■試作で冷えることと、量産で冷えることは違う
試作では、熟練者が丁寧に作ることができる。
材料を慎重に貼る。
気泡を抜く。
位置を調整する。
圧力を確認する。
問題があれば手直しする。
そのため、試作では良い結果が出ることがある。
しかし量産では違う。
自動機で流す。
決められた速度で貼る。
決められた圧力で圧着する。
同じ条件で繰り返す。
このとき、材料や工程が安定していなければ、性能がばらつく。
つまり、試作成立と、
量産成立は別物である。
■熱性能はばらつきやすい
熱対策部材の性能は、わずかな違いで変わる。
例えば、
● 厚み
● 貼り位置
● 圧力
● 気泡
● 接触面積
● 表面粗さ
● 粘着状態
● 材料硬さ
● 異物 などである。
これらが少し変わるだけで、熱抵抗が変わる。
熱抵抗が変われば、温度が変わる。
つまり熱性能は、量産ばらつきの影響を受けやすい性能である。
■熱対策は見た目で判断しにくい
量産で難しいのは、熱性能が目で見えにくいことである。
外観上は問題なく見える。
貼れているように見える。
形状も合っているように見える。
しかし実際には、
● 内部に気泡がある
● 圧着が不足している
● 接触面積が足りない
● 端部が浮いている
● 厚みが微妙に違う ということがある。
すると熱性能は変わる。
つまり熱対策部材では、見た目が同じでも、熱性能が同じとは限らないのである。
■接触状態が量産安定性を左右する
熱対策では、接触が非常に重要である。
発熱部品と放熱部品の間に空気層が残ると、熱は流れにくくなる。
そのため、量産では、
● どれだけ安定して密着できるか
● 圧力が一定か
● 気泡が入らないか
● 部品公差を吸収できるか
● 経年後も接触が維持されるか が重要になる。
つまり熱 × 量産安定性では、接触状態を安定させること>が中心課題になる。
■厚みばらつきが熱性能を変える
熱対策材料では、厚みが重要である。
TIMや放熱シートでは、厚みが変わると熱抵抗が変わる。
一般的には、厚くなるほど熱抵抗は増えやすい。
しかし薄すぎると、段差や公差を吸収できず、空気層が残ることがある。
つまり量産では、狙った厚みを安定して維持することが重要になる。
■貼り位置ズレが性能を変える
熱対策部材は、貼る位置がズレると性能が変わる。
発熱部品から外れる。
放熱経路から外れる。
絶縁したい場所を覆えない。
防水ラインが崩れる。
EMIシールド位置がズレる。
つまり熱対策部材は、熱だけでなく、絶縁、防水、ノイズにも関係することが多い。
そのため、貼り位置ズレは複数の性能に影響する。
■気泡は熱を止める
量産で特に注意すべきものの一つが気泡である。
気泡の中身は空気である。
空気は熱を伝えにくい。
そのため、放熱シートや粘着材に気泡が入ると、熱性能が低下する。
しかも気泡は外観では見えにくい場合がある。
つまり気泡は、見えにくい熱抵抗になる。
■異物も熱性能と安全性に影響する
異物も量産では大きな問題である。
異物が入ると、
● 浮き
● 接触不良
● 厚みムラ
● 絶縁不良
● 導通リスク
● 防水不良 につながる可能性がある。
特に金属粉、グラファイト粉、打ち抜きカスは注意が必要である。
つまり熱対策部材では、異物管理も量産安定性の一部である。
■材料ロット差も問題になる
同じ材料名でも、ロットによってわずかな違いが出ることがある。
例えば、
● 硬さ
● 粘着力
● 厚み
● 剥離力
● 表面状態
● フィラー分散
● 含水率 などである。
これらが変わると、自動機での挙動や貼り合わせ状態が変わる。
つまり量産では、材料ロット差を前提にした工程設計が必要になる。
■自動化工程では再現性が重要になる
量産では、自動化工程が使われることが多い。
自動化では、同じ動作を繰り返す。
しかし材料が不安定だと、設備条件も安定しない。
例えば、
● 剥離紙が剥がれにくい
● 吸着できない
● 搬送中に伸びる
● 貼り位置がズレる
● 圧着ムラが出る といった問題が起きる。
つまり熱対策部材の量産安定性は、自動化工程で安定して流れるかにも大きく左右される。
■AIサーバーでは長時間安定性が重要
AIサーバーでは、24時間連続稼働が前提になる。
そのため、初期状態で冷えるだけでは足りない。
長時間使っても、熱性能が落ちないことが重要になる。
例えば、
● TIMのポンプアウト
● 粘着材の劣化
● 圧縮永久ひずみ
● 熱膨張による浮き
● グラファイトの割れ
● 絶縁層の劣化
などが起きると、長期的に性能が変わる。
つまりAIサーバーでは、
初期性能だけでなく、長期性能が重要になる。
■EV・ESSでは安全性が関係する
EVやESSでは、量産安定性は安全性に直結する。
熱対策部材のばらつきによって、
● セル間温度差
● 熱暴走時の伝播抑制性能
● 絶縁性能
● 防水性能
● 長期信頼性 が変わる可能性がある。
つまりEV・ESSでは、量産ばらつきが、
安全性ばらつきにつながることがある。
■スマートフォン・ウェアラブルでは体感差になる
スマートフォンやウェアラブル機器では、量産ばらつきがユーザー体験に出ることがある。
ある個体は熱く感じない。
別の個体は熱く感じる。
ある個体は電池劣化が早い。
別の個体は問題ない。
こうした差が出ると、品質問題につながる。
つまり小型機器では、熱性能のばらつきが、
体感品質のばらつきになる。
■熱 × 量産安定性は複合課題である
熱対策部材は、単独機能ではないことが多い。
放熱だけでなく、
● 絶縁
● 防水
● 粘着
● ノイズ対策
● 軽量化
● 自動化
● コスト も同時に求められる。
つまり量産安定性とは、熱性能だけを安定させることではない。
複数機能を同時に安定させることである。
ここが難しい。
■研究者視点 : 熱性能は実装後ばらつきまで評価すべき
研究開発では、材料単体の熱伝導率や熱抵抗を評価することが多い。
しかし量産では、それだけでは足りない。
実際には、
● 実装後の厚み
● 実装後の接触状態
● 圧着条件
● 経年変化
● ロット差
● 熱サイクル後の変化 まで評価する必要がある。
つまり、これからの熱対策では、材料性能だけでなく、
実装後性能
量産後性能 が重要になる。
■現場視点 : 量産ではばらつかない設計が重要
現場では、最高性能よりも、ばらつかないことが重要になる場合がある。
試作品で最高温度を5℃下げる材料よりも、量産で安定して3℃下げる材料の方が価値を持つことがある。
なぜなら量産では、安定性が品質になるからである。
つまり、最高性能より、再現性能が重要になる。
■熱 × 量産安定性で起きやすい問題
量産工程では、以下のような問題が起きることがある。
● 貼りズレ
● 気泡
● 厚みばらつき
● 圧着ムラ
● 異物混入
● 剥離
● 材料ロット差
● 自動機停止
● 巻き癖
● 粉落ち
● 経年変化
● 熱サイクル後の性能低下
これらは、熱性能だけでなく、絶縁、防水、ノイズ、信頼性、歩留まりにも影響する。
つまり熱 × 量産安定性では、
部材設計
加工設計
工程設計 を同時に考える必要がある。
■OTIS視点
OTISは、材料そのものを開発する会社ではない。
しかし、熱対策材料を量産で安定して使える形に加工する領域では貢献できる可能性がある。
OTIS視点で重要なのは、
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態
● 剥離紙設計
● 寸法安定性
● 貼り合わせ精度
● 量産時のばらつき低減 である。
熱対策材料は、良い材料を選ぶだけでは成立しない。
同じ状態で、安定して、量産工程へ供給できることが重要になる。
■OTISでできること
OTISでは、
● 放熱シート加工
● グラファイト加工
● 絶縁材加工
● 粘着材加工
● EMI材加工
● 金属箔加工
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 高精度ラミネート
● 異形状積層
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態設計
などを通じて、熱対策部材を量産で安定して使える状態へ近づけることに貢献できる可能性がある。
特にAIサーバー、EV、ESS、スマートフォン、ウェアラブル機器では、熱性能だけでなく、量産再現性が重要になる。
■OTISの専門外
一方でOTISは、
● 材料そのものの開発
● 完成品全体の品質保証設計
● 熱シミュレーション専業解析
● 冷却装置設計
● 顧客ライン全体の設備設計 を専門とする会社ではない。
しかし、熱対策材料を量産工程で安定して成立させる
という領域では、重要な役割を担える可能性がある。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー
★★★★★ EV・電池
★★★★★ ESS・蓄電システム
★★★★★ スマートフォン
★★★★★ ウェアラブル機器
★★★★☆ ロボット
★★★★☆ 通信機器
■まとめ
熱対策は、試作ではなく量産で完成する
熱対策は、試作で冷えれば終わりではない。
本当に重要なのは、量産で同じように冷えることである。
熱性能は、厚み、貼り位置、気泡、圧力、異物、接触状態によって変わる。
そしてこれらは、量産でばらつきやすい。
だから熱 × 量産安定性では、材料選定だけでは不十分である。
加工精度。
貼り合わせ精度。
供給形態。
自動化適性。
工程再現性。
長期信頼性。
ここまで含めて、熱対策は成立する。
未来の熱問題は、材料メーカーだけでは解決できない。
良い材料を、良い状態で、同じ品質で量産工程へ届ける技術が必要になるのである。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



