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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか
8-2. 半導体製造装置の熱問題(前編) ― 半導体製造では、「熱い」ことより「温度が動く」ことが精度を壊す ―

材料・加工技術

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8. 産業別応用編 成長産業で熱問題はどう現れるか<br>8-2. 半導体製造装置の熱問題(前編) ― 半導体製造では、「熱い」ことより「温度が動く」ことが精度を壊す ―

半導体製造装置では、熱問題は非常に重要である。
しかし、AIサーバーの熱問題とは少し性格が違う。
AIサーバーでは、高発熱部品をどう冷やすかが大きなテーマになる。
一方、半導体製造装置では、温度をどれだけ正確に、均一に、再現できるかが重要になる。
温度が1℃変わる。
装置部品がわずかに膨張する。
ステージが数μm動く。
材料の反応速度が変わる。
膜厚が変わる。
位置精度が変わる。
つまり半導体製造では、熱は冷却問題であると同時に、精度問題でもある。
半導体が微細化するほど、この影響は大きくなる。

■半導体製造装置では、なぜ熱が重要なのか

半導体製造では、

●成膜

●エッチング

●露光

●洗浄

●検査

●接合

●アニール

●搬送

など、多数の工程を繰り返す。

 

それぞれの工程では、

温度。

圧力。

真空。

ガス。

光。

電力。

時間。 を細かく管理する。

この中で温度は、多くの工程へ影響する。

 

例えば温度が変われば、

●化学反応速度

●ガス反応

●材料粘度

●熱膨張

●寸法

●接着性

●膜形成状態 が変わる可能性がある。

つまり半導体製造装置では、温度そのものがプロセス条件 なのである。

■「冷やせばよい」わけではない

半導体製造装置では、

温度が低ければ低いほどよい

というわけではない。

 

工程によっては、

200℃。

300℃。

さらに高い温度。で処理する場合もある。

 

逆に、一定温度へ冷却しながら加工する工程もある。

重要なのは、必要な温度を、必要な場所で、必要な時間だけ作ることである。

つまり熱対策というより、温度制御と考えた方が本質に近い。

■半導体製造装置には多数の熱源がある

装置内部では、

●ヒーター

●RF電源

●プラズマ

●レーザー

●モーター

●電源ユニット

●真空ポンプ

●制御基板

●センサー

●高速駆動部

などが発熱する。

 

さらに、製造プロセスそのものが熱を発生させる場合もある。

つまり装置内部には、意図的に熱を作る場所と、

意図せず熱が出る場所が同時に存在する。

この二つを分けて考える必要がある。

■プロセスのための熱と、邪魔になる熱がある

例えばウェハを一定温度へ加熱するためのヒーターは、必要な熱である。

一方、ヒーターの熱が周囲のセンサーやフレームへ伝わり、位置精度を変えてしまえば、不要な熱になる。

つまり半導体製造装置では、熱を発生させるだけでなく、

必要な場所だけへ熱を閉じ込めることが重要になる。

■温度ムラがプロセスムラになる

ウェハ全体を300℃に加熱したいとする。

しかし中央が300℃。

外周が295℃。

という温度ムラがあれば、化学反応や膜形成条件が場所によって変わる可能性がある。

 

つまり、温度分布が、製品品質分布につながる。

半導体製造では、平均温度だけではなく、面内温度均一性が重要になる。

■ウェハが大きいほど均一加熱は難しい

大きなウェハでは、中心と外周で熱の逃げ方が違う。

外周は周囲へ熱を逃がしやすい。

中央は熱がこもりやすい。

 

また、

●クランプ

●ガス

●電極

●支持構造 などによっても温度分布が変わる。

そのためヒーターを一つ置くだけでは、均一な温度を作ることが難しい。

複数ゾーンでヒーターを制御する。

冷却経路を分ける。

温度センサーを複数配置する。

こうした制御が必要になる。

■数℃の違いが歩留まりへ影響する

半導体製造では、

数℃の温度差でも、

●膜厚

●エッチング速度

●反応速度

●接合品質 が変わる可能性がある。

工程が微細化するほど、許容されるばらつきも小さくなる。

 

つまり半導体製造装置では、温度精度そのものが製造精度になる。

■熱膨張が位置精度を変える

物体は温度が上がると膨張する。

装置フレーム。

ステージ。

金属板。

シャフト。

治具。

すべて温度によって寸法が変わる。

 

例えば、長さ500mmの金属部品がわずかに伸びただけでも、

先端位置が数μm動く可能性がある。

半導体製造では、数μm、あるいは、さらに小さな位置差が重要になる。

つまり熱膨張は、単なる寸法変化ではない。

アライメント精度を壊す原因になる。

■装置が温まるまで精度が変わることがある

装置を起動した直後。

数時間稼働した後。

これでは装置内部の温度分布が違うことがある。

モーターが温まる。

電源が温まる。

フレームが温まる。

冷却水が安定する。

すると装置寸法が少しずつ変化する。

 

つまり、

装置起動直後と、熱的に安定した後では、位置精度が違う可能性がある。

そのため高精度設備では、熱的に安定するまで待つという考え方も重要になる。

■「熱ドリフト」とは何か

時間とともに装置温度が変わり、位置や測定値がゆっくり変化する。

これを一般に、熱ドリフトとして考えることができる。

熱ドリフトは急激な故障ではない。

少しずつ変わる。

そのため見つけにくい。

 

例えば、

朝は位置が合う。

午後になると少しずれる。

夜には別の補正値が必要になる。

このような現象が起こる可能性がある。

半導体製造では、温度を安定させることと、

温度変化による位置変化を補正することの両方が重要になる。

■露光・検査では熱ドリフトが特に重要になる

露光装置や高精度検査装置では、極めて高い位置精度が要求される。

このような装置では、

モーターの発熱。

照明の発熱。

電子回路の発熱。

人や周囲環境からの熱。

まで影響する可能性がある。

 

つまり、

大きな熱源だけを冷やせばよいわけではない。

小さな熱源を一つずつ管理し、装置全体の温度を安定させる必要がある。

まとめ

ここまで見てきたように、半導体製造装置における熱問題は、AIサーバーのような「高発熱部品をどう冷やすか」という話とは性格が違う。
温度そのものがプロセス条件であり、数℃の違いが歩留まりへ影響する。

 

装置内部には、意図的に熱を作る場所と、意図せず熱が出る場所が同時に存在する。
そして温度が変われば、装置部品はわずかに膨張し、ステージや位置精度がμm単位で動いてしまう。
装置起動直後と、熱的に安定した後では精度が違う。
この時間とともにゆっくり進む変化が、熱ドリフトである。

 

つまり半導体製造装置では、「熱い」こと自体が問題なのではない。
温度が動くことが、精度を壊す。

 

中編では、この温度をめぐって、加熱と冷却がどのように同時に存在し、真空・シール・クリーン環境といった条件とどう絡み合っていくのかを見ていく。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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