TECH COLUMN 技術コラム

2. 半導体材料の種類と特徴
2-7. 有機・柔軟性半導体(フレキシブル・プリンテッド)

材料・加工技術

公開日:

【1】はじめに

これまでの半導体は「固くて壊れやすい」素材が主流でした。
しかし、近年では「曲げられる・伸ばせる半導体」の研究が急速に進展しています。

 

これを実現するのが、有機半導体やプリンテッドエレクトロニクス技術です。
これらは従来のシリコン半導体とは異なり、柔らかく・軽く・製造が簡易という特徴を持ちます。

【2】有機半導体とは

有機半導体は、炭素を主成分とする分子や高分子が電気を運ぶ材料です。
金属のように自由電子ではなく、分子のπ電子が導電を担います。

 

代表的な材料には以下があります:

● ポリチオフェン系(P3HTなど)

● ペンタセン(Pentacene)

● ポリマー型共役系(PPV, PTAAなど)

● フラーレン誘導体(PCBMなど、太陽電池用)

→ 無機半導体に比べて柔軟で、低温プロセスが可能。

【3】柔軟性と製造技術

有機・フレキシブル半導体は、
印刷・コーティング・蒸着などの低温プロセスで製造可能です。

 

主な基板材料:
・プラスチックフィルム(PET、PEN、PI)
・紙、ゴム、布など特殊用途基材

 

主な製造手法:
・インクジェット印刷
・グラビア印刷
・スピンコート法
・ロール・トゥ・ロール(R2R)プロセス

→ シリコン製造のような高温・高真空を必要とせず、「印刷工場のように半導体を作る」ことができる。

【4】有機半導体の特徴

メリット
・軽量・柔軟・安価
・大面積生産が容易
・低温プロセスで環境負荷が小さい
・デザイン自由度が高い(折り曲げ、貼り付けが可能)

 

デメリット
・電子移動度が低い(Siの1/100〜1/1000程度)
・湿度・酸素に弱く、寿命が短い
・高温動作が難しい

→ 「性能よりも使いやすさと形状自由度」を重視する用途で活躍。

【5】代表的な応用分野

1.フレキシブルディスプレイ
 - OLED(有機EL)スマートフォン、折りたたみディスプレイ。
 - 曲面モニター、スマートウォッチなどに採用。

2.電子ペーパー/電子タグ
 - 超低消費電力・軽量・印刷可能な情報表示素子。

3.ウェアラブルデバイス
 - 皮膚に貼るセンサー(体温・心拍・汗成分などの測定)。
 - 医療用モニタリング、リハビリ機器。

4.プリンテッドセンサー
 - 圧力・ガス・光・湿度などを検出。
 - 食品・農業・物流などで需要拡大中。

5.有機太陽電池(OPV)
 - 軽くて曲がる太陽電池。
 - 建物・衣服・ドローンなどへの貼付が可能。

→ 電気を扱う場所が、固体からあらゆる面へと広がっている。

【6】製造と環境への利点

・製造温度が100〜200℃程度と低く、CO₂排出が少ない。
・廃棄時にリサイクルしやすい構造。
・製造装置コストがシリコン半導体の1/10以下になる場合もある。

→ グリーン半導体としても注目されている。

【7】課題と技術的ボトルネック

・キャリア移動度が低く、高速演算デバイスには不向き。
・水分・酸素に弱く、封止技術が必須。
・長期信頼性の確保が難しい(数千時間レベル)。
・量産時の膜厚・抵抗ばらつきの制御が課題。

→ 現在は「高性能よりも低コスト・大量生産」を軸に研究が進む。

【8】先端研究動向

・有機半導体と無機半導体のハイブリッド化(有機−無機ペロブスカイト)。
・伸縮性トランジスタ(Stretchable TFT)の開発。
・生体親和性を活かした電子皮膚(E-skin)の研究。
・環境発電(光・振動・熱)と連携した自立型センサー。

→ 有機半導体は、人と環境に近いテクノロジーとして発展中。

【9】未来展望

・ディスプレイや医療機器だけでなく、「服・皮膚・壁」などに組み込まれる時代が到来。
・人と機械、デジタルと自然をつなぐインターフェース材料として進化。
・2030年代には、「1枚のフィルムが電子機器そのものになる」社会へ。

【10】まとめ

・有機・柔軟性半導体は、低温・低コストで柔軟な電子デバイスを可能にする。
・性能ではシリコンに劣るが、形状自由度と環境適応性が高い。
・ウェアラブル、IoT、医療、農業など、新しい応用領域を開拓中。
・今後は「人に寄り添う半導体」として、社会実装が加速する。

【理解チェック(3問)】

1.有機半導体の主成分は何か?

2.有機半導体の主な強みは?

3.主な課題は?

 

 

 

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。

最新記事

  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-12. 量産課題と歩留まり(Package Yield & Cost Structure)

    先端パッケージでは、作れるかより安定して量産できるか が最大の壁になる。 設計・材料・装置が高度化... 続きを読む
  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-11. 先端パッケージとAIチップの関係

    AIチップの性能競争は、プロセス微細化からパッケージ設計へ主戦場が移った。 現在のAIチップは、 ... 続きを読む
  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-10. 実装工程(Assembly Process)

    半導体パッケージは、設計や材料がどれだけ優れていても、実装で失敗すれば製品にならない。 実装工程(... 続きを読む

関連記事

  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-12. 量産課題と歩留まり(Package Yield & Cost Structure)

    先端パッケージでは、作れるかより安定して量産できるか が最大の壁になる。 設計・材料・装置が高度化... 続きを読む
  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-11. 先端パッケージとAIチップの関係

    AIチップの性能競争は、プロセス微細化からパッケージ設計へ主戦場が移った。 現在のAIチップは、 ... 続きを読む
  • 6章:半導体パッケージング技術
    6-10. 実装工程(Assembly Process)

    半導体パッケージは、設計や材料がどれだけ優れていても、実装で失敗すれば製品にならない。 実装工程(... 続きを読む

CONTACT お問い合わせ

岡山 / Okayama

0867-42-3690

東京 / Tokyo

03-6810-4830

お問い合わせはこちら