【1】はじめに
CMOSとは、「Complementary Metal-Oxide-Semiconductor(相補型金属酸化膜半導体)」の略です。
NチャネルMOSFET(NMOS)と PチャネルMOSFET(PMOS)を相補的に組み合わせて、
低消費電力・高集積・高信頼性を実現した構造です。
現代のマイクロプロセッサ、メモリ、スマートフォンなど、
ほぼすべてのデジタル回路がこのCMOS技術を基盤としています。
【2】CMOSの基本構造
CMOSは、次の2種類のMOSFETを1組として動作します。
・NMOS:電子をキャリアとし、ゲートに正電圧でON。
・PMOS:正孔をキャリアとし、ゲートに負電圧でON。
この2つを「直列接続」し、入力信号によって一方がON・もう一方がOFFになるように構成することで、
無駄な電流が流れない仕組みを実現しています。
【3】CMOSインバータ(NOT回路)の構造
CMOSの基本単位はインバータ(反転器)です。
その構成は次の通りです。
・上側にPMOS(電源VDDと出力間)
・下側にNMOS(出力とGND間)
・ゲート端子を共通の入力信号に接続
動作は非常にシンプルです。
- 入力が「L(0V)」の場合:
→ PMOSがON、NMOSがOFF。
→ 出力はVDD(H)になる。 - 入力が「H(VDD)」の場合:
→ PMOSがOFF、NMOSがON。
→ 出力はGND(L)になる。
結果として、入力信号を反転した出力が得られます。
【4】CMOSの動作の特徴
CMOSの最大の特長は、静的消費電力が非常に小さいことです。
● 入力がHまたはLのいずれかの状態では、どちらか一方のトランジスタしかONにならない。
● そのため、電源からGNDへの直流電流がほとんど流れない。
● 消費電力が発生するのは、スイッチング時(状態が変化するとき)のみ。
この「電流が流れない状態で情報を保持できる」という性質が、
CMOSを今日の超低消費電力技術の基盤にしました。
【5】CMOSロジックの拡張
CMOSインバータを基本として、より複雑な論理回路を構成します。
・N AND回路(ANDの否定)
・N OR回路(ORの否定)
・X OR回路(排他的論理和)
これらを多数組み合わせることで、
加算器(ALU)、制御回路、メモリセル、CPUコアといった高度な演算機能を構築できます。
【6】CMOSの利点
CMOS技術が標準化した理由は、その優れたバランス性にあります。
- 静的消費電力が極めて低い
- ノイズ耐性が高く、安定動作
- 集積化が容易で、製造プロセスが単純
- 動作速度が高く、温度特性も良好
これにより、高性能・小型・低消費電力という三拍子が揃った回路設計が可能になりました。
【7】CMOSの課題と限界
微細化が進む中で、以下のような課題も顕在化しています。
- トランジスタ間のリーク電流増加(電力ロス)
- ゲート酸化膜の薄膜化による絶縁破壊
- しきい値電圧(Vth)のばらつき
- 配線抵抗・寄生容量の影響による遅延増大
これらの問題を解決するため、
FinFET構造やGAA構造といった次世代CMOSアーキテクチャが導入されています。
【8】代表的な応用分野
・ CPU、GPUなどのロジック回路
・ メモリ(SRAM、DRAM)
・ マイコン、センサーIC
・ 電源管理IC(PMIC)
・ ディスプレイドライバ、イメージセンサー
つまり、「電子頭脳」と呼ばれる部分のほぼ全てがCMOS技術で構築されています。
【9】まとめ
・ CMOSは、NMOSとPMOSを相補的に組み合わせた構造。
・ 入力電圧によって片方がON・もう片方がOFFになる。
・ 静的電力がほぼゼロで、スイッチング時のみ消費電力が発生。
・ 微細化とともにFinFETなど新構造への進化が進行中。
・ 現代の集積回路技術の標準構造である。
【理解チェック】
1.CMOSとは何の略か?
2.CMOSで消費電力が少ない理由は?
3.CMOSの基本構成素子は何か?
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。
