピ成長」や「Ge-on-Insulator」技術で克服しつつある。
【8】新たな研究動向
・GeSn(ゲルマニウム・スズ)合金:直接遷移型化により光デバイス化。
・Ge量子ドット:赤外線検出・量子情報デバイスに応用。
・光電融合チップ:シリコンフォトニクスとの統合。
→ Geは「高速+光応答」の両立素材として再注目されている。
【9】未来展望
・高速通信(6G/7G)時代の低損失・高感度デバイス材料。
・AIチップ内の光伝送・光演算領域での利用可能性。
・宇宙・軍事・医療など、極限環境下での高性能検出素子。
→ Geは「かつての主役」ではなく「次の世代の橋渡し役」。
【10】まとめ
・ゲルマニウムは高速・高感度・赤外対応に優れる元素半導体。
・かつて主役だったが、シリコンの安定性に押されて一時衰退。
・現在はSi-Geや光応用で再び注目されている。
・「スピードと光」に強い素材として、未来技術に欠かせない存在。
【理解チェック(3問)】
1.ゲルマニウムがシリコンより優れる点は?
2.ゲルマニウムが苦手な点は?
3.現代で注目されているゲルマニウム応用は?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



