第1章 「貼る」は加工の最終工程であり、最難関
多層フィルム構造の製品では、貼合精度が製品性能を決める。
たとえば光学フィルムでは、位置ズレが透過率ムラを生み、
電子部品では導通位置の誤差が機能不良につながる。
貼合工程は、寸法・粘着・張力・静電気・温度など、
複数の要因が同時に影響する複雑な工程だ。
つまり、貼るという行為は単なる作業ではなく、
多変数を同時に制御する精密加工である。
第2章 粘着は生きている―温度と時間の管理
粘着材は、熱・湿度・経時で特性が変化する生きた素材だ。
温度が高ければ軟化して流れ、低ければ粘着力が不足する。
オーティスでは、貼合室を安定した温湿度で保ち、
ロットごとの粘着変化を貼り合わせ前にテストピースで確認している。
また、剥離ライナーを剥がすスピードや角度によっても、
初期粘着の立ち上がりが変化する。
このため「剥がし方」そのものも工程条件としてデータ化している。
粘着の変化を誤差として扱わず、素材の応答として理解する。
温度・湿度・時間によって粘着は常に変化しており、
その変化を工程の一部として読み取り、安定条件を再現する。
そこに、オーティスの貼合哲学がある。
第3章 ±0.05mmの位置決めを支える仕組み
オーティスの貼合設備は、金型加工技術から生まれた精度思想を受け継いでいる。
位置決めは、基準点をいくつ持つかで決まる。
● ロール to ロール(R2R)貼合では、テンションと送り量の制御をμ単位で補正。
● シート貼合では、CCDカメラによる位置認識とサーボ補正を組み合わせ。
● 治具貼合では、治具側の基準ピンを±0.01mm精度で加工し、ズレを根本から抑制。
さらに、設備側だけでなく、オペレーターが現場で再現できる範囲に設計することも重視している。
人が触れる部分まで含めた精度設計が、オーティスの現場品質を支えている。
第4章 貼合ズレを防ぐ予兆管理
ズレは突然起きるものではなく、必ず予兆がある。
貼合工程では、ロール径の変化、粘着剤の粘度、周囲温度など、
複数の微小変化が重なってズレを誘発する。
オーティスでは、工程内の張力値・送りピッチ・製品カメラ画像を継続的に記録し、
ズレの兆候を「変動グラフ」として可視化している。
このデータは検査や金型の履歴データとも連携され、
後工程の寸法安定性と相関分析ができるようになっている。
結果的に、ズレを直すではなくズレが起きない状態を維持する管理が実現している。
第5章 積層技術―異素材を重ねる知恵
オーティスの強みは、異なる素材の貼合にも対応できること。
PETとPI、粘着と金属箔、グラファイト、ウレタンなど、熱膨張係数の異なる素材を積層する際には、それぞれの動き方を読みながら、貼る順序やテンションを調整している。
また、層構成ごとに剥離テスト・加熱テストを行い、
使用環境(高温・低温・湿度)でも形状が安定するよう最適化している。
この積層技術は、スマートフォン・車載センサー・医療デバイスなど、あらゆる分野で応用が広がっている。
第6章 未来の「自動貼合」と人の感覚の共存
オーティスでは現在、貼合工程の一部に画像認識や位置補正を導入している。
ただし完全自動化を目指すのではなく、
現場の感覚と機械の再現性を融合させる方向に進んでいる。
粘着や材料の微妙な違いは、数値では表せない。
試作時から現場で人が感覚で補い形にし、機械がその結果を学習していく。
AIによる自動貼合制御を設計時から盛り込めれば、将来 もっと難易度が高いことに挑戦できるだろう。
まとめ
±0.05mmの貼合精度は、設備の性能だけでは到達できない。
粘着の呼吸を感じ取り、素材の動きを読み、
貼るという一瞬に全神経を注ぐ人の技術がある。
オーティスの貼合は、単なる製造工程ではなく、
素材と人と機械が一体となる対話のものづくりだ。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。



