■液冷とは何か
液冷とは、水や専用冷却液などの液体を使い、発熱体から熱を回収して別の場所へ運ぶ冷却方式である。
基本的な流れは、
発熱体
↓
TIM
↓
コールドプレート
↓
冷却液
↓
配管
↓
熱交換器
となる。
空冷では、発熱体からヒートシンクへ熱を移し、最後に空気へ渡す。
液冷では、発熱体の近くに冷却液を通し、液体へ熱を渡す。
この違いが大きい。
■なぜ液体は熱を運びやすいのか
空気と比べて、液体は一般に、
・密度が高い
・熱容量が大きい
・熱を受け取れる量が大きい
という特徴を持つ。
そのため、同じ体積を移動させる場合、空気よりも多くの熱を運びやすい。
空冷では大量の空気を流すため、大きなファンや流路が必要になる。
一方、液冷では比較的小さな流路でも、多くの熱を輸送できる。
これが、高密度なAIサーバーなどで液冷が注目される大きな理由である。
■液冷の最大の強みは「熱源の近くで冷やせる」こと
液冷の大きな利点は、冷却能力だけではない。
冷却する場所を熱源へ近づけられる
ことである。
空冷では、
半導体
↓
TIM
↓
ヒートシンク
↓
空気
と熱を移す。
さらにサーバー内部の空気をラック外へ出し、データセンター全体で処理する必要がある。
液冷では、
半導体
↓
TIM
↓
コールドプレート
↓
冷却液
と、熱源の近くで熱を回収できる。
つまり熱が筐体内へ広がる前に、熱を捕まえて別の場所へ運ぶことができる。
■コールドプレートとは何か
液冷で代表的に使われるのが、コールドプレートである。
コールドプレートは、金属板の内部などに冷却液が流れる通路を設け、発熱部品と接触させて熱を回収する部品である。
例えばGPUの場合、
GPU
↓
TIM
↓
コールドプレート
↓
冷却液
という構造になる。
GPUから発生した熱をTIMでコールドプレートへ渡し、その熱を内部を流れる冷却液が持ち去る。
冷却液は熱交換器へ運ばれ、そこで熱を外部へ放出する。
■液冷でもTIMは重要である
液冷というと、
「液体が直接冷やしてくれるのでTIMは重要ではなくなる」
ように思われることがある。
しかし、多くの液冷構造では、
発熱体とコールドプレートの間に界面が存在する。
その間には、
・TIM
・熱伝導シート
・熱伝導グリス
・相変化材料 などが使われる。
ここで接触不良が起これば、熱はコールドプレートまで十分に届かない。
つまり、
液冷性能が高くても、その手前の界面が悪ければ冷えない。
液冷になっても、
・浮き
・気泡
・厚み
・接触圧力
・平面度
の重要性はなくならない。
むしろ高発熱になるほど、界面の影響は大きくなる。
■液冷は一種類ではない
液冷には複数の方式がある。
代表的には、
・Direct-to-Chip液冷
・コールドプレート方式
・浸漬冷却
・リアドア型熱交換
・ハイブリッド空冷・液冷
などがある。
目的は同じでも、
液体をどこまで熱源へ近づけるか
が異なる。
■Direct-to-Chip液冷
Direct-to-Chipでは、CPUやGPUなどの高発熱部品にコールドプレートを直接取り付ける。
発熱源のすぐ近くで熱を回収できるため、高い冷却能力を期待できる。
一方で、
・コールドプレート
・配管
・ポンプ
・継手
・シール
・TIM
など、多くの部品が必要になる。
つまり冷却能力は高いが、接続部と界面が増えるという特徴がある。
そして接続部が増えるほど、漏液や組立不良のリスクも増える。
■浸漬冷却とは何か
浸漬冷却では、電子機器そのものを絶縁性の冷却液へ浸す。
電子部品の周囲を液体が直接流れるため、
・ファンを減らせる
・熱源へ近い場所で冷却できる
・高い発熱密度へ対応しやすい
という特徴がある。
一方で、
・冷却液と材料の適合性
・ケーブルや樹脂の耐久性
・メンテナンス
・液体管理
・部品交換時の扱い
などが課題になる。
つまり浸漬冷却では、
電気的に安全な液体
であるだけでなく、
長期間、周辺材料を劣化させない液体 であることが必要になる。
■液冷でも最後は熱を捨てる必要がある
液冷は熱を消しているわけではない。
液体は、
熱を別の場所へ運んでいる
だけである。
冷却液が受け取った熱は、最終的に、
・外気
・冷却塔
・チラー
・水系統
などへ放出する必要がある。
つまり液冷でも、
発熱源
↓
冷却液
↓
熱交換器
↓
外部
という熱経路が存在する。
液冷は、熱を捨てる技術ではなく、熱を効率よく移動させる技術と考えた方がよい。
■液冷の大きな課題は漏液
液冷で最も分かりやすいリスクの一つが、漏液である。
電子機器の近くに液体を流す以上、
・配管接続部
・継手
・Oリング
・シール部
・コールドプレート接合部
などから液体が漏れる可能性を考える必要がある。
漏液が発生すると、
・電子部品故障
・腐食
・絶縁不良
・設備停止
につながる可能性がある。
そのため液冷では、冷却性能と同じくらい、
シール信頼性が重要になる。
■シール材は小さくても重要な部品になる
液冷システムでは、
・Oリング
・ガスケット
・シールフィルム
・接着材
・防水テープ
などが使われる。
これらの部材は、コールドプレートやポンプと比べれば小さく見える。
しかしシール部が機能しなければ、液冷システム全体が成立しない。
特に、
・厚み不足
・位置ズレ
・圧縮不足
・異物
・バリ
・接合面の段差
があると、局所的な隙間ができる可能性がある。
つまり液冷では、冷却能力を決める部品と、
液体を漏らさない部品の両方が重要になる。
■シールは圧縮量が重要になる
ガスケットや発泡シール材では、適切な圧縮が必要になる。
圧縮が不足すれば、
隙間が残り、漏液につながる可能性がある。
一方、圧縮しすぎると、
・材料が潰れる
・長期使用で復元しにくくなる
・周辺部品へ過剰な力がかかる
・シール材が外側へはみ出す ことがある。
そのためシール部材では、
材料の厚み
加工精度
組立時の圧縮量
を一体で考える必要がある。
■熱と防水・シールが同じ場所に存在する
液冷では、熱を効率よく伝えたい。
しかし液体は漏らしたくない。
この二つの要求は、ときに矛盾する。
例えばシール材を厚くすれば、段差を吸収しやすくなる。
しかし熱経路にシール材が入れば、熱抵抗が増える場合がある。
逆に熱抵抗を減らすために部材を薄くすると、シール性が不足することがある。
つまり液冷では、放熱性能と、シール性能を同時に成立させる必要がある。
■絶縁も重要になる
液冷システムでは、液体の種類や構造によって電気絶縁の考え方が異なる。
特に電子部品の近くでは、
・金属製コールドプレート
・配管
・導電性部材
・電極
・回路 が近接する。
そのため、
・絶縁フィルム
・絶縁シート
・絶縁コーティング
・絶縁粘着材
などが必要になる場合がある。
ここでも、熱を通したいと、
電気は通したくないという複合課題が生まれる。
■絶縁材は薄ければよいわけではない
絶縁フィルムを薄くすれば、熱抵抗を下げやすい。
しかし薄くしすぎると、
・バリの影響を受けやすい
・異物で破損しやすい
・絶縁距離に余裕がなくなる
・ピンホールの影響が大きくなる 可能性がある。
液冷では、冷却部材の近くへ高電圧や高電流部品が存在することもある。
そのため、
熱性能
絶縁性
長期信頼性
のバランスが重要になる。
■金属部品と冷却液の組み合わせも重要
液冷では、冷却液が、
・銅
・アルミ
・ステンレス
・樹脂
・ゴム
・接着材
など、さまざまな材料に接触する。
材料と冷却液の組み合わせによっては、
・腐食
・膨潤
・硬化
・劣化
・析出
などが起こる可能性がある。
つまり液冷では、熱性能だけで材料を選べない。
冷却液との化学的な相性も考える必要がある。
■異種金属では腐食にも注意する
液冷系統では、複数の金属材料が使われることがある。
例えば銅とアルミ。
異なる金属が電解質となり得る液体を介して接触すると、条件によって電気化学的な腐食が起こる可能性がある。
腐食が進めば、
・流路が詰まる
・表面状態が変わる
・漏液が発生する
・熱伝達性能が変化する
可能性がある。
そのため液冷では、材料の組み合わせ、冷却液の管理、表面処理なども重要になる。
■流路が細くなるほど冷却性能は上げやすいが、管理は難しくなる
コールドプレート内部では、冷却液の流路を細かく設計することで、熱交換面積を増やすことができる。
しかし流路が細くなると、
・圧力損失が増える
・ポンプ負荷が増える
・異物で詰まりやすくなる
・製造精度が必要になる
という問題が生じる。
つまり、
細かい流路で冷却能力を高めることと、
安定して液体を流すことのバランスが必要になる。
■ポンプにも電力が必要である
液冷はファンを減らせる可能性がある。
しかし液体を流すためにはポンプが必要になる。
流路抵抗が大きくなれば、より強いポンプが必要になる。
つまり液冷でも、
冷却のための電力
は必要である。
液冷の優位性を考えるときは、
「ファンが減る」
だけでなく、
・ポンプ
・熱交換器
・チラー
・制御装置
を含めて、冷却システム全体の効率を見る必要がある。
■液冷はメンテナンスの考え方も変える
空冷では、
・ファン交換
・フィルター清掃
・ヒートシンク清掃
などが主な保守になる。
液冷では、
・冷却液の状態
・配管
・継手
・ポンプ
・シール材
・漏液検知
などの管理が必要になる。
つまり液冷へ移行すると、
冷却方式だけでなく、保守方法そのものが変わる。
設備導入時の冷却能力だけでなく、長期運用まで考える必要がある。
■漏液を検知する仕組みも必要になる
液冷では、「漏れないように設計する」ことが重要である。
しかし同時に、漏れた場合に早く検知することも重要になる。
例えば、
・漏液センサー
・圧力監視
・流量監視
・冷却液量監視
・温度監視
などを使い、異常を検出する。
液冷では、冷却システム自体が監視対象になる。
■AIサーバーでは液冷との相性が良い
AIサーバーでは、
・GPU
・CPU
・HBM
・電源部品
などから大量の熱が発生する。
さらにラック当たりの発熱量も大きくなる。
空冷では、大量の空気を流す必要がある。
液冷なら、熱源の近くで熱を回収し、配管によって外へ運ぶことができる。
そのため、高発熱・高密度というAIサーバーの特徴と、液冷は相性がよい。
今後、AIサーバーの高性能化が進むほど、液冷の重要性はさらに高まると考えられる。
■3D半導体では「熱源へどこまで近づけるか」が重要になる
3D半導体では、複数のチップやメモリが近い距離で積層される。
熱源が内部へ集中するため、外側から冷却するだけでは、内部の熱を十分に取り出せない可能性がある。
そのため将来的には、
より熱源に近い位置で熱を回収する冷却技術が重要になる。
液冷は、その有力な選択肢の一つである。
ただし、冷却部材をチップへ近づけるほど、
・絶縁
・接触精度
・シール
・薄膜化
・微細加工 への要求も厳しくなる。
ここは7-6「3D実装向け熱対策」でさらに詳しく扱う。
■EVやESSでも液冷は重要になる
EVやESSの電池では、多数のセルが発熱する。
セル間の温度差が大きくなると、
・性能差
・劣化速度の差
・寿命
・安全性
へ影響する可能性がある。
そこで冷却プレート内部へ冷却液を流し、電池全体の温度を管理する方式が使われる。
この場合も、
セル
↓
熱伝導材
↓
冷却プレート
の間の接触状態が重要になる。
つまり液冷になっても、冷却プレートと熱源をつなぐ部材は必要である。
■液冷で重要になる薄膜部材
液冷システムでは、大型のコールドプレートやポンプだけが重要なのではない。
その周辺には、
・TIM
・熱伝導シート
・絶縁フィルム
・ガスケット
・シール材
・粘着材
・金属箔
・EMI材
・漏液検知用部材
など、多くの薄膜・シート部材が使われる可能性がある。
これらは一つ一つは小さい。
しかし、
一つでも機能しなければ液冷システム全体の信頼性へ影響する。
液冷が普及するほど、その周辺の高精度機能部材の重要性も高くなる。
■研究者視点 : 液冷では「熱抵抗」と「流体抵抗」を同時に見る
液冷では、冷却性能だけを高めようとして流路を細かくすると、流体抵抗が大きくなる。
流体抵抗が増えれば、ポンプ動力が必要になる。
逆に流路を広くすれば、液体は流しやすいが、熱交換面積や熱伝達が不十分になる可能性がある。
つまり液冷では、熱を伝えやすくすることと、
液体を流しやすくすることを同時に考える必要がある。
さらに、
・漏液
・腐食
・材料適合性
・シール耐久性
まで含めると、液冷は非常に複合的な設計になる。
■現場視点 : 液冷トラブルは「冷えない」だけではない
空冷のトラブルでは、「温度が高い」という形で問題が見えることが多い。
液冷では、それに加えて、
・漏れる
・詰まる
・腐食する
・ポンプが止まる
・シールが劣化する
・冷却液が変質する といった問題が起こる可能性がある。
つまり液冷では、熱性能だけでなく、液体を安全に管理し続けることが品質になる。
■設計時に確認すべきこと
液冷を検討するときは、少なくとも次の点を確認する必要がある。
熱
・どこが最も発熱しているか
・どこまで冷却液を近づける必要があるか
・TIMや熱伝導材の熱抵抗は適切か
・接触圧力は十分か
・気泡や浮きはないか
液体
・冷却液は何を使うか
・流量は十分か
・流路抵抗は大きすぎないか
・冷却液の長期安定性はあるか
・異物や析出による詰まりはないか
シール
・漏液しやすい場所はどこか
・シール材の厚みは適切か
・圧縮量は適切か
・熱サイクル後もシール性を維持できるか
・異物やバリの影響はないか
材料
・冷却液との適合性はあるか
・異種金属腐食のリスクはないか
・樹脂や粘着材が膨潤・劣化しないか
・絶縁性は十分か
量産
・シール部材を安定して加工できるか
・TIMを正しい位置へ貼れるか
・自動組立へ対応できる形状か
・漏液検査方法は決まっているか
液冷は、単なる冷却装置ではない。
熱・液体・絶縁・シール・材料を一体で設計するシステムなのである。
■OTIS視点 : 液冷装置そのものより、その周辺部材にOTISの接点がある
OTISは、
・ポンプメーカー
・コールドプレートメーカー
・チラーメーカー
・液冷システム設計会社
ではない。
しかし液冷システムには、
・TIM
・放熱シート
・絶縁材
・ガスケット
・シール材
・粘着材
・金属箔
・EMI材
など、多数の機能部材が必要になる。
そしてこれらには、
・厚み
・位置
・穴形状
・シール幅
・バリ
・積層精度
・自動供給性
が求められる。
例えばシール材が0.5mmずれれば、液体の流路とシールラインの位置関係が変わる。
バリや異物があれば、ガスケットが全面で圧縮されない可能性がある。
TIMが浮けば、コールドプレートの冷却能力を十分に使えない。
つまり液冷でも、
大きな冷却装置の性能を、小さな加工部材が支えている。
ここはOTISが貢献できる可能性の高い領域である。
■OTISでできること
OTISでは、
・TIM加工
・熱伝導シート加工
・グラファイト加工
・絶縁フィルム加工
・ガスケット・シール材加工
・発泡体加工
・粘着材加工
・銅箔・アルミ箔加工
・EMI材加工
・高精度ラミネート
・異種材料積層
・部分ラミネート
・高精度打ち抜き
・ハーフカット加工
・リール供給
・自動組立向け供給形態設計
などを通じて、液冷システム周辺の機能部材を量産で使える状態へ加工することに貢献できる。
特に、
熱を通す部材
電気を止める部材
液体を止める部材
を、必要な位置関係で一体化することは、OTISの加工技術との接点が大きい。
■OTISの専門外
OTISは、
・コールドプレートそのものの流路設計
・ポンプ設計
・冷却液の開発
・液冷システム全体の設計
・データセンター冷却設備設計
・CFD専業解析
を専門とする会社ではない。
ただし、材料メーカー、コールドプレートメーカー、設備メーカー、顧客と連携し、
液冷システムを成立させる薄膜・絶縁・シール・熱伝導部材を量産可能な形へ加工する
領域では貢献できる。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー・データセンター
★★★★★ 半導体・先端パッケージ
★★★★★ EV・次世代電池
★★★★★ ESS
★★★★☆ 通信機器
★★★★☆ 産業用コンピューター
★★★★☆ ロボット
★★★★☆ 高出力電源機器
■まとめ
液冷は、熱をよく運べる。しかし液体を安全に扱う必要がある
液冷の大きな魅力は、
熱源の近くで熱を回収し、大量の熱を効率よく別の場所へ運べることである。
AIサーバーや高性能半導体の発熱密度が上がるほど、この利点は大きくなる。
しかし液冷では、新しく、
・漏液
・シール
・絶縁
・腐食
・配管
・ポンプ
・材料適合性
・メンテナンス
という課題が生まれる。
そして、液冷になっても、
TIM。
絶縁フィルム。
ガスケット。
粘着材。
シール材。
こうした小さな部材の重要性はなくならない。
むしろ冷却能力が高くなるほど、
熱源と冷却装置の間を正しくつなぐこと
液体を絶対に漏らさないこと の重要性は高くなる。
つまり液冷とは、空冷より強い冷却技術というだけではない。
熱・液体・絶縁・シールを同時に成立させる技術なのである。
そして、その中でOTISが狙うべき領域は、ポンプや冷却装置そのものではない。
液冷システムの性能と信頼性を支える「薄い機能部材」なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



