■熱対策は単独では存在しない
例えばパワー半導体を冷却するとする。
半導体から金属冷却プレートへ熱を逃がしたい。
しかし電気的には絶縁したい。
つまり、
熱は通したい。
電気は通したくない。
という相反する要求になる。
また屋外機器なら、
熱は外へ逃がしたい。
しかし筐体は密閉したい。
という矛盾が生まれる。
つまり実際の製品では、熱対策は他機能と常に競合する。
■絶縁材を入れると熱抵抗が増えることがある
電気を絶縁するために、絶縁フィルムを追加する。
すると安全性は上がる。
しかし絶縁フィルムも熱経路の一部になる。
厚くすれば絶縁には有利。
一方、熱には不利になる場合がある。
つまり、
絶縁性能を上げるほど、放熱性能が落ちる
ことがある。
■薄くすれば熱には有利だが、安全余裕が減る
逆に絶縁フィルムを薄くすれば、熱抵抗を小さくできる可能性がある。
しかし薄くなるほど、
● ピンホール
● 傷
● バリ
● 異物
の影響を受けやすくなる。
つまり、
熱性能のために薄くする。
しかし安全性は厳しくなる。
このバランスが重要になる。
■材料単体で絶縁できても、加工後に失敗することがある
材料メーカーのカタログでは十分な絶縁性能がある。
しかし加工時に、
バリが出る。
端面が傷つく。
位置がずれる。
金属部が露出する。
といったことが起こる。
すると材料単体の性能は良くても、完成部材では絶縁できない。
つまり、絶縁性能は材料性能だけではなく加工品質で決まる。
■金属箔は熱にもノイズにも効く
銅箔やアルミ箔は熱をよく伝える。
そのため熱拡散材として使える。
一方で導電性があるため、EMIシールドにも使える。
つまり一つの金属箔が、
放熱。
EMI。
の両方に関係する。
これはメリットでもある。
しかし設計を間違えると、逆にノイズ経路を作ることもある。
■熱的に良い金属配置が、電気的に良いとは限らない
例えば熱を逃がすため、基板上に大きな銅箔を追加する。
熱は広がる。
しかしその銅箔がアンテナ近傍にあると、通信特性へ影響する可能性がある。
またグランド設計によっては、不要な電流経路を作ることもある。
つまり、熱拡散材は電気的にも存在している。
熱設計だけで金属を置くことはできない。
■グラファイトも導電性がある
グラファイトは面方向へ熱を広げるために有効である。
しかし電気も通す。
そのため、電子部品や基板近くで使う場合には、
● 絶縁フィルム
● 保護フィルム
● 端部処理
が必要になることがある。
つまりグラファイト単体で高性能でも、実際には絶縁材を追加する。
すると積層厚みや熱抵抗も変わる。
■EMI対策材を追加すると熱の流れも変わる
EMIシールド材として金属箔を追加する。
すると、その金属箔が熱を別方向へ運ぶ場合がある。
これは良い場合もある。
しかし、意図しない場所へ熱を伝える可能性もある。
例えば、
熱源からバッテリー側へ熱が流れる。
温度センサー周辺へ熱が流れる。
などである。
つまり、EMI部材も熱設計の一部になる。
■防水すると空気が流れなくなる
屋外機器や車載機器では、防水・防塵が必要になる。
そのため筐体を密閉する。
しかし密閉すると、
内部の熱が空気で外へ逃げにくくなる。
つまり、
防水性能を上げるほど空冷が難しくなる
場合がある。
■密閉機器では筐体そのものを熱経路にする
筐体内部の空気を外へ出せないなら、
発熱部品
↓
TIM
↓
内部フレーム
↓
筐体
のように、固体を通じて熱を外へ逃がす必要がある。
つまり防水設計では、熱を外気へ直接捨てるのではなく、
筐体まで熱を運ぶ経路
を作ることが重要になる。
■しかし筐体表面温度にも限界がある
筐体へ熱を逃がせば内部は冷える。
しかし人が触る機器では、筐体が熱くなりすぎると問題になる。
医療機器。
ロボット。
ウェアラブル。
などでは特に重要である。
つまり、
内部は冷やしたい。
外装は熱くしたくない。
という新しい矛盾が生まれる。
■シール材も熱の流れを変える
防水のためにガスケットや発泡シールを入れる。
このシール材が部材間に入ることで、熱経路が変わることがある。
例えば金属筐体同士を直接接触させれば熱を逃がせる。
しかし間に厚い発泡シールが入れば、熱が流れにくくなる。
つまり、防水部材の配置も熱設計に影響する。
■シール材を薄くすればよいわけではない
シール材を薄くすれば熱には有利になる場合がある。
しかし防水には、一定の圧縮量が必要になる。
薄すぎると、
段差を吸収できない。
面粗さを埋められない。
圧縮余裕がない。
といった問題が出る。
つまり、防水と熱でも最適厚みは異なる。
■圧縮率も複数機能に影響する
ガスケットや発泡材は、圧縮して使う。
圧縮すれば防水性は上がることがある。
一方で、
熱伝導。
厚み。
反発力。
も変わる。
つまり一つの圧縮条件が、
防水。
熱。
機械応力。
のすべてに影響する。
■液冷では防水よりさらに厳しいシールが必要になる
液冷機器では、内部に冷却液が流れる。
ここでは外部から水を入れないだけでなく、
内部の液体を漏らさない
必要がある。
コールドプレート。
配管。
継手。
シール材。
すべてが関係する。
つまり液冷では、熱性能とシール信頼性を同時に成立させる必要がある。
■熱伝導率を上げた結果、シール性が落ちることもある
例えばシール材に熱伝導フィラーを多く入れる。
熱伝導性は上がる。
しかし材料が硬くなる。
すると段差への追従性が悪くなり、防水性能が低下することがある。
つまり、材料の一機能を上げると、別機能が下がることがある。
■粘着材も熱と防水に関係する
両面テープは、
固定。
防水。
シール。
に使われることがある。
しかし熱経路へ入れば熱抵抗にもなる。
例えば筐体を防水両面テープで固定する。
防水性は高い。
しかし熱源から筐体へ熱を逃がしたい場合、そのテープが熱経路のボトルネックになる可能性がある。
■全面粘着と部分粘着で機能が変わる
全面粘着にすれば、
固定力。
防水性。
は上げやすい。
しかし熱抵抗が増える場合がある。
部分粘着にすれば、熱経路を確保しやすい。
しかし防水ラインが切れる可能性がある。
つまり、
どこを貼り、どこを貼らないか
も複合機能設計になる。
■防水ラインには連続性が必要になる
ガスケットや粘着シールでは、外周が一周つながっていないと水が入る可能性がある。
途中に、
切れ。
段差。
欠け。
位置ズレ。
があると防水性を失う。
つまり、熱対策部材とシール部材を一体化する場合でも、
シールラインを壊さない形状 が必要になる。
■絶縁と防水を一枚で担うこともある
例えば絶縁フィルムに粘着材を付け、金属筐体へ貼る。
すると、
絶縁。
防水。
固定。
を一枚で担える場合がある。
これは部品点数削減につながる。
しかし同時に、
熱抵抗。
貼付気泡。
端面形状。
も重要になる。
つまり多機能化するほど設計条件も増える。
■多機能化は便利だが、失敗時の影響も大きい
一枚の部材が、
絶縁。
防水。
熱伝導。
固定。
を担う。
この場合、一つの部材で多くの工程を減らせる。
しかし一か所の不良で、
熱。
絶縁。
防水。
のすべてを失う可能性がある。
つまり、多機能部材では一枚の品質責任が大きくなる。
■熱対策で開口を増やすと防水を壊すことがある
放熱のために開口を作る。
空気を流す。
通気孔を設ける。
熱的には有利。
しかし防水性は下がる。
つまり、
空冷性能と防水性能は根本的に競合する
ことがある。
そのため通気膜や特殊構造など別の対策が必要になる場合もある。
■ノイズ対策で筐体を金属化すると熱にも影響する
EMI対策のために金属筐体を使う。
金属は熱もよく伝える。
そのため筐体放熱には有利。
一方で、
重量。
絶縁。
電気経路。
の問題が増える。
つまり、金属筐体一つをとっても、
熱。
EMI。
重量。
絶縁。
のすべてに影響する。
■軽量化するとシールドと放熱の両方が難しくなる
金属を薄くする。
樹脂へ置き換える。
軽量化できる。
しかし、
熱を広げにくくなる。
EMIシールド性能が下がる。
可能性がある。
そのため、
薄い金属箔を部分的に配置する。
導電塗料を使う。
グラファイトを追加する。
などの複合対策が必要になる。
■EVでは熱・絶縁・防水が同時に存在する
EVバッテリーでは、
セルを冷やしたい。
高電圧を絶縁したい。
冷却液を漏らしたくない。
外から水も入れたくない。
さらに熱暴走時には熱を広げたくない。
つまりEVは、複合課題の典型である。
熱だけを見て部材を選ぶことはできない。
■通常時と異常時で求める熱特性が逆になることもある
EVバッテリーでは通常時、
セルから冷却プレートへ熱を逃がしたい。
しかし異常時には、隣のセルへ熱を伝えたくない。
つまり、
通常時は放熱。
異常時は断熱。
という矛盾がある。
これは一つの材料だけで解決しにくい。
熱伝導材と断熱材を、場所ごとに使い分ける必要がある。
■AIサーバーでも熱とEMIは近づいている
GPU。
HBM。
高速通信。
光通信。
電源。
これらが高密度化する。
すると熱源と高周波回路が近づく。
放熱用金属。
EMIシールド。
絶縁。
を同じ狭い空間で成立させなければならない。
つまり高密度化するほど、熱単独の設計は難しくなる。
■スマートデバイスでは熱・電波・防水が競合する
スマートフォンでは、
SoCの熱を広げたい。
しかしアンテナ周辺には金属を置きにくい。
さらに筐体は防水したい。
しかも薄くしたい。
つまり、
熱。
電波。
防水。
薄型化。
のすべてを同時に成立させる必要がある。
このような市場では、複合機能部材の価値が高い。
■医療機器では熱・絶縁・人体安全を同時に見る
ウェアラブル医療機器では、
電子部品を冷やしたい。
人体側へ熱を流しすぎたくない。
電気は絶縁したい。
汗や水分も入れたくない。
つまり、
熱。
絶縁。
防水。
装着性。
を同時に考える必要がある。
■ロボットでは熱・EMI・防水・軽量化が競合する
ロボットでは、
モーター。
AI基板。
バッテリー。
が発熱する。
さらに、
防水。
EMI。
軽量化。
可動性。
も必要になる。
大きな金属ヒートシンクを入れれば冷える。
しかし重くなる。
密閉すれば防水できる。
しかし熱がこもる。
つまり、複数要求の中で最適点を探す必要がある。
■一つの評価だけでは採用判断できない
例えば熱評価だけを行う。
温度は合格。
しかし絶縁試験をすると不合格。
EMI試験をするとノイズが増える。
防水試験をすると漏れる。
こうしたことがある。
つまり材料や構造を変更するときは、関連する複数の評価を行う必要がある。
■設計変更は別機能への影響を見る
TIMを変更する。
金属箔を追加する。
絶縁フィルムを薄くする。
粘着材を変更する。
こうした変更は、一つの機能だけに影響するわけではない。
熱を改善したとき、
絶縁。
ノイズ。
防水。
耐久性。
に何が起きるかを見る必要がある。
つまり、熱対策の変更はシステム変更である。
■失敗例:放熱のため金属箔を追加したらノイズが悪化した
局所熱を広げるため、銅箔を追加した。
温度は下がった。
しかしEMI評価で悪化した。
金属箔が意図しない電気的結合を作っていた。
つまり、
熱性能だけを確認して採用した結果、
電気性能を壊した。
■失敗例:絶縁フィルムを薄くして温度は下がったが絶縁不良
熱抵抗を下げるため、絶縁フィルムを薄くした。
部品温度は下がった。
しかし量産後、一部で絶縁不良が発生した。
原因は金属バリや異物の影響だった。
厚い材料では問題にならなかった小さな突起が、薄膜化によって顕在化した。
つまり、熱改善が安全マージンを削っていた。
■失敗例:防水を強化したら内部温度が上がった
屋外機器の防水性能を上げるため、開口部を減らし筐体を密閉した。
防水試験は合格した。
しかし連続運転すると内部温度が大きく上昇した。
空冷経路がなくなったためである。
つまり、
防水対策が熱経路を壊した。
■失敗例:全面粘着で防水性は上がったが熱性能が低下した
防水と固定を確実にするため、全面粘着テープを追加した。
水は入らなくなった。
しかしその粘着層が熱経路へ入り、部品温度が上昇した。
つまり一枚の粘着材が、
防水にはプラス。
熱にはマイナス。
となった。
■研究者視点:最適化する対象を一つにしない
熱抵抗を最小化する。
絶縁厚みを最大化する。
シール圧を最大化する。
EMIシールドを最大化する。
それぞれ単独では正しいように見える。
しかし製品ではすべてを最大化できない。
重要なのは、必要な性能を満たす範囲で、
複数機能の総合最適点を探すこと
である。
■現場視点:問題が一つなら、対策も一つとは限らない
温度が高い。
TIMを変える。
だけで解決しようとすると、別機能を壊す場合がある。
例えば、
TIM変更。
接触改善。
筐体熱拡散。
空気流路改善。
電力制御。
など、複数の小さな改善を組み合わせる。
その方が全体性能を崩さずに改善できる場合がある。
■複合機能部材という考え方
複数課題を解決するため、
グラファイト
+
絶縁フィルム
+
粘着材
あるいは、
金属箔
+
絶縁材
+
シール材
のように、複数機能を一つの部材へまとめることがある。
これによって、
部品点数。
貼付工程。
位置ズレ。
を減らせる可能性がある。
■ただし複合化は材料を重ねるだけではない
複数材料を積層すれば機能は増える。
しかし、
厚み。
熱抵抗。
反り。
剥離。
加工難易度。
も増える。
つまり複合機能部材は、
機能を足し算するだけではなく、機能同士の干渉を設計する
必要がある。
■どこに何の機能を置くかが重要になる
全面に絶縁材。
全面に粘着材。
全面に金属箔。
とすると、必要以上に厚くなる。
そこで、
熱源直上だけTIM。
高電圧部だけ絶縁。
外周だけ防水粘着。
ノイズ源周辺だけ金属箔。
というように、必要な場所だけ機能を配置する。
つまり、部分加工・部分ラミネートの価値が出る。
■部分ラミネートで全体性能を最適化する
例えば、
中央は放熱。
外周は防水。
一部だけ絶縁。
という構造を作る。
これを別々の部材で組み立てると位置ズレが増える。
あらかじめ必要位置へ積層できれば、組立工程を減らせる。
つまり加工会社は、材料そのものではなく、
機能配置を作る ことができる。
■OTIS視点:熱だけの加工会社にならない
OTISが熱対策材料を加工する場合、
TIM。
グラファイト。
だけを見るのでは足りない。
実際の顧客課題は、
熱+絶縁。
熱+防水。
熱+EMI。
熱+粘着。
であることが多い。
つまりOTISが狙うべきなのは、
「放熱材を加工できます」ではなく、「複数機能を量産部材として成立させられます」
という領域である。
■材料メーカーの専門性を組み合わせる
OTISがすべての材料を開発する必要はない。
絶縁材メーカー。
グラファイトメーカー。
粘着材メーカー。
シール材メーカー。
それぞれの高性能材料を組み合わせる。
OTISは、
形状。
位置。
積層。
供給形態。
を設計する。
つまり材料メーカーの専門性を、一つの量産部材へ統合する役割を担う。
■顧客課題から機能を分解する
例えば、
「この部品が熱くて、防水も必要です」
という相談がある。
すぐに一つの材料を探すのではなく、
熱をどこへ逃がすか。
どこをシールするか。
電気絶縁は必要か。
EMIはあるか。
固定は必要か。
を分解する。
そのうえで必要な機能材料を組み合わせる。
つまり、製品名ではなく機能で考えることが重要になる。
■OTISでできること
OTISでは、
● TIM加工
● グラファイト加工
● 銅箔・アルミ箔加工
● 絶縁フィルム加工
● EMI材加工
● 粘着材加工
● ガスケット・シール材加工
● 発泡体加工
● 高精度打ち抜き
● 薄膜加工
● 部分ラミネート
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
● ハーフカット
● 開口加工
● リール・ツー・リール加工
● 複合機能部材化
● 自動貼付向け供給形態
などを通じて、熱だけでなく複数機能を持つ部材の量産化に貢献できる。
■OTISの専門外
OTISは、
● 熱材料そのものの開発
● 絶縁材料そのものの配合開発
● EMI解析専業
● 防水構造全体の設計
● 製品全体の電気設計
を専門とする会社ではない。
必要に応じて、材料メーカー、解析会社、顧客設計部門と連携する。
その中でOTISは、複数の機能材料を実際に組み付け可能な一つの部材へ変える役割を担う。
■まとめ:熱だけ良くなっても、製品として良くなったとは限らない
熱対策では、部品温度を下げることが重要である。
しかし製品には、
絶縁。
防水。
EMI。
固定。
耐久性。
といった別の機能も必要になる。
熱を改善した結果、
絶縁が悪くなる。
防水が悪くなる。
ノイズが増える。
剥がれる。
では、製品としては改善していない。
だから熱対策では、
一つの数値を最大化するのではなく、製品全体を成立させる必要がある。
どこでは熱を流すのか。
どこでは熱を止めるのか。
どこでは電気を止めるのか。
どこでは水を止めるのか。
どこではノイズを止めるのか。
それぞれを整理し、必要な機能を必要な場所へ配置する。
これが重要になる。
良い熱対策とは、最もよく冷える構造ではない。
熱を下げながら、他の必要機能を壊さない構造である。
そしてその複数機能を、薄く、精度よく、量産できる形へまとめる。
そこに、加工会社が熱対策へ関わる大きな価値があるのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



