1-1. 半導体とは?
【1】導入:身の回りにある「半導体」
私たちが使うスマートフォン、パソコン、自動車、家電、これらすべてに半導体が使われています。
スマートフォンでは演算チップ(CPU)、
自動車では電力制御チップ(パワー半導体)、
カメラでは光を電気信号に変えるセンサーとして活躍しています。
半導体とは、電気を「ちょうどよく」流したり止めたりできる素材です。
この「ちょうどよさ」こそが、現代社会を支える鍵になっています。
【2】半導体の定義
半導体(Semiconductor)とは、
「導体(電気をよく通す)と絶縁体(通さない)の中間の性質を持つ物質」です。
導体:電気を非常によく通す(例:銅、銀、アルミ)
絶縁体:電気をほとんど通さない(例:ガラス、ゴム)
半導体:条件によって電気の通りやすさが変化する(例:シリコン、ゲルマニウム)
【3】半導体の特徴:変わる導電性
半導体の最大の特徴は、「外部条件に応じて電気の流れ方が変わる」ことです。
・温度が上がると電子が動きやすくなり、導電性が上がる。
・光を当てると電子が励起して電流が流れる(光センサーなど)。
・電圧をかけると電流を制御できる(トランジスタなど)。
半導体は「環境を感じて応答する素材」であり、センサーやスイッチに最適です。
【4】半導体が動く仕組み(イメージ)
電気の流れは、「電子(マイナス)」と「正孔(プラスの穴)」の移動によって生じます。
電子(e⁻):マイナスの電荷を持つ粒子。
正孔(hole):電子が抜けたことでできるプラスの空席。
この電子と正孔の数を変化させることで、
電気の流れやすさ(導電性)を自由にコントロールできます。
この操作を「ドーピング」と呼びます(次章で詳しく扱います)。
【5】なぜ「シリコン」が主役なのか
半導体といえば「シリコン」。その理由は以下の3点です。
- 地球上に豊富に存在し、安価で入手しやすい。
- 結晶構造が安定しており、精密加工に適している。
- 酸化膜を作ることができ、絶縁性能に優れている。
シリコンは扱いやすく、高性能でコストも低いため、
現在でも主要素材として使われています。
この「シリコン」の名を冠して、アメリカのIT産業の中心地は、「シリコンバレー」と呼ばれるようになりました。
【6】半導体が使われる主な分野
情報処理分野:CPU、GPUなどの演算チップ
通信分野:スマートフォン、5G基地局などの通信制御
エネルギー分野:太陽電池、EV用パワー半導体
医療分野:生体センサー、診断機器
産業機器分野:ロボット、自動化装置
【7】社会的インパクト
半導体は「産業の米」と呼ばれています。
理由は、ほぼすべての産業に関わる基盤技術だからです。
・コンピュータの進化は半導体の進化で決まる。
・脱炭素社会の実現には高効率パワー半導体が不可欠。
・AI社会の進化には高性能メモリと演算デバイスが必須。
つまり半導体技術とは、「国家の技術力・経済力」を決定する存在です。
【8】未来を形づくる「見えない主役」
半導体は「目に見えないけれど、すべてを動かす存在」です。
スマホも自動車もAIも、根底にあるのは半導体。
私たちの研究・開発・製造は、社会そのものの仕組みをデザインしているとも言えます。
【9】まとめ
・半導体は導体と絶縁体の中間的性質を持つ。
・条件によって電気の流れ方を変えられる制御素材である。
・シリコンが主流だが、新素材(GaN、SiCなど)も台頭している。
・あらゆる産業を支える現代社会の心臓である。
【理解チェック(3問)】
1.半導体の導電性はどのように変化する?
2.シリコンが主役である理由は?
3.半導体の社会的意義を一言で表すと?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



