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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか
8-1. AIサーバーの熱問題(前編) ― AIの性能競争は、同時に「どこまで熱を処理できるか」の競争でもある ―

材料・加工技術

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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか<br>8-1. AIサーバーの熱問題(前編) ― AIの性能競争は、同時に「どこまで熱を処理できるか」の競争でもある ―

AIサーバーでは、大量の計算を短時間で行う。
GPU。
CPU。
HBM。
ネットワーク半導体。
電源。
これらが高密度に配置され、大量の電力を消費する。
そして使われた電力の多くは、最終的に熱になる。
つまりAIサーバーでは、
演算性能を上げるほど、熱問題も大きくなる。
従来のサーバーでも熱対策は重要だった。
しかしAIサーバーでは、
• 一つの半導体の発熱が大きい
• 狭い面積へ熱が集中する
• HBMなどが近接配置される
• ラック当たりの発熱量が増える
• 冷却設備そのものの消費電力も増える
という問題が重なる。
そのためAIサーバーでは、
半導体を作れるか
だけではなく、
その半導体を冷却し続けられるか
がシステム性能を左右する。
AI時代の計算能力は、
半導体性能だけでは決まらない。
熱を処理できる能力まで含めて、初めて計算能力になる。

■AIサーバーでは何が熱を出しているのか

AIサーバーの熱源として最も注目されるのはGPUである。

しかしGPUだけが発熱しているわけではない。

サーバー内部には、

●GPU

●CPU

●HBM

●電源回路

●VRM

●ネットワークIC

●光通信部品

●SSD

●ファン

など、多くの発熱源がある。

 

つまりAIサーバーは、一つの巨大な熱源ではなく、

多数の熱源が狭い空間へ集まった装置である。

この違いは重要である。

GPUだけを十分冷却しても、電源部品やネットワーク部品が高温になれば、サーバー全体としては安定して動かない。

■GPUはなぜ大量の熱を出すのか

AIでは、大量の行列演算を繰り返す。

そのためGPU内部では膨大な数の演算処理が行われる。

処理量が増えれば、消費電力も増える。

電力を使えば、熱が発生する。

 

さらに半導体が高性能化すると、

より小さな面積に、より多くの回路が集積される。

 

その結果、

単純な発熱量だけではなく、発熱密度が高くなる。

ここがAI半導体冷却の大きな難しさである。

■発熱量と発熱密度は違う

例えば同じ500Wの熱でも、

大きな金属板全体から500W発生する場合と、

小さな半導体チップから500W発生する場合では、冷却の難しさは大きく違う。

小さな面積へ熱が集中すると、局所的に温度が高くなる。

この熱を短時間で、

●TIM

●ヒートスプレッダー

●ベイパーチャンバー

●コールドプレート

などへ移す必要がある。

 

つまりAIサーバーの熱問題では、

何W発生しているか だけではなく、

何mm²からその熱が出ているか を見る必要がある。

■HBMも熱問題の一部になる

AI半導体では、GPUだけでなく、HBMが重要になる。

AI演算では、大量のデータをGPUへ高速に供給する必要がある。

そのためGPUの近くにHBMを配置する。

これは性能には有利である。

 

しかし熱の面では、大きな熱源の近くに、別の熱源を置くことになる。

GPUの熱。

HBMの熱。

周辺回路の熱。

これらが狭いパッケージ内で相互に影響する。

 

つまりAI半導体では、

一個のチップを冷やす

という考え方から、

パッケージ全体の温度分布を管理する

考え方へ変わっている。

■平均温度よりホットスポットが問題になる

AI半導体では、チップ全体が均一に発熱するとは限らない。

特定の演算ユニットへ負荷が集中する。

メモリアクセスが集中する。

電源回路に負荷がかかる。

すると、ホットスポットが発生する。

 

例えばチップ全体の平均温度が許容範囲でも、一部分だけ非常に高温になる可能性がある。

この局所高温が、

●動作周波数低下

●信頼性低下

●材料劣化

●接合部劣化 につながる。

 

つまりAIサーバーでは、平均で冷えているだけでは不十分である。

一番熱い場所をどう冷やすかが重要になる。

■高温になると性能を落として自分を守る

半導体は、温度が上がりすぎると故障を防ぐため、性能を下げる制御を行う場合がある。

クロックを下げる。

電力を抑える。

処理速度を落とす。

 

つまり、

冷却不足が演算性能そのものを制限する。

高性能GPUを搭載していても、熱を処理できなければ、その性能を使い続けることができない。

ここから、冷却能力は計算能力の一部という考え方が生まれる。

■AIサーバーの熱経路

AIサーバーの熱問題を理解するには、

熱がどこからどこへ移動するかを見る必要がある。

 

例えばGPUの場合、

GPU内部
 ↓
パッケージ
 ↓
TIM
 ↓
ヒートスプレッダー
 ↓
TIM
 ↓
ヒートシンクまたはコールドプレート
 ↓
空気または冷却液
 ↓
データセンター外部

という長い熱経路がある。

どこか一か所でも熱抵抗が大きければ、そこが冷却性能のボトルネックになる。

■最も高性能な冷却装置でも、熱が届かなければ意味がない

例えば非常に高性能な液冷コールドプレートを使ったとする。

冷却液温度も十分低い。

流量も十分ある。

 

しかしGPUとコールドプレートの間のTIMが浮いている。

気泡がある。

圧力が足りない。

すると、

コールドプレートまで熱が届かない。

 

つまり液冷設備としては余力があるのに、GPUだけ高温になる。

AIサーバーでは、こうした界面の問題が非常に重要になる。

■TIMはAIサーバーの小さな重要部品

TIMは非常に薄い。

冷却装置全体から見れば、目立たない部材である。

しかし役割は大きい。

半導体やヒートスプレッダーの表面は、一見平らでも微細な凹凸を持つ。

固体同士をそのまま接触させると、その間には微小な空気層が残る。

TIMは、その空間を埋め、実際の接触面積を増やすために使われる。

AI半導体では発熱密度が高いため、

TIMの、

●熱抵抗

●厚み

●圧縮率

●平面追従性

●長期安定性 が重要になる。

■TIMは高熱伝導率だけで選べない

熱伝導率の高いTIMを使えば冷える。

そう単純ではない。

実際には、

●厚すぎる

●硬すぎて表面へ追従しない

●組立圧力が不足する

●気泡が入る

●ポンプアウトする

●長期使用で状態が変わる

などが起こる可能性がある。

 

つまりTIMは、材料スペックだけでなく、

実際に組み込まれた状態で評価する必要がある。

■AIサーバーでも0.1mmの浮きが問題になる

冷却部材が大型化しても、熱源との接触は狭い界面で行われる。

TIM。

絶縁材。

粘着材。

この間に0.1mmの浮きができれば、そこへ空気が入る。

空気層によって局所的な熱抵抗が大きくなる。

 

その結果、

数十cmある冷却装置の性能を、0.1mmの隙間が壊す

可能性がある。

これが、熱の最後の1mmが重要になる理由である。

■グラファイトで熱を横へ広げる

AI半導体では、熱を上方向へ逃がすだけでなく、横方向へ広げる考え方も重要になる。

グラファイトは、面方向に高い熱伝導性を持つ。

局所的な熱を、

●周辺の金属部材

●筐体

●冷却部材

へ広げる用途に使える。

 

例えば、

GPU周辺の局所熱
 ↓
グラファイト
→→→ 周辺へ拡散

という考え方である。

 

ただし、熱を広げた先に排熱先がなければ意味はない。

■銅やアルミも熱拡散に使われる

銅やアルミは、AIサーバーの熱対策で重要な材料である。

特に銅は高い熱伝導性を持ち、

●ヒートスプレッダー

●ヒートシンク

●金属箔

●コールドプレート などで使われる。

 

一方、金属は電気も通す。

そのため、

熱は通したいが、電気は通したくない部分では、絶縁設計が必要になる。

■AIサーバーでは絶縁と放熱が同時に必要になる

高電力を扱うAIサーバーでは、

●GPU

●VRM

●電源回路

●金属冷却部材 が近接する。

 

そのため、

熱伝導。

絶縁。

固定。

を同時に成立させる必要がある。

例えば、

熱源
 ↓
絶縁性TIM
 ↓
金属部材  という構造が考えられる。

 

しかし絶縁層を厚くすれば、熱抵抗が増える場合がある。

薄くすれば、絶縁信頼性に余裕がなくなる。

 

つまりAIサーバーでは、放熱性能と絶縁性能の両立が重要になる。

■空冷では大量の空気が必要になる

従来のサーバーでは、ファンによる空冷が中心であった。

AIサーバーでも空冷は重要である。

しかし発熱量が増えると、

●ファン回転数を上げる

●ファンを増やす

●ヒートシンクを大型化する

●空気流路を広げる

必要がある。

 

その結果、

●消費電力

●騒音

●サイズ

●保守

の負担が増える。

 

つまりAIサーバーの高密度化が進むほど、空冷だけで成立させるための代償が大きくなる。

■液冷がAIサーバーで重要になる理由

そこで液冷が重要になる。

液体は空気より多くの熱を運びやすい。

さらにコールドプレートをGPUの近くへ配置すれば、

熱源の近くで熱を回収できる。

 

代表的な構造は、

GPU
 ↓
TIM
 ↓
コールドプレート
 ↓
冷却液 である。

高発熱・高密度というAIサーバーの特徴と、液冷は相性がよい。

■液冷になると新しい部材課題が増える

液冷にすればすべて解決するわけではない。

新しく、

●シール

●ガスケット

●絶縁

●漏液

●腐食

●配管

●冷却液適合性

という課題が生まれる。

 

つまりAIサーバーの液冷化は、熱対策部材市場をなくすのではない。

むしろ、熱伝導材+絶縁材+シール材 という複合部材の重要性を高める可能性がある。

■液冷ではシール部材が重要になる

コールドプレート。

配管。

継手。

これらには液体を漏らさない構造が必要になる。

シール材やガスケットが、

●ずれる

●厚みが違う

●異物をかむ

●圧縮不足になる

と、漏液リスクが高まる。

 

つまり液冷AIサーバーでは、

熱を通す精度だけでなく、液体を止める精度も重要になる。

■ベイパーチャンバーも重要になる

ベイパーチャンバーは、局所的な熱を広い面積へ広げる。

AI半導体のような小さく高発熱な熱源では、

熱源
 ↓
TIM
 ↓
ベイパーチャンバー
 ↓
ヒートシンク

とすることで、冷却面積を有効活用できる。

 

つまりAIサーバーの熱問題では、

●TIMで熱を受ける

●ベイパーチャンバーで広げる

●空冷または液冷で捨てる

という複数の技術が組み合わされる。

■3D実装がAIサーバーの熱問題をさらに難しくする

AI半導体では、HBMやチップレットなどの高密度実装が進む。

将来的に3D実装がさらに進めば、熱源が内部へ入る。

外側の冷却装置が高性能でも、内部から表面まで熱を取り出せなければ冷却できない。

 

そのため、

●薄型TIM

●熱拡散材

●高熱伝導層

●微細な絶縁材 などが重要になる。

■まとめ

ここまで見てきたように、AIサーバーの熱問題は、GPUという一つの半導体だけの話ではない。

発熱量だけでなく発熱密度が高いこと。

HBMなどの高発熱部品が近接配置されること。

平均温度ではなく、内部のホットスポットが性能を左右すること。

これらが、AI半導体特有の難しさを作っている。

 

そして、その熱を外へ出すためには、TIMで受け、グラファインや金属で広げ、必要に応じてベイパーチャンバーや液冷で運ぶという、複数の技術を組み合わせた熱経路が必要になる。

どれほど高性能な冷却装置を用意しても、TIMがわずかに浮いているだけで、熱はその手前で止まってしまう。

 

さらに3D実装が進めば、熱源そのものがパッケージの内部へ入り込み、外側の冷却装置だけでは対処しきれなくなる可能性がある。

 

後編では、GPU以外にも存在する多くの発熱源、データセンター全体のエネルギー問題、そして何万個という規模でこの熱経路を再現し続けるための量産・自動化の課題を見た上で、OTISがこの領域でどのような役割を担っているのかを述べる。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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