■熱性能を量産で保証するための考え方
熱対策部材の量産設計では、次の流れが重要になる。
1.熱性能を決める要因を明確にする
・接触面積
・厚み
・圧縮率
・気泡
・位置
・バリ
・反り など、何が熱性能を左右するかを整理する。
2.重要な加工特性へ置き換える
熱性能を全数測定できない場合、熱性能と関係する寸法・外観・加工条件を決める。
3.材料と工程のばらつきを確認する
材料ロット、金型摩耗、張力、圧力、温湿度など、量産で変化する要因を洗い出す。
4.条件を意図的に変えて評価する
上限・下限条件でも必要性能を維持できるか確認する。
5.安定する加工範囲を決める
一点の最適値ではなく、ばらつきに耐えられる条件範囲を設定する。
6.検査と記録方法を決める
何を全数検査し、何を抜き取り確認し、どのデータを残すかを決める。
7.変化を監視する
規格外だけでなく、金型摩耗や剥離力などの傾向を確認する。
8.変更時に再評価する
材料、設備、条件、工場を変更した場合に、必要な項目を再確認する。
この流れによって、試作で冷える部材を、量産でも冷え続ける部材へ変えることができる。
■研究者視点 : 最高性能だけでなく、性能分布を見る
研究開発では、最も良い結果に注目しやすい。
最高の熱伝導率。
最小の熱抵抗。
最も低い温度。
もちろん、材料や技術の可能性を示すためには重要である。
しかし製品化では、
・平均性能
・ばらつき
・最悪条件
・経時変化
・環境変化後の性能 も重要になる。
試作品10個のうち、一個だけ非常によく冷える部材よりも、10個すべてが必要範囲へ入る部材の方が量産には適している。
つまり研究段階から、最高性能だけでなく、再現できる性能を見る必要がある。
■設計者視点 : 設計値と量産公差を分けて考えない
熱解析では、厚み、接触面積、熱伝導率などに一つの数値を入力することが多い。
しかし量産品には公差がある。
厚みが上限の場合。
接触面積が下限の場合。
貼付位置が最もずれた場合。
接触圧力が最も低い場合。
これらが重なっても、必要性能を満たせるかを考える必要がある。
設計の中心値だけで性能を確認すると、量産ばらつきによって一部製品が目標を外れる可能性がある。
量産設計では、最も都合のよい条件ではなく、
現実に起こり得る不利な条件でも性能を確認する必要がある。
■製造現場視点 : 良品を選ぶのではなく、良品しか作られない工程へ近づける
検査を厳しくすれば、不良品を顧客へ流出させにくくなる。
しかし検査だけでは、不良そのものは減らない。
量産で目指すべきなのは、
・気泡が入りにくいラミネート方法
・バリが増える前に分かる金型管理
・張力が変わりにくい搬送条件
・反りにくい積層構成
・剥離力が安定するキャリア設計
・貼付位置がずれにくい基準形状 を作ることである。
つまり、検査で良品を選別する工程から、
安定して良品を作れる工程へ進化させる必要がある。
■品質部門視点 : 熱性能を管理可能な品質特性へ変える
熱性能は重要である。
しかし、完成品の温度だけを品質項目にしても、日常管理は難しい場合がある。
そこで品質部門は、開発・技術・製造と連携し、
・何が熱性能を左右するのか
・どの特性なら量産で測定できるか
・どの基準なら機能を守れるか
・どの頻度で確認するか
・異常時にどこまで遡るか を決める必要がある。
品質保証とは、検査成績書を作ることではない。
顧客が必要とする熱性能を、日常の加工管理へ変換することである。
■営業・開発視点 : 「加工できますか」だけでは量産可否を判断できない
顧客から、「この材料をこの形に加工できますか」と相談されることがある。
試作品を一個作るだけであれば、加工できる場合も多い。
しかし量産可否を判断するには、さらに確認が必要になる。
・何個作るのか
・どの位置が熱機能上重要か
・どの程度の温度変化を受けるか
・手貼りか自動貼付か
・リール供給か枚葉供給か
・必要な保管期間はどの程度か
・どの項目を保証する必要があるか
・異常時にどこまで追跡する必要があるか
つまり、加工できることと、量産できることは別である。
営業・開発段階から、
顧客が必要とするのは試作品か、安定した量産工程か
を確認する必要がある。
■量産設計で確認すべき項目
熱対策部材を量産化するときは、少なくとも次の項目を確認する必要がある。
材料
・複数ロットで加工性を確認したか
・厚み、硬さ、粘着力のロット差を把握したか
・保管期間による変化はないか
・温湿度による変化はないか
・材料変更時の評価項目を決めているか
打ち抜き
・機能上重要な寸法を明確にしたか
・バリ高さを管理しているか
・金型摩耗の傾向を確認しているか
・粘着材の糸引きやカス残りを確認しているか
・連続加工後も端面品質を維持できるか
・金型交換・清掃基準を設定しているか
ラミネート
・気泡、シワ、異物の許容基準が明確か
・熱源直上などの禁止領域を設定しているか
・ニップ圧、速度、張力、温度を管理しているか
・材料幅方向の圧力は均一か
・長時間運転後も品質を維持できるか
・積層位置の変化傾向を確認しているか
リール供給
・部材ピッチを管理しているか
・巻き始め・中央・巻き終わりを確認しているか
・剥離力の上限と下限を設定しているか
・保管後も剥離状態が安定しているか
・巻き癖や巻き締まりの影響を確認したか
・輸送後の状態を確認したか
組立
・貼付位置の総合公差を確認したか
・圧着圧力と圧着時間を決めているか
・部材厚みと圧縮量の関係を確認したか
・貼り直しの可否を決めているか
・相手部品の反りや表面状態を考慮したか
・実際の量産設備で評価したか
検査
・熱性能に関係する重要特性を決めたか
・全数検査と抜き取り検査を分けたか
・画像で見えない不良の確認方法があるか
・測定方法と測定条件を統一したか
・規格外だけでなく変化傾向を監視しているか
・検査データを製品履歴と結び付けているか
トレーサビリティ
・原材料ロットを追跡できるか
・加工日時と設備を確認できるか
・使用金型と使用回数を確認できるか
・リール番号を追跡できるか
・加工条件と検査結果を確認できるか
・異常発生時に影響範囲を特定できるか
■OTIS視点
OTISが支えるのは、最高性能ではなく再現性能である
材料メーカーは、優れた熱対策材料を開発する。
熱設計者は、必要な熱経路と温度目標を決める。
装置メーカーは、冷却機構を設計する。
しかし、それらの性能を量産製品の中で繰り返し再現するためには、
・材料を一定の形状へ加工する
・積層位置をそろえる
・気泡や異物を抑える
・厚みを管理する
・バリや金型摩耗を管理する
・リールピッチと剥離力を安定させる
・検査結果を記録する
・異常傾向を早く見つける 工程が必要になる。
OTISは、熱伝導率そのものを高くする会社ではない。
一個だけ、最もよく冷える試作品を作る会社でもない。
OTISが目指すべきなのは、
材料の持つ熱性能を、量産品一個一個へ安定して移すことである。
0.1mmの浮きを抑える。
数十μmのバリを管理する。
わずかな気泡を重要領域へ入れない。
各層を必要な位置へ積層する。
リールの最初から最後まで同じ状態で供給する。
金型が摩耗しても、変化を早く見つける。
これらの積み重ねによって、熱性能は量産で再現される。
■OTISでできること
OTISでは、次のような加工・工程設計を通じて、熱対策部材の量産安定化に貢献できる。
・高精度打ち抜き加工
・高精度ラミネート加工
・異種材料積層
・グラファイト加工
・銅箔・アルミ箔加工
・絶縁フィルム加工
・発泡体・柔軟TIM加工
・ハーフカット加工
・リール・ツー・リール加工
・一定ピッチでの部材供給
・自動貼付を考慮した形状加工
・気泡、シワ、異物を考慮した工程設計
・バリ、欠け、糸引きを考慮した金型・加工条件検討
・金型摩耗を考慮した量産管理
・画像検査を含む外観・位置検査
・顧客工程を考慮した部材一体化
・材料ロットや加工履歴のトレーサビリティ
・試作から量産へ移行するための条件検討
・量産条件を想定した試作・評価部材の製作
OTISが提供する価値は、図面どおりの一個を作ることではない。
図面と熱機能を、何万個でも同じ状態へ近づけること
である。
■OTISの専門外
OTISは、次の分野を専門とする会社ではない。
・熱対策材料そのものの配合開発
・半導体チップやGPUの設計
・製品全体の熱設計
・CFD専業解析
・ヒートシンクや液冷装置の設計
・顧客完成品全体の熱性能保証
・自動貼付設備そのものの設計・製造
・材料メーカーに代わる物性保証
ただし、材料メーカー、熱設計者、設備メーカー、顧客と連携し、
設計された熱性能を、加工工程で量産可能な部材へ変換する領域
では貢献できる。
OTISだけですべての熱問題を解決するのではない。
それぞれの専門技術をつなぎ、
材料が持つ性能を、量産製品の中で失わせない。
そこがOTISの役割である。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー・データセンター
★★★★★ 半導体・先端パッケージ
★★★★★ EV・次世代電池
★★★★★ スマートフォン・スマートデバイス
★★★★★ 光通信・高速通信機器
★★★★☆ 医療機器
★★★★☆ ロボット・自動化機器
★★★★☆ 航空宇宙
★★★★☆ エネルギー機器
★★★★☆ 産業設備
■まとめ
試作で冷えることと、量産で冷え続けることは別である
熱対策材料の試作品を作り、温度が下がった。
これは大きな前進である。
しかし量産化では、さらに別の問いが必要になる。
材料ロットが変わっても冷えるか。
金型が摩耗しても冷えるか。
ラミネート速度が変動しても冷えるか。
リールの巻き始めから巻き終わりまで冷えるか。
保管、輸送、剥離の後でも冷えるか。
自動機で貼り付けても冷えるか。
何万個作っても、必要な温度範囲へ入るか。
ここまで確認できて、初めて量産技術になる。
量産で必要なのは、最高の一個ではない。
最悪の条件でも、必要性能を外さない工程である。
そのためには、
・寸法をそろえる
・厚みをそろえる
・気泡を抑える
・バリを管理する
・積層位置を安定させる
・張力を管理する
・剥離力を安定させる
・金型摩耗を監視する
・検査基準を機能と結び付ける
・製造履歴を追跡できるようにする 必要がある。
熱性能は、材料メーカーのカタログに記載された数値だけでは完成しない。
設計図の中だけでも完成しない。
試作品が一度冷えただけでも完成しない。
材料が加工され、
積層され、
巻かれ、
輸送され、
剥離され、
貼り付けられ、
温度変化を受けても、
すべての量産品が必要な性能を維持する。
そこまで成立して、初めて熱対策は完成する。
材料メーカーは、熱性能の可能性を作る。
熱設計者は、熱が流れる道を考える。
加工メーカーは、その道を量産品の中へ繰り返し作る。
だからOTISが支えるのは、最もよく冷える一個ではない。
量産されるすべての部材が、同じように冷え続けるための加工工程である。
試作で冷えることは、技術の入口である。
量産で冷え続けることが、技術の完成である。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



