■従来の冷却制御
一般的な冷却制御では、
温度が上がる
↓
ファン回転数を上げる
あるいは、
温度が上がる
↓
冷却液の流量を増やす
という制御が行われる。
これは非常に合理的である。
しかし基本的には、温度が変化した後に対応する制御である。
発熱量が急激に増える場合には、冷却が追いつくまでに一時的に温度が上昇することがある。
■AI制御は「これから熱くなる」を予測する
AI制御では、
●過去の温度変化
●CPU・GPU負荷
●消費電力
●ファン回転数
●冷却液流量
●外気温
●サーバー稼働状況 などのデータを利用する。
これらから、
次にどの場所の温度が上がりそうか を予測する。
例えばGPU負荷が急増した場合、
温度センサーが高温を検出する前に、
ファン回転数を上げる。
冷却液流量を増やす。
空調設定を変更する。
といった制御ができる可能性がある。
つまり、温度を見てから冷やすから、温度が上がる前に冷やすへ変わる。
■冷やしすぎを減らす
従来の冷却システムでは、安全側を考えて、必要以上に冷却している場合がある。
例えば、最も発熱する状態を想定して、
常に高いファン回転数で運転する。
常に低い冷却水温度を維持する。
しかし実際には、常に最大負荷で動いているとは限らない。
AIによって負荷状態を把握できれば、
低負荷時には冷却能力を下げる。
高負荷になる前に冷却能力を上げる。
という制御ができる。
これによって、冷却電力そのものを減らせる可能性がある。
■AIサーバーは発熱量が常に同じではない
AIサーバーでは、処理内容によって演算負荷が変化する。
学習。
推論。
待機。
通信。
処理内容によってGPUやCPUの消費電力は変わる。
つまり発熱量も一定ではない。
すべてのサーバーを常に最大能力で冷却すれば、冷却電力が無駄になる。
一方、冷却能力を下げすぎれば、高負荷時に温度が急上昇する。
AI制御は、演算負荷と冷却能力を連動させるための方法になる。
■サーバー単体ではなく、データセンター全体を制御する
AI制御冷却の対象は、一台のサーバーだけではない。
データセンターでは、
●サーバー
●ラック
●ファン
●空調
●冷却水
●ポンプ
●チラー など、多くの設備が関係している。
例えば、あるラックだけ負荷が高い。
別のラックはほとんど使われていない。
この場合、建物全体を同じ強さで冷却する必要はない。
負荷の高い場所へ冷却能力を集中する。
負荷の低い場所では冷却を弱める。
こうした最適化ができれば、設備全体の効率を高められる可能性がある。
■温度センサーだけでは足りない
AI制御では、多くのデータが必要になる。
温度だけを見ても、
なぜ温度が上がったのか
までは分からない。
例えば、
GPU負荷が増えた。
ファン性能が低下した。
吸気温度が上がった。
TIMの接触が悪化した。
フィルターが詰まった。
これらはすべて温度上昇につながる可能性がある。
そこで、
●温度
●消費電力
●流量
●圧力
●ファン回転数
●室温
●演算負荷
など、複数の情報を組み合わせる。
AIは、その関係を学習し、温度変化の原因や将来の状態を推定することができる。
■異常検知にも使える
AI制御冷却は、単なる省エネルギー技術ではない。
設備の異常を早く見つける用途にも使える。
例えば、
以前と同じGPU負荷なのに温度が高い。
以前よりファン回転数が高くないと同じ温度を維持できない。
冷却液流量は同じなのにコールドプレート温度が高い。
このような変化があれば、
●TIM劣化
●ファン劣化
●流路詰まり
●ポンプ性能低下
●熱交換器汚れ などの可能性がある。
つまりAIは、冷却設備の状態監視 にも利用できる。
■ホットスポットを予測する
電子機器では、製品全体が均一に発熱するわけではない。
一部の半導体だけが高温になることがある。
AIによって、
●演算処理
●電源負荷
●過去の温度分布 などを分析すれば、
どこにホットスポットが発生しやすいかを予測できる可能性がある。
これによって、
●局所ファン制御
●冷却液流量制御
●演算負荷の分散 などを行う。
つまりAI制御では、熱を冷却するだけでなく、
熱そのものを発生しにくい場所へ移すという制御も考えられる。
■計算負荷を移動させるという熱対策
例えば、あるGPUの温度が上がっているとする。
通常であれば、そのGPUをさらに冷やす。
しかし別の方法として、処理そのものを別のGPUへ移すこともできる。
負荷を分散すれば、発熱も分散する。
つまりAI時代の熱対策では、冷却装置だけを制御するのではなく、
計算処理と冷却を同時に制御する可能性がある。
これは従来の熱対策とは大きく異なる考え方である。
■ロボットでもAI制御冷却は使える
ロボットでは、
●AI演算装置
●モーター
●バッテリー
●モータードライバー など、複数の発熱源がある。
さらに動作内容によって発熱場所が変わる。
歩行。
重量物搬送。
待機。
高速動作。
AIによって動作予定を予測できれば、
負荷が高くなる前に冷却する。
逆に低負荷時には冷却を抑える。
という制御ができる。
バッテリー駆動のロボットでは、冷却電力を減らすことが稼働時間の延長にもつながる。
■EVやESSでも応用できる
EVやESSでは、セルの温度を一定範囲へ保つことが重要になる。
充電。
急速充電。
放電。
外気温。
セルの劣化状態。
これらによって発熱状態は変わる。
AIによって将来の温度を予測し、
●冷却液流量
●ポンプ出力
●ファン
●充放電条件
を制御することで、効率的な温度管理ができる可能性がある。
■AI制御にも弱点がある
AIを使えば、必ず最適な冷却ができるわけではない。
AI制御には、
●センサー精度
●学習データ
●モデルの信頼性
●制御遅延
●異常時の安全設計 という課題がある。
例えば温度センサーが誤った値を出していれば、AIも誤った判断をする可能性がある。
また学習していない異常状態では、適切に制御できないことも考えられる。
そのため、AIだけに安全制御を任せるのではなく、
従来の安全制御と組み合わせる必要がある。
■AI制御は物理的な冷却能力を超えることはできない
AIは冷却を効率化できる。
しかし、
冷却装置そのものの物理能力を超えることはできない。
ヒートシンクが小さすぎる。
冷却液流量が不足している。
TIMが浮いている。
ファンが壊れている。
このような状態では、AIがどれほど優秀でも冷却できない。
つまりAI制御は、良い熱設計を置き換える技術ではない。
良い熱設計を、より効率よく使う技術である。
■センサーの位置も重要になる
AI制御では、入力データの品質が重要である。
例えば温度センサーが熱源から遠い場合、実際のチップ温度より遅れて変化する。
局所的なホットスポットを検知できない場合もある。
そのため、
●センサー位置
●センサー数
●測定速度
●測定精度 も重要になる。
つまりAI制御冷却では、AIモデルだけでなく、正しい熱データを取れる構造が必要になる。
■研究者視点 : AIは「熱の未来」を予測する
従来の制御は、
現在の温度
を見て動く。
AI制御では、
●現在の温度
●過去の温度変化
●現在の負荷
●将来の演算予定
●周囲環境 などから、
数秒後、数分後の温度を予測することができる。
つまり熱制御は、現在を制御するから、
未来を予測して制御する方向へ進んでいる。
■現場視点 : AIを入れる前に、温度データを信用できる状態にする
温度データが不正確。
センサー位置が悪い。
設備の状態が記録されていない。
このような状態でAIを導入しても、良い制御は難しい。
まず必要なのは、
●正しいセンサー
●安定した測定
●設備データ
●運転履歴 を集めることである。
AI制御冷却は、
AIモデルから始まるのではない。
良いデータから始まる。
■OTIS視点
AI制御冷却そのものは、OTISの専門領域ではない。
OTISは、
●AI制御ソフトウェア
●データセンター冷却アルゴリズム
●温度予測モデル を開発する会社ではない。
ただし、AI制御がどれだけ高度になっても、
実際に熱を移動させるのは物理部材 である。
TIM。
放熱シート。
絶縁材。
グラファイト。
コールドプレート。
これらが正しく接触していなければ、AIが冷却能力を上げても熱は十分に移動しない。
つまりOTISの役割は、
AI制御が指示した冷却を、実際の製品内部で成立させるための部材加工にある。
■OTISでできること
OTISでは、
●TIM加工
●放熱シート加工
●グラファイト加工
●絶縁フィルム加工
●粘着材加工
●金属箔加工
●高精度ラミネート
●微細打ち抜き
●リール供給
●自動貼付向け部材加工
などを通じて、AI制御された冷却システムの物理的な熱経路を支えることができる。
■OTISの専門外
OTISは、
●AI冷却アルゴリズム開発
●温度予測AI開発
●データセンター制御システム
●冷却設備全体の制御設計
●センサーそのものの開発
を専門とする会社ではない。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー・データセンター
★★★★★ 高性能コンピューティング
★★★★☆ EV・次世代電池
★★★★☆ ESS
★★★★☆ ロボット・自動化機器
★★★★☆ 通信機器
★★★★☆ 産業設備
■まとめ
AI制御冷却とは、冷却能力を増やす技術ではなく、冷却能力を賢く使う技術
従来の冷却では、
温度が上がった。
だから冷やす。
という制御が中心だった。
AI制御では、
負荷。
温度。
外気。
過去の状態。
設備状態。
を組み合わせ、これからどこが熱くなるかを予測する。
そして、
●ファン
●ポンプ
●冷却液
●空調
●演算負荷 を調整する。
これによって、
必要な場所を、必要なタイミングで、必要な分だけ冷やすことができる可能性がある。
ただしAIは、熱を消すことはできない。
TIMが浮いていれば、熱は流れない。
冷却装置の能力が不足していれば、AIでも冷やせない。
つまり、
AI制御は熱設計を置き換える技術ではない。
良い熱設計を、より賢く使う技術 なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



