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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか
8-7. スマートデバイスの熱問題(前編) ― 小さく、薄く、高性能になるほど、熱を逃がす場所がなくなる ―

材料・加工技術

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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか<br>8-7. スマートデバイスの熱問題(前編) ― 小さく、薄く、高性能になるほど、熱を逃がす場所がなくなる ―

スマートフォン。
スマートウォッチ。
AR・VR機器。
イヤホン。
ウェアラブルセンサー。
これらのスマートデバイスは、年々高性能化している。
一方で、ユーザーが求めるのは、
• 薄い
• 軽い
• 小さい
• 長時間使える
• 静か
• 防水
• 高性能
という条件である。
つまり、性能は上げたい。
しかし熱対策のための空間は増やせない。という矛盾がある。
ここがスマートデバイスの熱問題の本質である。

■スマートデバイスでは何が熱を出すのか

主な熱源には、

● SoC

● CPU・GPU

● 通信IC

● 5G・Wi-Fi回路

● バッテリー

● 充電回路

● カメラ

● ディスプレイドライバー

● AI演算回路

などがある。

 

特に最近は、

● 高性能AI処理

● 高画質動画

● ゲーム

● 高速通信

● 急速充電

によって、短時間に大きな熱が発生する場面が増えている。

つまりスマートデバイスは、小さな筐体の中に、多数の熱源を抱える製品である。

■スマートフォンではファンを使いにくい

PCならファンを付けられる。

サーバーなら大型ヒートシンクを使える。

しかしスマートフォンでは、

● 薄さ

● 防水

● 騒音

● 消費電力

● デザイン

の制約がある。

そのため、多くの場合、>強制空冷に頼りにくい。

そこで重要になるのが、熱を広げる技術である。

■一点を冷やすより、熱を面に広げる

例えばSoCが局所的に高温になるとする。

そこへ大型ヒートシンクは置けない。

その場合、

SoC
 ↓
TIM
 ↓
グラファイト
→→→ 筐体全体へ熱を拡散

という構造が考えられる。

一部分だけ熱くなるのを避け、

より広い面積へ熱を分散する。

これによって局所温度を下げる。

つまりスマートデバイスでは、熱を捨てるというより、

熱を広げて濃度を下げるという考え方が重要になる。

■グラファイトがよく使われる理由

グラファイトは、

● 薄い

● 軽い

● 面方向の熱伝導性が高い

という特徴を持つ。

スマートフォンのように厚み制約が厳しい製品では、この特徴が非常に有効である。

厚い銅板を入れるより、

薄いグラファイトで熱を広げる。

これによって重量と厚みを抑えながら、局所熱を分散できる。

■ただしグラファイトには加工上の難しさがある

グラファイトは万能ではない。

材料によっては、

● 脆い

● 端部が欠けやすい

● 粉が出る

● 導電性がある

● 薄くなるほど扱いにくい

という特徴がある。

 

そのため実際には、

● 保護フィルム

● 絶縁フィルム

● 粘着材

と組み合わせて使用する場合がある。

 

つまり、

グラファイト単体

ではなく、

複合部材

として扱うことが多い。

■熱を広げすぎると、人が触る場所が熱くなる

スマートフォンでは、

SoCだけが熱い状態より、熱を筐体全体へ広げた方が局所温度は下がる。

しかし、広げた熱がユーザーの手に触れる面へ移れば、

本体全体が熱く感じる

ことになる。

 

つまりスマートデバイスでは、熱を広げればよいだけではない。

どこへ広げるかが重要になる。

■カメラやバッテリーへ熱を流してはいけない

スマートフォン内部には、

  • カメラモジュール
  • バッテリー
  • センサー

など、温度の影響を受ける部品もある。

SoCの熱を横方向へ広げた結果、

バッテリーを温める。

カメラ周辺を温める。

ということは避けたい。

そのため、熱の方向を制御する必要がある。

グラファイトの形状。

金属箔の配置。

断熱材。

接触位置。

これらによって熱経路を作る。

■スマートデバイスではベイパーチャンバーも使われる

高性能スマートフォンでは、局所的な高発熱に対応するため、ベイパーチャンバーが使われる場合がある。

SoC
 ↓
TIM
 ↓
ベイパーチャンバー
 ↓
筐体へ熱拡散

という構造である。

ベイパーチャンバーによって、小さな熱源から広い範囲へ熱を移す。

しかしスマートフォンでは、薄さが非常に重要になる。

そのため、ベイパーチャンバー自体の薄型化も求められる。

■ベイパーチャンバーが薄くなるほど周辺部材も薄くしたい

ベイパーチャンバーを0.1mm薄くしても、その上下にある、

● TIM

● 粘着材

● 絶縁フィルム

が厚ければ、製品全体は薄くならない。

 

つまり薄型化では、冷却部材単体ではなく、

周辺部材を含めた積層厚みを見る必要がある。

ここで薄膜加工の価値が高くなる。

■スマートデバイスでは0.1mmが大きい

スマートフォン全体の厚みが数mm程度しかない中で、

0.1mmは非常に大きい。

例えば、

TIM 0.2mm。

絶縁フィルム 0.05mm。

粘着材 0.05mm。

保護フィルム 0.05mm。

これらを積み重ねれば、簡単に厚みが増える。

つまり、

各部材の数十μmが、製品設計の自由度を左右する。

■薄くすると加工は難しくなる

薄膜化すれば、

● 軽い

● 薄い

● 熱抵抗を小さくしやすい

というメリットがある。

 

一方で、

● シワ

● 伸び

● 破れ

● 折れ

● 貼付ズレ

が起こりやすくなる。

つまり、薄膜化と、加工安定性は反対方向に働く。

■金属箔も熱対策に使える

銅箔やアルミ箔は、

● 薄い

● 熱を伝える

● 加工しやすい

という特徴がある。

必要な場所だけに金属箔を配置し、

熱を特定方向へ導くことができる。

例えば、

SoC付近
→→→ 金属フレーム

へ熱を誘導する。

つまり、

薄い金属箔を熱の配線として使う 考え方もできる。

■ただし金属箔は電気も通す

銅やアルミは導電性を持つ。

そのため基板やアンテナの近くで使う場合、

● 短絡

● ノイズ

● アンテナ特性

への影響を考える必要がある。

つまり、

熱対策と電気設計 を同時に考える必要がある。

■5G・高速通信では熱と電波が近づく

スマートフォンでは、

アンテナ。

通信IC。

RF部品。

が狭い空間に配置される。

そこへ金属製の熱拡散部材を追加すれば、アンテナ特性へ影響する可能性がある。

つまり、

熱的に良い配置 と、電波的に良い配置 が一致するとは限らない。

そのため、

● 金属箔

● グラファイト

● 絶縁材

の配置は慎重に設計する必要がある。

■EMI対策と放熱を一体化できる可能性もある

一方で、金属箔はEMIシールドとしても使える。

つまり、

放熱+EMI

という複合機能を持たせられる可能性がある。

例えば銅箔を、

ノイズ対策。

熱拡散。

の両方へ利用する。

ただし導電経路や接地方法を含めた設計が必要になる。

■バッテリーの熱も重要になる

スマートデバイスでは、バッテリーが大きな体積を占める。

急速充電。

高負荷使用。

によってバッテリー温度が上がる場合がある。

しかしバッテリーは、

高温にしたくない。

そのためSoCや通信ICの熱をバッテリー側へ流さない設計が重要になる。

■急速充電では短時間に熱が増える

急速充電では、大きな電力を短時間で扱う。

すると、

● バッテリー

● 充電IC

● コネクター周辺

が発熱する。

つまりスマートデバイスでは、使用中の熱だけでなく、

充電中の熱も考える必要がある。

■カメラも熱の影響を受ける

高性能スマートフォンでは、大型イメージセンサーや複数カメラが搭載される。

カメラ周辺の温度が上がると、

● センサーノイズ

● 画質

● 光学部材

へ影響する可能性がある。

 

つまり、

SoCは冷やしたい。

しかしカメラへ熱を流したくない。

という配置上の課題が生まれる。

■AR・VRではさらに熱が人に近づく

AR・VR機器では、

● ディスプレイ

● 高性能演算

● カメラ

● センサー

● 通信

が顔の近くに配置される。

さらに製品は軽くしたい。

 

つまり、

発熱源と人体の距離が非常に近い。

そのため、

● 表面温度

● 重量

● 装着感

が重要になる。

■AR・VRでは顔側へ熱を逃がせない

顔へ直接触れる部分が熱くなれば、

● 不快

● 発汗

● 装着継続性低下

につながる。

そのため、

顔側では断熱し、

外側へ熱を逃がす

という熱経路が重要になる。

これは医療ウェアラブルと似ている。

■スマートウォッチではさらに空間が小さい

スマートウォッチでは、

● SoC

● バッテリー

● センサー

● 無線通信

が非常に小さな筐体に入る。

しかも皮膚へ直接接触する。

そのため、

大型冷却部材は使えない。

熱を広げる。

人体側を断熱する。

ケース側へ逃がす。

といった工夫が必要になる。

■ウェアラブルでは熱と装着性がつながる

機器が熱い。

蒸れる。

違和感がある。

そうするとユーザーは外す。

つまり、

熱対策は使用継続率

にも影響する。

スマートウォッチや健康管理デバイスでは、長時間装着することが価値になるため、この意味は大きい。

■防水すると熱は逃げにくくなる

スマートフォンやスマートウォッチでは、防水性能が重要になる。

しかし防水のために筐体を密閉すると、

空気が流れない。

つまり内部の熱を外へ逃がしにくくなる。

そこで、

● 筐体

● フレーム

● 熱拡散材

を使って熱を外装へ移す必要がある。

■シール材も必要になる

防水構造では、

● ガスケット

● 両面テープ

● シール材

などが使われる。

これらは、

水を止める

役割を持つ。

一方で、配置場所によっては熱経路にも影響する。

つまり、

防水設計と熱設計も切り離せない。

■粘着材はスマートデバイスで非常に重要

スマートデバイス内部では、

● ディスプレイ固定

● バッテリー固定

● グラファイト固定

● 絶縁フィルム固定

● カメラ固定

など、多くの部材が粘着材で固定される。

つまり、

貼る技術 そのものが製品設計の重要部分になる。

■まとめ

ここまで見てきたように、スマートデバイスの熱問題は、大型装置とはまったく違う制約の中にある。

ファンも大型ヒートシンクも使えない中で、局所的な熱をグラファイトやベイパーチャンバーで広げ、局所温度を下げる。

しかし熱を広げるだけでは不十分で、その熱がどこへ向かうかが重要になる。

バッテリーを温めてはいけない。

カメラの画質へ影響してはいけない。

そして何より、ユーザーが触れる面を熱くしてはいけない。

 

AR・VRやスマートウォッチのように、人体へさらに近づいたデバイスでは、この「熱をどこへ逃がすか」という問いがより切実になる。

顔側や皮膚側は断熱し、外装側へ熱を逃がす。

熱設計とは、熱を捨てる技術である以上に、熱の行き先を選ぶ技術になる。

 

後編では、こうした熱設計を実際にどう薄い部材として実現し、複雑な形状のまま、大量に、自動で組み込んでいくのか。

その加工・量産面の課題と、OTISの役割を見ていく。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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