■試作評価では、量産条件を再現する
試作で性能を確認するとき、実際の量産条件と異なる方法で組み立てると、評価結果が量産へつながらない可能性がある。
例えば、
・手作業でゆっくり貼る
・通常より強く圧着する
・気泡が入った試作品を除外する
・長時間なじませてから測定する
・状態の良い材料だけを使用する
・治具で理想的に固定する といった条件である。
これで得られた温度結果は、材料の可能性を確認する上では有効である。
しかし、量産設備の実力を示しているとは限らない。
量産化を判断する段階では、
・実際の加工速度
・実際の張力
・実際の圧着時間
・実際の貼付設備
・実際の保管時間
・実際の剥離条件 をできるだけ再現する必要がある。
試作評価の目的は、最高性能を証明することではない。
量産条件でも必要性能へ入ることを確認することである。
■意図的に条件を振って、弱点を見つける
量産条件を決めるとき、最も良い条件だけを評価しても十分ではない。
実際の量産では、条件が少しずつ変動する。
そのため、
・材料厚みの上限と下限
・圧着圧力の上限と下限
・ラミネート速度の上限と下限
・温度や湿度の変化
・金型摩耗状態
・剥離力の高い条件と低い条件 を意図的に組み合わせて評価することが重要になる。
このように条件を振ることで、
・どの要因が熱性能へ強く影響するか
・どこまで条件が変わっても性能を維持できるか
・どの組み合わせで不良が発生するかを確認できる。
量産で必要なのは、一点だけの最適条件ではない。
条件が多少動いても性能が崩れない加工領域である。
■加工条件の中心を狙う
量産条件には、許容できる上限と下限がある。
例えば圧着圧力について、
低すぎれば気泡が残る。
高すぎれば材料が潰れる。
その中間に、安定して加工できる範囲がある。
量産では、限界に近い条件を標準にすべきではない。
例えば、
必要最低圧力ぎりぎり。
材料が壊れない最大圧力ぎりぎり。
設備能力の最高速度ぎりぎり。
このような条件では、小さな変動で不良が発生する。
標準条件は、
許容範囲の中央付近
に置く方がよい。
工程条件が多少変動しても、上限や下限を超えにくくなるからである。
これは熱対策部材でも同じである。
最高温度性能が得られる一点よりも、量産で安定する範囲を選ぶことが重要になる。
■工程能力とは、規格内へ安定して作れる力である
製品の寸法や品質項目が、一度規格内に入っただけでは、工程が安定しているとはいえない。
量産では、継続的に規格内へ入る必要がある。
工程能力を見るときは、
・平均値が規格の中心付近にあるか
・ばらつきが規格幅に対して十分小さいか
・時間とともに平均値がずれていないか
・特定のロットや時間帯で変化していないか を確認する。
例えば、外形寸法がすべて規格内でも、値が上限近くへ集中していれば、少しの変化で規格外になる可能性がある。
バリ高さが現在は規格内でも、加工数とともに上昇していれば、近いうちに不良へ移行する可能性がある。
工程能力を見る目的は、過去に合格したことを確認するためではない。
今後も安定して合格し続けられるかを判断するためである。
■熱性能そのものの工程能力は測れるか
寸法や厚みは比較的測定しやすい。
一方、全数の熱抵抗や温度を測定することは、時間や設備の面で難しい場合がある。
そこで量産では、熱性能と関係する代替特性を管理することがある。
例えば、
・厚み
・接触面積
・気泡面積
・ラミネート位置
・バリ高さ
・圧縮率
・剥離力
・平面性
・粘着層厚み である。
ただし、これらを管理すれば必ず熱性能が保証できるとは限らない。
重要なのは、開発段階で、
どの加工特性が熱性能と強く関係しているか
を確認することである。
例えば、
気泡面積が増えると温度が上がる。
厚みが一定範囲を超えると熱抵抗が増える。
圧縮率が低いと接触が悪化する。
この関係を確認できれば、量産では熱性能を直接測定しなくても、重要な加工特性を管理することで異常を検出しやすくなる。
■検査できることと、検査すべきことは違う
画像検査設備を導入すると、多くの項目を測定できる。
外形寸法。
穴位置。
欠け。
異物。
気泡。
位置ズレ。
しかし、測定できる項目をすべて厳しく管理すればよいわけではない。
検査項目が増えすぎると、
・誤検出が増える
・設備停止が増える
・判定が複雑になる
・本当に重要な異常が埋もれる
・コストが上がる 可能性がある。
検査設計で重要なのは、
性能や安全性へ影響する項目を優先することである。
例えば、外観上は目立つ小さな汚れよりも、熱源直上の微小な浮きの方が重要かもしれない。
端部の軽微な変色より、導電材の露出の方が重要である。
検査は、きれいな部材を選ぶためだけに行うのではない。
機能を壊す異常を見つけるために行う。
■全数検査と抜き取り検査を使い分ける
すべての項目を全数検査することは、現実的でない場合がある。
一方で、重大な不良を抜き取り検査だけに任せることも難しい。
そのため、項目ごとに検査方法を分ける必要がある。
例えば、
全数検査に向く項目
・製品の有無
・大きな位置ズレ
・欠品
・明確な外形不良
・大きな気泡
・導電材の露出
・部材ピッチ
・表裏や方向
抜き取り検査に向く項目
・厚み
・剥離力
・バリ高さ
・粘着力
・微細寸法
・熱性能
・材料物性
ただし、どの項目を全数検査にするかは、
・不良発生頻度
・顧客への影響
・検出可能性
・工程の安定性
・検査コスト を考えて決める必要がある。
■見える不良と見えない不良がある
気泡、シワ、位置ズレなどは、画像で確認できる場合がある。
一方で、
・粘着層内部の接触不足
・微細な層間剥離
・グラファイト内部の亀裂
・圧縮後の厚み変化
・局所的な接触圧力不足
は、外観だけでは確認しにくい。
外観が良ければ熱性能も良いとは限らない。
そのため開発段階では、
・断面観察
・厚み測定
・剥離試験
・圧縮試験
・熱抵抗測定
・温度分布測定
・温度サイクル試験
などを組み合わせて、外観と機能の関係を確認する必要がある。
一度関係を確認できれば、量産では外観や寸法を代替指標として使える場合がある。
しかし関係を確認せずに、見た目だけで熱性能を保証することは難しい。
■測定自体にもばらつきがある
製品のばらつきを確認するためには、測定が正しく行われている必要がある。
しかし測定値にも、
・測定者
・測定設備
・測定位置
・測定荷重
・測定時間
・周囲温度
・治具への置き方 による差が生じる。
例えば柔らかいTIMの厚みを測定する場合、測定子の荷重が違えば結果も変わる。
熱評価では、
・発熱体の出力
・センサー位置
・締結力
・周囲温度
・測定開始までの時間 が違えば、温度結果も変わる。
製品ばらつきに見えた差が、実際には測定ばらつきである可能性もある。
したがって量産管理では、製品をそろえる前に、測定方法をそろえる必要がある。
■材料ロットが変わると加工条件も変わる可能性がある
同じ材料名、同じ製品番号でも、材料ロットによって、
・厚み
・硬さ
・表面状態
・粘着力
・剥離力
・摩擦
・含水状態 がわずかに変わる可能性がある。
これらの変化が材料規格内であっても、加工への影響は異なる場合がある。
例えば、
粘着力が高い側のロットでは、剥離しにくい。
硬い側のロットでは、打ち抜き時に欠けやすい。
厚い側のロットでは、圧縮量が増える。
表面が粗い側のロットでは、気泡が残りやすい。
そのため量産移行前には、可能であれば複数ロットで加工性を確認した方がよい。
一つの材料ロットだけで条件を決めると、そのロットにしか合わない狭い加工条件になる可能性がある。
■材料変更は同等品であっても確認が必要である
供給問題、コスト、廃番などにより、材料を変更することがある。
材料メーカーから「同等品」と説明されても、加工条件まで同じとは限らない。
熱伝導率や厚みが同等でも、
・粘着力
・剥離力
・硬さ
・表面摩擦
・伸び
・打ち抜き性
・粉落ち
・反り が違う可能性がある。
量産加工では、小さな物性差が、
・金型条件
・ラミネート圧力
・張力
・剥離速度
・カス取り性 へ影響する。
したがって材料変更では、材料データシートだけで判断せず、
実際の積層構成と量産条件で確認することが重要になる。
■設備が同じでも、加工結果が同じとは限らない
同じ型式の設備を使っていても、
・ローラーの状態
・設置精度
・センサー校正
・金型取付状態
・搬送経路
・温度分布
・制御の応答 が異なれば、加工結果が変わる可能性がある。
日本工場で安定していた条件を、そのまま海外工場へ移しても、同じ品質になるとは限らない。
設備名と設定値だけを移管するのではなく、
・実際の圧力
・実際の張力
・実際の速度
・材料の状態
・完成品の特性 を確認する必要がある。
工程移管では、条件表をコピーすることではなく、
同じ製品状態を再現すること が目的である。
■人による作業も工程の一部である
自動化されていない工程では、作業者の違いが品質へ影響することがある。
例えば手貼りでは、
・貼り始める位置
・貼り付け角度
・圧着力
・貼り付け速度
・貼り直し回数
が作業者によって変わる。
熟練者は無意識に気泡を逃がし、部材の反りを補正する。
しかし、その動作が標準化されていなければ、他の作業者では同じ結果を再現できない。
量産化では、
・作業手順
・治具
・圧着条件
・判定基準
・教育方法
を明確にする必要がある。
「上手な人が作れば冷える」状態は、量産工程として安定しているとはいえない。
■貼り直しは初回貼付と同じではない
試作や手作業では、位置がずれた部材を剥がし、貼り直すことがある。
見た目では正常に戻っても、
・粘着材が伸びる
・接着力が変わる
・異物が入る
・粘着面に凹凸が残る
・部材が変形する 可能性がある。
貼り直し品と初回貼付品では、接触状態や熱性能が同じとは限らない。
したがって、
・貼り直しを許可するか
・何回まで認めるか
・再使用条件をどうするか
・再評価が必要か を決める必要がある。
■保管時間によって部材状態が変わる
ラミネート直後の部材と、数日保管した部材では状態が違う場合がある。
粘着材は、貼り合わせ後に時間をかけて相手面へなじむことがある。
一方で、リール保管中に巻き締まりを受け、剥離力が変化することもある。
材料が吸湿し、寸法や柔らかさが変わることもある。
そのため、
・加工後すぐに使うのか
・一週間保管するのか
・数か月保管するのか によって評価条件は変わる。
量産仕様には、
・保管温度
・保管湿度
・使用期限
・開封後の使用時間
・材料のなじませ時間 などを含める必要がある場合がある。
■輸送は加工後に加わる工程である
製品は工場内だけで使われるとは限らない。
完成後に、
・トラック
・船
・航空便
・倉庫 を経由して顧客へ届く。
輸送中には、
・高温
・低温
・高湿度
・振動
・衝撃
・長時間の積み重ね荷重 を受ける可能性がある。
リールが横ずれする。
部材がキャリア上で動く。
粘着材が流れる。
巻き癖が強くなる。
外装から異物が入る。
このような問題が起こる可能性がある。
したがって量産部材の品質は、製造直後ではなく、
顧客へ届いた時点で確認する必要がある。
梱包や輸送条件も、加工品質を維持するための工程設計の一部である。
■異常が起きたときに追跡できるようにする
量産では、不良を完全にゼロにすることだけでなく、異常が起きたときに範囲を特定できることも重要である。
そのためには、
・原材料ロット
・加工日時
・使用設備
・使用金型
・加工条件
・検査結果
・作業者
・リール番号
・出荷先 を追跡できるようにする。
例えば顧客で温度異常が見つかった場合、
同じ材料ロットなのか。
同じ金型使用期間なのか。
同じリール位置なのか。
同じ加工時間帯なのか。
を確認できれば、原因調査が進みやすい。
追跡できなければ、安全を見て広い範囲を止めたり、回収したりする必要が生じる。
トレーサビリティは、品質問題が起きた後のためだけではない。
量産ばらつきの原因を学び、工程を改善するため
にも必要である。
■異常品だけでなく、正常品の履歴も残す
問題が起きた製品だけを調べても、原因が分からないことがある。
重要なのは、正常品と異常品を比較することである。
例えば、
異常品は金型使用回数が多かった。
異常品はリール巻き始めに集中していた。
異常品は特定の材料ロットで増えていた。
異常品は高湿度の日に加工されていた。
この比較には、正常品側の記録も必要になる。
したがって工程データは、問題が起きてから集めるのではなく、
平常時から残すことが重要である。
■不良を見つけるより、変化を早く見つける
量産管理では、規格外品を見つけることが重要である。
しかし、より良い管理は、規格外になる前の変化を見つけることである。
例えば、
・バリ高さが徐々に増えている
・剥離力が上昇傾向にある
・気泡面積が少しずつ増えている
・部材ピッチが一方向へずれている
・ラミネート位置が上限へ近づいている といった変化である。
現在は規格内でも、傾向を見れば、近い将来に不良が発生することを予測できる場合がある。
この段階で、
・金型を清掃する
・刃物を交換する
・張力を調整する
・ローラーを点検する
・材料状態を確認する ことができれば、不良の発生を防ぎやすい。
量産品質では、不良品を選別することよりも、
不良が生まれる方向への変化を止めることが重要になる。
■自動検査の目的は、人を減らすことだけではない
画像検査やセンサーによる自動検査は、省人化の手段として説明されることがある。
しかし熱対策部材では、それだけが目的ではない。
人の目では、
・判定基準が変わる
・疲労によって見逃しが増える
・微小な位置差を数値化しにくい
・長時間の傾向を把握しにくい ことがある。
自動検査を使えば、
・同じ基準で判定する
・数値として記録する
・時間変化を確認する
・異常傾向を早く見つける
・製品履歴と結び付ける ことができる。
つまり自動検査の本質は、検査人数を減らすことではなく、
熱性能に関係する加工状態を、同じ基準で記録し続けることにある。
■すべてを自動検査できるわけではない
画像検査は有効であるが、万能ではない。
画像で見えるのは、主に表面や輪郭である。
内部の接触状態。
粘着層内部の気泡。
微細な層間剥離。
材料内部の亀裂。
実際の熱抵抗。
これらを直接確認できない場合がある。
そのため、
・画像検査
・寸法測定
・剥離試験
・断面確認
・熱評価
・環境試験
を組み合わせる必要がある。
自動化できる項目は自動化する。
しかし機能確認が必要な項目は、定期的な評価を残す。
重要なのは、検査方法を増やすことではない。
どの方法で、どの異常を検出するかを明確にすることである。
■量産立ち上げでは、最初から全速で流さない
試作が成功すると、早く量産数量を増やしたくなる。
しかし初期量産では、試作では見えなかった問題が現れる。
・金型摩耗
・長時間運転による設備温度上昇
・リール後半の張力変化
・材料ロット差
・作業者交代
・保管時間の影響
・カスや粘着材の蓄積
などである。
そのため量産立ち上げでは、
1.少量で工程条件を確認する
2.連続加工で変化を見る
3.材料ロットを変えて確認する
4.保管・輸送後を評価する
5.生産速度を上げる
6.安定した範囲を標準化する という段階が必要になる。
量産立ち上げの目的は、最速で数量を作ることではない。
長時間作り続けても品質が崩れない条件を見つけることである。
■不良率だけでは工程の良し悪しを判断できない
量産開始直後に不良率が低ければ、工程は良好に見える。
しかし実際には、
・検査で見つけられていない
・規格が機能と結び付いていない
・良い材料ロットだけを使っている
・金型が新品である
・まだ連続運転時間が短い 可能性がある。
反対に、量産初期に不良が多くても、原因を特定し、工程条件を改善できれば、その後は安定することもある。
したがって見るべきなのは、不良率だけではない。
・何が原因だったか
・原因を再現できたか
・再発防止が工程へ入ったか
・条件変化に耐えられるか
・傾向を監視できるか が重要になる。
■変更管理がなければ、知らないうちに性能が変わる
量産工程では、さまざまな変更が起こる。
・材料メーカーの変更
・材料製造場所の変更
・材料厚みの変更
・剥離フィルムの変更
・金型の更新
・設備の変更
・加工速度の変更
・梱包方法の変更
・生産工場の変更
変更内容が小さく見えても、熱性能や自動供給性へ影響する可能性がある。
例えば剥離フィルムを変更しただけでも、剥離力が変わり、部材変形が増えることがある。
加工速度を上げただけでも、気泡の抜け方が変わることがある。
そのため変更時には、何が変わるかだけでなく、
その変更がどの機能へ影響する可能性があるかを確認する必要がある。
■まとめ
量産条件を再現した評価。
条件を振っての弱点確認。
工程能力の把握。
検査項目の使い分け。
測定方法の統一。
材料ロットや設備移管時の確認。
人による作業のばらつきへの対応。
保管・輸送環境の影響。
トレーサビリティの確保。
量産立ち上げの段階的な進め方。
そして変更管理の徹底。
これらはすべて、「一度冷えた」ことを「冷え続ける」ことへ変えるための取り組みである。
一つひとつは地道な管理項目に見えるかもしれない。
しかし、この積み重ねがなければ、試作の結果を量産へつなげることはできない。
最終編では、ここまでの内容を8つのステップとして整理する。
そして、研究者、設計者、製造現場、品質部門、営業・開発というそれぞれの立場から見た視点を確認した上で、最後にOTISが担う役割について述べる。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



