【1】はじめに
半導体デバイスとは、電子の流れを制御し、情報を処理・記憶する部品のことです。
スマートフォン、パソコン、自動車、医療機器など、あらゆる電子機器の中に存在しています。
電気回路において、抵抗・コンデンサ・コイルなどの受動部品に対し、半導体デバイスは能動部品(Active Device)と呼ばれます。
【2】デバイスの役割
半導体デバイスの主な役割は次の3つです。
1.スイッチング(ON/OFF制御):電子の流れを止めたり通したりして、情報を「0」と「1」に変換する。
2.増幅(Amplification):弱い信号を大きくする。音声・電波・センサー出力などに利用される。
3.記憶(Storage):一定時間または永続的に電荷を保持し、データとして記録する。
これらの機能を組み合わせることで、演算・通信・制御などの高機能な電子システムが成り立っています。
【3】デバイスの分類(動作原理による)
半導体デバイスは、制御方式の違いによって次のように分類されます。
・ 電流制御型デバイス:バイポーラトランジスタ(BJT)など。ベース電流でコレクタ電流を制御し、主にアナログ増幅や電源制御に用いられる。
・ 電圧制御型デバイス:MOSFETやJFETなど。ゲート電圧でチャネル電流を制御し、デジタル回路やスイッチング用途に用いられる。
・ 光制御型デバイス:フォトダイオードやフォトトランジスタなど。光を電気信号に変換し、光通信やセンサーで利用される。
・ 磁気制御型デバイス:MRAMやスピントロニクス素子など。電子スピンを利用して情報を保持し、不揮発性メモリやAI素子に応用される。
【4】能動素子と受動素子
電気回路における素子は、次の2つに大別されます。
・ 受動素子(Passive Device):外部エネルギーを消費するだけの部品。例として、抵抗・コンデンサ・インダクタがある。
・ 能動素子(Active Device):外部入力を制御・増幅・変換できる部品。トランジスタ、ダイオード、ICなどが代表的。
半導体デバイスは、この能動素子の中心的存在です。
【5】アナログデバイスとデジタルデバイス
半導体デバイスは、扱う信号の種類によって次の2つに分類されます。
・ アナログデバイス:電圧や電流など、連続的な信号を扱う。代表的な例はBJTやオペアンプ。
・ デジタルデバイス:0と1の離散的な信号を扱う。代表的な例はMOSFET、CMOS、ロジックIC、メモリ。
現代の電子機器では、アナログとデジタルが共存しており、たとえばスマートフォンでは音声や映像(アナログ信号)と通信や演算(デジタル信号)が融合しています。
【6】デバイス階層のイメージ
半導体デバイスは、以下のような階層構造で理解できます。
・素子レベル(Device Level):PN接合やMOS構造など、基本的な物理素子の動作を理解する段階。
・回路レベル(Circuit Level):複数の素子を組み合わせ、論理回路や増幅回路を構成する段階。
・システムレベル(System Level):CPU、メモリ、通信チップなど、複数の回路を統合した複合機能モジュールの段階。
研修の初期段階では、まず「素子レベル」での理解を重視します。
【7】半導体デバイスの進化トレンド
半導体技術は、次のように進化してきました。
・ 1970年代:BJTが主流。
・ 1980年代以降:MOSFETが主流に。
・ 2000年代:FinFET構造による3D化が進む。
・ 2020年代:GAA構造やナノシート構造、さらには量子素子の研究が進展。
この進化の方向性は常に「より小さく、より速く、より省エネ」です。
【8】まとめ
・ 半導体デバイスは、電子の流れを制御して信号を処理する能動素子である。
・ デバイスは電流制御型、電圧制御型、光制御型、磁気制御型などに分類される。
・ トランジスタはあらゆる電子機器の心臓部といえる。
・ 進化の中心は、微細化と新しい物理原理の活用にある。
【理解チェック】
1.半導体デバイスの3つの基本機能は何か?
2.BJTとMOSFETの違いは何か?
3.アナログとデジタルデバイスの違いは何か?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



