■グラファイトとは何か
グラファイトは、炭素原子が層状に並んだ材料である。
日本語では黒鉛とも呼ばれる。
鉛筆の芯にも使われる材料である。
ただし、熱対策で使われるグラファイトシートは、一般的な鉛筆の黒鉛とは違い、熱伝導性やシート性を高めた材料である。
特に人工グラファイトシートは、薄く、軽く、面方向に高い熱伝導性を持つことが特徴である。
■グラファイト最大の特徴は方向性
グラファイトを理解する上で最も重要なのは、熱伝導に方向性があるという点である。
グラファイトは、面方向には熱を非常によく伝える。
一方で、厚み方向には熱を伝えにくい場合がある。
つまりグラファイトは、熱を下へ逃がす材料というより、
熱を横へ広げる材料として使われることが多い。
■熱を広げるとはどういうことか
例えば、スマートフォンの中に小さな発熱部品があるとする。
その部品の周辺だけが高温になると、ホットスポットが発生する。
このとき、グラファイトシートを使うと、局所的な熱を面方向へ広げることができる。
つまり、
小さな発熱点
↓
グラファイトシート
↓
広い面積へ熱を拡散 という働きをする。
これにより、一点だけが極端に熱くなることを抑えやすくなる。
■グラファイトはホットスポット対策に向いている
グラファイトがよく使われる理由の一つが、ホットスポット対策である。
スマートフォン、タブレット、薄型電子機器では、大型ヒートシンクやファンを使いにくい。
そのため、熱を一点に集中させず、面で広げることが重要になる。
ここでグラファイトシートが活躍する。
つまりグラファイトは、冷やす材料というより、
温度ムラを減らす材料と考えるとわかりやすい。
■グラファイトは軽い
グラファイトは金属よりも軽い。
そのため、軽量化が求められる製品で有利になる。
例えば、
● スマートフォン
● タブレット
● ウェアラブル機器
● ドローン
● 小型電子機器 などでは、重量が重要になる。
金属板を入れれば熱を広げられるかもしれない。
しかし重くなる。
グラファイトなら、薄く軽い状態で熱を広げられる可能性がある。
■グラファイトは薄くできる
グラファイトシートは、非常に薄い形態で使われることが多い。
そのため、限られたスペースに組み込みやすい。
スマートフォンやウェアラブル機器のように、内部スペースが限られている製品では、この薄さが大きな価値になる。
つまりグラファイトは、薄型化と、
熱拡散を両立しやすい材料である。
■ただし厚み方向の放熱には注意が必要
グラファイトは面方向の熱拡散に優れる一方、厚み方向の熱伝導は面方向ほど高くない場合がある。
そのため、発熱源から垂直方向へ熱を逃がしたい場合には、グラファイト単体では十分でないことがある。
例えば、
発熱部品
↓
グラファイト
↓
冷却プレートのように、
厚み方向へ熱を流したい場合には、接触条件や他材料との組み合わせが重要になる。
つまりグラファイトは、どの方向へ熱を流したいかを考えて使う必要がある。
■グラファイトは絶縁材料ではない
グラファイトは炭素系材料であり、電気を通す性質を持つ場合がある。
そのため、電子機器で使う場合には、絶縁設計が重要になる。
放熱性は高いが、電気的に接触してはいけない場所では注意が必要である。
そのため、実際の製品では、
● 絶縁フィルムとのラミネート
● PETフィルムとの貼り合わせ
● 粘着層付き構成
● 端面処理
● カバー材との積層 などが行われることがある。
つまりグラファイトは、材料単体ではなく、絶縁・保護・粘着との組み合わせで使われることが多い。
■グラファイトは割れやすい・粉が出やすい場合がある
グラファイトシートは、種類や厚みによっては割れやすかったり、粉落ちしやすかったりする場合がある。
特に加工時には注意が必要である。
● 打ち抜き時の割れ
● 端面の粉落ち
● 層間剥離
● 折り曲げ時の破断
● 搬送時の傷
● 自動機供給時の欠け などが起きることがある。
つまりグラファイトは高性能な熱材料である一方、扱いが難しい材料でもある。
■グラファイトは貼り方で性能が変わる
グラファイトシートを使う場合、単に置けばよいわけではない。
実際には、
● どの位置に貼るか
● どの面積で貼るか
● どの方向へ熱を広げるか
● 粘着層をどうするか
● 絶縁層をどうするか
● 気泡を入れないか
● 端面をどう処理するか が重要になる。
特にグラファイトは面方向の熱拡散が特徴であるため、配置設計が重要になる。
つまりグラファイトでは、材料の熱伝導率だけでなく、
どの方向へ、どの形状で、どう貼るかが性能を左右する。
■AIサーバーでのグラファイト
AIサーバーでは、GPUやメモリ周辺で局所的な発熱が問題になる。
グラファイトは、ホットスポットを緩和したり、熱を面方向へ広げたりする用途で検討されることがある。
ただしAIサーバーでは、発熱量が非常に大きいため、グラファイト単体で完結することは少ない。
実際には、
● TIM
● 冷却プレート
● 液冷
● 金属部材
● 絶縁材 などと組み合わせて使うことが重要になる。
つまりAIサーバーでは、グラファイトは、熱経路全体の一部として考える必要がある。
■スマートフォン・ウェアラブルでのグラファイト
スマートフォンやウェアラブル機器では、グラファイトは非常に重要な熱拡散材料である。
理由は、
● 薄い
● 軽い
● 面方向に熱を広げやすい
● 狭い空間に入れやすい からである。
特にスマートフォンでは、局所的な熱を筐体全体へ広げ、表面温度の偏りを抑える目的で使われる。
ウェアラブル機器では、人体に触れる部分の局所発熱を抑えるためにも、熱拡散設計が重要になる。
■EV・ESSでのグラファイト
EVやESSでは、グラファイトが熱拡散材として検討されることがある。
ただし電池周辺では、
● 絶縁性
● 難燃性
● 圧縮性
● 長期信頼性
● 振動耐性 が重要になる。
グラファイト単体では電気的・機械的な課題がある場合もあるため、絶縁材や保護フィルムとの組み合わせが必要になることがある。
つまりEV・ESSでは、グラファイトをどう安全に使うかが重要になる。
■研究者視点 : グラファイトは異方性熱伝導材料である
研究開発では、グラファイトは異方性熱伝導材料として扱われる。
異方性とは、方向によって性質が違うことを意味する。
グラファイトでは、
● 面方向の熱伝導性が高い
● 厚み方向は面方向ほど高くない
● 軽量
● 薄型化しやすい という特徴がある。
そのため研究者視点では、グラファイトをどの方向に配置するかが重要になる。
■現場視点 : グラファイトは加工しにくさが課題になる
現場では、グラファイトの高い熱性能だけでなく、扱いやすさが重要になる。
例えば、
● 割れやすい
● 粉が出る
● 端面処理が必要
● 粘着層が必要
● 絶縁層が必要
● 搬送中に傷がつく
● 自動機で扱いにくい といった課題がある。
つまりグラファイトは、熱性能は高いが、量産工程での扱いが難しい材料でもある。
■グラファイトの量産で起きやすい問題
量産現場では、グラファイトシートに関して以下のような問題が起きることがある。
● 打ち抜き時の割れ
● 端面の粉落ち
● 微細形状での欠け
● 層間剥離
● 粘着材との貼り合わせズレ
● 絶縁フィルムとのラミネート不良
● 巻き取り時の割れ
● 自動機供給時の搬送不良
これらが起きると、熱性能だけでなく、品質、歩留まり、組立性にも影響する。
つまりグラファイトでは、
材料性能だけでなく、加工性・供給性・量産安定性が重要になる。
■OTIS視点
OTISはグラファイト材料そのものを開発する会社ではない。
しかし、グラファイトシートを量産工程で使える形に加工する領域では貢献できる可能性がある。
OTIS視点で重要なのは、
● 狙った形状に加工する
● 割れや欠けを抑える
● 粉落ちを考慮する
● 絶縁フィルムと貼り合わせる
● 粘着材とラミネートする
● 異種材料と積層する
● リール供給へ対応する
● 自動化工程で扱いやすい形にする ことである。
グラファイトは、熱性能が高いだけでは不十分である。
実際に組み込める状態にすることが重要になる。
■OTISでできること
OTISでは、
● グラファイトシート加工
● 高精度打ち抜き
● 微細形状加工
● 絶縁フィルムとのラミネート(パウチ加工)
● 粘着材との貼り合わせ
● 異種材料積層
● 異形状加工
● 貼り合せ容易化
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態設計
などを通じて、グラファイトシートを量産で使える状態へ近づけることに貢献できる可能性がある。
特にスマートフォン、AIサーバー、ウェアラブル機器、EV、ESSなどでは、薄さ、形状精度、絶縁、貼り合わせ、供給形態が重要になる。
■OTISの専門外
一方でOTISは、
● グラファイト材料そのものの開発
● 黒鉛原料開発
● 人工グラファイトの焼成工程
● 熱伝導率そのものの改良
● 熱シミュレーション専業解析 を専門とする会社ではない。
しかし、グラファイトを量産工程で使える形にするという領域では、重要な役割を担える可能性がある。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ スマートフォン
★★★★★ ウェアラブル機器
★★★★★ AIサーバー
★★★★☆ GPU・半導体
★★★★☆ EV・電池
★★★★☆ ESS・蓄電システム
★★★★☆ 通信機器
■まとめ
グラファイトは熱を広げることに強い材料である
グラファイトは、熱対策材料として重要な材料である。
特に面方向に熱を広げる性能に優れており、ホットスポット対策や薄型電子機器の熱拡散に使われる。
一方で、グラファイトは万能ではない。
● 厚み方向の熱伝導
● 電気絶縁性
● 割れやすさ
● 粉落ち
● 加工性
● 自動化工程での扱いやすさには注意が必要である。
つまりグラファイトは、高性能な熱拡散材料であると同時に、
量産で扱うには工夫が必要な材料でもある。
そしてAIサーバー、スマートフォン、ウェアラブル機器、EV、ESSなどで熱密度が上がるほど、グラファイトの重要性は高まっていく。
グラファイトの価値は、材料単体の性能だけでは決まらない。
狙った場所に、狙った形状で、安定して組み込めるかまで成立して、初めて本当の熱対策になる。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



