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9-7. 試作条件と量産条件が違う(前編) ― 試作で成功しても、量産で同じ結果が出るとは限らない ―

材料・加工技術

公開日:
9-7. 試作条件と量産条件が違う(前編) ― 試作で成功しても、量産で同じ結果が出るとは限らない ―

試作ではうまくいった。
温度も下がった。
絶縁も問題ない。
貼り合わせもきれい。
顧客評価も良好。
そこで量産へ進む。
しかし量産が始まると、
温度がばらつく。
貼付位置がずれる。
気泡が増える。
材料が剥がれる。
反りが出る。
一部だけ絶縁不良が起きる。
といった問題が発生することがある。
なぜなのか。
それは、試作と量産では条件が違うからである。
試作では、最も良い条件を作りやすい。
量産では、さまざまなばらつきの中で、同じ性能を出し続けなければならない。
つまり、試作は「できるか」を確認する工程であり、
量産は「同じものを作り続けられるか」を証明する工程である。

■試作は理想条件に近づけやすい

試作では、

材料を選べる。

作業者を選べる。

ゆっくり貼れる。

良いものだけ使える。

問題があればやり直せる。

そのため、非常に良い状態を作ることができる。

しかし量産では、

材料ロットが変わる。

作業者が変わる。

設備状態が変わる。

生産速度も上がる。

つまり、試作より多くの変動要因が入る。

■試作一個の成功は、量産性能の保証ではない

一個きれいに作れた。

十個すべて合格した。

これは重要である。

しかし量産では、

1000個。

1万個。

10万個。

を作る。

数量が増えるほど、試作時には見えなかった小さなばらつきが出てくる。

つまり、試作評価は量産分布のごく一部を見ているにすぎない。

■量産では材料ロットが変わる

試作では一つの材料ロットを使うことが多い。

しかし量産では、継続的に複数ロットを使う。

同じ品番でも、

厚み。

硬さ。

粘着力。

剥離力。

表面状態。

に一定のばらつきが存在する場合がある。

試作時に使ったロットが偶然扱いやすかった可能性もある。

つまり量産では、材料の平均性能だけでなく、材料公差の範囲全体で工程が成立するかを見る必要がある。

■厚み公差は積み重なる

例えば、

TIM ±0.05mm。

絶縁フィルム ±0.02mm。

粘着層 ±0.02mm。

という構造がある。

一つ一つの公差は小さい。

しかし積層すると、完成部材の厚みばらつきは大きくなる。

さらに相手部品側にも寸法公差がある。

すると最終的な圧縮量が、

ある製品では大きい。

別の製品では小さい。

という状態になる。

つまり量産では、各部品の公差を足し合わせた最悪条件を見る必要がある。

■設計値ではなく、公差端を見る

例えば設計上の隙間が1.0mm。

TIM厚みも1.0mm。

図面上では完全に一致する。

しかし実際には、

隙間 0.8〜1.2mm。

TIM 0.9〜1.1mm。

というばらつきがあるかもしれない。

すると、

十分圧縮される組み合わせ。

ほとんど接触しない組み合わせ。

が発生する可能性がある。

つまり量産設計では、平均値ではなく、最大・最小の組み合わせまで考える必要がある。

■設備も常に同じ状態ではない

量産設備は毎日動く。

金型。

ローラー。

吸着ヘッド。

ガイド。

刃物。

これらは少しずつ摩耗する。

初日の設備と、数十万個加工した後の設備は完全に同じではない。

そのため量産では、

「設備が正常なときに作れる」

だけではなく、

設備変化の中でも品質を維持できるか

が重要になる。

■金型摩耗が部材性能へ影響する

打ち抜き金型が摩耗すると、

バリが増える。

外形が変わる。

穴位置が変わる。

切断面が悪くなる。

こうした変化が、

絶縁。

貼付位置。

自動認識。

接触状態。

へ影響する可能性がある。

つまり金型管理も、最終的には機能品質管理になる。

■刃物交換直前まで品質を維持できるか

新品の金型では良好。

しかし摩耗してくると徐々に品質が落ちる。

問題は、どの段階で交換するかである。

完全に不良になってから交換するのでは遅い。

そのため、

バリ。

寸法。

外観。

などの変化を監視し、予防的に交換する。

つまり、量産品質は設備保全ともつながっている。

■量産速度が試作条件を変える

試作では一個ずつゆっくり加工できる。

量産では速度を上げる。

すると、

材料挙動。

粘着挙動。

剥離挙動。

熱。

張力。

が変わる。

つまり量産速度そのものが、新しい工程条件になる。

■速く貼ると粘着挙動が変わることがある

粘着材は粘弾性体である。

ゆっくり貼る場合と、高速で貼る場合では、接触状態が変わることがある。

試作では良好に濡れ広がる。

量産高速貼付では空気が残る。

ということもある。

つまり、同じ材料でも速度によって性能が変わる。

■圧着時間も量産では短くなる

試作では、

数秒押さえる。

ローラーで何度も圧着する。

ことができる。

量産ではタクトがある。

一個に数秒かけられない場合もある。

すると、試作時と同じ圧力でも、接触状態が変わる可能性がある。

つまり圧力だけでなく、圧力×時間を見る必要がある。

■温度・湿度も量産条件になる

材料によっては、

夏。

冬。

梅雨。

で挙動が変わる。

粘着材が柔らかくなる。

フィルム寸法が変わる。

静電気が増える。

剥離力が変わる。

試作室では空調が安定していた。

量産現場では季節差が大きい。

ということもある。

つまり、環境条件も工程設計の一部である。

■保管条件も品質へ影響する

材料を納入直後に使う。

倉庫で数か月保管してから使う。

冷蔵保管する。

常温保管する。

これによって材料状態が変わる場合がある。

特に、

粘着材。

熱硬化材。

吸湿性材料。

では保管条件が重要になる。

量産では、材料入荷から使用までの履歴まで考える必要がある。

■材料の開封後時間も条件になる場合がある

一度開封した材料を、

すぐ使う。

翌日使う。

一週間後に使う。

で状態が変わることがある。

吸湿。

表面汚染。

粘着力変化。

などである。

つまり、量産では「材料品番」だけでなく、材料の状態管理が必要になる。

■作業者が変わる

試作では開発者自身が組み立てる。

材料特性をよく知っている。

しかし量産では、多くの作業者が関わる。

同じ手順書でも、

貼付角度。

圧着力。

剥離速度。

が微妙に違う。

そのため、作業者技能だけに依存する工程は量産でばらつきやすい。

■標準作業にできるかが重要になる

量産では、

誰が作業しても。

どのシフトでも。

同じ品質になる。

必要がある。

そのため、

治具。

位置決め。

貼付順序。

圧着方法。

を標準化する。

つまり、熟練者の技術を工程へ移す必要がある。

■人の感覚を数値へ変える

試作では、

「このくらい押せばよい」

「このくらいの速さで貼る」

という感覚で対応できる。

量産では、

圧力○N。

速度○mm/s。

時間○秒。

位置±○mm。

などへ変える。

つまり、量産成立とは、感覚条件を管理条件へ変換することでもある。

■自動化してもばらつきはゼロにならない

自動機なら完全に同じになる。

そう思いたくなる。

しかし設備にも、

位置精度。

圧力精度。

張力変動。

温度変化。

がある。

つまり自動化はばらつきを減らす手段ではあるが、ゼロにはできない。

必要なのは、自動設備自身のばらつきを含めて工程を設計することである。

■自動機の立ち上げ時と連続運転時で条件が変わる

朝、設備を起動する。

モーターやローラーが冷えている。

数時間動く。

設備温度が上がる。

すると、

張力。

寸法。

粘着挙動。

が少し変わる場合がある。

つまり量産では、立ち上げ直後と安定運転時の差も確認する価値がある。

■量産では設備間差も出る

試作設備は一台。

量産では同じ設備を複数台導入する。

すると、

設備A。

設備B。

設備C。

で微妙に条件が違うことがある。

同じ設定値でも、実際の圧力や位置精度が違う。

つまり複数ライン展開では、設備間再現性も必要になる。

■海外工場へ移管すると条件がさらに変わる

日本で量産成立した。

その後、海外工場へ移管する。

設備。

材料調達先。

温湿度。

作業者。

輸送条件。

が変わる。

すると同じ図面でも品質が変わる場合がある。

つまり、図面を移せば量産条件まで移るわけではない。

■輸送も量産条件の一部である

部材を加工した時点では良品。

しかし顧客へ届いたときに、

反る。

粘着材が変形する。

位置がずれる。

リールが崩れる。

ことがある。

高温。

高湿。

振動。

長時間保管。

が影響する場合がある。

つまり量産品質は、工場出荷時ではなく、顧客が使う瞬間まで維持されて初めて成立する。

■リール部材では輸送後のピッチも重要になる

出荷時にはピッチが合っている。

しかし輸送中にリールが高温になり、キャリアが伸びる。

あるいは巻き圧が変わる。

すると顧客設備でピッチがずれる可能性がある。

つまりリール品は、加工精度だけでなく物流環境も確認する必要がある。

■試作評価条件が実使用条件と違うこともある

例えば熱評価を室温で行った。

実際の製品は80℃環境で使う。

あるいはマイナス20℃でも使う。

試作では水平状態。

実使用では振動する。

試作では新品材料。

実使用では5年間使う。

これでは評価条件が違う。

つまり、試作で性能が出た条件と、顧客が使う条件が同じかを確認する必要がある。

■前編のまとめ:量産とは、変動要因の中で同じ性能を出し続けること

試作では、良い条件を作ることができる。

材料を選ぶ。作業者を選ぶ。ゆっくり貼る。問題があればやり直す。

 

しかし量産では、それができない。

 

材料ロットが変わる。

公差が積み重なる。

金型が摩耗する。

速度が上がり、圧着時間は短くなる。

夏と冬で材料挙動が変わる。

保管期間も開封後時間も条件になる。

作業者が変わる。

自動機でさえ、起動直後と連続運転時では違う。

設備が複数台になれば設備間差が出る。

海外へ移管すれば環境ごと変わる。

そして輸送中にも部材は変化する。

 

試作にはなかった変動要因が、すべて量産には入ってくる。

 

つまり、

試作は「できるか」を確認する工程であり、

量産は「同じものを作り続けられるか」を証明する工程である。

 

後編では、その証明の方法を見ていく。

最悪値で見る。設計マージンを持つ。工程能力で管理する。

そして、実際に起きた失敗事例と、加工会社が担える領域。

 

コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。

 

※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

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