■薄膜化とは何か
薄膜化とは、フィルム、シート、箔、粘着層などの厚みを小さくすることである。
熱対策で使われる薄膜部材には、例えば次のようなものがある。
● 薄型TIM
● グラファイトシート
● 銅箔
● アルミ箔
● 絶縁フィルム
● 熱伝導性粘着材
● EMI対策フィルム
● 防水・シールフィルム
スマートフォン、ウェアラブル機器、3D半導体、AIサーバー、EV電装部品では、限られた空間へ複数の機能を組み込む必要がある。
そのため、熱対策材料にも薄膜化が求められる。
■なぜ薄い方が熱に有利なのか
材料内部の熱抵抗は、一般的に厚みの影響を受ける。
同じ材料、同じ面積であれば、厚みが大きいほど、熱が通過する距離は長くなる。
その結果、厚み方向の熱抵抗は大きくなりやすい。
つまり、発熱部品と冷却部材の間に入れるTIMや放熱シートでは、
薄い方が熱を通しやすい場合が多い。
だから高発熱化するAI半導体やパワー半導体では、薄型TIMや薄い絶縁放熱材への要求が強くなる。
■しかし薄ければよいわけではない
熱抵抗だけを考えると、できるだけ薄くしたくなる。
しかし、実際の部品表面には、
● 凹凸
● 反り
● 段差
● 寸法公差
● 表面粗さ がある。
材料が薄すぎると、これらを吸収できない。
その結果、
● 空気層が残る
● 一部が接触しない
● 圧力が偏る
● 端部が浮くことがある。
つまり、材料を薄くして熱抵抗を下げたつもりでも、接触不良で全体の熱抵抗が増えることがある。
■薄膜化では材料内部より界面が支配的になる
厚い材料では、材料内部の熱抵抗が大きな割合を占める場合がある。
しかし薄膜化すると、材料内部の熱抵抗は小さくなる。
すると相対的に、
接触熱抵抗
界面熱抵抗 の影響が大きくなる。
つまり薄膜化が進むほど、材料そのものの熱伝導率より、
● 密着状態
● 表面粗さ
● 気泡
● 圧着
● 粘着層
● 異物 が性能を左右しやすくなる。
薄くなればなるほど、材料の問題から、界面の問題へ変わっていくのである。
■粘着層も薄くしたくなる
放熱部材には、貼り付けるための粘着層が使われることがある。
しかし粘着材は、金属やグラファイトほど熱を伝えないことが多い。
そのため、熱経路の中では粘着層も熱抵抗になる。
そこで、粘着層を薄くしたいという要求が出る。
しかし粘着層を薄くしすぎると、
● 粘着力不足
● 表面凹凸への追従不足
● 剥離
● 浮き
● 防水性低下 が起きることがある。
つまり粘着層でも、薄さと、接着信頼性のバランスが必要になる。
■絶縁フィルムは薄いほど熱に有利だが、安全余裕が減る
熱を逃がしながら電気を止めたい場合、絶縁フィルムが使われる。
絶縁フィルムも薄い方が熱抵抗を下げやすい。
しかし薄くすると、
● 絶縁破壊への余裕が減る
● バリや異物の影響を受けやすい
● ピンホールの影響が大きくなる
● 金属端面が接近する
● 加工時に破れやすいという問題が起きる。
つまり絶縁放熱では、>薄くして冷やしたいと、
厚みを持たせて安全を確保したいが衝突する。
■金属箔は薄くなるほど扱いが難しい
銅箔やアルミ箔は、熱を広げる材料として使われる。
薄くすれば、軽量化や省スペース化に有利になる。
しかし薄い金属箔は、
● シワになりやすい
● 折れやすい
● 反りやすい
● バリの影響が大きい
● 搬送中に変形しやすい
● 巻き取り時に蛇行しやすい という課題を持つ。
また薄い箔では、微小な傷やクラックが性能や信頼性に影響することもある。
つまり金属箔は、薄くすれば高機能になる
一方で、薄くするほど工程設計が難しくなる。
■グラファイトも薄膜化に向くが、壊れやすさが増す
グラファイトシートは、薄く軽く、面方向へ熱を広げやすい。
そのためスマートフォンやウェアラブル機器で重要になる。
しかし薄いグラファイトは、
● 割れ
● 欠け
● 粉落ち
● 層間剥離
● 折り曲げ破損
● 搬送時の傷 が起きやすい。
さらに、絶縁フィルムや粘着材との積層が必要になることも多い。
つまりグラファイトでは、材料本体を薄くしても、保護や絶縁のために層が増え、全体厚みが増えることがある。
■薄膜化するとシワが性能を壊す
薄膜材料で起きやすい代表的な問題が、
シワである。
シワがあると、材料が平面へ密着しない。
その結果、
● 空気層
● 接触面積不足
● 圧力ムラ
● 貼り位置ズレ
● 外観不良 が発生する。
特に熱対策部材では、シワの部分で熱が流れにくくなり、ホットスポットを作る可能性がある。
つまり薄膜材料のシワは、見た目の問題ではなく、熱経路の問題である。
■薄膜化すると伸びが問題になる
樹脂フィルム、粘着材、柔軟シートは、搬送や貼り合わせ時に伸びることがある。
材料が伸びると、
● 寸法が変わる
● 穴位置がズレる
● 外形が変形する
● 積層位置がズレる
● 貼り付け位置が安定しないという問題が起きる。
特に微細部材では、わずかな伸びでも相対的に大きな誤差になる。
つまり薄膜化では、材料の伸びが、機能位置のズレにつながる。
■薄膜化すると静電気の影響が大きくなる
薄いフィルムは軽い。
そのため、静電気の影響を受けやすい。
材料が設備へ貼り付く。
二枚重なる。
吸着位置が安定しない。
異物を引き寄せる。
こうした問題が起きる。
熱対策材料には、グラファイトや金属箔など導電性材料も含まれるため、静電気や導電性異物の管理は重要である。
つまり薄膜化では、熱設計だけでなく、静電気・異物対策も必要になる。
■薄膜化すると搬送が難しくなる
量産では、薄膜材料を設備内で安定して搬送する必要がある。
しかし薄い材料は、
● たるむ
● 蛇行する
● 浮く
● 巻き込まれる
● ローラーへ貼り付く
● 張力で伸びる ことがある。
そのため、リール供給ではテンション管理が重要になる。
張力が弱すぎると蛇行する。
強すぎると伸びる。
つまり薄膜加工では、材料を切る技術だけでなく、
材料を安定して運ぶ技術が重要になる。
■薄膜化すると打ち抜き条件が厳しくなる
薄膜材料を打ち抜く場合、刃物や加工条件の影響が大きくなる。
例えば、
● 刃物の摩耗
● 刃先形状
● クリアランス
● 加工速度
● 材料支持方法
● 粘着材の引き によって、
● バリ
● 変形
● 糸引き
● 打ち抜きカス残り
● 外形崩れが発生する。
つまり薄膜加工では、切れているかだけでなく、
狙った形状を崩さず切れているかが重要になる。
■薄膜化すると積層ズレの影響が大きくなる
熱対策部材は、複数の薄膜材料を積層して作られることがある。
例えば、
● グラファイト
● 絶縁フィルム
● 粘着材
● EMI材
● 保護フィルム の積層である。
各層が薄いほど、個別には小さなズレでも、機能部位に対する影響は大きくなる。
絶縁層がズレる。
導電材が露出する。
熱源から外れる。
防水ラインが崩れる。
つまり薄膜化では、積層精度が製品性能を左右する。
■薄膜化すると厚みばらつきの割合が大きくなる
例えば、厚さ1mmの材料に10μmのばらつきがある場合、割合としては1%である。
しかし厚さ50μmの材料に10μmのばらつきがあれば、20%になる。
つまり同じ絶対ばらつきでも、薄膜になるほど相対的な影響が大きくなる。
この厚みばらつきは、
● 熱抵抗
● 圧縮率
● 接触圧力
● 絶縁性能
● 貼り合わせ状態を変える。
つまり薄膜化では、数μmの厚み差も無視できなくなる。
■薄膜化すると評価も難しくなる
薄い材料は、測定も難しい。
厚み測定時の圧力で材料が潰れる。
柔らかい材料は測る場所で値が変わる。
粘着材は温度や時間で厚みが変化する。
積層材では各層の厚みを分けて測りにくい。
つまり薄膜化では、作ることだけでなく、
正しく測ることも難しくなる。
■AI半導体・3D半導体での薄膜化
AI半導体や3D半導体では、限られたスペースに多くの層が積み重なる。
そのためTIM、絶縁材、接着材、再配線層などの薄膜化が重要になる。
しかし層が薄くなるほど、
● 界面熱抵抗
● 反り
● 熱膨張差
● 微小な空気層
● 層間剥離 の影響が大きくなる。
つまり3D半導体では、薄くする技術>と、
薄い層を正しく接触させる技術の両方が必要になる。
■スマートフォン・ウェアラブルでの薄膜化
スマートフォンやウェアラブル機器では、製品厚みと重量が重要になる。
そのため熱拡散シート、絶縁フィルム、粘着材も薄くする必要がある。
しかし薄くすると、
● 表面温度ムラ
● 貼りズレ
● 気泡
● 端部浮き
● グラファイト破損
● 防水性低下 が起きやすくなる。
人体に近いウェアラブル機器では、わずかな熱ムラが不快感につながる。
つまり薄膜化は、ユーザー体験にも直結する。
■EV・電池での薄膜化
EVでは、軽量化と省スペース化のために、絶縁材、放熱材、粘着材の薄膜化が求められる。
しかし、電池周辺では、
● 高電圧絶縁
● 難燃性
● 振動耐久性
● 熱暴走時の安全性
● 長期信頼性 も必要になる。
つまりEVでは、薄くしたいと、
安全余裕を持たせたいが衝突する。
特に絶縁材や断熱材は、厚みを減らすほど安全設計が難しくなることがある。
■ロボットでの薄膜化
ロボットでは、関節内部にモーター、センサー、配線、制御基板が集中する。
薄膜部材を使えば、関節を小さく軽くできる。
しかし動作中は、
● 曲げ
● 振動
● 衝撃
● 熱サイクル が加わる。
薄い材料は繰り返し動作で疲労しやすいこともある。
つまりロボットでは、薄さと、動作耐久性の両立が重要になる。
■研究者視点 : 薄膜化すると材料物性より界面物性が重要になる
研究開発では、薄膜材料の熱伝導率、絶縁性、耐熱性を評価する。
しかし薄膜化が進むほど、材料内部より界面の影響が大きくなる。
重要になるのは、
● 表面粗さ
● 接触圧力
● 界面熱抵抗
● 層間密着
● 熱膨張差
● 残留応力
● 微小欠陥 である。
つまり薄膜熱対策は、薄い材料を作る技術ではなく、
薄い界面を成立させる技術でもある。
■現場視点 : 薄い材料は“何もしていない時”にも動く
薄膜材料は、切った後にも変化することがある。
反る。
縮む。
巻き癖が戻る。
静電気で貼り付く。
温湿度で寸法が変わる。
粘着材が流動する。
つまり薄膜材料では、加工直後に寸法が合っていても、搬送・保管・貼付時に状態が変わることがある。
量産では、加工した瞬間の精度だけでなく、顧客が使う瞬間の精度が重要になる。
■薄膜化で確認すべきこと
薄膜熱対策部材を設計・加工するときは、以下を確認する必要がある。
● 薄膜化による熱抵抗低減効果はどの程度か
● 表面凹凸や段差を吸収できるか
● 絶縁性能に十分な余裕があるか
● 搬送中に伸びないか
● シワや反りが発生しないか
● 静電気や異物の影響を受けないか
● 打ち抜き時に変形やバリが出ないか
● 積層位置を維持できるか
● 厚みばらつきを管理できるか
● 自動化工程で安定供給できるか
● 熱サイクル後も剥離・浮きが出ないか
つまり薄膜化は、材料設計だけでなく、加工・搬送・貼付・評価まで含む課題である。
■OTIS視点
薄膜化と熱問題の交差点は、OTISが価値を出せる可能性の高い領域である。
OTISは、熱材料そのものを開発する会社ではない。
しかし、
● 薄い材料を安定して搬送する
● 微細形状に加工する
● 異種薄膜を高精度に積層する
● 厚みと位置関係を管理する
● シワ・反り・伸びを抑える
● リール供給へ対応する
● 自動化工程で扱える形にする
という領域では貢献できる可能性がある。
薄膜材料は、材料として高性能でも、工程で扱えなければ使えない。
薄さを機能に変える加工技術が重要になる。
■OTISでできること
OTISでは、
● 薄膜材料加工
● 微細打ち抜き
● グラファイトシート加工
● 銅箔・アルミ箔加工
● 絶縁フィルム加工
● 粘着材加工
● EMI材加工
● 高精度ラミネート
● 異種薄膜積層
● 狭ピッチ形状加工
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態設計
などを通じて、薄膜熱対策部材を量産で使える状態へ近づけることに貢献できる可能性がある。
■OTISの専門外
一方でOTISは、
● 熱材料そのものの配合開発
● 半導体成膜工程
● 薄膜材料そのものの製膜
● GPU・半導体チップ設計
● CFD専業解析
● 冷却装置全体の設計 を専門とする会社ではない。
しかし、薄膜化された熱対策材料を、狙った形状・位置・供給形態で量産成立させる
という領域では、重要な役割を担える可能性がある。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AI半導体・3D半導体
★★★★★ スマートフォン
★★★★★ ウェアラブル機器
★★★★★ AIサーバー
★★★★☆ EV・電装部品
★★★★☆ 医療機器
★★★★☆ ロボット
■まとめ
薄膜化は、熱抵抗を下げるが、工程難易度を上げる
熱対策材料は、薄くすることで厚み方向の熱抵抗を下げやすくなる。
また、省スペース化、軽量化、高密度実装にも有利になる。
しかし薄膜化すると、
● 段差を吸収できない
● 空気層が残る
● シワや反りが出る
● 伸びる
● 破れる
● 静電気の影響を受ける
● バリや異物の影響が大きくなる
● 厚みばらつきの割合が大きくなる
● 自動化工程で扱いにくくなる
という問題が起きる。
つまり薄膜化とは、単に材料を薄くすることではない。
薄くしても、熱・絶縁・粘着・強度・量産性を成立させることである。
未来のAI半導体、スマートフォン、ウェアラブル機器、EVでは、さらに薄い熱対策部材が必要になる。
そのとき重要になるのは、最薄の材料を作ることだけではない。
薄い材料を、シワなく、ズレなく、壊さず、同じ状態で量産できる技術なのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません


