街では最近、国内や海外メーカーを問わず、電気自動車(EV)を目にする機会が増えました。
日本自動車販売協会連合会の発表によると、2023年(1月~12月)の日本におけるEV(普通乗用車と軽自動車の合計)の新車販売台数は約9万1000台であり、これは新車販売台数全体の約2.88%にあたります。2020年は0.41%、2021年は0.60%、2022年は1.72%だったこともあり、徐々に普及が進んでいることが数字からも明らかになっております。
これらの変化は、EVが持つ特有の課題(充電時間や場所、総走行距離の短さ)などが各自動車メーカーの技術開発により、解消に向かいつつある結果だと思われます。
上記のような利便性の向上と合わせて重要となるのが「安全性の向上」です。大容量のバッテリーを搭載するEVには、EVバッテリーの「熱暴走」というものが安全性を向上させるうえでの、重大な懸念事項として注目されています。
EVバッテリーの熱暴走については、一般的には次のような変化が生じるとされています。
①EVバッテリーとして使用されるリチウムイオンバッテリー(Li-B)は、製造時の欠陥や事故などによる損傷に起因して、内部短絡(ショート)を起こすことがあります。
②ショートしたLi-Bの内部には、瞬間的に大きな電流が流れ、同時に多量の「熱」が発生します。
③局部で発生した熱は段階的に、Li-B内部での化学反応とそれに伴うさらに大きな熱の発生(約120~140℃)を連鎖的に引き起こします。
④連鎖的に発生した熱は瞬間的にLi-B全体へと広がり、やがて正極部材の熱分解(約220~300℃)によって放出された酸素と、気化した電解液とが激しく燃焼反応を起こし、熱暴走へと至ります。
⑤燃焼に伴う熱は、部材に使用されているアルミニウムを溶融させる温度(約660℃)まで上昇します。
⑥最終的には、正極酸化物とアルミニウムとのテルミット反応が起こり、1,000℃以上もの高温となり、Li-Bの崩壊と車両火災を引き起こします。
ある素材メーカーは、特殊アクリル繊維を原料とした従来の耐炎化繊維に特殊な難燃剤を添加することで、高い限界酸素指数(LOI値)や優れた加工性といった従来品の強みを保持しながら、耐炎性や耐ブラスト性を向上させた、EVバッテリーが熱暴走した際の温度上昇や炎症を抑制する、熱暴走対策向けグレードの耐炎化繊維素材を開発したと発表しました。
この素材は、1分間1300℃の炎にさらされ、200μ~500μの粒子の高圧衝撃を受けても穴が空かない高い耐炎性と耐ブラスト性を備えているとしており、さらに最薄0.8mmの薄さで高性能を維持しながら、柔軟性にも優れており、はさみで簡単に裁断できる加工性を有しているとしています。
この素材を使用し、Li-B全体を覆うなどすれば熱暴走による延焼を遅延させ、車両火災から避難する時間を確保し、人命を守ることに貢献できると考えられます。
フィルム加工・テープ加工のオーティス株式会社では、不織布素材も取り扱っており、不織布のような繊維素材であっても寸法精度を確保する技術がございます。
ウェアラブルデバイスやモバイルバッテリーなどのようなEV以外でもLi-Bは使用される機会が多いため、前出のような素材の利用機会は多岐に及ぶと考えられます。
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