■半導体製造装置では、なぜ熱が重要なのか
半導体製造では、
●成膜
●エッチング
●露光
●洗浄
●検査
●接合
●アニール
●搬送
など、多数の工程を繰り返す。
それぞれの工程では、
温度。
圧力。
真空。
ガス。
光。
電力。
時間。 を細かく管理する。
この中で温度は、多くの工程へ影響する。
例えば温度が変われば、
●化学反応速度
●ガス反応
●材料粘度
●熱膨張
●寸法
●接着性
●膜形成状態 が変わる可能性がある。
つまり半導体製造装置では、温度そのものがプロセス条件 なのである。
■「冷やせばよい」わけではない
半導体製造装置では、
温度が低ければ低いほどよい
というわけではない。
工程によっては、
200℃。
300℃。
さらに高い温度。で処理する場合もある。
逆に、一定温度へ冷却しながら加工する工程もある。
重要なのは、必要な温度を、必要な場所で、必要な時間だけ作ることである。
つまり熱対策というより、温度制御と考えた方が本質に近い。
■半導体製造装置には多数の熱源がある
装置内部では、
●ヒーター
●RF電源
●プラズマ
●レーザー
●モーター
●電源ユニット
●真空ポンプ
●制御基板
●センサー
●高速駆動部
などが発熱する。
さらに、製造プロセスそのものが熱を発生させる場合もある。
つまり装置内部には、意図的に熱を作る場所と、
意図せず熱が出る場所が同時に存在する。
この二つを分けて考える必要がある。
■プロセスのための熱と、邪魔になる熱がある
例えばウェハを一定温度へ加熱するためのヒーターは、必要な熱である。
一方、ヒーターの熱が周囲のセンサーやフレームへ伝わり、位置精度を変えてしまえば、不要な熱になる。
つまり半導体製造装置では、熱を発生させるだけでなく、
必要な場所だけへ熱を閉じ込めることが重要になる。
■温度ムラがプロセスムラになる
ウェハ全体を300℃に加熱したいとする。
しかし中央が300℃。
外周が295℃。
という温度ムラがあれば、化学反応や膜形成条件が場所によって変わる可能性がある。
つまり、温度分布が、製品品質分布につながる。
半導体製造では、平均温度だけではなく、面内温度均一性が重要になる。
■ウェハが大きいほど均一加熱は難しい
大きなウェハでは、中心と外周で熱の逃げ方が違う。
外周は周囲へ熱を逃がしやすい。
中央は熱がこもりやすい。
また、
●クランプ
●ガス
●電極
●支持構造 などによっても温度分布が変わる。
そのためヒーターを一つ置くだけでは、均一な温度を作ることが難しい。
複数ゾーンでヒーターを制御する。
冷却経路を分ける。
温度センサーを複数配置する。
こうした制御が必要になる。
■数℃の違いが歩留まりへ影響する
半導体製造では、
数℃の温度差でも、
●膜厚
●エッチング速度
●反応速度
●接合品質 が変わる可能性がある。
工程が微細化するほど、許容されるばらつきも小さくなる。
つまり半導体製造装置では、温度精度そのものが製造精度になる。
■熱膨張が位置精度を変える
物体は温度が上がると膨張する。
装置フレーム。
ステージ。
金属板。
シャフト。
治具。
すべて温度によって寸法が変わる。
例えば、長さ500mmの金属部品がわずかに伸びただけでも、
先端位置が数μm動く可能性がある。
半導体製造では、数μm、あるいは、さらに小さな位置差が重要になる。
つまり熱膨張は、単なる寸法変化ではない。
アライメント精度を壊す原因になる。
■装置が温まるまで精度が変わることがある
装置を起動した直後。
数時間稼働した後。
これでは装置内部の温度分布が違うことがある。
モーターが温まる。
電源が温まる。
フレームが温まる。
冷却水が安定する。
すると装置寸法が少しずつ変化する。
つまり、
装置起動直後と、熱的に安定した後では、位置精度が違う可能性がある。
そのため高精度設備では、熱的に安定するまで待つという考え方も重要になる。
■「熱ドリフト」とは何か
時間とともに装置温度が変わり、位置や測定値がゆっくり変化する。
これを一般に、熱ドリフトとして考えることができる。
熱ドリフトは急激な故障ではない。
少しずつ変わる。
そのため見つけにくい。
例えば、
朝は位置が合う。
午後になると少しずれる。
夜には別の補正値が必要になる。
このような現象が起こる可能性がある。
半導体製造では、温度を安定させることと、
温度変化による位置変化を補正することの両方が重要になる。
■露光・検査では熱ドリフトが特に重要になる
露光装置や高精度検査装置では、極めて高い位置精度が要求される。
このような装置では、
モーターの発熱。
照明の発熱。
電子回路の発熱。
人や周囲環境からの熱。
まで影響する可能性がある。
つまり、
大きな熱源だけを冷やせばよいわけではない。
小さな熱源を一つずつ管理し、装置全体の温度を安定させる必要がある。
まとめ
ここまで見てきたように、半導体製造装置における熱問題は、AIサーバーのような「高発熱部品をどう冷やすか」という話とは性格が違う。
温度そのものがプロセス条件であり、数℃の違いが歩留まりへ影響する。
装置内部には、意図的に熱を作る場所と、意図せず熱が出る場所が同時に存在する。
そして温度が変われば、装置部品はわずかに膨張し、ステージや位置精度がμm単位で動いてしまう。
装置起動直後と、熱的に安定した後では精度が違う。
この時間とともにゆっくり進む変化が、熱ドリフトである。
つまり半導体製造装置では、「熱い」こと自体が問題なのではない。
温度が動くことが、精度を壊す。
中編では、この温度をめぐって、加熱と冷却がどのように同時に存在し、真空・シール・クリーン環境といった条件とどう絡み合っていくのかを見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

