【1】はじめに
ガリウムヒ素(Gallium Arsenide, GaAs)は、シリコンの限界を超える性能を持つ化合物半導体です。
特に「高速」「高周波」「光応答」の3つに強く、
通信・光学・軍事・宇宙など、高性能が求められる分野の主役です。
【2】GaAsとは何か
・構成元素:ガリウム(Ga)+ヒ素(As)
・結晶構造:亜鉛鉱型(Zinc Blende)構造
・バンドギャップ:1.42 eV(直接遷移型)
・電子移動度:約8500 cm²/V·s(Siの3倍以上)
・熱伝導率:約0.5 W/cm·K(Siの半分程度)
→ 光・高周波・高速応答に優れるが、熱放散がやや弱点。
【3】GaAsの物理的特徴
1.直接遷移型半導体
→ 光を効率的に放出・吸収できる。LEDやレーザーに最適。
2.高電子移動度
→ 電子が速く動くため、高速通信や高周波アンプに利用可能。
3.高電子飽和速度
→ 高電界下でもキャリア速度が飽和しにくく、安定動作が可能。
→ 「光とスピード」に強く、「電力効率」にも優れる。
【4】GaAsの代表的な応用分野
GaAsは多くの高性能デバイスに利用されています。
・まず光デバイスとしては、LEDやレーザーダイオード(LD)に使用され、可視光から赤外域にかけて高い発光効率を発揮します。
・通信分野では、携帯電話の基地局、衛星通信機器、レーダー装置などに組み込まれ、高周波アンプやスイッチ回路の中核を担います。
・スーパーコンピュータや宇宙探査機では、高速・低ノイズの論理回路として使用されています。
・さらに太陽電池の分野でも重要な位置を占めており、特に宇宙用途では放射線や高温環境に強いGaAsセルが多用されています。
・光検出器としてはフォトダイオードやLiDARなどに利用され、赤外線の高感度検出に優れています。
【5】GaAsトランジスタ(HEMT, HBT)
1.HEMT(高電子移動度トランジスタ)
・ヘテロ接合構造を利用して電子移動度を最大化。
・高周波アンプ、5G通信機器などに使用。
2.HBT(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)
・異種材料接合で高ゲイン・高速化。
・ミリ波・衛星通信モジュールなどで活躍。
→ GaAsは“高速デバイス用トランジスタの王様”と呼ばれる。
【6】光デバイスとしてのGaAs
・GaAsは可視光〜赤外域(850〜900nm)で高効率に発光。
・LED、レーザーダイオード、光通信デバイスに広く採用。
・InGaAs, AlGaAsとの多層構造により波長制御が可能。
→ シリコンでは実現できない光る半導体の代表格。
【7】太陽電池分野でのGaAs
・宇宙用途では、GaAs多接合セルが主流。
・高エネルギー放射線下でも性能劣化が少ない。
・変換効率は30%超(シリコンの約1.5倍)。
→ 高コストだが「宇宙用・軍需用」では圧倒的な信頼性。
【8】課題と制約
・製造コストが高い(GaとAsが高価)。
・ヒ素(As)は毒性があり、環境・安全管理が必要。
・大口径ウェーハ化が難しく、生産量に限界。
・熱伝導率が低く、発熱デバイスでは放熱設計が重要。
→ 高性能だが、「使う場所を選ぶ素材」。
【9】研究・進化の方向
・InGaAs, AlGaAsなどの合金化で性能最適化。
・GaAs-on-Si技術:シリコン基板上でGaAsを形成し、量産性向上。
・量子井戸構造・多層ヘテロ構造による光電子デバイス強化。
・GaAsナノワイヤによる次世代光・電子統合デバイス。
→ GaAsは「単体素材」から「複合素材」へ進化中。
【10】まとめ
・GaAsは高速・高周波・光応答に優れる化合物半導体。
・直接遷移型のためLEDや光通信に最適。
・コスト・毒性・熱処理が課題。
・今後はSiとの融合・3D多層化により更なる用途拡大が期待される。
【理解チェック(3問)】
1.GaAsがシリコンより優れる最大の点は?
2.GaAsが苦手な領域は?
3.GaAsの主な応用分野を3つ挙げよ。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません。



