■EV電池では絶縁が極めて重要になる
バッテリーパックには高い電圧が存在する。
セル。
バスバー。
冷却プレート。
金属ケース。
これらの間で、不要な電気的接触を防ぐ必要がある。
そのため、
●絶縁フィルム
●絶縁シート
●絶縁コーティング
●絶縁性粘着材
などが使われる。
つまりEV電池では、
熱を通したい。
電気は絶対に通したくない。
という要求が非常に強い。
■冷却プレートは金属であることが多い
冷却プレートには、熱伝導性や軽量性から金属が使われる場合がある。
セルや電極部材の近くに金属があるため、
絶縁不良
が安全上の大きな問題になる。
絶縁フィルムが破れる。
金属バリが突き抜ける。
位置ズレで金属が露出する。
異物が入る。
こうした小さな不良が、大きなリスクへつながる可能性がある。
■絶縁材は薄くしたい。しかし薄すぎても危険
絶縁フィルムを薄くすれば、
●軽量化
●省スペース
●熱抵抗低減
に有利になる。
しかし薄くなるほど、
●ピンホール
●傷
●異物
●バリ
の影響を受けやすくなる。
つまり、
熱的には薄くしたい。
電気的には余裕が欲しい。
という矛盾がある。
EV電池では、このバランスが重要になる。
■バリが絶縁フィルムを壊す可能性がある
銅箔。
アルミ箔。
バスバー。
金属ケース。
電池周辺には多数の金属部材がある。
端面に鋭いバリがあれば、
薄い絶縁フィルムへ局所的な圧力を加える。
振動。
温度サイクル。
長期使用。
によって絶縁材を損傷する可能性がある。
つまり、金属加工の端面品質も電池安全性に関係する。
■難燃性も重要になる
電池では異常が発生した場合、
大きな熱が発生する可能性がある。
そのため周辺材料には、
●難燃性
●耐熱性
●延焼抑制
が求められる。
しかし難燃性を高めるために材料を厚くしたり、別の層を追加したりすると、
熱抵抗や重量が増えることがある。
ここでも、
通常時には熱を逃がしたい。
異常時には熱を広げたくない。
という矛盾が生じる。
■通常時の放熱と異常時の熱遮断は違う
通常運転では、
セルから冷却プレートへ熱を効率よく逃がしたい。
しかし一つのセルで異常発熱が起きた場合、
隣のセルへ熱を伝えたくない。
つまり同じバッテリーパックの中で、
通常時
= 熱を逃がす
異常時
= 熱を遮る
という異なる要求が存在する。
ここが電池熱設計の非常に難しいところである。
■熱暴走とは何か
電池内部で異常な温度上昇が起こり、
内部反応がさらに発熱を増やし、
温度上昇が加速する状態がある。
このような熱暴走が起こると、
一つのセルの異常が周辺セルへ広がる可能性がある。
そのため電池パックでは、一つの異常をパック全体へ拡大させないことが重要になる。
■セル間に熱遮蔽材を入れる
熱暴走の伝播を抑えるため、
セル間へ、
●断熱材
●耐熱材
●難燃材
●エアロゲル系材料
などを配置することが考えられる。
これによって、異常セルから隣接セルへの熱伝達を遅らせる。
しかし断熱材は通常時の熱移動も妨げる。
つまり、通常冷却性能と、異常時安全性の両立が必要になる。
■「熱を通す材料」と「熱を止める材料」が同じパックに入る
EVバッテリーパックには、
熱伝導材。
断熱材。
絶縁材。
粘着材。
シール材。
緩衝材。
が同時に存在する。
つまり、
放熱材料だけを考えても、電池熱対策は完成しない。
どこで熱を通すか。
どこで熱を止めるか。
どこを絶縁するか。
どこを固定するか。
を組み合わせる必要がある。
■液冷ではシールも重要になる
冷却プレート内部には冷却液が流れる。
配管。
継手。
接合部。
これらから液体が漏れれば、大きな問題になる。
そのため、
●Oリング
●ガスケット
●シール材
などが重要になる。
EVでは、振動しながら、長期間、温度変化を受けても漏れない必要がある。
データセンターの液冷とは、使用環境が大きく異なる。
■車は常に振動している
バッテリーパックは、道路からの振動や衝撃を受ける。
さらに、
冬。
夏。
充電。
走行。
駐車。
によって温度も変化する。
つまりシール材や粘着材は、
振動+温度サイクル
を長期間受ける。
初期に漏れないだけでは不十分である。
■冷却液と材料の相性も重要になる
冷却液が、
●シール材
●ゴム
●樹脂
●粘着材
へ長期間接触する場合、
膨潤。
硬化。
劣化。
が起こる可能性がある。
そのため液冷電池では、熱性能だけでなく、冷却液との材料適合性も重要になる。
■防水・防塵も必要になる
バッテリーパックは車両の下部に配置されることが多い。
そのため、
●水
●泥
●塩分
●ホコリ
などから内部を守る必要がある。
つまりパック外周には、シールが必要になる。
しかしシール材の厚みや圧縮状態が安定しなければ、防水性を維持できない。
■ガスケットは形状精度が重要になる
大きなバッテリーケースでは、外周シールも長くなる。
シールラインが長いほど、
一か所の、
●欠け
●厚み不足
●位置ズレ
●異物
でも漏れにつながる可能性がある。
つまり大面積ガスケットでは、全周を安定した形状・厚みで作ることが重要になる。
■粘着材は電池内部のあらゆる場所に使われる
EV電池では、
●絶縁フィルム固定
●セル固定
●緩衝材固定
●センサー固定
●熱伝導材固定
●ケーブル固定
などに粘着材が使われる可能性がある。
しかし粘着材は温度によって性質が変化する。
高温で柔らかくなる。
低温で硬くなる。
長期間でクリープする。
そのため、貼れればよいではなく、車両寿命の間、必要な位置へ残り続けることが重要になる。
■粘着層も熱抵抗になる
熱伝導材を冷却プレートへ固定するため、粘着材を使うとする。
粘着材は便利である。
しかし熱経路へ入れば、
粘着層も熱抵抗になる。
全面粘着するか。
部分粘着するか。
熱伝導性粘着材を使うか。
この選択によって熱性能も変わる。
つまり、固定方法そのものが熱設計になる。
■センサーも熱管理の重要部品になる
バッテリーでは、
●温度
●電圧
●電流
などを監視する。
温度センサーの位置が悪ければ、本当に高温になっている場所を検知できない可能性がある。
さらに、
センサーとセルの接触。
固定用粘着材。
絶縁フィルム。
によって測定応答も変わる。
つまり、温度センサーをどこへ、どう貼るかも熱設計である。
■BMSは熱を見ながら電池を使う
バッテリーマネジメントシステム、BMSは、
●セル電圧
●電流
●温度
などを監視する。
温度が高すぎれば、
充電出力を抑える。
放電出力を抑える。
冷却能力を上げる。
つまり、電池性能と熱管理は制御上もつながっている。
■AIによる温度予測も進む
将来的には、
●走行状態
●外気温
●充電予定
●セル劣化状態
などから、電池温度を予測し、
事前に冷却する。
事前に加温する。
といった制御も重要になる。
つまりEVの熱管理も、温度を見てから対応するから、
温度を予測して制御する方向へ進む。
■しかし制御でも物理的な接触不良は直せない
BMSが冷却を強くしても、
セルと冷却プレートの間の熱伝導材が浮いていれば、そのセルは冷えにくい。
つまりAI制御や高度なBMSがあっても、
物理的な熱経路
が正しくなければ意味がない。
ここでも加工精度が重要になる。
まとめ
絶縁フィルムの薄さと安全性のバランス。
金属バリが絶縁材を破損させるリスク。
通常時の放熱と、異常時の熱遮断という相反する要求。
液冷のシール性や、振動・温度サイクルを受け続ける粘着材の耐久性。
そしてセンサーとBMSによる温度監視、AIによる予測制御。
これらはすべて、電池を長期間、安全に使い続けるための仕組みである。
しかし、どれほど高度な制御技術があっても、熱伝導材が物理的に浮いていれば、そのセルは冷えない。
制御は、正しい熱経路があって初めて機能する。
後編では、こうした熱・絶縁・安全の要求を、実際にどう軽量に、そして大量に量産していくのか。
薄膜化や大面積加工、自動化という実務の視点、さらに次世代電池やESSといった応用領域、そしてOTISの役割を見ていく。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません

