■放熱シートが必要になる理由
電子機器や電池では、発熱部品から熱を逃がす必要がある。
例えば、
● GPU
● CPU
● 電源部品
● バッテリーセル
● 通信モジュール
● LED
● モーター制御基板 などである。
これらの部品が発熱すると、性能低下、劣化、誤動作、寿命低下につながる。
そのため、発生した熱を、どこかへ逃がす経路を作る必要がある。
この熱経路を作るために使われる材料の一つが、放熱シートである。
■放熱シートとTIMの違い
放熱シートとTIMは、似ている言葉として扱われることがある。
実際に重なる領域もある。
しかし、考え方としては少し違う。
TIMは、主に発熱部品と放熱部品の間に入って、接触熱抵抗を下げる材料である。
つまりTIMの中心的な役割は、界面を成立させることである。
一方、放熱シートは、より広い意味で使われる。
放熱シートは、
● 熱を別部品へ伝える
● 熱を面方向へ広げる
● 部品と筐体をつなぐ
● 絶縁しながら熱を逃がす
● 隙間を埋める
● 実装しやすい形にする などの目的で使われる。
つまり、TIMは界面材料、
放熱シートは熱経路を作るシート材料 と考えると理解しやすい。
■放熱シートの基本的な役割
放熱シートの主な役割は、大きく3つある。
1.熱を伝える
まず、発熱部品から放熱部品へ熱を伝える役割である。
例えば、
電子部品
↓
放熱シート
↓
筐体のように、熱の通り道を作る。
この場合、放熱シートには厚み方向の熱伝導性が求められる。
つまり、発熱部品から外へ熱を逃がす役割である。
2.熱を広げる
次に、局所的な熱を面方向へ広げる役割である。
発熱部品の周囲だけが熱くなると、ホットスポットが発生する。
そこで、放熱シートによって熱を面方向へ拡散させる。
これにより、局所的な温度上昇を抑えやすくなる。
この用途では、面方向の熱伝導性が重要になる。
特にグラファイトシートなどは、面方向に熱を広げる用途で使われる。
3.熱経路を量産で成立させる
3つ目が、量産工程で熱経路を成立させる役割である。
設計上は熱が流れるはずでも、実際には、
● 部品間の隙間
● 公差
● 段差
● 位置ズレ
● 表面粗さ
● 組立ばらつき がある。
放熱シートは、こうした現実のばらつきを吸収しながら、熱の通り道を作る役割を持つ。
つまり放熱シートは、理論上の熱設計を、現場で使える形にする材料でもある。
■放熱シートに求められる性能
放熱シートに求められる性能は、用途によって異なる。
代表的には、以下のような性能がある。
● 熱伝導性
● 絶縁性
● 柔軟性
● 圧縮性
● 耐熱性
● 難燃性
● 厚み精度
● 粘着性
● 加工性
● 長期信頼性
● 低アウトガス性
つまり放熱シートは、単に熱伝導率だけで選ぶ材料ではない。
■熱伝導率だけで選ぶと失敗する
放熱シートでよくある誤解がある。
それは、熱伝導率が高いほど良いという考え方である。
もちろん熱伝導率は重要である。
しかし実際には、熱伝導率だけでは性能は決まらない。
例えば、熱伝導率が高くても、
● 硬すぎて密着しない
● 厚みが厚すぎる
● 気泡が入る
● 圧力条件に合わない
● 貼り合わせがズレる
● 絶縁性が不足する
● 加工時に割れる と、十分に性能が出ないことがある。
つまり放熱シートでは、材料スペックと、
実装状態を分けて考える必要がある。
■厚みが熱性能に大きく影響する
放熱シートでは、厚みが非常に重要である。
一般的に、熱は薄い方が通りやすい。
しかし薄すぎると、部品間の段差や公差を吸収できない。
逆に厚すぎると、熱抵抗が増えやすい。
つまり放熱シートでは、薄ければよいとも、
厚ければ安心とも言えない。
用途に合わせて、必要な厚みを設計する必要がある。
■柔らかさも重要になる
放熱シートは、部品表面の凹凸や段差に追従する必要がある。
そのため、柔らかさや圧縮性が重要になる。
硬すぎると、密着せず空気層が残る。
柔らかすぎると、形状が崩れたり、位置ズレしたり、長期信頼性に課題が出ることがある。
つまり放熱シートでは、熱伝導性と柔軟性のバランスが重要になる。
■絶縁性が必要な場合も多い
電子機器やEVでは、放熱と同時に絶縁が必要になることが多い。
例えば、発熱部品から熱を逃がしたいが、電気的には導通させたくない場合である。
この場合、放熱シートには、熱を通すと同時に、
電気を通さない性能が求められる。
これは非常に難しい。
なぜなら、一般的に熱をよく伝える材料は、電気も通しやすい場合があるからである。
そのため、絶縁放熱シートでは、材料設計と実装設計の両方が重要になる。
■粘着付き放熱シート
放熱シートには、粘着層が付いたものもある。
粘着付きにすると、貼り付けやすく、量産工程で扱いやすくなる。
しかし粘着層は、熱抵抗になる場合がある。
また、熱や経年によって、
● 粘着力低下
● 剥離
● 位置ズレ
● 糊残り
● 厚み変化 が起きることもある。
つまり粘着付き放熱シートでは、
貼りやすさと熱性能のバランスが重要になる。
■放熱シートはAIサーバーで重要になる
AIサーバーでは、GPU、メモリ、電源部品などが高発熱化している。
そのため、放熱シートは、
● 熱を冷却部品へ伝える
● ホットスポットを緩和する
● 絶縁しながら熱を逃がす
● 部品間の段差を吸収する ために重要になる。
特にAIサーバーでは、連続稼働と高信頼性が求められるため、放熱シートには初期性能だけでなく、長期安定性も必要になる。
■EV・ESSでも放熱シートは重要
EVやESSでは、電池セル、バスバー、冷却板、筐体などの間で熱を制御する必要がある。
ここでは、放熱だけでなく、
● 絶縁
● 難燃
● 振動吸収
● 圧縮追従
● 長期耐久 も重要になる。
つまりEV・ESS向け放熱シートでは熱性能と、
安全性を同時に考える必要がある。
■スマートフォン・ウェアラブルでは薄型化が重要
スマートフォンやウェアラブル機器では、放熱シートを入れるスペースが限られている。
そのため、
● 薄い
● 軽い
● 曲げられる
● 小型形状に加工できる
● 貼りやすい ことが重要になる。
この用途では、単純な厚み方向の放熱だけでなく、面方向へ熱を広げる熱拡散性も重要になる。
■研究者視点 : 放熱シートは複合機能材料である
研究開発では、放熱シートに対して以下のような性能が求められる。
● 高熱伝導
● 絶縁性
● 柔軟性
● 薄型化
● 難燃性
● 低熱抵抗
● 長期信頼性
● 低アウトガス
● 加工性
つまり放熱シートは、単なる熱伝導材料ではない。
熱・電気・機械・工程の複合機能材料である。
■現場視点 : 放熱シートは貼った状態で性能が決まる
放熱シートは、材料単体では性能が決まらない。
実際には、
● どの形状に加工するか
● どの厚みにするか
● どこに貼るか
● 気泡を入れないか
● どの圧力で密着させるか
● 自動化工程でズレないか
● 経年後も接触が維持されるか で性能が変わる。
つまり放熱シートは、カタログ上の熱伝導率より、
実装後の熱抵抗が重要になる。
■放熱シートの量産で起きやすい問題
量産現場では、放熱シートに関して以下のような問題が起きることがある。
● 打ち抜き時のバリ
● 粉落ち
● 割れ
● 変形
● 貼り合わせズレ
● 厚みばらつき
● 気泡混入
● 剥離紙との相性
● 搬送時の伸び
● 自動機供給時の詰まり
これらは、熱性能だけでなく、組立性や歩留まりにも影響する。
つまり放熱シートでは、材料選定だけでなく、
加工性と供給形態が重要になる。
■OTIS視点
OTISは放熱シートそのものを開発する材料メーカーではない。
しかし、放熱シートを量産工程で使える形に加工する領域では貢献できる可能性がある。
OTIS視点で重要なのは、
● 狙った形状に加工する
● 狙った厚みに近づけて扱う
● 微細形状へ対応する
● 粘着材や絶縁材と貼り合わせる
● 異種材料と積層する
● リール供給に対応する
● 自動化工程で扱いやすい形にする
● 量産時のばらつきを抑える ことである。
放熱シートは材料であると同時に、工程部材である。
そのため、放熱シートをどう量産工程へ落とし込むかが重要になる。
■OTISでできること
OTISでは、
● 放熱シート加工
● グラファイトシート加工
● 絶縁放熱シート加工
● 粘着付き放熱材加工
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 高精度ラミネート
● 異形状加工
● 異種材料積層
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態設計
などを通じて、放熱シートを量産で使える状態へ近づけることに貢献できる可能性がある。
特にAIサーバー、EV、ESS、スマートフォン、ウェアラブル機器では、薄さ、精度、貼り合わせ、供給形態が重要になる。
■OTISの専門外
一方でOTISは、
● 放熱シート材料そのものの開発
● フィラー配合設計
● 樹脂設計
● 熱シミュレーション専業解析
● 冷却装置設計
を専門とする会社ではない。
しかし、放熱シートを量産工程で使える形にする
という領域では、重要な役割を担える可能性がある。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー
★★★★★ GPU・半導体
★★★★★ EV・電池
★★★★★ ESS・蓄電システム
★★★★☆ スマートフォン
★★★★☆ ウェアラブル機器
★★★★☆ 通信機器
■まとめ
放熱シートは熱を逃がす材料であり、量産で熱経路を作る材料である
放熱シートとは、発熱部品から熱を逃がしたり、熱を広げたり、他の部品へ熱を伝えたりするためのシート状材料である。
しかし放熱シートの本質は、熱伝導率だけではない。
● 厚み
● 柔らかさ
● 絶縁性
● 粘着性
● 加工性
● 貼り合わせ精度
● 量産安定性 まで含めて、実際の性能が決まる。
つまり放熱シートは、材料スペックで選ぶものであると同時に、
実装状態で性能が決まるものでもある。
そしてAIサーバー、EV、ESS、スマートフォン、ウェアラブル機器などで熱密度が上がるほど、放熱シートの重要性は高まっていく。
放熱シートは、熱を逃がす材料である。
同時に、熱対策を量産工程で成立させるための材料でもある。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


