■放射とは何か
熱の移動には、
●伝導
●対流
●放射
の三つがある。
伝導は、材料内部や接触した物体同士を通して熱が移動する。
対流は、空気や液体の流れによって熱が運ばれる。
一方、放射は、
物質同士が直接接触していなくても熱が移動する。
代表的な例が太陽である。
太陽と地球の間には、空気がほとんど存在しない。
それでも太陽の熱は地球へ届く。
これは電磁波としてエネルギーが移動しているためである。
■すべての物体は熱を放射している
温度を持つ物体は、赤外線を中心とした電磁波を放出している。
温度が高くなるほど、一般的に放射するエネルギーも増える。
つまり電子機器も、
サーバーも、
建物も、
人体も、
常に周囲へ熱を放射している。
通常の熱設計では、伝導や対流が大きな役割を持つため、放射は補助的に扱われることも多い。
しかし、条件によっては放射を積極的に利用することができる。
■放射冷却とは何か
放射冷却とは、
物体が持つ熱を赤外線として外部へ放出し、温度を下げる技術である。
特に注目されているのが、
夜間だけでなく昼間にも冷却する放射冷却である。
地球の大気には、特定の波長の赤外線を比較的通しやすい領域がある。
この波長帯を利用すると、地表の熱エネルギーを上空、さらに宇宙方向へ放射できる。
つまり考え方としては、
宇宙を巨大な熱の逃げ場として利用することになる。
■なぜ太陽光がある昼間でも冷やせるのか
昼間は太陽から大量のエネルギーが入ってくる。
そのため、単純に赤外線を放射するだけでは、太陽光による加熱の方が大きくなる。
そこで昼間の放射冷却材料には、
太陽光をできるだけ反射することと、
必要な赤外線を効率よく放射することが求められる。
つまり、太陽からの熱は受け取らない。
自分の熱は外へ出す。
という、波長ごとに異なる働きを持つ表面を作る。
これが放射冷却材料の重要な考え方である。
■白い材料が使われる理由
太陽光による加熱を抑えるため、放射冷却材料は白色や高反射率の表面を持つことが多い。
太陽光を吸収すると、そのエネルギーが熱へ変わる。
逆に多くを反射すれば、物体の温度上昇を抑えられる。
ただし、
白ければすべて放射冷却材料になるわけではない。
太陽光の反射性能に加えて、赤外線をどの波長でどの程度放射できるかが重要になる。
■放射冷却の最大の特徴
放射冷却の大きな特徴は、
ファンやポンプを使わずに冷却できる可能性がある
ことである。
空冷ではファンを回す。
液冷ではポンプを使う。
放射冷却では、表面そのものから熱を放射する。
そのため条件が合えば、
●消費電力をほとんど使わない
●可動部がない
●騒音がない
●保守部品が少ない というメリットがある。
エネルギー消費を抑えたい分野では、大きな魅力になる。
■ただし、どこでも強力に冷やせるわけではない
放射冷却には限界もある。
例えば、高発熱のAI半導体から短時間に大量の熱を取り除く用途では、放射だけで対応することは難しい。
放射によって単位面積から逃がせる熱量には限界がある。
また、
●周囲温度
●湿度
●雲
●空への見通し
●表面状態 によっても性能が変わる。
つまり放射冷却は、
高発熱部品を直接強力に冷却する技術
というより、
製品や設備への熱流入を減らしたり、表面から補助的に熱を逃がしたりする技術
として考えた方が分かりやすい。
■空が見えることが重要
放射冷却では、熱を上空方向へ放射する。
そのため、放射面の上に別の物体があると、その物体との間で放射が行われる。
例えば屋根の上に放射冷却材を設置する場合、空が直接見える条件では効果を得やすい。
一方、密閉された電子機器の内部では、放射した赤外線を周囲の部品が受け取る。
つまり、
密閉された小さな箱の中で、放射だけによって熱を外へ捨てることは難しい。
この点が電子機器への応用では重要になる。
■建物との相性が良い
放射冷却の代表的な用途の一つが、建物である。
屋根や外壁に放射冷却材料を使えば、
●太陽光の吸収を抑える
●建物表面の熱を外へ放射する
●室内への熱流入を減らす ことが期待できる。
その結果、空調負荷を減らせる可能性がある。
つまり建物では、
熱くなった後に冷房するだけでなく、
そもそも熱くなりにくくする という考え方ができる。
■屋外設備にも可能性がある
屋外に設置される、
●通信機器
●電力設備
●ESS
●センサー
●制御盤
などでは、太陽光による温度上昇が問題になる。
筐体表面へ高反射・高放射特性を持つ材料を使うことで、内部温度上昇を抑えられる可能性がある。
特に電源を使えない場所や、ファンを使いにくい設備ではメリットがある。
■EVでも「冷やす」より「熱を入れない」という考え方がある
自動車では、車体が太陽光を受けて高温になる。
その熱は、
●車室
●バッテリー
●電子機器 にも影響する。
放射冷却や高反射表面を使えば、
外部から入ってくる熱を減らす
ことができる可能性がある。
これは、バッテリーを直接冷却する液冷とは異なる考え方である。
液冷は内部で発生した熱を取り除く。
放射冷却は、外部から入る熱や表面に蓄積する熱を抑える。
両者は役割が違う。
■放射率とは何か
放射冷却を考える上で重要になる指標の一つが、放射率である。
放射率は、物体が熱放射をどの程度行いやすいかを表す。
同じ温度でも、表面材料や状態によって放射される熱量は異なる。
例えば、
●表面処理
●コーティング
●表面粗さ
●材料種類 によって放射特性は変わる。
そのため熱設計では、内部材料の熱伝導率だけでなく、
表面が熱をどのように放射するか
を見ることも重要になる。
■金属は熱を伝えやすいが、表面放射は別問題
銅やアルミは熱伝導性に優れる。
しかし、
熱を伝えやすい材料だから、熱をよく放射する とは限らない。
材料内部の熱伝導と、表面からの熱放射は別の特性である。
そのため、
金属で熱を表面まで運び、
表面処理やコーティングによって放射性能を高める
という組み合わせも考えられる。
つまり熱対策では、内部で熱を運ぶ材料と、
表面から熱を出す機能を分けて考えることができる。
■放射冷却は他の冷却方式と組み合わせる
放射冷却だけで、高発熱電子機器のすべての熱を処理することは難しい。
しかし、
●空冷
●液冷
●熱拡散
●断熱
●放射冷却
を組み合わせれば、システム全体の冷却負荷を下げられる可能性がある。
例えば、
内部の高発熱部品は液冷する。
筐体内部の熱を金属へ広げる。
外表面では放射冷却を利用する。という考え方である。
次世代熱設計では、
一つの冷却方法ですべてを解決するのではなく、
発熱場所と熱量に応じて複数の方法を組み合わせることが重要になる。
■AIデータセンターでの放射冷却
AIデータセンターのGPUを直接、放射だけで冷却することは現実的ではない。
しかし建物レベルでは、
●屋根からの熱流入を減らす
●建物表面温度を下げる
●空調負荷を減らす
という可能性がある。
つまりAIデータセンターでも、
チップ冷却技術ではなく、
建物全体の熱負荷を減らす技術として関係する可能性がある。
■研究者視点 : 放射冷却は「波長を設計する熱対策」である
一般的な熱対策では、
●熱伝導率
●熱抵抗
●風量
●流量 などを見る。
放射冷却では、それに加えて、
どの波長の光を反射し、どの波長の赤外線を放射するかが重要になる。
つまり放射冷却は、熱工学だけでなく、
光学と材料設計が交わる技術でもある。
■現場視点 : 表面が変われば性能も変わる
放射冷却は表面特性を利用する。
そのため、
●汚れ
●ホコリ
●傷
●紫外線劣化
●コーティング劣化
によって性能が変化する可能性がある。
初期状態で高い性能があっても、屋外で長期間使用すれば表面状態は変わる。
そのため実用化では、初期性能だけでなく、長期耐久性が重要になる。
■OTIS視点
放射冷却材料そのものの研究開発は、OTISの専門領域ではない。
また、放射特性を設計する光学材料メーカーでもない。
一方で、放射冷却材料が、
●フィルム
●シート
●粘着材付き部材
●薄膜積層材
として使用される場合には、
●必要形状への打ち抜き
●粘着材とのラミネート
●積層加工
●リール供給
など、加工面で関われる可能性がある。
ただし、この分野については、
OTISが主役になるのではなく、材料メーカーの技術を量産部材へ加工する役割
と考えるのが適切である。
■OTISでできること
放射冷却材料がフィルムやシートとして供給される場合、
●高精度打ち抜き
●フィルム加工
●粘着材ラミネート
●異種材料積層
●部分ラミネート
●リール・ツー・リール加工
●リール供給
などで貢献できる可能性がある。
■OTISの専門外
OTISは、
●放射冷却材料そのものの開発
●光学特性の設計
●放射率制御材料の研究
●建物全体の冷却設計
●放射冷却システム全体の設計
を専門とする会社ではない。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ 建築・建材
★★★★★ エネルギー設備
★★★★☆ 屋外通信設備
★★★★☆ ESS
★★★★☆ EV・モビリティ
★★★☆☆ データセンター
★★★☆☆ 電子機器筐体
■まとめ
放射冷却は「熱を運ぶ」のではなく、「熱を電磁波として外へ出す」
空冷は空気へ熱を渡す。
液冷は液体へ熱を渡す。
放射冷却は、
熱を赤外線として外へ放出する。
ファンやポンプを必要としないため、
●省エネルギー
●無騒音
●可動部なし という特徴がある。
一方で、高発熱の半導体を放射だけで冷却することには限界がある。
そのため放射冷却は、
高発熱部品を直接冷却する技術
というより、
外部からの熱流入を抑え、システム全体の冷却負荷を減らす技術
として期待される。
そして今後の熱対策では、
空冷。
液冷。
熱拡散。
断熱。
放射冷却。 を使い分け、
熱をどこから入れず、どこへ運び、どこから捨てるかを設計することが重要になる。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


