■平均値が良くても、量産品質が良いとは限らない
例えば、10個の試作品で温度評価を行い、平均温度が目標値を下回ったとする。
平均値だけを見れば、熱対策は成功しているように見える。
しかし実際には、
・非常によく冷えた製品
・目標ぎりぎりの製品
・目標を超えた製品 が混在している可能性がある。
量産では、平均値だけでは不十分である。
顧客が必要としているのは、平均すると冷える製品ではない。
どの製品を使っても、必要な温度範囲へ入ることである。
つまり量産で重要なのは、
・平均値
・最大値
・最小値
・ばらつき
・外れ値
・時間経過による変化 を確認することである。
一個の最高性能より、分布全体の安定性が重要になる。
■熱性能のばらつきは、材料だけから生まれるのではない
量産品の温度差が見つかったとき、
「材料の熱伝導率がばらついたのではないか」
と考えられることがある。
もちろん材料物性のばらつきは確認する必要がある。
しかし実際の熱性能は、材料の熱伝導率だけで決まらない。
例えば、
・部材厚み
・粘着層厚み
・接触面積
・気泡
・異物
・バリ
・反り
・ラミネート位置
・貼付位置
・圧縮率
・接触圧力
・表面状態 によっても変わる。
つまり完成品の熱性能は、材料物性と加工状態を組み合わせた結果である。
材料の熱伝導率が同じでも、接触状態が違えば温度は変わる。
逆に、材料物性に多少の差があっても、接触面積や圧縮状態を安定させることで、製品としての熱性能を一定範囲へ収められる場合もある。
量産設計では、「材料が同じだから性能も同じになる」とは考えない方がよい。
■熱性能をばらつかせる主な要因
熱対策部材の量産ばらつきには、複数の要因が関係する。
代表的なものを整理すると、次のようになる。
材料に関する要因
・熱伝導率のロット差
・基材厚みの差
・粘着材厚みの差
・硬さの差
・圧縮特性の差
・表面粗さの差
・吸湿状態の差
・保管期間による変化
打ち抜きに関する要因
・外形寸法のばらつき
・穴位置のずれ
・バリ高さ
・切断面の荒れ
・金型摩耗
・粘着材の糸引き
・層間剥離
・カス残り
・部材変形
ラミネートに関する要因
・積層位置のずれ
・気泡
・シワ
・異物
・ニップ圧の差
・張力差
・ラミネート速度
・材料温度
・粘着材のはみ出し
リール供給に関する要因
・部材ピッチのばらつき
・巻き癖
・巻き締まり
・剥離力の変化
・キャリアフィルムの伸び
・巻き始めと巻き終わりの差
・保管期間による変化
・輸送中のずれ
組立に関する要因
・貼付位置
・貼付圧力
・圧着時間
・部品表面の汚れ
・相手部品の反り
・締結力
・圧縮量
・貼り直しの有無
これらの要因は、単独で作用するとは限らない。
例えば、
材料が少し厚い。
粘着層も少し厚い。
バリが少し高い。
圧着圧力が少し低い。
それぞれは許容範囲内でも、重なった結果として接触不足が起こる可能性がある。
量産で重要なのは、一つの要因だけを見るのではなく、複数のばらつきが重なった状態を考えることである。
■寸法が規格内でも、熱性能が同じとは限らない
図面寸法がすべて規格内であれば、製品機能も保証されると思われることがある。
しかし熱対策部材では、寸法規格内でも熱性能に差が出る可能性がある。
例えば、外形寸法の許容差が±0.2mmであるとする。
部材が+0.2mm側であれば、熱源を十分に覆える。
しかし-0.2mm側では、熱源の端部を覆えない可能性がある。
図面上は合格でも、熱機能に必要な面積を確保できていないことがある。
また穴位置が許容差内でも、熱源との相対位置によっては、熱が流れる有効断面を狭くする可能性がある。
つまり寸法公差は、加工できる範囲だけで決めるのではなく、
熱機能を維持できる範囲から決める必要がある。
■重要寸法と一般寸法を分ける
すべての寸法を同じ厳しさで管理すると、加工コストが上がる。
一方で、すべての寸法を一般公差で管理すると、熱性能を守れない可能性がある。
そこで重要になるのが、機能上重要な寸法を明確にすることである。
例えば、
・熱源を覆う部分の幅
・冷却板と接触する面積
・放熱材と絶縁材の重なり代
・導電材の露出を防ぐ位置
・細い熱経路部分の幅
・自動機が認識する基準穴
・リール上の製品ピッチ
などは、一般的な外形寸法より厳しく管理すべき場合がある。
一方で、熱や組立へ影響しない端部には、比較的広い公差を設定できることもある。
重要なのは、図面全体を厳しくすることではない。
どの寸法が熱性能を決めているかを理解し、そこへ管理を集中すること
である。
■厚みばらつきは熱抵抗と圧力を同時に変える
熱対策部材では、厚みが重要である。
熱が厚み方向へ流れる場合、一般には部材が厚くなるほど熱の移動距離が長くなる。
一方、柔軟なTIMでは、ある程度の厚みがなければ、部品間の段差や表面凹凸を埋められない。
つまり、
・厚すぎれば熱抵抗が増える
・薄すぎれば隙間を埋められない
という関係がある。
さらに組立時には、部材厚みによって圧縮量が変わる。
同じ隙間へ入れる場合、
厚い部材は強く圧縮される。
薄い部材は圧縮不足になる。
その結果、
・接触圧力
・実接触面積
・材料の変形
・周辺部品への荷重 が変わる。
厚みばらつきは、単に熱の通過距離を変えるだけではない。
組立時の圧力状態そのものを変えるのである。
■多層部材では、各層のばらつきが積み重なる
例えば、一つの部材が、
・熱伝導シート
・粘着材
・絶縁フィルム
・保護層
の四層で構成されているとする。
各層に小さな厚みばらつきがあれば、完成品厚みではそれらが積み重なる。
それぞれの層が規格内でも、すべて厚い側に重なれば完成品は厚くなる。
すべて薄い側に重なれば完成品は薄くなる。
多層部材では、各材料の公差だけでなく、
積層後の総厚み公差を確認する必要がある。
また厚み測定では、柔らかい材料を強く押すと薄く測定される。
測定子の荷重、測定時間、測定位置によって値が変わることもある。
そのため柔軟材料では、
・測定方法
・測定荷重
・測定位置
・測定までの放置時間も統一する必要がある。
測定方法が違えば、同じ部材でも異なる厚みとして記録される可能性がある。
■気泡は、合否だけでなく分布で管理する
気泡管理では、「気泡があるか、ないか」だけで判断されることがある。
しかし実際には、
・大きさ
・数
・総面積
・位置
・形状
・連続性
によって熱性能への影響は変わる。
小さな気泡が端部に一つある場合。
熱源直上に同じ大きさの気泡がある場合。
複数の気泡が連続し、大きな非接触領域を作っている場合。
これらは、同じ判定にすべきとは限らない。
特に重要なのは、気泡の位置である。
熱源直上。
熱が冷却板へ抜ける位置。
熱を面方向へ広げる経路。
これらの位置にある気泡は、小さくても影響が大きい可能性がある。
したがって気泡基準は、
・全面で同じ基準にする
・重要領域だけ厳しい基準にする
・禁止領域を設定する など、熱設計に合わせて決める必要がある。
■異物も面積だけでは評価できない
異物の大きさが小さくても、硬い異物であれば、その周囲まで部材を浮かせる可能性がある。
また金属粉やグラファイト粉のような導電性異物であれば、絶縁性へ影響することもある。
つまり異物は、
・大きさ
・厚み
・硬さ
・導電性
・位置
によって影響が異なる。
熱源直上の硬い異物は、局所的な接触不良を起こす。
絶縁端部の導電性異物は、電気的なリスクを高める。
柔らかい繊維でも、長く連続していれば空気の通り道を作る可能性がある。
したがって異物管理では、個数だけでなく、種類と機能上の位置 を考える必要がある。
■バリは時間とともに増える
打ち抜き加工では、金型や刃物が少しずつ摩耗する。
新品時には小さかったバリが、加工数の増加とともに大きくなる可能性がある。
このとき、完成品寸法は規格内のままでも、端面品質だけが悪化することがある。
そのため寸法検査だけでは、金型摩耗を十分に検出できない場合がある。
バリが増えると、
・部材が浮く
・接触圧力が偏る
・絶縁フィルムを傷つける
・導電性の切粉が発生する
・自動機で引っ掛かる 可能性がある。
量産では、金型が切れなくなるまで使うのではなく、
熱機能や組立性へ影響する前に管理する必要がある。
■金型寿命をショット数だけで決めない
金型や刃物の交換時期を、加工ショット数だけで管理する場合がある。
ショット数は重要な指標である。
しかし同じショット数でも、
・材料の硬さ
・粘着材の有無
・フィラー量
・材料厚み
・加工速度
・清掃状態 によって摩耗の進み方は変わる。
そのため金型寿命は、
・ショット数
・バリ高さ
・切断面状態
・寸法変化
・加工荷重
・粘着材の付着
・製品剥離状態 などを組み合わせて判断する方がよい。
つまり金型管理とは、使用回数を数えることではなく、
加工状態の変化を監視することである。
■金型摩耗は徐々に進むため、見逃されやすい
設備が突然停止すれば、異常に気づきやすい。
しかし金型摩耗は、多くの場合、少しずつ進む。
昨日よりバリが数μm増えた。
粘着材の糸引きがわずかに増えた。
カス取り時の抵抗が少し強くなった。
この小さな変化が積み重なり、ある時点で熱性能や自動供給へ影響する。
しかし変化が緩やかであるため、現場では「いつもの状態」として見過ごされることがある。
そこで重要になるのが、
・初期状態の記録
・定期的な測定
・傾向管理
・交換基準
・異常時の判断ルール である。
合格か不合格かだけではなく、品質がどちらの方向へ動いているかを見る必要がある。
■ラミネート条件も量産中に変化する
ラミネート加工では、設定値が同じでも、実際の状態が常に同じとは限らない。
例えば、
・ローラー表面に粘着材が付着する
・ローラー温度が上がる
・圧力機構が変化する
・材料径が減り張力状態が変わる
・材料ロットが切り替わる
・加工速度が変更されることがある。
設定画面には同じ圧力が表示されていても、材料幅方向の圧力分布が変わっている可能性もある。
その結果、
・気泡が増える
・片側だけ粘着材がはみ出す
・シワが発生する
・厚みが左右で変わる
・積層位置がずれる ことがある。
量産では、設備の設定値だけでなく、
実際に部材へどのような状態が作られているかを確認する必要がある。
■張力変化は、寸法とピッチを同時に動かす
リール加工では、材料残量が減るにつれて原反径が変化する。
巻き出し径や巻き取り径が変われば、同じ設備設定でも材料へ加わる力が変化する場合がある。
張力が変わると、
・キャリアフィルムの伸び
・部材ピッチ
・ラミネート位置
・反り
・巻き状態 が変わる可能性がある。
リールの前半では問題がなくても、後半でピッチが変化する。
巻き始めは剥離しやすいが、巻き終わりで剥離状態が変わる。
このような現象は、一か所だけの抜き取り検査では見つけにくい。
したがってリール量産では、
・巻き始め
・中間
・巻き終わり で条件や品質を確認することが重要になる。
■剥離力は一定でなければならない
リール供給品では、部材をキャリアから安定して剥離できることが重要である。
剥離力が高すぎれば、部材が変形する。
低すぎれば、搬送中に部材が浮く。
さらに問題なのは、剥離力がリール内で変化することである。
巻き締まり。
保管時間。
温度。
湿度。
剥離フィルムのロット。
粘着材の状態。
これらによって剥離力が変わる可能性がある。
自動機は一定条件で動作するため、剥離力が大きく変化すると、
・剥離できない
・部材が飛ぶ
・キャリアへ残る
・吸着位置がずれる
・設備が停止する 可能性がある。
自動化では、平均的に剥がれるだけでは不十分である。
最大でも最小でも、設備が安定して扱える範囲へ入っていることが必要になる。
■貼付位置のばらつきは、加工と組立の合計で決まる
最終的な貼付位置は、加工精度だけで決まらない。
例えば、
・部材外形に対する基準位置
・キャリア上の配置位置
・リール送り精度
・画像認識精度
・ノズル吸着位置
・搬送中の回転
・貼付設備の位置精度 が重なって決まる。
加工メーカーが部材位置を±0.1mmで管理していても、顧客設備側でさらに±0.1mmのばらつきが加わる可能性がある。
最終製品では、これらの誤差が合成される。
したがって設計時には、各工程へ許容差をどのように配分するかを考える必要がある。
加工だけを極端に高精度にしても、貼付設備側のばらつきが大きければ、最終位置は安定しない。
反対に、設備精度が高くても、キャリア上の部材位置が不安定であれば意味がない。
量産設計では、工程全体の精度を見なければならない。
■接触圧力も量産ばらつきの原因になる
熱対策部材は、発熱体と冷却部材の間で一定の圧力を受けることで、表面凹凸へ追従し、接触面積を増やす。
しかし組立時の圧力がばらつくと、熱抵抗も変わる。
圧力が低すぎれば、
・接触不足
・気泡残り
・表面凹凸への追従不足 が起こる。
圧力が高すぎれば、
・柔軟材の過圧縮
・粘着材のはみ出し
・グラファイトやセラミック材の破損
・薄いチップへの過剰な応力 が起こる可能性がある。
また部材厚みのばらつきと締結部品のばらつきが重なると、同じ締結条件でも実際の接触圧力は変わる。
したがって熱対策部材では、材料の厚み管理、と
顧客組立時の圧力管理を切り離して考えない方がよい。
■まとめ
ここまで見てきたように、熱性能のばらつきは材料の物性だけから生まれるわけではない。
打ち抜き、ラミネート、リール供給、組立。
それぞれの工程に、ばらつきを生む要因が存在している。
しかもこれらの要因は単独で作用するとは限らない。
小さなばらつきが重なり合うことで、接触不足という結果を生むこともある。
図面寸法が規格内であっても、熱性能が保証されるとは限らない。
重要なのは、どの寸法が熱性能を決めているのかを理解することである。
次編では、こうしたばらつきに対して、量産現場でどのように向き合い、管理していくのかを見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



