TECH COLUMN 技術コラム

5章:最先端プロセス技術
5-11. 新材料・新構造の研究トレンド

材料・加工技術

公開日:

【1】なぜ“新材料・新構造”が求められているのか

微細化(スケーリング)は2nm前後で限界に近づいており、
従来の「シリコン × CMOS」では性能伸びしろが小さくなっている。

 

そのため、世界の研究開発は次の方向へ向かっている:

● 材料を変える(Si → 2D材料、強誘電材料など)

● 構造を変える(FinFET → GAA → Beyond GAA)

動作原理を変える(電子 → スピン・フォトン・強誘電)

これが「ポストCMOS」と呼ばれる大きな潮流。

【2】フェロエレクトリック材料(Strong Ferroelectric / FeFET)

FeFETは、強誘電体を使った新しいトランジスタ。

● FeFETの特徴

 ・ゲート絶縁膜に >HfO₂ベースの強誘電膜 を使用

 ・残留分極(PR)がメモリとして利用可能

 ・超低消費電力(SRAMより低い)

 ・不揮発性メモリとして動作

 ・ロジックと同じプロセスで作れる可能性が高い(CMOS互換)

● 期待される応用

 ・AI推論の近傍計算(Near-memory computing)

 ・超省電力メモリ(NV-SRAM代替)

 ・神経模倣デバイス(ニューロモルフィック)

● 課題

 ・信頼性(分極疲労)

 ・書き換え寿命

 ・高温安定性

Intel、imec、Samsungなどが研究を加速している。

【3】カーボンナノチューブFET(CNT-FET)

シリコンの次 として最も注目されている候補のひとつ。

● CNTの強み

 ・キャリア移動度がSiの10倍以上

 ・電流駆動能力が高い

 ・ゲート制御性が強い

 ・低電圧動作が可能

 ・微細化しても特性劣化が小さい

 ・CMOS互換デバイスとして実現可能

● 実現が難しい理由

 ・CNTの金属/半導体の分離が困難

 ・チューブ径のばらつき

 ・配向(向きを揃える)の難易度

 ・大面積で均一に並べる技術が未成熟

IBM・Stanford・TSMCが共同で研究中。

【4】2D材料デバイス(MoS₂・グラフェン 等)

デバイスを原子数層の厚さで作るという発想。

● なぜ2D材料が注目される?

 ・厚みが原子レベル → チャネルスケーリングが容易

 ・表面が完全に平坦 → ばらつきが小さい

 ・電界制御性が極めて高い

 ・短チャネル効果に強い

 ・ボディ効果が小さい

特に MoS₂(2D半導体)グラフェン(高移動度材料) が代表。

● 課題

 ・大面積合成の難しさ

 ・金属接触抵抗が高い

 ・量産スケールでの均一性が未確立

「ポストGAA」の最有力候補と見られている。

【5】光デバイス・シリコンフォトニクス

電子の代わりに光で計算・通信する技術。

● 光デバイスが必要な理由

データセンターでは電力消費が限界に近い。
電子配線は距離が伸びるほど遅延と消費電力が増大。

光(フォトン)は:

 ・抵抗による損失がゼロ

 ・長距離伝送が低損失

 ・高帯域で高速

● シリコンフォトニクスの強み

 ・CMOSラインで製造可能

 ・光通信との親和性

 ・データセンター内の光配線化が加速

● 現状の課題

 ・光源(レーザー)がSiで作れない

 ・プロセス歩留まり

 ・温度依存性の補償が必要

将来は AIチップ × 光インターコネクト が本命になる。

【6】スピントロニクス(Spintronics)

電子のスピンを使う新しい計算方式。

● 特徴

 ・低消費電力

 ・不揮発性

 ・超高速スイッチング

 ・MRAMの高速化に直結

● 応用

 ・STT-MRAM(既に量産)

 ・電力不要のメモリ

 ・ニューロモルフィック素子

● 課題

 ・材料の安定性

 ・スイッチング電流の削減

 ・スケーリング限界

「メモリとロジックの境界を曖昧にする技術」でもあり、
AI処理に向いた構造として注目されている。

【7】ポストCMOSの方向性(総まとめ)

世界の研究は次の3軸で進んでいる:

(A)材料を変える

 ・CNT

 ・2D材料

 ・強誘電体

 ・新規絶縁膜

 ・光材料

●(B)構造を変える

 ・GAA

 ・ナノシート → ナノワイヤ

 ・CFET(N型・P型を縦に積む)

 ・3Dロジック

●(C)動作原理を変える

 ・スピントロニクス

 ・ニューロモルフィック

 ・光計算

 ・量子デバイス

これらは2nm以降 の突破口。

特に CFET(Complementary FET) は、TSMC・Samsung・imecが本格研究中で、

GAAの次に来る可能性が高い。

【8】まとめ(5-11)

 ・微細化の壁を突破するため、新材料・新構造が不可欠

 ・FeFETは論理+メモリ統合の鍵

 ・CNT/2D材料はポストCMOS候補

 ・シリコンフォトニクスはデータセンター革命

 ・スピントロニクスは不揮発・省電力の本命技術

 ・世界は材料 × 構造 × 計算方式の3軸で進化中

【理解チェック】

1.FeFETが注目される理由を説明してください。

2.CNT-FETが実用化に難しい最大の理由は何か?

3.MoS₂などの2D材料が微細化に強い理由を挙げよ。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。

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