【1】PN接合とは何か
P型半導体(正孔が多い)とN型半導体(電子が多い)を接合すると、
境界部分で「電子」と「正孔」が出会い、再結合します。
この接合面にできる電子も正孔もいない領域を 空乏層(くうぼうそう) と呼びます。
この空乏層が「電気の通り道を制御する壁」として機能します。
【2】PN接合の内部状態
接合直後、電子はN側からP側へ、正孔はP側からN側へ移動します。
すると、電子と正孔が再結合し、電荷が偏ります。
結果として、P側にはマイナスの固定電荷、N側にはプラスの固定電荷が残り、
境界部に内部電界(電圧の壁)が生じます。
この内部電界が、電子や正孔の自由な移動を妨げるようになります。
【3】空乏層とは
空乏層とは、電子と正孔が再結合して「キャリアが存在しない領域」です。
この部分は電気を通さないため、半導体が一方通行に電流を流す仕組みの根幹になります。
→ 言い換えると、「電気の踏切の遮断機」のようなものです。
→ 進行方向が正しければ開くが、逆向きでは閉じてしまう。
【4】順方向バイアスと逆方向バイアス
(1)順方向バイアス
・P型側にプラス電圧、N型側にマイナス電圧をかける。
・内部電界の壁が低くなり、電子と正孔が再び動き出す。
・結果として電流が流れる。
(2)逆方向バイアス
・P型側にマイナス電圧、N型側にプラス電圧をかける。
・内部電界の壁が高くなり、キャリアは動けなくなる。
・電流はほとんど流れない。
このように、PN接合は一方向にしか電流を流さない性質を持ちます。
これが「整流作用」です。
【5】ダイオードとは
ダイオードとは、このPN接合を1つ持つ素子のことです。
電流を一方向に流すことができるため、
電気回路では「チェックバルブ(逆流防止弁)」のような役割を果たします。
用途:
・電源回路(交流→直流への整流)
・逆電流防止
・電圧安定化(ツェナーダイオード)
・光の発生(LED)
【6】ダイオードの電流の立ち上がり
順方向に電圧をかけると、最初は電流がほとんど流れません。
しかし、ある一定の電圧(シリコンで約0.7V)を超えると、急に電流が流れ始めます。
これを閾値電圧(スレッショルド電圧)と呼びます。
材料によって値は異なります(例:ゲルマニウムは約0.3V)。
【7】LEDもPN接合
発光ダイオード(LED)もPN接合の一種です。
順方向バイアスで電子と正孔が再結合する際、
余ったエネルギーが光(フォトン)として放出されます。
発光色は材料のバンドギャップの大きさで決まります。
(例:赤=小さいギャップ、青=大きいギャップ)
【8】逆方向バイアスの応用(ツェナーダイオード)
通常、逆方向では電流が流れませんが、
ある電圧を超えると絶縁破壊が起こり、電流が流れます。
この現象を利用して「電圧を一定に保つ」素子がツェナーダイオードです。
このように、PN接合は「制御の起点」であり、
電流を意図的に流したり止めたりする設計の基礎です。
【9】PN接合の未来的課題
・ナノスケール化による空乏層の制御困難化
・リーク電流(逆方向での微小電流)対策
・高温動作・高電圧対応素材(SiC, GaN)への置換
・量子トンネル効果による新しいスイッチング方式の研究
→ これらを克服することで、より高効率な電力変換や省エネデバイスが実現します。
【10】まとめ
・PN接合は、P型とN型を接合した領域にできる「電気の壁」。
・順方向では電流が流れ、逆方向では流れない。
・この性質がダイオードやLEDなどの基本原理。
・微細化と高性能化により、新しい接合構造(GAA, 3D積層)も登場している。
【理解チェック(3問)】
1.空乏層とは何か?
2.ダイオードが一方向にしか電流を流さない理由は?
3.LEDが光る理由は?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



