■スマートデバイスでは何が熱を出すのか
主な熱源には、
● SoC
● CPU・GPU
● 通信IC
● 5G・Wi-Fi回路
● バッテリー
● 充電回路
● カメラ
● ディスプレイドライバー
● AI演算回路
などがある。
特に最近は、
● 高性能AI処理
● 高画質動画
● ゲーム
● 高速通信
● 急速充電
によって、短時間に大きな熱が発生する場面が増えている。
つまりスマートデバイスは、小さな筐体の中に、多数の熱源を抱える製品である。
■スマートフォンではファンを使いにくい
PCならファンを付けられる。
サーバーなら大型ヒートシンクを使える。
しかしスマートフォンでは、
● 薄さ
● 防水
● 騒音
● 消費電力
● デザイン
の制約がある。
そのため、多くの場合、>強制空冷に頼りにくい。
そこで重要になるのが、熱を広げる技術である。
■一点を冷やすより、熱を面に広げる
例えばSoCが局所的に高温になるとする。
そこへ大型ヒートシンクは置けない。
その場合、
SoC
↓
TIM
↓
グラファイト
→→→ 筐体全体へ熱を拡散
という構造が考えられる。
一部分だけ熱くなるのを避け、
より広い面積へ熱を分散する。
これによって局所温度を下げる。
つまりスマートデバイスでは、熱を捨てるというより、
熱を広げて濃度を下げるという考え方が重要になる。
■グラファイトがよく使われる理由
グラファイトは、
● 薄い
● 軽い
● 面方向の熱伝導性が高い
という特徴を持つ。
スマートフォンのように厚み制約が厳しい製品では、この特徴が非常に有効である。
厚い銅板を入れるより、
薄いグラファイトで熱を広げる。
これによって重量と厚みを抑えながら、局所熱を分散できる。
■ただしグラファイトには加工上の難しさがある
グラファイトは万能ではない。
材料によっては、
● 脆い
● 端部が欠けやすい
● 粉が出る
● 導電性がある
● 薄くなるほど扱いにくい
という特徴がある。
そのため実際には、
● 保護フィルム
● 絶縁フィルム
● 粘着材
と組み合わせて使用する場合がある。
つまり、
グラファイト単体
ではなく、
複合部材
として扱うことが多い。
■熱を広げすぎると、人が触る場所が熱くなる
スマートフォンでは、
SoCだけが熱い状態より、熱を筐体全体へ広げた方が局所温度は下がる。
しかし、広げた熱がユーザーの手に触れる面へ移れば、
本体全体が熱く感じる
ことになる。
つまりスマートデバイスでは、熱を広げればよいだけではない。
どこへ広げるかが重要になる。
■カメラやバッテリーへ熱を流してはいけない
スマートフォン内部には、
- カメラモジュール
- バッテリー
- センサー
など、温度の影響を受ける部品もある。
SoCの熱を横方向へ広げた結果、
バッテリーを温める。
カメラ周辺を温める。
ということは避けたい。
そのため、熱の方向を制御する必要がある。
グラファイトの形状。
金属箔の配置。
断熱材。
接触位置。
これらによって熱経路を作る。
■スマートデバイスではベイパーチャンバーも使われる
高性能スマートフォンでは、局所的な高発熱に対応するため、ベイパーチャンバーが使われる場合がある。
SoC
↓
TIM
↓
ベイパーチャンバー
↓
筐体へ熱拡散
という構造である。
ベイパーチャンバーによって、小さな熱源から広い範囲へ熱を移す。
しかしスマートフォンでは、薄さが非常に重要になる。
そのため、ベイパーチャンバー自体の薄型化も求められる。
■ベイパーチャンバーが薄くなるほど周辺部材も薄くしたい
ベイパーチャンバーを0.1mm薄くしても、その上下にある、
● TIM
● 粘着材
● 絶縁フィルム
が厚ければ、製品全体は薄くならない。
つまり薄型化では、冷却部材単体ではなく、
周辺部材を含めた積層厚みを見る必要がある。
ここで薄膜加工の価値が高くなる。
■スマートデバイスでは0.1mmが大きい
スマートフォン全体の厚みが数mm程度しかない中で、
0.1mmは非常に大きい。
例えば、
TIM 0.2mm。
絶縁フィルム 0.05mm。
粘着材 0.05mm。
保護フィルム 0.05mm。
これらを積み重ねれば、簡単に厚みが増える。
つまり、
各部材の数十μmが、製品設計の自由度を左右する。
■薄くすると加工は難しくなる
薄膜化すれば、
● 軽い
● 薄い
● 熱抵抗を小さくしやすい
というメリットがある。
一方で、
● シワ
● 伸び
● 破れ
● 折れ
● 貼付ズレ
が起こりやすくなる。
つまり、薄膜化と、加工安定性は反対方向に働く。
■金属箔も熱対策に使える
銅箔やアルミ箔は、
● 薄い
● 熱を伝える
● 加工しやすい
という特徴がある。
必要な場所だけに金属箔を配置し、
熱を特定方向へ導くことができる。
例えば、
SoC付近
→→→ 金属フレーム
へ熱を誘導する。
つまり、
薄い金属箔を熱の配線として使う 考え方もできる。
■ただし金属箔は電気も通す
銅やアルミは導電性を持つ。
そのため基板やアンテナの近くで使う場合、
● 短絡
● ノイズ
● アンテナ特性
への影響を考える必要がある。
つまり、
熱対策と電気設計 を同時に考える必要がある。
■5G・高速通信では熱と電波が近づく
スマートフォンでは、
アンテナ。
通信IC。
RF部品。
が狭い空間に配置される。
そこへ金属製の熱拡散部材を追加すれば、アンテナ特性へ影響する可能性がある。
つまり、
熱的に良い配置 と、電波的に良い配置 が一致するとは限らない。
そのため、
● 金属箔
● グラファイト
● 絶縁材
の配置は慎重に設計する必要がある。
■EMI対策と放熱を一体化できる可能性もある
一方で、金属箔はEMIシールドとしても使える。
つまり、
放熱+EMI
という複合機能を持たせられる可能性がある。
例えば銅箔を、
ノイズ対策。
熱拡散。
の両方へ利用する。
ただし導電経路や接地方法を含めた設計が必要になる。
■バッテリーの熱も重要になる
スマートデバイスでは、バッテリーが大きな体積を占める。
急速充電。
高負荷使用。
によってバッテリー温度が上がる場合がある。
しかしバッテリーは、
高温にしたくない。
そのためSoCや通信ICの熱をバッテリー側へ流さない設計が重要になる。
■急速充電では短時間に熱が増える
急速充電では、大きな電力を短時間で扱う。
すると、
● バッテリー
● 充電IC
● コネクター周辺
が発熱する。
つまりスマートデバイスでは、使用中の熱だけでなく、
充電中の熱も考える必要がある。
■カメラも熱の影響を受ける
高性能スマートフォンでは、大型イメージセンサーや複数カメラが搭載される。
カメラ周辺の温度が上がると、
● センサーノイズ
● 画質
● 光学部材
へ影響する可能性がある。
つまり、
SoCは冷やしたい。
しかしカメラへ熱を流したくない。
という配置上の課題が生まれる。
■AR・VRではさらに熱が人に近づく
AR・VR機器では、
● ディスプレイ
● 高性能演算
● カメラ
● センサー
● 通信
が顔の近くに配置される。
さらに製品は軽くしたい。
つまり、
発熱源と人体の距離が非常に近い。
そのため、
● 表面温度
● 重量
● 装着感
が重要になる。
■AR・VRでは顔側へ熱を逃がせない
顔へ直接触れる部分が熱くなれば、
● 不快
● 発汗
● 装着継続性低下
につながる。
そのため、
顔側では断熱し、
外側へ熱を逃がす
という熱経路が重要になる。
これは医療ウェアラブルと似ている。
■スマートウォッチではさらに空間が小さい
スマートウォッチでは、
● SoC
● バッテリー
● センサー
● 無線通信
が非常に小さな筐体に入る。
しかも皮膚へ直接接触する。
そのため、
大型冷却部材は使えない。
熱を広げる。
人体側を断熱する。
ケース側へ逃がす。
といった工夫が必要になる。
■ウェアラブルでは熱と装着性がつながる
機器が熱い。
蒸れる。
違和感がある。
そうするとユーザーは外す。
つまり、
熱対策は使用継続率
にも影響する。
スマートウォッチや健康管理デバイスでは、長時間装着することが価値になるため、この意味は大きい。
■防水すると熱は逃げにくくなる
スマートフォンやスマートウォッチでは、防水性能が重要になる。
しかし防水のために筐体を密閉すると、
空気が流れない。
つまり内部の熱を外へ逃がしにくくなる。
そこで、
● 筐体
● フレーム
● 熱拡散材
を使って熱を外装へ移す必要がある。
■シール材も必要になる
防水構造では、
● ガスケット
● 両面テープ
● シール材
などが使われる。
これらは、
水を止める
役割を持つ。
一方で、配置場所によっては熱経路にも影響する。
つまり、
防水設計と熱設計も切り離せない。
■粘着材はスマートデバイスで非常に重要
スマートデバイス内部では、
● ディスプレイ固定
● バッテリー固定
● グラファイト固定
● 絶縁フィルム固定
● カメラ固定
など、多くの部材が粘着材で固定される。
つまり、
貼る技術 そのものが製品設計の重要部分になる。
■まとめ
ここまで見てきたように、スマートデバイスの熱問題は、大型装置とはまったく違う制約の中にある。
ファンも大型ヒートシンクも使えない中で、局所的な熱をグラファイトやベイパーチャンバーで広げ、局所温度を下げる。
しかし熱を広げるだけでは不十分で、その熱がどこへ向かうかが重要になる。
バッテリーを温めてはいけない。
カメラの画質へ影響してはいけない。
そして何より、ユーザーが触れる面を熱くしてはいけない。
AR・VRやスマートウォッチのように、人体へさらに近づいたデバイスでは、この「熱をどこへ逃がすか」という問いがより切実になる。
顔側や皮膚側は断熱し、外装側へ熱を逃がす。
熱設計とは、熱を捨てる技術である以上に、熱の行き先を選ぶ技術になる。
後編では、こうした熱設計を実際にどう薄い部材として実現し、複雑な形状のまま、大量に、自動で組み込んでいくのか。
その加工・量産面の課題と、OTISの役割を見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


