■熱伝導率とは何か
熱伝導率とは、材料そのものが熱をどれだけ伝えやすいかを示す指標である。
単位は一般的に、W/mKで表される。
数値が大きいほど、材料内部を熱が伝わりやすい。
例えば、
● 空気は熱を伝えにくい
● 樹脂は比較的熱を伝えにくい
● アルミや銅は熱を伝えやすい
● グラファイトは方向によって高い熱伝導性を持つ
というように、材料ごとに熱伝導率は異なる。
■しかし熱伝導率は材料単体の性能である
ここが重要である。
熱伝導率は、基本的に材料単体の性能である。
しかし実際の製品では、熱は材料単体だけを流れるわけではない。
熱は、
発熱部品
↓
TIM
↓
放熱シート
↓
金属板
↓
筐体
↓
空気
のように、複数の材料と界面を通って移動する。
つまり実際の熱対策では、材料の中を流れる熱だけでなく、
材料と材料の間を通る熱も考える必要がある。
■熱は界面で止まりやすい
熱対策で見落とされやすいのが、界面である。
界面とは、材料と材料が接している境界部分である。
例えば、
● GPUとTIMの間
● TIMとヒートシンクの間
● 放熱シートと筐体の間
● 電池セルと冷却板の間
● グラファイトと絶縁フィルムの間 などである。
この界面で熱が流れにくくなることがある。
つまり、高熱伝導材料を使っても、界面で詰まれば冷えないのである。
■接触しているようで、実は接触していない
一見、部品同士が密着しているように見えても、顕微鏡レベルでは完全には接触していない。
表面には微細な凹凸がある。
そのため、実際には点や一部の面でしか接触していない場合がある。
そして接触していない部分には、空気が入る。
この空気層が問題になる。
空気は熱を非常に伝えにくい。
つまり、わずかな空気層があるだけで、熱は大きく流れにくくなる。
■高熱伝導材料でも、浮いていれば冷えない
例えば、熱伝導率の高い放熱シートを使ったとする。
しかし、
● 端部が浮いている
● 気泡がある
● 圧力が足りない
● 表面に段差がある
● 異物が入っている 場合、熱はうまく流れない。
これは材料が悪いのではない。
接触状態が悪いのである。
つまり熱対策では、
何を使うかと同じくらい、
どう接触させるかが重要になる。
■厚みが熱抵抗を増やす
熱対策材料では、厚みも重要である。
同じ材料でも、厚みが増えると熱抵抗は増えやすい。
例えば、熱伝導率が高い材料でも、必要以上に厚ければ熱は流れにくくなる。
一方で、薄すぎると段差や公差を吸収できず、空気層が残ることがある。
つまり、薄いほど良いとも限らない。
厚ければ安心とも限らない。
用途に合った厚み設計が必要になる。
■熱伝導率が高くても、方向が違えば効かない
材料によっては、熱を伝えやすい方向がある。
代表例がグラファイトである。
グラファイトは面方向には熱を広げやすい。
しかし厚み方向は、面方向ほど熱を伝えにくい場合がある。
そのため、グラファイトを使う場合には、
どの方向へ熱を逃がしたいか
を考える必要がある。
熱伝導率が高い材料でも、熱を流したい方向と材料の得意方向が合っていなければ、期待通りに冷えない。
■熱は最も流れにくい場所で止まる
熱経路全体を見ると、どこか一箇所でも熱抵抗が大きい場所があると、全体性能が悪化する。
例えば、
発熱部品
↓
高性能TIM
↓
金属板
↓
空気層
↓
筐体
という構造があった場合、高性能TIMを使っていても、途中に空気層があれば熱は詰まる。
つまり熱対策では、一番良い材料ではなく、
一番悪い場所を見る必要がある。
■カタログ値と実装値は違う
材料カタログには、熱伝導率や熱抵抗が記載されている。
しかし、それは一定条件で測定された値である。
実際の製品では、
● 圧力
● 表面粗さ
● 厚み
● 貼り位置
● 温度
● 経年変化
● 組立ばらつき が異なる。
そのため、カタログ値通りの性能が出るとは限らない。
つまり、カタログ値と、実装後の性能は違う。
■試作では冷えても量産で冷えない理由
試作では、熟練者が丁寧に作業する。
位置を調整する。
気泡を抜く。
圧力をかける。
問題があればやり直す。
しかし量産では、自動機や作業標準の中で同じことを繰り返す必要がある。
その結果、
● 貼りズレ
● 圧着ムラ
● 気泡
● 厚みばらつき
● 剥離
● 搬送変形 が起きることがある。
つまり、試作で冷えることと、
量産で安定して冷えることは別である。
■AIサーバーで起きる問題
AIサーバーでは、GPUや電源部品の発熱量が大きい。
高性能なTIMや放熱材を使っても、接触状態が悪ければ性能は出ない。
特にAIサーバーでは、
● 高発熱
● 連続稼働
● 液冷化
● 高密度実装
● 保守性 が求められる。
そのため、材料単体の熱伝導率だけでなく、実装後の熱抵抗と長期信頼性が重要になる。
■EV・ESSで起きる問題
EVやESSでは、バッテリーセルと冷却部材の間に熱対策材料が使われる。
しかし、セル間のばらつき、圧縮状態、接触状態が変わると、熱性能も変わる。
その結果、
● セル温度差
● 劣化ばらつき
● 寿命低下
● 熱暴走リスク につながる可能性がある。
つまりEV・ESSでは、熱伝導率だけでなく、
接触状態の均一性が重要になる。
■ウェアラブル・スマートフォンで起きる問題
スマートフォンやウェアラブル機器では、熱対策部材が非常に薄く、小さい。
そのため、わずかなズレや浮きでも性能が変わる。
また、人体に近いため、表面温度や体感温度も重要になる。
つまり小型機器では、数十μmの違いが体感品質に影響することがある。
■研究者視点 : 熱伝導率だけでなく熱抵抗を見る
研究開発では、材料単体の熱伝導率だけでなく、実装状態での熱抵抗を見る必要がある。
重要なのは、
● 材料熱伝導率
● 厚み方向の熱抵抗
● 接触熱抵抗
● 界面状態
● 圧力条件
● 経年変化 である。
つまり熱対策では、材料物性と、
実装状態を分けて評価する必要がある。
■現場視点 : 冷えない原因は材料ではなく工程にあることがある
現場で冷えない場合、材料を疑いたくなる。
しかし実際には、
● 貼り方
● 圧着条件
● 異物
● 気泡
● 厚み
● ズレ
● 端部浮き
● 剥離紙設計
● 自動化条件
が原因であることも多い。
つまり、材料を変える前に、工程を見ることが重要になる。
■熱伝導率が高いのに冷えない時に確認すべきこと
熱伝導率が高い材料を使っても冷えない場合、以下を確認する必要がある。
● 接触面に空気層がないか
● 圧力は足りているか
● 厚みは適切か
● 貼り位置はズレていないか
● 気泡はないか
● 異物はないか
● 材料の方向性は合っているか
● 熱経路全体で詰まっている場所はないか
● 量産時に同じ状態を再現できているか
これらを見ずに材料だけ変えても、根本解決にならないことがある。
■OTIS視点
OTISは熱材料そのものを開発する会社ではない。
しかし、熱対策材料の性能を量産工程で発揮させるための加工領域では貢献できる可能性がある。
OTIS視点で重要なのは、
● 狙った形状に加工する
● 狙った厚みで扱う
● 貼り合わせ精度を高める
● 気泡やズレを抑える
● 異種材料を積層する
● リール供給に対応する
● 自動化工程で安定供給する
● 量産ばらつきを抑える ことである。
熱伝導率が高い材料でも、正しく加工され、正しく貼られ、正しく組み込まれなければ性能は出ない。
■OTISでできること
OTISでは、
● 放熱シート加工
● TIM加工
● グラファイト加工
● 絶縁材加工
● 粘着材加工
● 金属箔加工
● 高精度打ち抜き
● 微細加工
● 高精度ラミネート
● 異種材料積層
● リール供給
● 自動化工程向け供給形態設計
などを通じて、熱対策材料を量産で性能が出る状態へ近づけることに貢献できる可能性がある。
■OTISの専門外
一方でOTISは、
● 熱伝導率そのものの向上
● 材料配合設計
● フィラー開発
● 熱シミュレーション専業解析
● 完成品全体の熱設計 を専門とする会社ではない。
しかし、高熱伝導材料を、量産で正しく機能する形にする
という領域では、重要な役割を担える可能性がある。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー
★★★★★ GPU・半導体
★★★★★ EV・電池
★★★★★ ESS・蓄電システム
★★★★☆ スマートフォン
★★★★☆ ウェアラブル機器
★★★★☆ ロボット
■まとめ
熱伝導率が高いだけでは、冷えるとは限らない
熱伝導率は重要である。
しかし、それだけでは実際の放熱性能は決まらない。
熱は材料単体ではなく、複数の材料と界面を通って流れる。
そのため、
● 接触状態
● 空気層
● 厚み
● 圧力
● 貼り位置
● 気泡
● 異物
● 方向性
● 量産ばらつき が性能に大きく影響する。
つまり熱対策では、高熱伝導材料を選ぶことだけでは不十分である。
高熱伝導材料を、熱が流れる状態で実装することが重要になる。
熱対策は、材料スペックで完成するものではない。
実装され、接触し、量産で再現されて初めて完成する。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



