【1】なぜ“新材料・新構造”が求められているのか
微細化(スケーリング)は2nm前後で限界に近づいており、
従来の「シリコン × CMOS」では性能伸びしろが小さくなっている。
そのため、世界の研究開発は次の方向へ向かっている:
● 材料を変える(Si → 2D材料、強誘電材料など)
● 構造を変える(FinFET → GAA → Beyond GAA)
動作原理を変える(電子 → スピン・フォトン・強誘電)
これが「ポストCMOS」と呼ばれる大きな潮流。
【2】フェロエレクトリック材料(Strong Ferroelectric / FeFET)
FeFETは、強誘電体を使った新しいトランジスタ。
● FeFETの特徴
・ゲート絶縁膜に >HfO₂ベースの強誘電膜 を使用
・残留分極(PR)がメモリとして利用可能
・超低消費電力(SRAMより低い)
・不揮発性メモリとして動作
・ロジックと同じプロセスで作れる可能性が高い(CMOS互換)
● 期待される応用
・AI推論の近傍計算(Near-memory computing)
・超省電力メモリ(NV-SRAM代替)
・神経模倣デバイス(ニューロモルフィック)
● 課題
・信頼性(分極疲労)
・書き換え寿命
・高温安定性
Intel、imec、Samsungなどが研究を加速している。
【3】カーボンナノチューブFET(CNT-FET)
シリコンの次 として最も注目されている候補のひとつ。
● CNTの強み
・キャリア移動度がSiの10倍以上
・電流駆動能力が高い
・ゲート制御性が強い
・低電圧動作が可能
・微細化しても特性劣化が小さい
・CMOS互換デバイスとして実現可能
● 実現が難しい理由
・CNTの金属/半導体の分離が困難
・チューブ径のばらつき
・配向(向きを揃える)の難易度
・大面積で均一に並べる技術が未成熟
IBM・Stanford・TSMCが共同で研究中。
【4】2D材料デバイス(MoS₂・グラフェン 等)
デバイスを原子数層の厚さで作るという発想。
● なぜ2D材料が注目される?
・厚みが原子レベル → チャネルスケーリングが容易
・表面が完全に平坦 → ばらつきが小さい
・電界制御性が極めて高い
・短チャネル効果に強い
・ボディ効果が小さい
特に MoS₂(2D半導体) と グラフェン(高移動度材料) が代表。
● 課題
・大面積合成の難しさ
・金属接触抵抗が高い
・量産スケールでの均一性が未確立
「ポストGAA」の最有力候補と見られている。
【5】光デバイス・シリコンフォトニクス
電子の代わりに光で計算・通信する技術。
● 光デバイスが必要な理由
データセンターでは電力消費が限界に近い。
電子配線は距離が伸びるほど遅延と消費電力が増大。
光(フォトン)は:
・抵抗による損失がゼロ
・長距離伝送が低損失
・高帯域で高速
● シリコンフォトニクスの強み
・CMOSラインで製造可能
・光通信との親和性
・データセンター内の光配線化が加速
● 現状の課題
・光源(レーザー)がSiで作れない
・プロセス歩留まり
・温度依存性の補償が必要
将来は AIチップ × 光インターコネクト が本命になる。
【6】スピントロニクス(Spintronics)
電子のスピンを使う新しい計算方式。
● 特徴
・低消費電力
・不揮発性
・超高速スイッチング
・MRAMの高速化に直結
● 応用
・STT-MRAM(既に量産)
・電力不要のメモリ
・ニューロモルフィック素子
● 課題
・材料の安定性
・スイッチング電流の削減
・スケーリング限界
「メモリとロジックの境界を曖昧にする技術」でもあり、
AI処理に向いた構造として注目されている。
【7】ポストCMOSの方向性(総まとめ)
世界の研究は次の3軸で進んでいる:
(A)材料を変える
・CNT
・2D材料
・強誘電体
・新規絶縁膜
・光材料
●(B)構造を変える
・GAA
・ナノシート → ナノワイヤ
・CFET(N型・P型を縦に積む)
・3Dロジック
●(C)動作原理を変える
・スピントロニクス
・ニューロモルフィック
・光計算
・量子デバイス
これらは2nm以降 の突破口。
特に CFET(Complementary FET) は、TSMC・Samsung・imecが本格研究中で、
GAAの次に来る可能性が高い。
【8】まとめ(5-11)
・微細化の壁を突破するため、新材料・新構造が不可欠
・FeFETは論理+メモリ統合の鍵
・CNT/2D材料はポストCMOS候補
・シリコンフォトニクスはデータセンター革命
・スピントロニクスは不揮発・省電力の本命技術
・世界は材料 × 構造 × 計算方式の3軸で進化中
【理解チェック】
1.FeFETが注目される理由を説明してください。
2.CNT-FETが実用化に難しい最大の理由は何か?
3.MoS₂などの2D材料が微細化に強い理由を挙げよ。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



