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7. 次世代冷却技術編 冷やすから、熱を制御する時代へ
7-3. ベイパーチャンバー(後編) ― 熱を「その場で逃がす」のではなく、「広げてから逃がす」技術 ―

材料・加工技術

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7. 次世代冷却技術編 冷やすから、熱を制御する時代へ<br>7-3. ベイパーチャンバー(後編) ― 熱を「その場で逃がす」のではなく、「広げてから逃がす」技術 ―

前編では、ベイパーチャンバーの原理と、その性能を左右する内部構造・接触界面について見てきた。
液体の蒸発と凝縮によって熱を広げる仕組み。
ドライアウトという限界。
薄型化と熱輸送能力のトレードオフ。
そしてTIMや絶縁材、粘着材との組み合わせによって初めて機能が成立するという点である。

では、こうした特性を持つベイパーチャンバーは、実際にどのような製品で、どのように使われているのか。
スマートフォンでは、なぜ薄い筐体の中でベイパーチャンバーが必要とされるのか。
AIサーバーでは、小さなチップの熱をどう大きなヒートシンクへつなげるのか。
3D半導体やロボットでは、どのような課題が新たに生まれるのか。

後編では、こうした応用例を見た上で、熱を広げる方向性や周辺部材の一体化といった実務上の設計課題を整理する。

■スマートフォンでベイパーチャンバーが使われる理由

スマートフォンは、

●高性能SoC

●高速通信

●高性能カメラ

●高速充電

などによって、発熱が増えている。

しかし本体を厚くすることは難しい。

大型ファンも搭載できない。

 

そこで、薄い筐体内部で熱を広い範囲へ分散させる技術が重要になる。

ベイパーチャンバーによって、

SoC付近の熱
 ↓
筐体の広い範囲へ拡散

することで、一部分だけが極端に熱くなることを抑える。

 

つまりスマートフォンでは、部品を冷やすだけでなく、

ユーザーが触る表面温度を均一化する目的もある。

■AIサーバーでは高い熱流束への対応が重要になる

AI半導体では、小さな面積から大量の熱が発生する。

この熱をそのまま大型ヒートシンクへ渡すだけでは、ヒートシンク全体を十分に使えない場合がある。

そこでベイパーチャンバーなどを使って、熱を広い面積へ拡散する。

特に空冷では、

チップの小さな熱源面積

を、

ヒートシンクの大きな面積

へ変換する役割が重要になる。

 

将来的には、ベイパーチャンバーと液冷を組み合わせる構造も考えられる。

つまりベイパーチャンバーは、

空冷専用技術でも、

液冷専用技術でもない。

熱源と最終冷却装置の間に入る熱拡散技術である。

■3D半導体では熱を広げるだけでは足りない場合もある

3D半導体では、発熱源が内部に存在する。

そのため表面にベイパーチャンバーを置くだけでは、内部から表面までの熱抵抗を解決できない場合がある。

 

つまり、

内部の熱源
 ↓
パッケージ表面
 ↓
TIM
 ↓
ベイパーチャンバー

という前半の熱経路が重要になる。

ここで熱が止まれば、ベイパーチャンバーの性能を十分に使えない。

 

3D実装では、熱を広げる技術だけでなく、

内部から熱を取り出す技術が重要になる。

これは7-6で詳しく扱う。

■ロボットにもベイパーチャンバーの考え方は応用できる

高性能ロボットでは、

●AI演算装置

●モータードライバー

●バッテリー

●通信部品 などの発熱が増えている。

しかし大型ファンや大きなヒートシンクを配置しにくい。

そこで薄い熱拡散部材を使い、

局所的な熱を筐体やフレームへ広げる

という考え方が重要になる。

用途によっては、グラファイト、ヒートパイプ、ベイパーチャンバーなどの組み合わせが候補になる。

■熱を広げる方向も重要

すべての方向へ均一に熱を広げればよいとは限らない。

例えば製品の一方には、

●バッテリー

●温度に弱いセンサー

●人が触る部分 がある。

反対側には、

●金属筐体

●ヒートシンク

●冷却部材 がある。

この場合、

冷やしたくない方向へ熱を広げることは望ましくない。

 

そこで、

●ベイパーチャンバーの形状

●グラファイトの配置

●断熱材

●TIMの位置

●接触部位

を組み合わせて、熱を望ましい方向へ誘導する。

次世代熱設計では、熱を最大限広げるよりも、熱をどこへ広げるかが重要になる。

■形状自由度には限界がある

ベイパーチャンバーは、内部に蒸気空間やウィック構造を持つ。

そのため、一般的な金属板のように自由に穴を開けたり、複雑な形状へ加工したりできるとは限らない。

外形、曲げ、穴、切り欠きなどには、内部構造上の制約がある。

つまり、

ベイパーチャンバー本体は、通常の金属箔加工とは別の専門技術

である。

 

一方、その周辺に配置される、

●TIM

●絶縁フィルム

●粘着材

●EMI材

●保護材

は、複雑な形状への加工が必要になることがある。

ここが精密加工メーカーとの接点になる。

■ベイパーチャンバー周辺では多機能化が進む

実際の製品では、ベイパーチャンバー単体だけを配置するわけではない。

その周辺には、

●熱を伝えるTIM

●電気を止める絶縁材

●固定する粘着材

●ノイズを抑えるEMI材

●保護フィルム

●緩衝材

などが存在する。

 

つまり、熱拡散だけでなく、絶縁・固定・ノイズ・保護を同時に成立させる必要がある。

一枚一枚を別工程で貼り付ければ、位置ズレの機会が増える。

可能であれば、複数材料をあらかじめ積層して供給することで、顧客工程を減らせる場合がある。

■周辺部材の一体化という考え方

例えば、

ベイパーチャンバー
 +
絶縁フィルム
 +
粘着材

を必要な位置関係で一体化する。

あるいは、

TIM
 +
キャリアフィルム
 +
位置決め用形状

として供給する。

これによって、

●貼付回数削減

●位置精度向上

●部品管理削減

●自動化しやすさ向上 につながる可能性がある。

 

一方で積層数が増えれば、

●熱抵抗

●反り

●厚み

●界面 も増える。

つまり一体化は、 多ければ多いほど良い のではない。

必要な機能を、必要な層数でまとめることが重要になる。

■研究者視点 : ベイパーチャンバーは熱伝導率だけでは評価できない

ベイパーチャンバーは、単純な金属板ではない。

内部で、

●蒸発

●蒸気移動

●凝縮

●毛細管による液戻り が同時に起きる。

そのため性能は、

●作動液

●ウィック構造

●蒸気空間

●厚み

●姿勢

●熱入力

●冷却位置 などによって変わる。

単純な「熱伝導率」の一つの数字だけで、すべての性能を表すことは難しい。

 

さらに実製品では、

●TIM

●接触面積

●接触圧力

●周辺部材 も加わる。

したがって、ベイパーチャンバー単体ではなく、

実際の熱経路全体として評価する必要がある。

■現場視点 : 高性能部材を入れれば冷える、ではない

ベイパーチャンバーを採用した。

しかし温度が下がらない。

この場合、

ベイパーチャンバー自体の性能不足だけを疑うべきではない。

確認するべきなのは、

●発熱体との位置

●TIMの厚み

●気泡

●接触圧力

●ベイパーチャンバーの反り

●冷却側の接触状態

●熱を捨てる先 である。

ベイパーチャンバーは熱を広げる。

しかし、

入ってこない熱は広げられない。

出ていく場所がない熱も捨てられない。

熱源から排熱先まで、すべてがつながって初めて機能する。

■設計時に確認すべきこと

ベイパーチャンバーを使う場合、少なくとも次の点を確認する必要がある。

熱源

●発熱量はいくらか

●発熱面積はどの程度か

●ホットスポットはどこか

●熱をどの方向へ広げたいか

 

接触界面

●TIMは適切か

●TIM厚みは適切か

●気泡は発生しないか

●接触圧力は十分か

●発熱源と正しく位置が合っているか

 

ベイパーチャンバー

●必要な熱輸送能力があるか

●厚みは製品へ収まるか

●ドライアウトの可能性はないか

●平面度は十分か

●外力で変形しないか

 

周辺部材

●絶縁が必要か

●粘着材はどこに必要か

●EMI対策は必要か

●段差吸収材は必要か

●材料を一体化できるか

 

最終排熱

●熱をどこへ捨てるのか

●ヒートシンクか

●筐体か

●空冷か

●液冷か

 

ベイパーチャンバーだけを選んでも、熱問題は解決しない。

熱源から最終排熱までの一つの経路として設計する必要がある。

■OTIS視点 : OTISが狙うのは、ベイパーチャンバーそのものではなく「その上下」

OTISは、ベイパーチャンバー本体を開発・製造する会社ではない。

内部の、

●ウィック構造

●作動液

●真空封止

●蒸気流路

を設計することは専門外である。

しかしベイパーチャンバーが実際の製品で機能するためには、

その上と下に、多くの薄膜機能部材が必要になる。

 

例えば、

発熱体
 ↓
TIM
 ↓
ベイパーチャンバー
 ↓
絶縁材・粘着材
 ↓
ヒートシンク・筐体

という構成である。

ここで、

TIMが0.2mmずれる。

絶縁フィルムが反る。

粘着材が熱源直上へ入り込む。

気泡が発生する。

端部にバリがある。

こうした小さな加工差によって、ベイパーチャンバーの性能を十分に使えなくなる可能性がある。

 

つまりOTISの役割は、

ベイパーチャンバーを作ることではない。

ベイパーチャンバーへ熱を正しく入れ、正しく出すための周辺部材を成立させることにある。

■OTISでできること

OTISでは、

●TIMの高精度打ち抜き

●熱伝導シート加工

●グラファイト加工

●銅箔・アルミ箔加工

●絶縁フィルム加工

●粘着材加工

●EMI材加工

●発泡体・緩衝材加工

●高精度ラミネート

●異種材料積層

●部分ラミネート

●ハーフカット

●リール・ツー・リール加工

●自動貼付向け供給形態

●複数機能材の一体化

などを通じて、ベイパーチャンバー周辺の機能部材を量産で使える状態へ加工することに貢献できる。

 

特に重要なのは、

熱伝導層

絶縁層

粘着層 を、必要な位置関係で精度よく配置することである。

■OTISの専門外

OTISは、

●ベイパーチャンバー本体の設計・製造

●ウィック構造開発

●作動液開発

●真空封止技術

●ヒートシンク設計

●冷却システム全体の設計

●CFD専業解析

を専門とする会社ではない。

 

ただし、ベイパーチャンバーメーカー、材料メーカー、冷却装置メーカー、顧客と連携し、

ベイパーチャンバーと発熱体・冷却部材をつなぐ機能部材を量産可能な形へする

領域では貢献できる。

■この技術が重要になる産業

★★★★★ AIサーバー・高性能コンピューティング

★★★★★ 半導体・先端パッケージ

★★★★★ スマートフォン

★★★★★ 通信機器

★★★★☆ ロボット・自動化機器

★★★★☆ ウェアラブル機器

★★★★☆ 車載電子機器

★★★★☆ 高性能産業機器

■まとめ

ベイパーチャンバーは、熱を冷やす技術ではなく、熱を広げる技術である

高性能な電子機器では、

小さな場所から大量の熱が発生する。

この熱をそのまま冷却しようとすると、局所的な温度が高くなる。

 

そこでベイパーチャンバーは、

液体の蒸発。

蒸気の移動。

凝縮。

液体の戻り。

という循環を利用し、小さな熱源から広い面積へ熱を移す。

しかしベイパーチャンバーにも限界がある。

薄くすれば内部空間が小さくなる。

熱量が大きすぎればドライアウトする。

反れば接触状態が悪くなる。

TIMが浮けば熱が入らない。

最終的な排熱先が不足すれば熱は捨てられない。

 

つまり、

ベイパーチャンバーだけで熱問題は解決しない。

重要なのは、

発熱体
 ↓
TIM
 ↓
ベイパーチャンバー
 ↓
ヒートシンク・筐体・液冷

までを、一つの熱経路として成立させることである。

そしてOTISにとって重要なのは、ベイパーチャンバー本体を作ることではない。

その周辺に存在する、

TIM。

絶縁フィルム。

粘着材。

グラファイト。

金属箔。

EMI材。

こうした薄い機能材料を、

必要な形状・厚み・位置へ加工し、ベイパーチャンバーが本来の性能を発揮できる状態にすることである。

高性能な熱拡散部品があっても、熱の入口と出口が正しくつながっていなければ、その性能は使えない。

だからベイパーチャンバーの性能を支えるのは、

内部の高度な相変化技術だけではない。

その上下にある、わずか数十μmから数mmの界面なのである。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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