【1】はじめに
半導体の歴史は、単なる技術史ではなく、
人類の「情報と制御」を追い求めた物語です。
70年以上の間に、真空管 → トランジスタ → IC → LSI → AIチップ へと進化し、
社会・経済・文化を根本から変えてきました。
【2】第1章:黎明期(1930〜1950年代)
● 1930年代:ドイツで半導体整流素子「セレン整流器」が実用化。
● 1947年:アメリカ・ベル研究所で世界初のトランジスタを発明(ショックレー、バーディーン、ブラッテン)。
→ これが「半導体時代の幕開け」。
● 1950年代:真空管に代わり、小型で低電力のトランジスタが急速に普及。
この発明は、ノーベル物理学賞(1956年)を受賞。
以降、半導体が電子社会のエンジンになっていきます。
【3】第2章:集積回路(IC)の誕生(1960年代)
● 1958年:ジャック・キルビー(Texas Instruments)が世界初のICを発明。
● 同年、フェアチャイルド社のノイスが平面技術を確立。
→ トランジスタ・抵抗・配線を1枚のチップ上に集積可能に。
この時代のキーワード:
「小型化」「信頼性」「大量生産」。
NASAのアポロ計画や軍事通信でも使用され、国家的戦略産業に成長。
【4】第3章:LSI・VLSI時代(1970〜1980年代)
● 1971年:Intelが世界初のマイクロプロセッサ「4004」を発表。
→ 計算機能を1チップに統合。
● 1970〜80年代:日本企業(NEC、東芝、日立、富士通など)が世界を席巻。
→ DRAM・マイコン・家電・ウォークマン時代の到来。
この時代に「ムーアの法則」が登場。
→ 「半導体の集積度は18〜24か月で2倍になる」。
この経験則が業界の指針となり、世界的な技術競争を生んだ。
【5】第4章:PCとインターネットの時代(1990〜2000年代)
● 1990年代:PCの普及、Windows時代の幕開け。
● CPU性能が飛躍的に向上(Pentium、Athlonなど)。
● メモリとストレージの容量が急増。
● 携帯電話やデジカメなどに半導体が大量搭載。
→ 半導体は「人間の知的活動を拡張するツール」となった。
【6】第5章:スマートフォンとAIの時代(2010年代〜)
● 2007年:iPhone登場。SoC(System on Chip)が主流に。
● CPU、GPU、メモリ、通信モジュールを1チップに集積。
● AI・ディープラーニングの発展により「GPU」「NPU」需要が爆発。
● ファウンドリ(受託製造)モデルが確立(TSMC・Samsungが台頭)。
→ 設計と製造の分業体制が進み、「設計力 × 製造力」の競争が始まった。
【7】第6章:現在と未来(2020年代〜)
● 微細化は2nm世代へ突入。
● 3D積層、Chiplet構造、GAAFET技術が登場。
● 材料はSiからSiC、GaN、Ga₂O₃など多様化。
● AIチップ、量子半導体、光半導体など新領域が急拡大。
また、地政学的リスク(米中対立、台湾リスク)により、
各国が自国生産体制を強化(アメリカ・日本・EUで大型補助金)。
→ 半導体はもはや「国家安全保障の中核」になっている。
【8】日本の半導体産業の歩み
● 1980年代:世界シェア50%超(DRAM全盛期)。
● 1990年代後半:韓国・台湾勢の台頭により競争力低下。
● 2000年代:装置・素材分野で世界シェアを維持。
● 2020年代:TSMC熊本工場・Rapidus設立など「再興期」へ。
→ 日本は「作る」よりも「支える」技術で世界を支配している。
(フォトレジスト、エッチングガス、精密装置など)
【9】今後の進化方向
● 物理的限界を超える「新原理デバイス」
→ 量子、スピントロニクス、ニューロモルフィック
● AI設計による自動最適化(EDAの進化)
● カーボンニュートラル対応の低エネルギーデバイス
● 半導体×バイオ・半導体×光通信など異分野融合
→ 今後の半導体開発は「性能」だけでなく「目的意識(地球・人類の幸福)」が問われる。
【10】まとめ
● 半導体の歴史は「小さく・速く・賢く・つながる」への挑戦の連続。
● ムーアの法則は終焉しつつあるが、「進化の法則」は続いている。
● 日本は素材・装置・プロセスで世界トップの存在感を維持。
● これからの時代は「テクノロジー × 倫理 × 持続可能性」が鍵。
【理解チェック(3問)】
1.トランジスタが発明されたのはいつ、どこでか?
2.集積回路(IC)が生まれたことで何が可能になったか?
3.現在の半導体産業で最も重要な動向は?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



