■ラミネートは、熱が流れる界面を作る工程
ラミネートとは、複数の材料を貼り合わせる工程である。
熱対策部材では、
・放熱シートと粘着材
・グラファイトと絶縁フィルム
・金属箔と粘着材
・TIMと保護フィルム
・EMI材と絶縁材
・シール材と放熱材 などが積層される。
しかし材料を重ねれば、機能が単純に足し算されるわけではない。
層が増えるたびに界面も増える。
界面が増えれば、
・接触熱抵抗
・気泡
・異物
・層間剥離
・厚みばらつき
・熱膨張差 の影響も増える。
そのため高精度ラミネートでは、
材料を貼り合わせる技術だけでなく、
界面を安定させる技術が必要になる。
■ロールラミネートと枚葉ラミネート
ラミネート方法には、連続したリール材料を貼り合わせるロール・ツー・ロール方式や、シート状の材料を一枚ずつ貼る枚葉方式などがある。
ロール・ツー・ロール方式は、大量生産や連続供給に適している。
・張力差
・蛇行
・巻き取り圧力
・材料伸び
・ロール平行度 の管理が必要になる。
枚葉方式では、個別の位置合わせや複雑形状へ対応しやすい場合がある。
しかし、
・作業ごとの位置ばらつき
・気泡混入
・タクトタイム
・材料取り扱い が課題になることがある。
どちらが優れているかではなく、
・材料構成
・部材サイズ
・生産数量
・必要精度
・顧客の供給形態 に応じて選ぶ必要がある。
■ラミネート張力の違いが反りを生む
ロール材料を貼り合わせる場合、それぞれの材料へ張力がかかる。
一方の材料だけ強く引っ張られた状態で貼り合わせると、加工後に張力が解放されたとき、材料が元の長さへ戻ろうとする。
その結果、
・反り
・カール
・波打ち
・寸法変化
・層間応力が発生する。
特に、
・金属箔と樹脂フィルム
・厚い材料と薄い材料
・硬い材料と柔らかい材料
の組み合わせでは、張力差の影響が出やすい。
ラミネート後に平らに見えても、剥離フィルムを剥がした瞬間に反ることもある。
つまり評価すべきなのは、加工直後の外観だけではない。
顧客が実際に使用する状態での平面性である。
■ニップ圧は高ければよいわけではない
ラミネートでは、ローラー間で材料を圧着する。
この圧力を一般にニップ圧と呼ぶ。
圧力が不足すれば、
・気泡が残る
・粘着面が十分に接触しない
・層間密着が弱くなる 可能性がある。
一方、圧力が高すぎれば、
・柔らかい材料が潰れる
・粘着材がはみ出す
・材料が伸びる
・グラファイトが割れる
・厚みが局所的に変わる 可能性がある。
重要なのは最大圧力ではない。
材料幅方向へ圧力が均一にかかっていること。
材料構成に合った圧力であること。
速度と圧力の組み合わせが適切であること。
つまりラミネート条件は、
圧力・速度・温度・張力の組み合わせとして考える必要がある。
■ローラーの平行度が厚みと気泡を左右する
圧着ローラーが完全に平行でなければ、材料の左右で圧力が変わる。
片側だけ強く圧着され、反対側では圧力が不足する。
その結果、
・片側に気泡が残る
・粘着材のはみ出し量が左右で違う
・厚みが傾く
・材料が斜めに流れる
・巻き取り時に蛇行する 可能性がある。
大面積部材や幅広材料では、わずかなローラー差が製品全体へ影響する。
設備精度は、寸法精度だけでなく、
接触面全体の均一性を作るために必要になる。
■ラミネート速度で気泡と追従性が変わる
ラミネート速度が速すぎると、空気を押し出す前に材料同士が接触する。
粘着材が相手面の凹凸へ追従する時間も短くなる。
反対に遅すぎると、生産性が下がるだけでなく、粘着材がローラーへ長く接触し、変形や付着が増える場合もある。
適切な速度は、
・粘着材の柔らかさ
・材料表面の粗さ
・部材幅
・圧着圧力
・加工温度 によって異なる。
つまりラミネート速度は、単なる生産能力の設定ではない。
界面形成の条件である。
■粘着材の厚みが接触と熱抵抗を決める
粘着層は、材料を固定するために必要である。
また表面凹凸を埋め、実接触面積を増やす役割も持つ。
しかし粘着材は、一般に金属や高熱伝導フィラーを含む放熱材より熱を伝えにくい場合がある。
粘着層が厚すぎれば、熱抵抗が増える。
薄すぎれば、表面凹凸や段差へ追従できず、空気層が残る。
つまり粘着材の厚みには、薄ければ薄いほどよいという単純な答えはない。
・必要な接着力
・表面粗さ
・組立公差
・圧着条件
・熱抵抗
を見ながら、適切な厚みを決める必要がある。
■粘着材のはみ出しは形状と接触を変える
ラミネートや打ち抜き時の圧力によって、粘着材が端部から流れ出すことがある。
はみ出した粘着材は、
・外形寸法を変える
・周辺部品へ付着する
・異物を集める
・自動機の吸着を妨げる
・部材同士を貼り付ける 可能性がある。
また粘着材が一部から流れ出れば、その部分の粘着層厚みが薄くなり、接触状態が変わることもある。
粘着材のはみ出しは、外観上の問題だけでなく、
熱抵抗と供給安定性の問題でもある。
■ラミネート位置ズレが複数機能を壊す
熱対策部材は、放熱だけでなく、
・絶縁
・EMI対策
・固定
・防水
・緩衝
・遮光
など複数の機能を持つことがある。
各層の位置がズレると、
・放熱層が熱源を覆わない
・絶縁層から導電材が露出する
・粘着層の面積が不足する
・シールラインが途切れる
・EMI層が必要な場所から外れる 可能性がある。
つまり高精度ラミネートは、材料同士をきれいに重ねる技術ではない。
必要な機能を、必要な位置へ重ねる技術なのである。
■積層後に打ち抜くか、打ち抜いてから積層するか
熱対策部材の加工では、工程順序も重要になる。
先に材料を積層し、その後で完成外形を打ち抜く方法。
各材料を先に打ち抜き、その後で位置合わせして積層する方法。
それぞれに利点と課題がある。
積層後に打ち抜けば、各層の外形をそろえやすい。
一方で、異なる硬さや厚みを持つ材料を同時に切るため、
・バリ
・層間剥離
・粘着材の糸引き
・硬い層による柔らかい層の変形
が起こりやすい場合がある。
先に打ち抜いてから積層すれば、材料ごとに最適な加工条件を設定できる。
一方で、貼り合わせ位置精度や工程数が課題になる。
重要なのは、どちらか一方を標準とすることではない。
完成品の機能と量産安定性から工程順序を決めることである。
■加工時に正しくても、貼り付け後に浮くことがある
加工直後の部材が平らで、気泡もなく、外形寸法も正しくても、製品へ貼り付けた後に問題が起こることがある。
例えば、
・部品表面に段差がある
・相手面が反っている
・貼り付け圧力が不足している
・部材が硬く追従できない
・熱膨張差で温度上昇後に反る
・貼付面に油や汚れがある 場合である。
つまり加工メーカーだけで熱性能を完結させることはできない。
加工した部材が、
・どの面へ貼られるか
・どの圧力で組み付けられるか
・どの温度環境で使われるか
・どの方向へ熱を流すか
まで理解する必要がある。
■試作の手貼りと量産ラミネートは同じではない
試作では、技術者が一枚ずつ慎重に貼ることがある。
気泡を避けながら貼る。
ズレたら貼り直す。
強く押さえる。
きれいな試作品を選んで評価する。
その結果、良好な熱性能が得られる。
しかし量産では、
・高速で搬送する
・一定時間で圧着する
・材料ロットが変わる
・設備が摩耗する
・温湿度が変化する
・数万、数百万個を連続生産する 必要がある。
試作で一度良い結果が出ることと、量産で同じ接触状態を作り続けることは別である。
だから熱評価では、材料性能だけでなく、量産加工条件を再現した試験が重要になる。
■AIサーバーでは小さな接触不良が大きな温度差になる
AIサーバーでは、GPU、HBM、電源部品、光通信部品などが高密度に配置される。
発熱密度が高いため、局所的な接触不良が温度へ現れやすい。
TIMの一部に気泡がある。
グラファイトがわずかにズレている。
絶縁フィルムのバリで部材が浮いている。
こうした小さな加工差が、
・GPU温度
・冷却ファン負荷
・演算性能
・部品寿命
・消費電力 へ影響する可能性がある。
AIサーバー向け熱対策部材では、
材料の最高性能よりも、全数で接触状態を安定させる加工技術が重要になる。
■先端半導体では加工精度が応力にも影響する
先端半導体や3D実装では、微小なチップや薄いパッケージが使われる。
熱対策部材の厚みやバリがばらつくと、冷却性能だけでなく、チップへかかる応力も変わる。
局所的に厚い部分があれば、締結時にその部分へ圧力が集中する。
薄いチップや脆い接合部では、過剰な圧力が変形や破損につながる可能性がある。
つまり先端半導体向け加工では、
冷やすための接触圧力と、壊さないための圧力分布を両立させる必要がある。
■EV・電池では大面積の均一性が重要になる
EVや次世代電池では、セル、モジュール、冷却プレートの間に、大面積の放熱材や絶縁材が使われる。
大きな部材では、小さなシワや気泡が複数発生しやすい。
一部だけ接触が悪いと、セルごとの温度差が生まれる可能性がある。
電池では温度差が、
・劣化速度
・充放電性能
・安全性
・寿命 へ影響する。
そのためEV向けラミネートでは、
一点の最高性能ではなく、
広い面積を均一な状態へ仕上げることが重要になる。
■スマートフォンでは薄膜を壊さず加工する必要がある
スマートフォンでは、グラファイト、銅箔、絶縁フィルム、粘着材などが非常に薄い状態で使われる。
部材が薄いため、
・小さなシワ
・わずかな伸び
・微細な欠け
・数十μmのズレ
でも、周辺部品との干渉や熱拡散性能へ影響する。
さらに部品間の隙間が狭いため、粘着材のはみ出しやバリも許容されにくい。
小型化するほど、加工精度と界面品質の重要性は高くなる。
■医療機器では異物と再現性が重要になる
医療機器や生体センサーでは、熱対策部材が人体に近い位置で使われることがある。
局所的な浮きや接触不良があれば、表面温度の偏りにつながる可能性がある。
また異物、粘着材のはみ出し、端面の荒れは、安全性や清浄性にも影響する。
医療用途では、
・加工環境
・異物管理
・材料履歴
・加工条件
・検査記録 を含めた再現性が重要になる。
■研究者視点 : カタログ値だけでなく、加工後の実効熱抵抗を見る
材料研究では、熱伝導率や熱抵抗が重要な指標になる。
しかし実製品では、
・気泡
・表面粗さ
・圧着圧力
・粘着層厚み
・バリ
・位置ズレ
・材料変形 によって、実際の熱抵抗が変わる。
つまり材料単体の熱伝導率と、製品内での熱性能は同じではない。
研究開発では、材料そのものの性能と、
加工・実装後の実効性能を分けて評価する必要がある。
高性能な材料を開発することと、その性能を製品で再現することは、別の技術である。
■製造現場視点 : 良い加工とは、きれいな部品を作ることではない
加工現場では、
・バリを減らす
・気泡をなくす
・シワを防ぐ
・位置を合わせる
・異物を入れない ことが求められる。
しかし、それらは目的ではない。
本当の目的は、
・同じ接触面積
・同じ厚み
・同じ位置
・同じ圧力
・同じ熱経路 を繰り返し作ることである。
つまり加工品質とは、図面どおりの外観を作ることではなく、
熱性能を量産で再現することにある。
■設計者が加工メーカーへ伝えるべき情報
熱対策部材の加工を依頼するとき、図面だけでは設計意図が十分に伝わらない場合がある。
加工メーカーへは、可能であれば次の情報を共有した方がよい。
・どこが発熱部なのか
・どこへ熱を逃がしたいのか
・どの部分が重要な接触面なのか
・どの層が絶縁を担うのか
・どの位置ズレが機能へ影響するのか
・組立時にどの程度圧縮されるのか
・自動貼付か手貼りか
・リール供給かシート供給か
・使用温度範囲
・必要な検査項目
重要寸法や許容不良は、加工メーカーだけでは判断できない。
熱設計者、材料メーカー、加工メーカー、組立メーカーが、機能上の重要点を共有する必要がある。
■打ち抜き・ラミネート設計の確認項目
熱対策材料を量産加工するときは、少なくとも次の項目を確認する必要がある。
打ち抜き
・外形が熱源を十分に覆っているか
・穴や切り欠きが熱経路を細くしていないか
・金型クリアランスは材料に合っているか
・バリ高さを管理できるか
・刃物摩耗による変化を把握できるか
・粘着材の糸引きや切り残しがないか
・グラファイトの欠けや粉落ちがないか
・金属箔が伸びたり波打ったりしないか
・柔軟材が潰れたり変形したりしないか
・カス取りで製品へ力がかからないか
・ハーフカット深さは安定しているか
ラミネート
・気泡が入りにくい貼り合わせ方法か
・シワや反りが発生しないか
・張力差は管理されているか
・ニップ圧は材料構成に合っているか
・ローラー幅方向の圧力は均一か
・貼り合わせ速度は適切か
・粘着層厚みは熱と接着の両方に適しているか
・粘着材のはみ出しがないか
・各層の位置精度は十分か
・異物混入を防ぐ環境になっているか
・剥離後や貼付後にも平面性を維持できるか
評価
・外観だけでなく熱性能を確認しているか
・加工直後だけでなく保管後も確認しているか
・手貼りではなく量産条件で評価しているか
・温度サイクル後の反りや剥離を確認しているか
・材料ロット差を考慮しているか
・量産途中の刃物摩耗を評価しているか
■OTIS視点
ここが、OTISの主戦場である
材料メーカーは、高性能な熱対策材料を開発する。
設計会社は、熱がどこからどこへ流れるべきかを考える。
装置メーカーは、ヒートシンク、冷却プレート、ファン、液冷装置を設計する。
しかし、それらの技術を実際の製品へ組み込むためには、
・必要な形状へ切る
・必要な位置へ積層する
・気泡や異物を抑える
・バリや欠けを管理する
・自動工程で扱える状態へする
・量産でも同じ品質を再現する 工程が必要になる。
ここが、OTISの主戦場である。
OTISは、熱材料そのものを開発する会社ではない。
冷却装置を設計する会社でもない。
半導体チップを設計する会社でもない。
しかし、優れた熱対策材料を、
製品の中で実際に機能する部品へ変えることができる。
材料性能がどれほど優れていても、0.1mm浮けば、熱は流れにくくなる。
数十μmのバリがあれば、接触面は不安定になる。
小さな気泡があれば、ホットスポットは残る。
積層位置がズレれば、放熱、絶縁、固定のすべてが崩れる可能性がある。
だからOTISが支えるのは、
熱性能の最後の1mmなのである。
■OTISでできること
OTISでは、次のような加工を通じて、熱対策材料を量産部品へ変えることに貢献できる。
・高精度打ち抜き加工
・微細外形加工
・穴・切り欠き加工
・ハーフカット加工
・リール・ツー・リール加工
・高精度ラミネート加工
・異種材料積層
・部分ラミネート
・グラファイトシート加工
・銅箔・アルミ箔加工
・絶縁フィルム加工
・熱伝導性粘着材加工
・発泡体・柔軟材加工
・多層部材加工
・リール供給
・自動貼付に適した供給形態の検討
・バリ、欠け、気泡、位置ズレを考慮した工程設計
・画像検査を含む量産検査
・顧客組立工程を考慮した部材一体化
OTISが提供する価値は、材料の数値を上げることではない。
その数値が実際の製品で失われない状態を作ることである。
■OTISの専門外
OTISは、次の分野を専門とする会社ではない。
・熱伝導材料そのものの配合開発
・半導体チップ・GPUの設計
・製品全体の熱設計
・CFD専業解析
・ヒートシンクや冷却プレートの設計
・液冷装置や冷却システム全体の開発
・顧客完成品全体の熱性能保証
ただし、材料メーカー、熱設計者、冷却装置メーカー、顧客と連携し、
熱設計で求められた機能を、加工部材として量産成立させる領域では貢献できる。
すべてを自社だけで行うのではなく、
「ここはOTISができる」
「ここは材料メーカーと連携する」
「ここは装置メーカーの知見が必要である」
と役割を明確にすることが、良い熱対策につながる。
■この技術が重要になる産業
★★★★★ AIサーバー・データセンター
★★★★★ AI半導体・先端パッケージ
★★★★★ EV・次世代電池
★★★★★ スマートフォン・スマートデバイス
★★★★★ 光通信・高速通信機器
★★★★☆ 医療機器
★★★★☆ ロボット・自動化機器
★★★★☆ 航空宇宙
★★★★☆ エネルギー機器
★★★★☆ 産業設備
■後半まとめ
熱性能は、材料で始まり、加工で完成する
熱対策では、材料選定が重要である。
しかし材料を選んだだけでは、熱問題は解決しない。
熱対策材料は、
・正しい形状へ打ち抜かれ
・正しい位置へ積層され
・気泡や異物を入れずに貼り合わされ
・バリや欠けを抑え
・適切な厚みと平面性を維持し
・正しい圧力で製品へ組み込まれ
初めて設計どおりの性能を発揮する。
0.1mmの浮き。
数十μmのバリ。
わずかな気泡。
小さな位置ズレ。
これらは、図面上では小さな違いに見える。
しかし熱にとっては、流れる道があるか、ないかを決める大きな違いである。
打ち抜き加工は、単に材料の外形を作る工程ではない。
熱が流れる形を作る工程である。
ラミネート加工は、単に材料を貼る工程ではない。
熱が流れる界面を作る工程である。
材料メーカーは、優れた材料を作る。
熱設計者は、優れた熱経路を考える。
冷却装置メーカーは、優れた冷却機構を作る。
しかし、それらが実製品の中で機能するかどうかは、最後の加工状態に左右される。
だからこそOTISは、単なる加工会社ではなく、熱対策を量産工程で成立させる会社でありたい。
熱性能は、材料で始まる。
そして、加工によって完成する。
コラム監修:角本 康司 (オーティス株式会社)
語学留学や商社での企画開発を経て2011年にオーティス株式会社入社。経営企画部を中心に製造・技術部門も兼任し、2018年より代表取締役として事業成長と組織強化に努めている。
※本記事は教育・啓発を目的とした一般的な技術解説であり、特定企業・製品・技術を示すものではありません



